宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

リーフ 27

2008-09-30 21:26:41 | 小説 リーフ
 翌日、宿泊した別の村で、男が役人に引き渡されたと風のうわさで聞いた。
 そりゃぁ、あんだけ大声で悪事の数々の自慢(かなりちんけだが)をしていれば、無理もない。何と言っても、役人に引き渡したのは、あの男の被害にあった人達だとの事なので(その前に、かなり、ぼこぼこにされたらしい)・・・。
 やはり、世の中は、清く正しく美しく生きなくてはならない(レムのやりすぎは? と言われれば、え・・・と、潔いということで、大目に見てください)。
 それにしても、うわさが伝わるのは、どうしてこんなに早いのだろう・・・・?


※ 風樹です。
  すみません。昨日の抜けてしまった分です。
  今日は、これでゴメンナサイ。
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リーフ 26

2008-09-29 21:59:48 | 小説 リーフ
 咄嗟に術を叩きつけようとしたレムだが、それより一瞬早くカルの足が男の軸足を払った。
 どげしっ
 カルが手加減、いや足加減なしに男の軸足を払い飛ばしたのである。
 勿論、男はそのまま道端に転がることとなった。
「どういう、つもり?」
 レムがひっくり返った男の襟首をつかみ、無理やり引きずり起こす。その顔は、答えによってはただじゃすまないわよ。といっているのがありありと分かる。
「お、俺が約束したのは、あんたで、こっちのチビと約束した覚えはないね」
 びびりながらも、男が答える。
「ふうぅん、そういう事いうの。カル。かまわないから死なない程度に一発かましてやんなさい。こんな根性捻じ曲がった奴、人間じゃないわ」
 あまりに頭にきてしまったため、人間以外の存在に失礼な言葉を発してしまったレム。しかし、カルが何かするよりも早く、男の胸倉をつかんだ者がいた。
「姉ちゃんたち、取り込み中悪いんだが、このあんちゃんと話をさせてもらいたいんだ、かまわんかね? 他にも話をしたがっているのが大勢いるんでかなり時間がかかりそうなんだが・・・」
 にやり と、意味のある笑いに三人が顔を上げると周りはかなりの人だかり。それどころかさっきより人数が増えている。
 なるほどそう言う事。頷いてレムは、男の襟首から手を離す。
「あ、どうぞどうぞ、なんでしたら丸ごと差し上げますから、お話だけなんて言わず煮るなり焼くなり食中毒起こすなりお好きなように。では、あたしたち先を急ぎますので、失礼します」
 言いながら、男を引き渡すと
「おい。俺の話は、終わってねえぞ」
 大勢の人たちに囲まれながら、慌てた様にじたばたと暴れまわる男をほうっておいて、カルを促してその場を離れた。
「ところで、レムちゃん。何なのその食中毒って?」
「そりゃあ、煮ようが焼こうが食べたら最後、おなか壊しそうじゃない。あの人」
「・・・たしかに」
 レムの台詞に頷くカル。直後
「ところで、さっきから聞こうと思ってたんだけど、昨夜はどこで何やってたの? 目が覚めたら姿が見えなかったけど」
 どきっ  ばれてた。
 レムが部屋に戻った時は、カルはしっかり寝ていたので気がついてないと思っていたのだが。
 だから、レムは正直に言った。
「仕事で宝玉取り返すのに、ちょっと自然災害起こしただけよ」
 と。それに対してカルは
「それって、もしかして、人の形をした自然災害のこと?」
 と、あっさり。
 う、しっかり、ばれてる。
 カルの言葉に対し、あははは・・・ と笑ってごまかすレム。
 世の中、思いもよらないことがある。
 それにしても、とレムが一人ごちる。
 あの男のおかげで昼真っから無駄な体力使っちゃったわ。まったく、もう(だからといって、夜なら良いのかと聞かれても困るが・・・)。
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リーフ 25

2008-09-28 17:15:39 | 小説 リーフ
「ば、馬鹿にするなっ そんなチビ相手に出来るか」
 直後、男が冗談じゃない、とばかりに起き上がり、カルを指差して叫ぶ。
「どーせ、あたしはチビですよ」
 ぼそり。と、カルの心の声が漏れた。
 はい、どうどうどう・・・・。
 レムが、カルの背中を叩いて、落ち着かせる。
「そうね。もし、この子に勝てたら、今度は本当にあたしが相手になるわ。それならいいわね」
 それに対し、男がしぶしぶと言った顔で頷いた。そして、
「そんじゃ、さっさと終わらせてもらおうか」
 などと言っている。
 男は知らない。自分の台詞がカルを怒らせてしまったことを。 
 カルが上着を脱ぎ、丸めて荷物の上に乗せる。脱ぎ捨てないあたり、さすがは女の子といえるだろう。
 一方、カルをけしかけたレムは、カルの微妙な怒りに気がついていた。
 知らないわよ、あたしは・・・・。カル、怒ると後が怖いんだから。
 レムが離れるのを見て、男は、ふんっ と、鼻を鳴らし、カルに斬りかかった。
 さすがに同じ失敗を繰り返さないように気をつけたつもりなのか、今度は剣を水平に凪ぐ。が、がら空きになった胸元へカルが飛び込み、
 でしい ぃっ
 手のひらで男の顎を突き上げた。さらに、一瞬動きの止まった男の後ろに回りこみ、膝裏を ちょん と、蹴る。
 カルお得意の “ひざかっくん” だ。
 これは、実践には効果大の技なのだが、危険度も大(ひっくり返って後頭部を打つ危険性あり・やられた方がであるが)のため、ふざけてやってはいけません。との注釈がつくのである。
 まぁ、真剣振り回す相手にそんなことを言ってられない。と言われればそれまでではあるが。
 それにしても、こんな簡単に終わってしまうとは・・・・。あまりに情けなくないか?
 しばらく待っても、男は復活する様子を見せない。
「それじゃ、いきましょうか」
 レムがカルを促し、その場を離れようと荷物を担いで男に背を向ける。と
「おい、どこ行くんだ。まだ、勝負はついていねーぞ」
 持っていた剣を杖代わりに、男がよろよろと立ち上がる。
「そんなチビに負けたとあっちゃ、世間に顔向け出来ねーんだよ」
 男がカルを指して“ちび”と言った直後、回れ右をしたカルが無言で男の脇へ歩み寄り、すっぱーん と、その剣を蹴り飛ばした。
 べしゃっ
 体重をかけていた剣がはずれ、男はまたもや地面と仲良しになる羽目になった。
 しっかり、負けているではないか。
 不注意一秒怪我の元、真実・ほんとうの一言死を招く。誰にでも、禁句と言うものがあるのだ。
 しかし、
「まだまだ」
 足元をふらつかせながら男は剣を振り上げ、カルの頭上に振り下ろそうとした。が、カルは男の腕に自分の腕を絡ませ、体重をかけてねじり落とす。その瞬間、男の足が宙に浮き どすん とお尻から地面に落ちた。
 これは、痛いぞ、まじで。
 野次馬ののりで傍観していたレムだが、そうそうのんびりしてはいられないことに気がついた。
 日が昇る前に出発して、日が暮れる前に休むと言うのが旅の鉄則だ。そろそろ本気で終わりにしてもらわないと、宿を取るどころか次の村までたどりつけなくなってしまう。そうなったら、マジで困る。だからと言って、野宿などは絶対に避けたい。
 そんな事をぼんやりと考えているレムの耳に男の悲鳴が聞こえた。
 見ると、男は(いつの間にか)うつ伏せにされた状態でカルに腕をひねり上げられている。
 よし、これだ。
「カル、そのままそいつ押さえていて。手、離すんじゃないわよ」
 直後、レムは男の背中に どすん と乗っかり、
「ねえ、いい加減降参してくれない?」
 言ってみたのだが、男はいやいやをするように首を振った。
 わずかではあるが男の意地を見せるようだ。それならば、
「カル。手、離しちゃだめよ」
 もう一度念を押してレム。カルがひねり上げた腕とは反対の脇の下に指を当てて
 こしょこしょこしょこしょ・・・・・
 との途端、男が足をばたつかせる。しまいには、泣き出してしまった。
「降参、してくれる?」
 レムの言葉に、男が頷く。
「もう、こんな風に喧嘩売ったりしない?」
 もう一度、その顔を覗き込んで聞くと、涙と汗と鼻水とでぐしゃぐしゃになった顔で頷いた。
 よし。
 レムが男の背中から降り、カルに目配せをする。
 カルもレムに頷いて、ゆっくり男の腕を放して立ち上がった。と、その時、男が がばっ と立ち上がり
「この、チビがっ」
 カルに向かい足を振り上げた。
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リーフ 24

2008-09-27 21:47:31 | 小説 リーフ
 あまりにもわかり過ぎる反応に何か裏があるのではないか、と疑ったのだが・・・・。
 男が剣を振り下ろそうとしたところを、レムが体を半回転して避け、その背中にけりを一発。
 どぐらっしゃぁ   ん
 そのまま素直につんのめった。
 「嘘みたい」
 レムが、あきれてつぶやいた。
 裏も表もあったものではない。いったい何を覚悟しろと言うのだろう?
 これでは、魔術使うほどの相手じゃないわね。はっきり言って、魔力がもったいない。もったいないと言えば、こんなやつに体力使うのももったいないわよね。
 レムはちょっと考え、
「カル、ちょっと」
 荷物を抱えて、ぼんやり立っているカルを手招きする。
「はい、後よろしく。何だったら、術の一発も食らわせてやって」
 その台詞に
「えーっ」
 ぼとり と、抱えていた荷物を取り落とす。
 レムにとっては、予想通りの反応だ。
 攻撃魔術をいくつか取得しているものの、通常時カルの性格は、攻撃的なことは得意ではない(多少例外はあるが)。
 だから、奥の手を使うのだ。
「やんないんだったら、夕飯抜くわよ」
 レムの言葉にカルが うっ 、と唸って固まった。
 小さな体にかかわらず、レムもカルも良く食べる。食べるのが大好きなのだ。その大好きな楽しみを抜くと言われれば、ショックは大きい。
「やる、わよね」
 念を押したレムに、カルが頷く。
 これは、レムの作戦勝ちである。
 この世の中、食べ物を制するものが世界を制するのだ。
「それじゃ、がんばっていってらっしゃい」
 そういって、カルの背を押しながら、
「それじゃ、今度は、この子が相手するわ」
 まだ道端に突っ伏している男に向かって、レムが一方的に宣言した。
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リーフ 23

2008-09-25 17:39:08 | 小説 リーフ
 さて、静かになったところで、そろそろ出発しようか。とレムが席を立つ。
 先を急がなくてはならないのだ、こんな奴にかまっていられるか。というのが、レムの正直な気持ちである。
「カル、行くわよ」
 いったい何? と言った顔でお茶を飲んでいたカルに声をかけて、テーブルを離れる。
 勘定をすませ店を出ようとした時、待ったがかかった。あの男である。
「話の途中で席を立つな。まだ、用件は済んでいないんだ」
 子供が駄々をこねるように、足を踏み鳴らしながら男が叫ぶ。
 まだ用件が済んでないって・・・・、用件なんかあったのか?  
「それで、何なの用件て? あたしたちも、旅の途中なんだからね、あんまりのんびりしてられないのよ」
 いい加減、うんざり。と言った顔でレムが立ち止まる。
「用件? 決まってんだろ。俺と勝負しろ。あん時は油断してたが、今度は、そう簡単にはやられないからな。わかったらさっさと表に出ろ」
 男は、なにやら勝手に騒いで、勝手に店の外に出て行ってしまった。
 訳が分からない状態のカルはともかく、レムとしては、わからないから出ない。と言って店に戻りたいところであったが、それこそ後がウルサクなりそうなので、面倒だなと思いながらも、男の後を追って外に出た。
 レムが辺りを見回すと、道の両側に人だかり。野次馬たちがいっぱい。
 まったくもう、何を考えているんだか・・・・。
 荷物をカルに預け、レムが男の前に立つ。
 はっきり言って、見世物になった気分。
「ほう、破壊の帝王と呼ばれた俺の前に立つ度胸は、褒めてやる。だがな、後でほえ面かくなよ、俺はなぁ・・・・」
 男のせりふを聞いて、レムは思わずコケそうになった。
 は、ハカイノテイオウ て、何つー呼び名だ。そりゃぁ、こんな男と付き合ってなんかいたら、頭の中身が破壊されそうだけど・・・・。
 それにしても、グルタさんってばよくこんな男雇ったわね。おかしなことに感心しているレム。一方、男はと言うと、
 道の真ん中に仁王立ちになって、延々と続く悪事の自慢話を始めた。それも、せこい万引きやら無銭飲食やら、ちゃちな詐欺の話やら。
 まったく、どうせやるならもっと大きいことやりなさいよね。男の話を聞きながら、ぶつぶつとレムがひとりごちる。
 何事かと道端に詰め掛けた人たちも、飽きたのか一人二人と帰っていく。それはそうだろう、昼日中からこんな与太話聞いていられるほど、暇な奴はいない。そうれも、面白い話ならともかく、これでは・・・・。
 いい加減、嫌気が差してきたレムの視線の隅を何かが横切る。それを目で追おうとした時、
 ふわぁ~  とうとう、カルまでが欠伸をしだした。
「どう、聞いてる? あいつの話」
 レムの言葉に、カルが首を振って答えた。
「全然。もう、途中で寝そうになったし」
 やっぱり。レムが内心頷いた。
 そうよね、こんなの聞いてたら、本当に夜になっちゃう。まぁ、熟睡しないだけでもましね。
「ストップ」
 まだまだ続きそうな男の演説を、レムが無理やり中断させる。
「あのね、さっき言ったでしょ。あたし達、あんまりのんびりしていられないの。ただ自慢したいだけならほかの人にしてくれない?」
 その途端、男の顔が強張った。そして、
「お前は、輝かしい俺の過去を聞かせてやろうと言う、ありがたみが分からんのか」
 と、本気で訳の分からんことを叫びだす。
「分かりますか、そんなもん。自分で勝負しろって言っておいて、何言ってんのよ。ただ自慢したいだけなら、別のあいて探しなさい」
 いい加減やる気をなくしてカルから荷物を受け取ったレムの背中に、男のあせる声が飛んでくる。
「おい、こら、待たんか。敵に背を向けるとは、おまえ、それでも男か」
 ばきしっ 
「うるさいわね。あたしは、女よ。見りゃ分かるでしょ」
 レムの中から小さな殺気がほとばしり、一度は担いだ荷物を足元に下ろす。
「そこまで言うなら、相手になってやろうじゃない。どっからでも、かかってらっしゃい。遠慮はいらないわよ」
 勿論、レムとて遠慮するつもりはない。ただ、手加減は必要だと認識はしているが。
「よく言った。その言葉、後になって後悔するなよ」
 男の台詞に、
 しないしない、そんなもん。レムは、頭の中で首を振った。
「そんじゃ、いくぞ。覚悟しろよ」
 男は、腰に下げた剣を抜いて頭の上に構え、奇声を上げながら走ってきた。
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リーフ 22

2008-09-22 22:30:38 | 小説 リーフ
 グレン市を目前にした町の食堂で、2人が食後のお茶を飲んでいた時のことである。
「レム=サティン ってのは、どいつだ」
 扉が壊れるのでは? と思うほどの勢いで包帯だらけの若者が飛び込んできた。
 しかし、レムは、面倒くさい事はおことわり。とばかりに無視を決め込んだ。すると、
「おい、そこの赤毛のちび」
 店の入口に立った包帯男は、レムを指差し禁句を叫んだのである。
「お前だろう、レム=サティンってのは。お前のおかげでなぁ、おれは、仕事をクビになったんだ。忘れたとは、言わせねぇぞ」
 そして、周りの視線も全く気にせず、一気にまくし立てる。のだが、
 レムとしては、見たこともあった事もない包帯男に迫られても、嬉しくもなんともない。そこで、キッパリ言ったのだ。
「あの、どちら様?」
 がしゃどし  っ
 その途端、派手な音をたてて男はその場にひっくり返った。当然の如く、店中の視線が男に集まる。
「お、お前、昨夜、グルタんとこの倉庫ふっ飛ばしただろう。俺は、そこで倉庫番をやってたんだよ」
 よろよろと立ち上がり、恨みがましい目つきで男がレムに近づく。
 そういえば、そんな仕事請けたっけ。
 グルタという名前を聞いて、レムが昨夜の記憶を呼び起こす。
「ふぅ~ん、それで?」
 そこで、男がもう一度こけた。
「それでっ、その時、お前が吹っ飛ばした倉庫の中にいたんだよ俺は」
 ばんっ と、テーブルを叩きながら男が叫ぶ。
「あ、なるほどね。で、あたしにどうしろと? 言っておくけど、“返していただけないなら、その倉庫吹っ飛ばしますけど、よろしいでしょうか?”って、確認してからやったのよ」
 そうええば、倉庫の番人が何とかって、言ってたような・・・・。
「だからって、本当に吹っ飛ばすか、普通。中の確認しないで」
「だって、やれるものならやってみろ。って言ったのよ、グルタさんが。それに、あたしだってアガタさんから、グルタさんに貸した宝玉を取り返して欲しいって依頼されたわけだし」
 実際、レムが二人の前で倉庫を吹っ飛ばしてみせたところ、二人そろって、仲良く固まってしまった。
「ほう、それじゃ何か。あんたは、依頼されれば建物もぶっ壊すのか?」
 ぴくぴくとこめかみを引きつらせて、男がテーブルの上に身を乗り出してくる。 それに対して、レムがキッパリと言い切った。
「そりゃあ、建物でも山でも。お金がもらえて、あたしの気が向けば、ね」
 建物の残骸を目にしたグルタは、素直に宝玉をアガタに返し、アガタも“一応、依頼した仕事は成功したから”とのことで、レムにかなりの報酬を支払った。
 レムにとっては、これが一件落着でなくて何なの。と言いたいところだ。
 ・・・・壊れた倉庫に関しては、お互い表沙汰にしたくない。と、二人の意見が一致して、無理やり理由を考え出した。その理由とは、
 (人型の)自然災害が急所湧き起こった。というものである。
 だけど、自然災害って・・・・。
 レムとしては、あまり面白い理由とは思えないが、報酬も払われた後だったので、突っ込むのはやめておいた。
 「・・・・・」
 男は、レムの台詞に口をあんぐりとあけて固まり、辺りには沈黙の空気が漂った。
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リーフ 21

2008-09-21 22:24:17 | 小説 リーフ
 サンドイッチを食べ、一息ついた後、そっと部屋を出る。
 本当は、服が皺になってしまっている為、着替えをしたかったが隣でがさごそしてカルが起きてしまっては面倒なので、そのまま上着だけを羽織って食堂へ向かうことにした。
 時間的に遅いわりに部屋を出て歩き回る人が多いことに驚きながらも、レムは食堂をのぞいてみた。
 が、ちらほら人の姿はあるが、目的の人の姿は見えない。
 まだ、来ていないのかな?
 安心したのと同時に、レムの腹の虫が目を覚ました。さっきサンドイッチを食べたのだが、少し食べたことでかえって空腹感が増してしまったようだ。
 そういえば、喉も乾いた。確か、食堂を出たところに飲み物売ってる店があったような・・・、まだやってるかな。
 うろ覚えの記憶を頼りに食堂を出ようとした時、ぽん と、誰かがレムの肩を叩いた。
 をや? と思って振り返ると、お待ちかねの張本人・アガタである。
「遅れてしまって、申し訳ありません。荷物を片付けるのに手間取ってしまっったもので・・・。お待ちになりました?」
 片付ける荷物なんてあったの? と突っ込もうとしたレムだが、あまりに恐縮してしまったいるアガタの様子に
「いえ、あたしも今、来たところです」
 と本当の事を言った。のだが。
「でも、もう、お帰りになるところでしょう?」
 と、さらにすまなそうな顔をする。
「いえ、そうではなくて、ちょっと喉が乾いたから何か飲もうかな・・・と」
 これも、本当の事である。レムがそこまで言って、ようやくアガタは落ち着いた顔になった。
「それでは、屋台にでも行きませんか? おいしい焼き物を出すお店があるんです。実はわたし、食事を取り損ねてしまったんですよ。一緒にいかがですか?」
「はぁ、かまいませんが」
 と、言う訳で二人、夜の屋台にくり出す事になった。

 アガタのおごりで数件屋台をはしごした後、グルタの家に向かう二人。
 レムとしては、明日の朝も早いので、さっさと話を終わらせて宿に帰って休みたい。というのが本音だ。
 ・・・・、買ってもらった焼き菓子をかじりながら考える事ではないと思うが。
 案の定、グルタはアガタの話に耳を貸そうとはしなかった。それどころか、
「何度も申し上げたと思いますが、私はあれが気に入りました。手放すつもりはありません。どうしても、とおっしゃるのであれば、ご自分で取り戻されてはいかがです。あれは、大切にウラの倉庫に保管してありますよ。勿論、番人つきでね」
 と、まるで鼻であしらうというか、完璧に人をバカにした口調で二人を屋敷から追い出した。
 こら、他人のものを返さないで開き直ってんじゃないの。あんまりそういう強情な態度をとると、こっちだってちょっぴり強引な方法をとることになるんだからね。
そのグルタの態度に、レムが静かに切れた。

 そして、翌日。
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リーフ 20

2008-09-20 22:06:05 | 小説 リーフ
「レムちゃん、大丈夫?」
 濡らした手拭でレムの頭を冷やしながら、カルが心配そうに声をかける。
 あぁ、情けない。
 レムが赤い顔で息を吐く。
 お湯に浸かりすぎてのぼせてしまい、宿の一室に寝転がる破目になるなんて・・・。
「水か何か飲む?」
「いい。飲んだら吐きそう。目が回る」
 ふうふう言っているレムに、どこから買ってきたのかカルが扇子でパタパタと風を送った。
「もう、びっくりしたよ。露天風呂から戻ったら、レムちゃん、お湯に沈んでるんだもん」
「面目ない」
 浴槽から引き上げられた後、カルの背にしがみついて(半分引きずられて)ようやく、ベッドに辿り着いたのだ。
「もう、寝たら?」
 唸っているレムを見てカルが言ったのだが、レムとしては目をつぶると余計目が回る為、眠る事が出来ないのだ。
 だけど、困った。
 レムが別の意味で、唸り声を上げる。
 夜、アガタと待ち合わせをすることになっているのだ。それに、食堂も時間で閉まってしまう。このままでは夕飯抜きだ。
 目が回っていても、食べる事は忘れないレムであった。

 レムがふと気がつくと、あたりは真暗になっていた。窓の外も暗く、外灯がぼんやりと光を放っている。
 いつの間にか眠ってしまったらしい。
 その隣ではカルが規則正しい寝息をたてている。この分では、レムが部屋を抜け出しても気付かないだろう。
 カルは、一度寝付くととんでもない根性を発揮して、ちょっとやそっとの事では起きたりしない。
 前にレムがふざけて眠っているカルの鼻をつまんだことがあったが、目を覚ますどころか全然気付いていない、という程なのである。
 それでも、朝、しっかり起きるから不思議だ。
 しばらく、カルの様子を観察して、レムがそっと音を立てないようにベッドから滑り降りる。
 眠ったせいか、頭を動かしてもくらくらしない。のぼせもすっかり直ったようだ。
 よし、とレムがベッドを離れようとして、枕もとのテーブルに何か置いてあるのに気が付いた。
 薄暗がりの中、目を凝らしてみてみると、布巾に包まれたサンドイッチであった。
「レムちゃん、サンドイッチここにおいて置くから、おなかすいたら食べてね」
 と、夢現に聞いたような気がする。
 では、ありがたくいただきます。
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リーフ 19

2008-09-19 22:18:23 | 小説 リーフ
「で、お話っていうのは・・・・」
「それがですねぇ。実は、お願いしたいことがありまして・・・・」
 のんびりのんびり話し出したアガタさん(青年の名である)の話によれば、彼のおじいさんの持っている宝玉をグルタさんという人に貸したのだが、返すと言う期日が来ても返してくれない。幾度か返すよう催促してみたのだが、聞こうとしない。それどころか、居留守は使う、犬をけしかける、仕舞には人を使って嫌がらせをするようにまでなってしまったのだと言う。
 そこで、どうにかして宝玉を取り返して欲しい。ということであった。
「だったら、あたしなんかに頼まなくても、裁判でも何でもおこしたらよろしいでしょう。借りたものを返さない相手が悪いんだし」
 わざわざ見ず知らずの他人なんかに頼まなくても、この状況なら正攻法で裁判やっても充分、勝てると思うけど・・・。
 というのがレムの考えなのだが。
「はぁ、それが、出来る事であれば、お互いの立場上、裁判沙汰にしたくないんですよ。グルタさんもはじめのうちは“家宝と交換しよう”とか“金を出すから売ってくれ”とか言っていたくらいですから、悪気があってのことではないと思うんです。わたしとしては、あの宝玉が自分のものであれば差し上げても構わないのですが、生憎、わたしの所有物ではないものですから・・・・。それに、周りがねうるさいんです。で、出来るだけ、あまり表沙汰にしないように取り戻して欲しいんです、後々の事を考えれば、グルタさんにとってもその方が良いと思うんです。
 勿論、これは、仕事としてお願いするのですから、報酬は、お支払いします。どうか、お願いします」

「うわ   っぷ」
 カルの上げた声に、レムが湯船で我に返る。
 洗い場でお湯をかぶっていた人が、勢い余ってカルにまでお湯をかけてしまったのだ。しかも、その人は、カルがいる事に全く気付かないまま、浴室を出て行ってしまった。
「カル、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
 ぬれた顔を拭いながら、カルが湯船に入ってくる。
 ちゃぽん。
 レムの隣に腰を落ち着けた後、ふぅ~と、長い息を吐いて体を伸ばした。
 お湯に濡れない様にと頭の上でまとめた髪がびしょびしょだ。
「濡れたついでだから、髪も洗っちゃおうかな」
 ため息をつきながら、濡れた髪をつまむ。
「そうね、洗える時に洗っておいた方が良いかもね。今だったらあったかいから、すぐ乾くわよ」
 そう、ここは温泉地だから、こうしてのんびりお風呂に浸かっていられるけど、お風呂のない宿なんてのも結構あるのだ。たらいに湯を張って体を洗えるならまだ良い方で、中にはお風呂に入る習慣すらない土地もあったりする・・・。
 もっとも、目的地まではあと三日もあれば余裕で到着予定なので、風呂に入るのを我慢しようとすれば、出来なくはない。
 何だったら、濡らしたタオルで体を拭くだけでもすっきりはするし、川があればそこで水浴びで済ませてもこの季節、風邪をひくことはない。
 それでも、この暑さの中ではどうしても汗をかくし、風が吹いたら砂まみれだし、やはり風呂はあったほうが良い。
「ねぇ、レムちゃん。ちょっと、露天風呂へ行って来るね」
 レムと変わらないくらにの小さな胸をタオルで隠し、カルが湯船を出た。
「行ってらっしゃい。コケてお湯に落ちないようにね」
 そう注意するレムに
「レムちゃんこそ、のぼせて倒れないでね」
 などという会話を交わしていたのだが・・・・。
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リーフ 18

2008-09-18 22:05:49 | 小説 リーフ
 そして、夕方。カルの脳天気さを心配しつつも何とか無事、ふもとの村に着いた二人。早速、山歩きをした疲れを取ろうと、宿の温泉につかっていた。
 は~ぁ、最高。いい気持ち。
 とりあえず、肩の荷を降ろし湯船に浸かるレム。
 実は、無事とは言うものの、あの後、山道をおりながらカルがすっ転ぶというアクシデントが発生したのだ。
 それも、すっこーん。と、ものの見事にお尻から山道を滑り落ちたのである。
 杖はレムが持っており、少し前に小雨が降って足元が滑りやすくなっていたのも原因だろう。
 もっとも、そこまで降りてくれば、斜面は緩やかになっていたし、人の手が入った階段もどきのような道になっていた為、ずるずるずる~っ と、尻餅をついたまま道を滑り落ちていった。という程度で済んだのであったが。
「大丈夫ですか? こういうところではね、小股でちょこちょこ降りていったほうが安全なんです。それから、杖をつきながら歩くと、あまり滑らないで済みますよ」
 と、どこから現われたのか、先に降りていったはずのさっきの青年が声をかけてきた。そして、
「では、お先に失礼します」
 一礼の後、再びすちゃすちゃと二人の前から去っていったのである。
 何だったんだろう、今のは? ま、いっか。どうせもう会うこともないだろうし。
 そう思ったレムだったが・・・。

 しかし、が。しかし、また、会ったのである。お風呂へ向かう途中、宿の廊下で。しかも、お風呂へ入る前に何か飲もうかなとレムが一人で廊下をぶらついていた時、狙ったように声をかけてきたのだ。


★ すいません、風樹の独り言です。
 長かった・・・・。リーフ13で館を出発してようやく宿に到着。物語上ではまだ一日たっていないんですよ。それなのに・・・・。
 しかし、まだ、レムの一日は終わりません。これから先、読んでいただければレムの性格がよく分かると思います。たぶん、何となくは分っているとは思いますが・・・・。
 では、この先も続きます。お楽しみに、・・って読んでる人、本当にいるのか?
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リーフ 17

2008-09-17 12:20:45 | 小説 リーフ
「す ごい人だねぇ」
 カルの台詞にレムも無言で頷いた。
 山を降りる道の途中に山小屋があったのを思い出したレムが、そこでお昼を食べようとカルを誘ったのだが、その山小屋にたくさんの人がくつろいでいるのだ。
 それ程大きい山小屋ではないので、入りきれない人それぞれが、山小屋の周りに群がっているのである。
 のんびり休憩をとる人、弁当を広げる人、携帯燃料と小型の鍋で自炊する人、ガイドブックを見ている人 と、よくまぁこれだけ集まったものだわ。どこから沸いて出たのだろう? と感心するほどである。
 それでも結構重要な交通路の一つだし、ハイキングするにも手ごろな山なんだろうけど、それにしても・・・・。
 あまりの人の多さに、立ち尽くす2人。
「どうしようか?」
「どうしようか。っていわれても、これじゃあねぇ」
 どのみちこれでは、直接地べたに座るか岩に腰掛けるしかない。だけど、この込み合う中で弁当を広げるのも・・・・・。
「もう少し、先行って見る?」
「・・・そうだね」
 レムの提案にカルも頷き、山小屋を背に降り道へ足を進めた。
 今度は、さっきのような岩だらけの激斜面と違い、幅は狭いものの一応道らしいものがあった。とはいっても、人が何度も通り踏み固められて道になったような感じだが、それでも道は道だ。
 しかし、道の右側は登りの激斜面(しかも、斜面の上の方で岩と岩との間から水蒸気が吹き上がったりしている)、左は、一歩間違えれば間違いなく転げ落ちることが出来ます。というくらい急な下りの斜面激斜面であった。
 その激斜面の途中にある狭い平地で2人は、昼食の為の弁当を広げる事にした。
 メニューは、焼パンのチーズサンド・野菜の漬物・燻製肉に軽く味付けして炙ったもの・小林檎の蜂蜜煮(ラウルシャイン特製)であった。
 朝の弁当に較べると味気ないような気もするが、これは食べるのが遅くなっても悪くならない様にとの配慮である。

 昼食を終えて一息ついたカルが
「なんか、向こうの山が霧にかすんで別の世界みたいだね」
 と、底の見えない斜面の向こう側にある山を見て、呑気に喜んでいる。
 確かに、霧の向こうに見える緑の山の連なりは、本当に綺麗だ。レムとしても、時間があるのならゆっくりと景色を見ながら歩くのも悪くないと思っている。のだが・・・。
 もしも、足を滑らせたりした場合、落ちながら浮遊術を使うなんてまね、今のカルではとても無理。
 だ か ら。
「お願いだから、足元に気を付けてね」
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リーフ 16

2008-09-15 20:27:18 | 小説 リーフ
「でも、レムちゃん。杖なんかついて、邪魔じゃない?」
 カルの問いかけに、は? とクエスチョンマークがレムの頭上を飛び交う。
「こういう岩場だったら、両手使えるほうが体を支えるのに便利だと思うけど?」
「なんで? 杖で体を支えてるんだもの、そっちの方が余程楽でしょ」
 そう言われ、考え込むカルを見て、レムも考え込んだ。
 カルの頭の中って、やっぱり、少し変わってるかもしれない、と。
 
 それにしても、見渡す限り茶色い石と岩ばかり。殺風景な事このうえない。その時、
「あの、すみません」
 と、唐突に声をかけてきた人あり。
「もし、火種をお持ちでしたら、火をお貸しいただけないでしょうか?」
 見ると、一人の青年が火のついていない煙草をもてあそんでいる。
 まぁ、ここで煙草を吸う分には、山火事なんかにはならないだろうし・・・。
 レムは、荷物の中から火種箱を取り出して青年の煙草に火をつけ、ついでに彼の火種箱にも火を分けた。
 この火種のほかにも火口箱(ほくちばこ)があるのだが、これ使って火をつけるのって面倒くさいし、結構時間がかかるのだ。
 青年は、見るからに幸せそうな顔で煙草を吸い、白い煙を吐き出した。
 一見普通に見える(着ているものがかなり上等であることを除けば)何の変哲もない青年なのだが、それがかえっておかしく思える。というのも、青年の服装がどう見ても普段着にしか見えないのだ。
 青年の格好をちらちらと見ながら、レムが頭の中で呟く。
 別に、普段着がいけないって言ってるんじゃないのよ、あたしは。だけど、その場所にあった服装ってのがあるでしょうに。おまけに荷物は、ベルトにぶら下げた小さなポーチ一つ。あたし達の荷物とは、違いすぎるわ。
「いやぁ、どうもありがとうございます。実は、火種を消してしまって困っていたんです。これじゃ、暗くなっても灯火・ランプすら使えませんしねぇ。本当に助かりました」
 深々とお辞儀をする青年。
「それでは、魔導士のお姉さん達も怪我をしないように気を付けて」
 と、散歩でもしているような足取りで、ちょっと間違えれば足をくじいてしまいそうな石だらけの山道をすちゃすちゃと降りていった。
 それを見たカルが一言。
「よっぽどこの道、歩き慣れてるんだね」
 ・・・・それも、違うと思う。
 レムが頭の中で突っ込んだ。
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リーフ 15

2008-09-14 22:27:21 | 小説 リーフ
「それじゃ、そろそろ行こうか」
 レムがカルに声をかけて、荷物を背負う。
 登り始めてすぐ、足元がごつごつした岩場になった。足元を確認しながらでないと、足場にした岩が崩れ転がり落ちてしまう。
 足を乗せた岩がぐらついたりすると、背中が冷える気分になれると言うものである。
 それなのに、カルは・・・・。
 大きな岩をものともせず、とんでもない急斜面(というより激斜面。あるいは、緩やかな足場のある石垣)を全く休みことなく足場や取っ掛かりを探し、両手足を使ってひょいひょい登っていってしまう。
 まるで、猿のような身軽さだ。
 さっきまでの荒い息は、何だったのか?
 一方、カルに杖を借りたレムは、えっちらおっちら岩の間を登り、やっと追いついた(と、いうより足を止めたカルの元へ辿り着いた)のは、山の頂上へ向かう道と村に降りる道の分岐点であった。
「カル、はやい。    何で?」
 なんで、なんでなんで?   あたしよりちいちゃいのに。
 自分の小さい事を棚に上げ、ぜぇはぁ  しながら岩の上に腰を下ろす。
「なんで と、言われても・・・。ただ、私って、一回歩き出したりすると、頭空っぽ状態になるんだよね。で、気が付くと目的地の目の前だったりする」
「・・・なんなの、それ」
 しかし、言われてみれば、心当たりがある。
 以前、村でカルの姿を見かけたレムが、声をかけようと追いかけてみたものの、がしがし歩み去ってしまい追いつけなかったという事があった。
 いや、追いつくことは出来たのだ。カルが塀に激突して尻餅をついたときに。
 そういえば、ほかにもいろいろ思い当たる事がある。
 木にぶつかったり、側溝に足を突っ込んでいたり、かと思えば、何もないところでこけていたりする。
 声に出さずにレムがうなづく。なるほど、これがその山登り版か・・・・。途中で転げ落ちないように注意しよう。
 そうでなくても、カルは、とてつもない方向音痴なのだ。
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リーフ 14

2008-09-13 21:42:31 | 小説 リーフ
 スモークブラウンの山。
 向かって山の右側から隣の山との境目辺りまでが、茶色の岩場。左側が比較的なだらかな山道になっている。というのも、数十年前(当然の事だが、レム達が生まれるずっと前の話だ)に噴火し、山の右側が吹っ飛んだからだという。
 それ以来噴火はしていないが、未だに噴煙があがり、山の右側で所々水蒸気が噴き出している所がある。ちなみに、今回登るのは、その山の右側だったりする。その方が、かなりの距離を短縮する事が出来るのだ。
 山を見上げると、ちょっと霧がかかっているのが心配だが、まぁ、大した山ではないし、頂上まで行かず隣山の境目を通って山の裏側へ降りるだけなのだ。
 何事もなければ、夕方前には、山を降りられるだろう。・・・多分。
 それから、山を降りた麓の村は、有名な温泉地でもあるのだ。二人とも、それを楽しみにしていた。

 白 しろ シロ   真っ白
 山を登り始めて間もなく、レムたちは白い世界に放り込まれてしまっていた。
 いま、自分がどこにいるのかも分らない程の深い霧。前を見ても後ろを見ても、一緒に登って来た人達の姿すら見えない。
 そろそろ道とそうでない所の境が分らなくなってきているというのに、これは困った事になってしまった。
 これでは、道標(みちしるべ)が探せない。おまけに、辺りに漂う硫黄の匂い。
 これが、段々強くなる。
「すごい、霧だねぇ」
 レムにぴったり付いてくるカル。かなり、息が荒い。
 それもその筈、この登山道は、小石と砂の交じり合ったような状態で、しっかり踏みしめながら登っても、ずるずる滑り落ちてしまうのだ。
 それでもカルは
「迷子のならないように、ちゃんとついて来なさい」
 とレムに言われた事をしっかり守ってついて来る、えらい。
「これからは、足場が悪くなるから、今のうちに休んでおこうか」
 2人は手ごろな岩に腰掛けて、背中の荷物を降ろす。
 お昼にはまだ早いものの、ちょっと喉が乾いて小腹がすいた、という感じだ。
 この山には、休憩する為の山小屋はあるが、売店がない。自前で用意するしかないのだ。
「カル、梨食べる?」
 ラウルシャインがおやつにと用意してくれた梨を袋から取り出した。
 しゃりしゃり しゃり・・・・。
 甘い汁が、口いっぱいに広がる。
 これだけの水気があれば、しばらくは飲み物なしでも大丈夫だろう。まぁ、一応、水は持っては来ているのだが、どこに水場があるのか分らないのだ。大切にする事に越した事はない。
 そうこうしているうちに、霧が晴れてきた。これなら、道標も見えるだろう。
 もっとも、道標と言っても立て札のようなものではなく、岩に色違いの塗料が塗ってあり(黄色が道、赤が危険地帯の意味。これは、月に一度の割合で山の番人さんが印をつけているのだとの事。本当にお世話様です)それを、一つ一つ探しながら道なき道をたどっていくのだ。
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リーフ 13

2008-09-12 20:26:40 | 小説 リーフ
 出発の日
 その日の朝は、早い。
 星が輝いている夜の字も明けない頃に起き出さなくては間に合わない。
「カル、ちゃんと着替えるのよ。これから出るんだから、寝ちゃだめよ」
 真暗な中でどたばたしながら、ラウルシャインに入れてもらった温かいお茶を飲む。そして、やはりラウルシャインに作ってもらった2食分の弁当を持って館を出た。
「気を付けて行ってらっしゃい」
 マリーヌとラウルに見送られて出発。
 ラウルは、隣村まで送りたいと言っていたのだが、そうすると、今日も出かけなければならないマリーヌの朝食の用意をする人がいなくなってしまう。
 残念そうな顔のまま、館に戻るラウルシャイン。
「お土産、買ってくるからね」
 それでも、途中まで見送りに来てくれたラウルシャインに手を振り、灯火(ランプ)の明りを頼りに日の出前の暗い道を歩き出した。
 しばらく歩くと、東の空にまたたいていた星が空の色と混ざり合うのと前後して、あらりが薄明るくなってくる。
 足元が安全なのを確認して、灯火の火を消して背負い袋にしまった。

 日の出だ。
 レムがカルの様子を見ると、その場に突っ立って息をするのも忘れたのではないかという顔で、日の出に見入っていた。
「カル、初日の出じゃないんだから、そんなに感激する事はないでしょ。晴れれば、明日も明後日も見られるんだから」
 レムは、カルの腕を引っ張って歩き出した。
 普段はどれほど朝寝坊の人でも、旅となると話しは別。
 朝、まだ真暗いうちに起きて、日の出前に出発するのだ。勿論、旅慣れた人は日の出など当たり前なのである。
 そうは言っても、旅の初日に日の出を見られるのは縁起が良いという人もいるし、レム自身も一瞬日の出に見とれたのだから、あまり人の事は言えない。
 が、相手がカルの場合、そんな呑気な事を言っていられないのだ。
 あっちきょろきょろ、こっちきょろきょろ、いつの間にかいなくなっているかと思えば、道端にしゃがみ込んで何かやっていたりする。
「お願いだからそれは後にして、今日中に山一つ越えなきゃならないんだから、迷子になられると困るのよ」
 行ってるそばから、土産物屋の前で足を止めたりしている。
「カル、今買うと荷物になるから、帰りにしよう。その時、ゆっくり時間かけて買えばいいじゃない」
 カルの腕を掴んで、その場を離れる。
 もう、宿に着くまで油断できないわ。
 そう、思ったところで、レムの腹の虫が鳴った。
 そういえば、今朝はお茶を飲んだだけで、まだ何も食べてないんだった。
 取りあえず、朝食だ。
 早速、適当な場所を選んでラウルシャインの作ってくれたお弁当を広げる。
「いただきます」
 メニューは、弁当の定番・玉子焼き、焼きウインナー、野菜の漬物、サンドイッチ、それから甘い焼きパン。さすが、料理上手なラウルシャインが作ってくれただけあって、本当においしい。
 食べた一食分軽くなった荷物を背負って、本日二度目の出発。
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