そして、その事件は、四日目の夜に起きた。
その日は、満月。妖界の門が開く夜である。
門が開くと言うことは、道が開くと言うことで
「あぁ、やっぱり、来たわ」
レムは、昨日協会で仕入れてきたそれを見て、ため息をついた。
「何それ、どうしたの?」
買い物から帰ってきたカルが、テーブルに荷物を置いてそれを覗き込む。
「あぁ、これ? エネルギー測定石よ。この周りに魔力や妖力の力場・リキバがあるかどうか調べられるの」
レムが言って、鎖の先についている白と黒のまだらになったそれを、目の前で揺らして見せた。
それは、一見すると透明な石であるが、強い魔力や妖力触れれば黒く、霊のエネルギーであれば白く、聖力や清力では輝くというものである。他にも染まる色によって、相手の性質を見極めることが出来ると言う優れものもある。しかし・・・。
ぴしっ・・・・。
桁違いに、強い力を受けると
ぱりぃ ん
「われた、・・・ね」
「割れたわね」
割れてしまうのである。
くっすん、高かったのに・・・・。
「 ってことは、その 」
割れたそれを指差して、カルが顔を引きつらせる。それに対しレムは、
「いるわね。山ほど」
きっぱり、言い切った。こういう場合、
「良かったわね、カル。面白い体験が出来るわよ。はじめてでしょ、こういうのは」
「あ、ははっは・・・・、あははは」
「・・・・・・あはははっは」
もう、笑うしかない。
「ところで、それは、なに?」
笑って笑って笑いまくった後、テーブルの上に袋の中身を出し始めたカルに尋ねるレムに
「これ? 塩 だけど」
「うん。それは、わかる」
塩の詰まった袋、小皿、コップ、なにやら液体の入った小瓶、大きな厚手の布。
一体何? 意味の分からないレムは、首を傾げるしかない。
「どこまで効果があるか分からないんだけど、・・・。あと、聖油か香油、じゃなければお香があると良いんだけど」
塩を盛った小皿を部屋の四隅と入り口の両側に置く。
「ねぇ、レムちゃん。ここ衝立とかないんだっけ? う・・・ん。これで、間に合うかな」
衝立の代わり、ということだろうか? 大きな布を広げて椅子を持ってきて入口・ドアの前に吊るした。
まったく、意味不明のカルの行動に
「ね、ねぇ、カル。何やってんの?」
そう、聞いたレムに
「うん。結界のつもりなんだけどね。方法が良く分からなくて」
結界 どこが?
「塩って、お清めなんかに使うから、そこに置いてみたんだけど」
え、そうなの?
「本当は、朝日を浴びた塩のほうが良いんだけど、今からじゃ間に合わないしね」
ぶつぶつ言いながら、コップに酒(匂いからすると米酒だわ)とビンに入っている液体をそれぞれ注いでいく。
「それじゃ、これは?」
レムが指差したのは、液体が入ったコップ。一見すると水のようだが・・・・。
「うん。それ、水だけど」
をい。
「っていっても、聖堂に湧いていた水もらってきたんだけどね。聖水とはいかなくても、ただの水よりは効果があると思って」
言いながら、カルは、酒と水の入ったコップを塩と同じ四隅と入り口に置いていく。
「で、何だって、こんな事やるわけ?」
「だって、レムちゃんが、ここ妖道が通っているって言ったから、・・・塩も水もお酒もお清めに使うでしょ。それで、入り口と四隅を固めれば、少しは場を保てるかなって思ったんだけど。・・・・・どうかなぁ」
何とも頼りないカルの台詞に
「そうなの?」
と更に頼りないレムの台詞に、今度はカルが固まった。