毎日新聞 余録:2012年12月15日
「選挙競争はさながら戦争にことならず。互いに遊説員をはせ、各地に賛成をつのり、また敵境に入りてすでに敵に帰せる者を説服(せっぷく)するなど、多事またきわまる」。明治・大正期の政治家、末松謙澄(すえまつ・けんちょう)が記す1890年の第1回衆院選の光景だ▲「これを切り込みと唱え、進撃と称し、攻め落としたりと誇り、防ぎ止めたりと叫ぶ。すべて戦争用の言語を用うること各地とも概(おおむ)ね然(しか)らざるなしという」。男子多額納税者の制限選挙とあって有権者は全国で約45万、東京は人口1000人あたりわずか4人だった▲それでも末松のいうように人々の選挙熱はすさまじかった。終盤に某候補が犯罪で被選挙権を失ったとデマを流され、当人が2人引きの人力車で「われ健在なり」と走り回ったという一幕もある。記名投票だったこともあり、全国の投票率は実に93.9%にのぼった▲英国公使夫人メアリー・フレーザーはそんなドタバタを「不法行為や賄賂で無効になった選挙も一、二ありましたが、そんなことは議会発祥地の英国にもあります」と温かな目で見ている。そして「日本人は法にかなう国民です」と全体として選挙の公正を認めた▲それから数えて46回目、日本国憲法下では23回目の衆院選も選挙運動はきょうが最後の一日、あす投開票となる。多党乱立の中、景気対策、税と社会保障、原発・エネルギー政策、安保・外交、改憲問題などの争点が入り組み、政権枠組みが問われる選挙ともなった▲世論調査は吹いている風の様子を伝えるが、あす吹く風は有権者が投票所で決めればいい。123年目の衆院選、1億436万有権者の選択の時だ。
「選挙競争はさながら戦争にことならず。互いに遊説員をはせ、各地に賛成をつのり、また敵境に入りてすでに敵に帰せる者を説服(せっぷく)するなど、多事またきわまる」。明治・大正期の政治家、末松謙澄(すえまつ・けんちょう)が記す1890年の第1回衆院選の光景だ▲「これを切り込みと唱え、進撃と称し、攻め落としたりと誇り、防ぎ止めたりと叫ぶ。すべて戦争用の言語を用うること各地とも概(おおむ)ね然(しか)らざるなしという」。男子多額納税者の制限選挙とあって有権者は全国で約45万、東京は人口1000人あたりわずか4人だった▲それでも末松のいうように人々の選挙熱はすさまじかった。終盤に某候補が犯罪で被選挙権を失ったとデマを流され、当人が2人引きの人力車で「われ健在なり」と走り回ったという一幕もある。記名投票だったこともあり、全国の投票率は実に93.9%にのぼった▲英国公使夫人メアリー・フレーザーはそんなドタバタを「不法行為や賄賂で無効になった選挙も一、二ありましたが、そんなことは議会発祥地の英国にもあります」と温かな目で見ている。そして「日本人は法にかなう国民です」と全体として選挙の公正を認めた▲それから数えて46回目、日本国憲法下では23回目の衆院選も選挙運動はきょうが最後の一日、あす投開票となる。多党乱立の中、景気対策、税と社会保障、原発・エネルギー政策、安保・外交、改憲問題などの争点が入り組み、政権枠組みが問われる選挙ともなった▲世論調査は吹いている風の様子を伝えるが、あす吹く風は有権者が投票所で決めればいい。123年目の衆院選、1億436万有権者の選択の時だ。