宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

みらーじゅ 50  最終章

2009-01-17 15:07:07 | 小説 ミラージュ
「チョウカ!?」
 三人が唖然とした顔で見守る中、宙に浮いたまま呪歌(ドラグス)を歌い出した。
 チョウカがグルラディーヌに手を差し伸べる。と、彼女を包んでいた生命樹の根がほどけていく。
 そして、グルラディーヌの手を取ると水の上をすべるように移動し、向こう側の石畳へ着地した。
 レトとグリシーヌに抱きかかえられるように、膝をつく。
 歌が終わり、ほうぅ と息をつくチョウカ。そこへ、生命樹に操られたモノ達が水の中から這い出した来た。
「また、出た」
 グルラディーヌが飛び上がる。
 廊下で襲って来たモノ達だ。
「よし、さがってろ」
 レトが黒蛇に拾ってもらった丸いやつの外側をはがし、その中身を取り出すと生命樹に向けて思いっきり投げつけた。
         
 ど お お ぉ    ・・・・・・     ん

 空間が揺れる。
 這い出してきたモノが水中に転がり落ちる。
 次に、生命樹は水中から根を伸ばしてきた。 
「おし、もういっちょ」

       ど っ ご ぉ ー ん

 生命樹が揺れる。
「やめろっ」
 魔術師が生命樹の傍らに姿を現した。
「私の娘に何をする」
 ゆっくりと水中に倒れ込む、生命樹の幹を抱く。
 ぱらり
 水が波立ち、岩の天井にひびが入る。
 生命樹の幹が水に沈み、変わって根が浮上する。その根に絡まる白いモノ。そして、その根が魔術師までも絡め取っていく。
 レトが手の中に残るモノを天井に向けてたたきつけた。
「おい、逃げるぞ」
 レトが座り込んでいる3人を立たせ、地上に向かう廊下へ促した。
 ばらばらと 天井だった岩壁が崩れてくる。
 4人がその空間から飛び出した時、一気に天井が落ちた。
 後は、ひたすら廊下を走る。
 ありがたい事にグルラディーヌが残した明球が道しるべのかわりとなった。
 そして最後、閉じられた扉を
『風礫矢』
 グルラディーヌの術が叩き壊す。

 ぐわ がらん どっしゃ ぐしゃ 
 建物を飛び出して4人が振り返ると、満月の光の中、崩れた建物の向こうにある沼の水が地下へ吸い込まれていくところだった。
「も、もう 追ってこねえよ     な」
 そう言ったのは、レト。そして、その場にへたり込んだ。
「そうですね。もう、その必要はなくなりましたからね」
 言ったチョウカが座り込み、残りの姉妹も崩れるように座り込んだ。
「もとはといえば、あの樹でしたから。それがなくなれば、肥料も新しい苗床も必要ありませんから」
 チョウカの言葉にグルらディーヌが続ける。
「あの魔術師、これで娘さんと一緒になれたかな」
「そうですね、多分。・・・そう、願うしかありませんね」
 おい、今まで自分がされた事、忘れてねーか。
 突っ込みたいレトではあったが、そこまでする気力も体力もなく、それを見たグリシーヌが一言。
「本人が良いのでしたら、それでよろしいのではありません?」

 その翌日、連れ立って隣村に向かう4人の姿があった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 49

2009-01-17 15:06:41 | 小説 ミラージュ
「ね、ここ、水が増えてますわ」
 言われて辺りを見回すと、確かにじわじわと水かさが増している。さっきまでは、石畳の上までに水は来ていなかったのが、ひたひたと水が迫ってきている。しかも、グルラディーヌ付近の水が波打ち始め、檻が徐々に水面に近づいていっている。
「ちょっと、何これ、やだ」
 逃げ場のないグルラディーヌが檻の隙間から手を伸ばし、上にかぶさっている枝を掴んだ。
水面に近づく速度は遅くなったものの、今度は水面下から新たな根を伸ばしてグルラディーヌを捕まえようとする。
「や・・・・・、やだ、・・・・・    」
 グルラディーヌを恐怖が包み込んだ。
「------」
 鳥の声のような高い音が、空間にこだまする。
 ピィ ・ ・ ・ ・ ン
 グルラディーヌの発した声に竪琴が反応した。
「何ですの、一体?」
 グリシーヌがそう言ったのも無理はない。
 竪琴の音に合わせて、水の動きが静まっていく。そして、・・・・。
 水の中から金の光が浮上した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 48

2009-01-17 15:06:08 | 小説 ミラージュ
「おい、チョウカは見つかったか?」
 レトの問いに、
「ここ、この下にいる」
 グルラディーヌが自分の下に広がる水を指差した。
「生きてるか?」
「わかんない」
「何とかなりそうか?」
「なるんだったら、こんなところにいないわよ」
 確かに・・・・。
 とは言うものの、このままあの魔術師をただ待っているのも面白くない。何とか、方法はないものか。
 グルラディーヌとレトが怪我をしても良いのであれば、多少いや、かなり乱暴ではあるが方法がないわけではない。しかし、言えば、グリシーヌが絶対的に反対するのは、目に見えている。
 せめて、グルラディーヌがあの檻から出られれば、あるいは、あそこまで行く方法があれば・・・・。
「そう言えば、あの魔術師は、どこへ消えたのですかしらね?」
 肥料になる人間を調達するとか言ってたようだが・・・・。
「いまさら、何を言って・・・・」
 そうだ、どこへ?  もしかしたら、どこかから外へ出られるかも。
「おい、お嬢。そっちに何かないか。出口か何か、そっちにいける様な」
「え~ と」
 檻の中から見回すグルラディーヌ。そこで、生命樹の向こうに壁の隙間のようなくぼみを見つけた。
「よく分かんないけど、樹の後ろ側。そこの壁が窪んでる。それから、ここ。水際がすごく近いよ」
 そこだ。たぶん、あの魔術師は、そこから出入りしているのだろう。このままこの石畳をたどって、あそこまで行けないか。
 レトがそう考えていたところ、グリシーヌが何か気づいたようで、レトの服のすそを引っ張った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 47

2009-01-17 15:03:53 | 小説 ミラージュ
 少々乱暴ではあるが、他に方法が考え付かないのだからしょうがない。
 ひゅん と、飛んだ黒蛇は、うまい具合にグルラディーヌの檻の上に落ちた。そこで尻尾を使ってうまく隙間から檻に入り込み、グルラディーヌの顔の上に ぽとん と、着地。
「うまく届いたようですわ」
 グリシーヌは上機嫌だが、レトとしては何時あの魔術師が戻ってくるか気が気ではない。
 そうでなくても、生命樹の枝に今にも咲きそうな蕾がいくつかあるのだ。でも、魔術師が言っていた“気に入った”という言葉の意味は?
「それは、妹姫ほど詳しい訳ではございませんので・・・・でも、多分、苗床にするつもりではないかと」
「苗床って?」
「つまり、種を植え付ける為の素材として“気に入った”のでは・・・」
「冗談じゃねえぞ。・・・・て、そう言えば、お前達って言ったたよな。それ、俺らのもって事か」
「多分、・・・・」
「おい、お嬢。お前さんだけでも逃げた方がいい。しばらくなら、背後は守れるぞ」
「それこそ、冗談ではありませんわ。そんな事したら、妹姫だけではなく兄達にも顔向け出来ませんわ」
 きっぱり言い切るグリシーヌをレトが振り返った。
「お前さん。一体何人兄弟がいるんだ?」
「四人兄妹ですわよ。あの子の他に兄が二人。・・・・あ」
「ん?」
 グリシーヌの反応にレトが前方に目を戻す。
「  妹姫ぇ」
 グリシーヌが口に手を当てて、妹を呼んだ。
「あ、姉姫。大丈夫?」
「それは、こちらの言うことですわ」
 水の上を緊張感のない姉妹の会話が飛び交った。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 47

2009-01-06 07:47:31 | 小説 ミラージュ
 少々乱暴ではあるが、他に方法が考え付かないのだからしょうがない。
 ひゅん と、飛んだ黒蛇は、うまい具合にグルラディーヌの檻の上に落ちた。そこで尻尾を使ってうまく隙間から檻に入り込み、グルラディーヌの顔の上に ぽとん と、着地。
「うまく届いたようですわ」
 グリシーヌは上機嫌だが、レトとしては何時あの魔術師が戻ってくるか気が気ではない。
 そうでなくても、生命樹の枝に今にも咲きそうな蕾がいくつかあるのだ。でも、魔術師が言っていた“気に入った”という言葉の意味は?
「それは、妹姫ほど詳しい訳ではございませんので・・・・でも、多分、苗床にするつもりではないかと」
「苗床って?」
「つまり、種を植え付ける為の素材として“気に入った”のでは・・・」
「冗談じゃねえぞ。・・・・て、そう言えば、お前達って言ったたよな。それ、俺らのもって事か」
「多分、・・・・」
「おい、お嬢。お前さんだけでも逃げた方がいい。しばらくなら、背後は守れるぞ」
「それこそ、冗談ではありませんわ。そんな事したら、妹姫だけではなく兄達にも顔向け出来ませんわ」
 きっぱり言い切るグリシーヌをレトが振り返った。
「お前さん。一体何人兄弟がいるんだ?」
「四人兄妹ですわよ。あの子の他に兄が二人。・・・・あ」
「ん?」
 グリシーヌの反応にレトが前方に目を戻す。
「  妹姫ぇ」
 グリシーヌが口に手を当てて、妹を呼んだ。
「あ、姉姫。大丈夫?」
「それは、こちらの言うことですわ」
 水の上を緊張感のない姉妹の会話が飛び交った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 46

2009-01-05 08:40:09 | 小説 ミラージュ
「よし、そこだ。もう少し」
 水際で声援を送るレト。
 黒蛇は、水面にj顔を出すと口を開けて ぱくん と、それをくわえ込んだ。
「よし、やった」
 それをくわえて戻ってきた黒蛇にレトとグリシーヌが拍手で迎える。
「えらいですわね」
 グリシーヌが人差し指で黒蛇の頭をなでた。
 あと、問題は、意識のないグルラディーヌと居場所不明のチョウカだ。
「ん? どうした?」
 黒蛇が、レトの服のすそをくわえて引っ張っている。何か言いたそうなのだが・・・。
 幾度も首を水の向こうへ伸ばしてみせる仕草をして、二人の顔を見上げる。
 二人が黒蛇の首を伸ばす方向を見ると、そこには、グルラディーヌを閉じ込めた生命樹の根の檻だ。
「もしかして、そこへ戻りたいんですの?」
 グリシーヌの問いに、黒蛇が頷くように首を縦に振る。
 黒蛇としては、グルラディーヌの元へ戻りたいが、それには水に入りさらにその木の根を登らなくてはならない。自力でそこまでいける自信がない。だから、二人に何とかしてあそこへ戻してもらいたい。
「そう言われましても・・・・、あ」
 グルシーヌがレトに何事か耳打ちする。
「ん、それしかないか。おい、蛇、こっちこい」
 レトが足元の蛇を掴み上げる。そして、
「よし、覚悟しろよ」
 言った後、黒蛇をクルラディーヌに向かって放り投げた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 45

2009-01-04 10:35:55 | 小説 ミラージュ
 黒蛇は、するするとレトに近づき頭で剣の鞘をつついた。
「???」
 それでも意味不明なレトにグリシーヌが ぽん と、手を叩いた。
「あれですわ。ほら、さっき使ってた剣。あの模様のあったの」
 そこまで言われて、
「あぁ・・・」
 レトが剣の柄をぽんと叩き、剣を抜く。それを、足元に絡んでいる水に突き立てた。すると、水がするすると引いていくではないか。
「うわ、すげえ!」
 その効果にレトが感嘆の声を上げる。そして、抱えていたグリシーヌごと壁際にまで下がった。
 二人の移動に水が追いかけては来るのだが、剣からこちらまでは来ない。しかし、これなら一応身を守れるものの、グルラディーヌとチョウカを助けることは出来ない。
 さて、どうしたものか・・・・。
「あ、ありましたわ」
 グリシーヌの声にレトが目をやると、水の上に丸いものがぷかぷか浮いていた。
 しかし、これでは・・・・・。と、足元にいる黒蛇が目に入った。
「おい、蛇。頼む、あれを取って生きてくれ。この通り」
 しゃがみ込んで、レトが黒蛇に手を合わせる。
 え~、また水に入るの~。と言いたげに水とレトの顔を見比べる黒蛇に
「黒蛇。わたくしからもお願いしますわ」
 グリシーヌまでが膝をついて手を合わせた。それを見た黒蛇、さすがに?断れないと思ったのか ちゃぷん、と水に入り体をくねらせて泳ぎ出した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 44

2009-01-02 11:04:13 | 小説 ミラージュ
「妹姫っ」
 生命樹の根の隙間からグルラディーヌの手がだらりと垂れ下がった。
「おい、暴れるな」
 足に絡んでくる水に対抗してグリシーヌを抱えるように踏ん張るレトだが、ここで彼女がバランスを崩せば一緒に落ちることは目に見えている。
 信じられないことに、水が二人の足に絡みつき引きずり込もうとしている。しかも、最初は足首辺りに絡んでいた水が、じりじりと足を這い登ってきているのだ。
「くそ、あれがあれば・・・」
 レトが呟く。
「どうかしましたの?」
 この非常時にも落ち着いた声で問うグリシーヌに
「さっき、転がしたヤツ。あれがあれば、もしかしたら・・・・。なぁ、どっかに落ちてねえか」
「もしかて、水の中じゃございません? 転がって行って、そのまま水の中へ・・・」
「・・・・」
 そう、話している間にも水は、じりじりと足を這い登ってきている。これでは、たとえ見つかっても拾うどころではない。
 一方、意識を失ったグルラディーヌの腰にブラ下げた袋から、ぽちゃん と黒いものが落ちた。グルラディーヌが連れていた黒蛇である。
 その蛇が体をくねらせ水の中を泳ぎ、グリシーヌたちのところに姿を現した。
 思いっきり首を伸ばし、体を石畳の上に乗せて“よいしょ”という感じで、体を引き上げる。そして、何かを言いたそうに二人の顔を見上げた。
「???」
 頭の周りでクエスチョンマークが飛び交うレトに代わり
「どうかしましたの?」
 グリシーヌが話しかけた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 43

2008-12-31 16:09:04 | 小説 ミラージュ
「妹姫、うしろ」
 姉の声と同時にグルラディーヌが術を一閃。
『風矢陣』
 小さな鎌鼬が起こり、次の瞬間、赤い光が弾けて消えた。しかし
「きゃあっ」
「どわぁっ」
 水際ぎりぎりにいたレトとグリシーヌに水が襲い掛かる。
「姉姫、レト」
 背後で二人の悲鳴にグルラディーヌの注意がそれる。そこへ、足元から水を跳ね上げて生命樹の根が襲い掛かった。
『砕牙剣』
 とっさに、術でその根を断ち切ろうとして
「術が効かない」
 その手に魔術の剣が現れる事無く、その根に閉じ込められた。
「それに、魔術は効かん」
 いつの間に現れたのか、樹の裏側から灰色のローブを身にまとった男が姿を現した。
「わ、出たっ」
 グルラディーヌのその言い様に少々むっとした顔をしたものの、正面から目の前の少女を見上げた。
「最初は、これの肥料にするつもりだったが、これがお前達を気に入ったようなので、それも出来ん。まったく、ようやく花を咲かせる事が出来ると思ったら、これではまた、どこかから肥料になる人間を調達せねばならん」
 わがままな子供に手を焼く親のような様子で、男が樹の幹をなでる。
「命拾いをしたな娘。これの花が咲くまで、そこで大人しく待っているがいい」
 言うが早いか、男はグルラディーヌに向けて衝撃波を浴びせかけた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 42

2008-12-29 17:36:01 | 小説 ミラージュ
 (多分)地底だろうと思われるのに、お互いが見て取れるほどの青白い薄明かりが広がる空間。時間的にももう日が沈んでいる筈。
 それに、岩の天上に覆われているこの空間では、たとえ昼間でも日の光は届かない。それなのに・・・。
 光の源は、生命の樹。幹だけではなく水に沈んだ根までが淡く発光している。
「お嬢、チョウカは、ここにいるのか?」
 小声でささやいたレトに、グルラディーヌが頷いた。
 腕に抱えた包みも左手首に巻いた布も、チョウカがこの先にいると示している。そこに行き着くには、この水に入らなくてはならないのだが・・・。
「妹姫、この水、あの樹から流れ出てますわ」
 グリシーヌが生命の樹を指差して言った。確かに、樹の幹がしっとりと濡れている。
 なんとか、チョウカを探す方法は・・・・。
「姉姫、この荷物ちょっと預かって。それから、何かあったらこれもってすぐに逃げて。近くにあいつがいる」
 そう言って、グルラディーヌが背負っていた荷物をグリシーヌに預け、竪琴が入った袋を抱えたまま自らに術を掛ける。
『浮空輪』
 ふわり と 宙に浮き上がったグルラディーヌが注意深く進んでいく。
 と、グリシーヌが水中から赤い光が上昇してくるのに気づいた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 41

2008-12-27 21:13:36 | 小説 ミラージュ
「生命の樹、こんなところに・・・」
 それを見たグルラディーヌが驚いたように呟いた。
「セイメイノキ?」
 はじめて聞く単語にレトが首をかしげる。
「うん、本当は長楽樹って言うんだけど、木の実に不思議な力があってそう呼ばれてるの。だけどこんな大きくなるなんて、一体どれだけ・・・」
 そう言い掛けて、何かに気づいたように顔を上げた。
「まさか・・・」
 次の瞬間、
「きゃぁーっ」
 グリシーヌが何かを見て悲鳴を上げた。そして、
「なんだ、こりゃあ」
 レトもそれを見て大声を上げる。
 グルラディーヌも二人の視線を追って気づいた。石畳の向こうにたたえられた水の中に複数の人が沈んでいることに。
「あ、だめっ」
 石畳のぎりぎりまですすみ、その水に触れようとしていたレトをグルラディーヌが引き止めた。
「だめ、これ普通の水じゃない。水の匂いがしないの」
「水のにおい?   そう言われれば」
 確かに湖などの近くであれば、水のにおいがする。グルラディーヌでなくでもこれだけ水に近ければ、分かる筈。それが、全くない。
 匂いなど普段気にしないので分からなかったが、こんな場所で水気が多いのであれば、もっと湿った匂いがするはずだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 40

2008-12-25 21:52:52 | 小説 ミラージュ
「・・・・・」
 グルラディーヌがなにやら難しい顔をしている。
「妹姫、どうかしましたの?」
 妹の表情に気づきグリシーヌが声を掛けた。
「うん、さっき転がって行ったの、ぶつかった音が聞こえないんだけど、どこまでいったんだろう?」
 耳に神経を集中するようにこめかみに指を当てる。
「いってみましょうか」
 そういって、更に足をすすめようとするグリシーヌに、
「あ、ちょっと待って『明球輪』」
 手の上の明球より淡い光の玉を作り出し、天上へ放った。
「それじゃ、行こう」
 姉妹が肩を並べて歩き出す。その後をレトが続いた。
 時折、グルラディーヌが明球を作り天上に放る。それが何度続いたろうか、廊下の向こうに薄っすらと淡い光が見えた。
 三人が顔を見合わせる。そして、足が速まる。
 微妙に警戒しながらも、光に惹かれるように、そこへ向かって行った。
 そして、廊下の向こうにあったのは・・・・。
 広い石畳の空間、更にその向こうには、水の空間が広がり奥には巨大な木が枝を広げていた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 39

2008-12-24 21:31:01 | 小説 ミラージュ
『明球輪』
 グルラディーヌの手のひらに光球が灯る。
 先ほどのとは違い、光量をおさえその代わり術の永続時間を延ばしてあるのだ。もっとも、魔力が尽きれば、放っておいても消えるものだが。
「ほら、大丈夫でしょう?」
 グリシーヌの後ろで大きな体を小さくしているレトにそれを見せた。
「・・・それ?」
「そう、ただエネルギーを一気に開放したから、目いかれる危険性があって、だから目つぶっててもらったんだけど。あいつらには、本当に良く効いたみたいね」
 うんうんと頷く、グルラディーヌを見たレトの頬に、つぅー と、一筋の汗が流れた。

 壁に灯るオレンジの灯りが弱くなってきている。頼りになるのは、グルラディーヌの灯した明球だった。
 あれ以来、襲ってくるものもなくひたすら廊下が続くばかり、窓もなく時間の感覚すらなくなりそうだ。
「だけど、外から見た時、この建物ってそんなに大きかったっけ?」
 ふと、そんな疑問を漏らすのは、光球を持ったグルラディーヌ。
 そういえば、それほど大きな建物のような記憶はなかった。
 突然、レトが荷物の中から丸いものを取り出し床に置く。と、それは、ゆっくりと前方に転がっていくではないか。
「ここ、下り坂になってたんか」
 常人では、気づかないほどの傾斜なのだろう。
「もしかして、もう、教会の外に出てるかもな」
「・・・・」
 姉妹そろって、コメント出来ず。
 レトの手から離れた玉は、前面に広がる暗闇の向こうに吸い込まれていった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 38

2008-12-23 12:21:03 | 小説 ミラージュ
 あれ、いっちゃった・・・・。
 確かにある程度のダメージは、与えられるのではないかと期待したものの、こうもあっさり逃げられてしまうと、罠かとも思ってしまう。
 追うべきか、・・・。と迷ったところ
「おーい、目あけていいか?」
 レトののんびりした声が聞こえた。
 見上げれば、律儀に目を閉じたレトとグリシーヌがいた。
「いいよ、目開けて」
 グルラディーヌの返事に二人が目を開ける。
「あれ、・・・・さっきのは?」
 辺りを見回すレトに
「向こうに、いっっちゃった」
 と、グルラディーヌが答えた。
「逃げたのか?」
「多分、ね」
「それで、どうしますの?」
「どうって・・・・」
「いくしか、ないでしょう」
「・・・・だな」
 廊下は、まだ奥まで続いている。一体、どこまであるんだ?
「ところで、何やったんだ?」
「は?」
 唐突なレトの問いに、気の抜けた声を出すグルラディーヌ。
「だから、どんな術使ったんだか知りたいんだけど」
「あぁ、それは、・・・・やってみる?」
「えええ、ちょっと待った、ストップ」
 をい。そこでどうして女の子の後ろに隠れる?
 レトがでかい体をグリシーヌの後ろに隠そうと・・・・、て、とても隠れられたものではないが。
「あのね。目つぶってる間、爆風とか衝撃とか感じたりした?」
 あまりの行動に、グルラディーヌがあきれた声をあげた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みらーじゅ 37

2008-12-21 16:53:22 | 小説 ミラージュ
 それにしても、いるはいるは異形の存在のオンパレード。
「後から後から、湧いてくるようですわね」
 じゃしっ
「どんだけいるんだ?」
 ぐわっしゃ
「さぁ  ねぇ? 『砕牙剣』」
 ざんっ 
 レトとグリシーヌだけには任せされないと、グルラディヌーも魔力の剣で応戦する。
 本当は、もう少し大きな魔力の術を使いたいのだが、左手がふさがっていて両手で印が結べないため、大技が使えない。
 後ろから襲われないですむのはありがたいのだが、これでは全然前に進めない。
 う~ん、困ったな。
 グルラディーヌも考えていた。それほどの魔力を使わず、両手で印を結ばずにすんで、比較的威力のある術は・・・・。
『裂風陣』
 同時に手前のモノが どん と、弾き飛ばされる。
 もともとこの術は、自分に向けて飛んできた矢などを弾き飛ばすのに使われる防御の術だが、すこし術の内容を変えれば、こういう使い方も出来る。あまり、攻撃力はないが・・・・。
 よし、次。と思った瞬間
「妹姫。火の術は、だめですわよ」
 グリシーヌの注意が飛ぶ。
 確かに燃えるものはないが、逃げ場もない。考えてみると、炎の術って使い勝手悪いかも・・・・。だったら
「姉姫、レト、ちょっと目つぶってて」
 言ったが早いか
『明球輪』
 術を放つ。
 ソレらの目の前で、爆発的な光が放たれる。
 うぎゃ  ぎゃぎゃ  きがぐえ   ・・・・
 光を浴びたソレらは、少しの間じたばたしていたが、グルラディーヌが新たに術を繰り出そうとしているのを見ると、慌てて奥へ逃げ出していった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする