つばさ

平和な日々が楽しい

ほんとうに人間はいいものかしら

2012年12月12日 | Weblog
夕歩道
2012年12月12日
 お母さんギツネは子ギツネに、人間は怖いものだと教えます。キツネと知れたら最後、捕まっておりに入れられちゃうと。でもお店の人はお客が子ギツネとわかっても、手袋を売ってくれました。
 新美南吉「手袋を買いに」。雪の夜の美しい物語。人と生き物、大人と子ども。心の内の微妙なずれが、雪明かりに照らし出されます。子ギツネは「人間ってちっとも恐(こわ)かないや」と、屈託なく。
 断層は地中で起きたずれの跡。断層だらけのこの国に、五十基の原発が、ひしめき合っています。何かずれてはいませんか。お母さんギツネはつぶやきます。「ほんとうに人間はいいものかしら」

日の丸を背負った政治家を目指す

2012年12月12日 | Weblog
【産経抄】12月12日
 山中伸弥京都大教授のノーベル賞授賞式のニュースに、何度か胸がジーンときた。ひとつは式典に母親の美奈子さんを伴っていたことである。81歳の美奈子さんは大雪と氷点下のストックホルムに着いたあと、ホテルで体調を整え、息子の晴れ舞台に臨んだという。
 ▼美奈子さんは亡き夫、つまり山中さんの父親の形見の時計を身につけていた。父親の影響で医学を目指した山中さんにとって妻の知佳さんを含め、家族の力が大きかったことの証しだ。授賞式の後「母親が最後まで式に参加してくれたことが何よりうれしかった」と話していた。
 ▼もうひとつ、山中さんは受章したばかりの文化勲章を胸に出席した。ノーベル賞に決まったときには「日の丸の支援がなければ、受賞できなかった」と語った。今回の授賞式にあたっても「日の丸を背負った学者として臨みたい」と、胸を張っていたそうだ。
 ▼それだけに胸の文化勲章は日本人としての誇りにあふれているように見えた。先月3日の受章後には「科学者にノーベル賞は光栄な賞かもしれないが、日本国民の一人としては今日が一番光栄な瞬間だ」と話していたのが印象的だった。
 ▼そういえば平成6年、ノーベル文学賞に決まった大江健三郎氏は、直後に打診された文化勲章を断った。「戦後民主主義に文化勲章は似合わない」という理由が多くの国民をゲンナリとさせた。対照的に山中さんは、一陣のさわやかな風を吹き込んだ。
 ▼16日投票の総選挙はもう、終盤の勝負どころである。立候補者たちには、そんなさわやかさを感じる余裕もないことだろう。だが一人ぐらい、山中さんにならって「日の丸を背負った政治家を目指す」と言ってほしいものだ。

クラシック音楽を使う貧困対策

2012年12月12日 | Weblog
春秋
2012/12/12
 まさにここに悪魔がいた。悪臭がまだプンプンしている――。国連総会で演壇に立つと、前の日に同じ場所で演説した当時のブッシュ米大統領を口汚くののしった。天を仰ぎ、胸で十字を切るしぐさに会場はどよめいた。そのベネズエラのチャベス大統領が病に倒れた。
▼独裁者か英雄か。これまで2度がんの手術を受けている。自ら完治宣言して4選を果たしたばかりだが、持ち前の強気で病魔に勝てるかどうか。突き抜けた個性は毒舌だけではない。貧しい人々への手厚い保護はばらまきと批判されるが、中にはユニークな政策もある。その代表例はクラシック音楽を使う貧困対策だろう。
▼バイオリンやトランペットなど、全てのオーケストラ楽器を子供たちに無料で配り、仲間と音を合わせる練習を積む。全国286カ所の教室に35万人が通っているそうだ。殺人や窃盗が日常茶飯事の極貧地区で、自暴自棄になっていた若者が拳銃を楽器に持ち替える。合奏の楽しさに目覚めて、顔つきが明るくなっていく。
▼こつこつ練習する忍耐力。他者に耳を傾ける協調性。自分を表現する喜び。そして努力が報われる達成感。音楽には人を変える力があるようだ。この政策で育ったカラカス青年オケが、外交樹立75周年を記念して来年秋に来日する。腕前は目を見張るばかりだ。チャベス政権の行方は読めないが、音楽は鳴り続けてほしい。