宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

リーフ 50  最終章

2008-10-29 08:27:26 | 小説 リーフ
「え・・・・と。どうも、お久しぶりです」
 そう言って、その人物が ぺこり と、頭を下げる。そして、胸元に下げてある五芒星のメダルを外し、レムの手に握らせた。
 銀色のメダルは、レムがはじめて手にした時と同じように、ずっしりと重い。
「カル?」
「これ、欲しいって言ってたでしょ」
 そう言って、カルは黙り込んだ。胸元に揺れているのは大騒ぎの元であった緑色の小さな玉・香珠。
「本当は、先生ともちゃんと会って挨拶しなきゃいけないんだろうけど、人を待たせてるから」
 ちらり と、カルが振り返った視線の先にいるのは、カルがライキと呼んだあの彼だった。
「それじゃ、こんな慌しくて本当、悪いんだけど。レムちゃんにもラウルさんにも色々お世話になって、色んなの教えてもらって・・・・」
「いいわよ、いちいちそんな事気にしなくても。そのかわり、出世払いって事にしておいてあげるから」
 まだ続きそうなカルの台詞を一方的に切り上げた。レムとしては、湿っぽいことやぐじぐじするのは、苦手なのだ。
「待ってるんでしょ。マリーヌには、ラウルに伝えてもらうから。だから、玉の力なんか借りなくても平気なように、今度会うときまでにしっかり勉強しておきなさいね。基本的な事は、きっちり教えたつもりだから、分かった?」
 レムの言い放った言葉に、カルは驚いたように目を見開いた。
「マリーヌが言ってたのよ。カルは、風の玉・香珠の主、香樹だろうって。・・・・そう?」
 その台詞に、こっくりと頷くカル。
「本当に、ありがとう。ラウルさんも・・・・」
「うん」
 ラウルシャインが言葉すくなに頷く。
「さぁて、と」
 言いながら、カルの肩に手をかけ体の向きを半回転させる。
「それじゃ、あたしも行くわね。マリーヌによろしく」
 そう言って、レムは、カルの肩を押すように玄関を出た。
 カルは、一度振り向いて大きく頭を下げると、待っていたライキに走り寄った。
「カルっ」
 手にしていたメダルを、カルに向かって投げる。
 驚いた顔でレムが投げたメダルを受け取るカル。次の瞬間、それが笑みに変わり、そして、大きく手を振ると、何かを投げ返してきた。
 こつん こん 
 受け取り損ねたそれは、レムの頭に当たって地面に転がる。慌てて拾い上げて顔を上げると、カルは、風に溶け入るように姿を消してしまっていた。
 あ、結局、カルって、何者だったのだろう?  あんまりびっくりして、聞くの忘れた。だけど・・・。
 レムは、手の中にある小さな水晶玉を見ながら、思った。
 多分、また、どこかで会うこともあるかもしれない。と。



 風樹です。
 ようやく、たどり着きました。最終回です。
 それほど、長い話ではない筈でした。それが、50章まで続いてしまうとは。
 書いた本人も驚きです。
 でも、第一作目、完成バンザイ。
 地味ですが、自分に花を贈ります、・・・・と言っても自宅のコスモスですが。
 また、いつか新たな話に挑戦していきたいと思います。
 今まで読んでくださった方、本当にありがとございます。
コメント (1)
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リーフ 49

2008-10-28 20:26:01 | 小説 リーフ
「あのねぇ、ラウル。あたしが元気ないのは、おなかが減ってるからじゃなくて・・・」
 しかし、レムは、空腹になると元気がなくなるのは、事実だったので。へたをすると、凶暴にもなる。
「それから、リンゴとミカンの砂糖にもあるよ」
「だから、そうじゃなくって」
「じゃ、食べないの?」
「・・・いえ、いただきます」
 最初は真面目な話だったのだが、結局、なんだかんだいっても、こうして騒ぎだしてしまう二人だった。
 しかし、やっぱり、気分がおさまらないレム。
「行くんだったら、ひとこと言ってってくれたっていいじゃないの。別に減るわけでもないんだし」
 片手にティーカップ、片手にお菓子を持った状態で、叫びだしてしまったレムであった。

「ねえ、私はもう少しここに残るけど、レムは、どうするの?」
 一夜明けての朝食時、ラウルシャインは、食後のお茶を入れながらレムに尋ねた。
「うーん、そうね・・・」
 ラウルシャインの入れてくれたお茶を飲みながら、レムが考え込んだ。そして、
「そろそろ、仕事に戻ろうかと思ってる。こうして、ただ飯食らってばかりもいられないしね・・・。それに、協会から戻る途中で誘われた仕事もあるし」
「そうか、寂しくなるね」
「何言ってんの、また遊びに来るわよ。それじゃ」
 空になったカップを置いて、レムは立ち上がった。あまり長居し過ぎると、出かけられなくなる。
「え、もう行くの?」
「うん。片づけしないで悪いけど」
「そんな事は、いいんだけど・・・」
「それじゃ。もし、カルが戻ってきたら、よろしく言っといて」
 そう言って、玄関のドアを開けると誰かが走ってくるのが見えた。その小さな姿には、見覚えがあって・・・・。
「レム、どうしたの?」
 レムの背に声を掛けたラウルシャインも、その場に立ち尽くした。
 その人物は、建物の数メートル先で足を止め、懐かしそうに微笑んだ。



 風樹です。
 次回、最終回予定。
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リーフ 48

2008-10-27 22:09:50 | 小説 リーフ
「でも、何だったんだろうね、カルって」
 ラウルシャインの台詞に、レムが木の葉の彫刻のあるメダルをもてそびながら、ため息をつく。
「何って言われてもね。・・・・、なんて言ったっけ、コウジュ? 風の玉? ってあれ手にした途端、風が渦巻いてなんとかっていう男の人ときえちゃったんでしょう。もしかして、そのコウジュ手にしたら記憶が戻って、反対に記憶喪失になっていた間の記憶が無くなってたりして」

 あれから三日後、レムはマリーヌの館にいた。
「元気出してよ」
 レムにそう言って、焼きたてのお菓子を持ってきてくれたのは、ラウルシャインである。
「元気よ。あたしは、大丈夫。ただ・・・・、なんか、夢見てたような気分」
 カルがねー、あの、どーうしようもなくとろい、あのカルがねぇ・・・・。
「だけど、カルが風の精霊玉の主なんて、お師匠の言葉疑うわけじゃないけど、信じられないよね」
 ラウルシャインはそう言いながら、お茶の入ったカップをレムの前に置いた。
「うん。なんか、本当かなぁ、って感じ。何ていっても、伝説の中だけの存在としか思ってなかったしねぇ」
 レムの台詞にラウルシャインが頷いて、お茶をひとすすり。
「でも、マリーヌの勘は、当たるからね。それにカルが呪文も唱えないで竜巻並みの風を起こすとところをこの目で見たしね。それに、凄かったのよ。面接の時、あたしが教えてないような精霊学の問題にすらすら答えちゃって」
 レムは、お茶を一口飲んで視線を移す。ソファーの上に小さな荷物。夢ではないという証拠の品、つまり、カルの荷物をここまで持って来たのだ。レム自身とカルの二人分の荷物を。
 今、レムの手にしているメダルもカルの荷物に入っていたもので・・・。
「・・・術士、になれたんだね。本当に」
 レムの手の中のメダルを覗き込んで、ため息をつくラウルシャイン。
「そりゃぁ、あたしが懇切丁寧に手取り足取り教えたんだもの。当然よ」
 ふんっ と、レムが息を荒くする。
「だけど、本当に、カルって何者なんだろう?」
「だから、風の精霊玉の持ち主で・・・」
「それは、さっき聞いたわよ。そういうんじゃなくって・・・」
「でも、お師匠が言ってたよ。近いうちに、またカルに会えるって」
「うん、そうよね」
「そうそう。だから、これ食べて元気出して」
 はい。と出されたのは、焼きたてのお菓子だった。
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リーフ 47

2008-10-26 15:51:41 | 小説 リーフ
 レムが振り返ると、彼の周りに土と砂と小石が漂っていた。それが、ゆっくりと渦を巻き始める。その渦がひとつの方向に集中し始めた。
 ふわり と、カルの髪が広がる。
 風が 吹いた。
 はじめはゆったりと。段々、早く強く激しく・・・・。それは、カルを中心に渦巻いた。
 二つの渦に挟まれて、レムの座っていた皿がくらり と、揺れる。
 カルから生まれた轟風は、皿ごとレムを吹き飛ばし、地面の小石や土砂、丸太までも吹き飛ばし、小さな竜巻のようにしばらく荒れ狂った後、唐突に止んだ。
 吹き飛ばされた皿は地面に落ちて割れ、そこに乗っていたレムは、跳ね飛ばされて地面を転がり、そばにあった岩に当たって止まった。
 背中をしたたかぶつけ、やっとの事で顔を上げたレムが見たものは、仁王立ちになった彼と香珠を握り締め地面に座り込んでいるカルだった。
 しばらくして、顔を上げたカルの口から言葉が漏れた。
「来鬼・ライキ?」
「 そう 」
 カルにライキと呼ばれた彼は、笑って剣を鞘に収めた。
「思い出した?」
 彼が座り込んだカルに歩み寄って、手を差し出す。
 ひとつ頷いて、カルがその手を掴んで立ち上がる。
「おいで、帰ろう」
 そう言った彼にカルが頷き、そのカルの背に彼の手が伸ばされた。
 え? え? え? え? え? え? え? 何なの、一体?
 まだ痛む背中をさすりながら、立ち上がったレムが見たものは、ゆっくりと霞のように消えていく二人の姿だった。
 ゆっくりと、色が薄くなり、幽霊のように二人の向こうの景色が透けて見える。
「・・・・・カルっ」
 思いっきり切羽詰ったようなレムの声に、カルが振り向いた。
 薄くなる姿のまま、カルの口が動くのが見える。が、声はまったく聞き取れず、結局、そのまま消えていってしまった。

「コウジュのカル。本当にカルが香樹の香縷だとしたら、間違いなく、風の精霊玉の主でしょうね」
 館に帰ったレムの話を聞いて、館の主人・マリーヌは、ためらう事無くそう言った。
 精霊玉。確か伝説に登場する“精霊の力を秘めたもの”であり“自ら持ち主を選ぶもの”で、だけど、それは、世界に“天”“星”“火”“雷”“風”“水”“時”“土”“地”の九つしか存在しないと言われている。
 その一つ、風の精霊玉の主がカル?
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リーフ 46

2008-10-25 19:45:33 | 小説 リーフ
 がしっ
 何かをぶっ叩く音がして、レムが視線を二人に戻す。と、ちょうどカルが杖を弾き飛ばされたところであった。
 ずっと見ていて分かったが、はっきり言って彼とカルの腕が違いすぎるのだ。
 あぁ、これじゃぁ、素人同然だわ。しっかり遊ばれてるし・・・・。
 あ~ぁ、もっと、きっちり、剣か杖の扱い方教えておけばよかった。帰ったら、マリーヌからラウルに言ってみよう。それとも、帰りの道々で勉強するか・・・。
 と、レムが一人で考えをめぐらせて、ふと 視線をカルに戻すと、猫のようにカルが手の傷を舐めていた。多分、剣先が触れたのだろう。
 そう言えば、カルは、治癒の術がまだ出来ないのだ(はじめて関わった術なのに・・・・)。
 カルの笑いが変化した。さっきまでのもう笑うしかない、という笑いではなく本当に楽しそうに笑っているのだ。一方、彼も薄っすらと笑みを浮かべている。
 舐めた手をズボンにすり付け、彼に向き直る。それが合図であるように、彼が頷いて左手でぶら下げていた剣を右手に持ち直した。
 どうやら二人には、レムの知らない流儀があるようだった。
 また、お互いに頭をを下げあってから、それは、再開された。
 今回、攻撃の火蓋を切ったのは、カルの方。一切、前置無しの火炎球。それが彼に届くかどうかといううちに、次の呪文を唱えだしていた。
 彼は、飛んできた火炎球を土砂で消しとめ、お返しとばかりに複数のつぶてと土砂をカルに向けて飛ばしてくる。
『翔風結界』
 術の完成と共に宙に浮き上がったカルの周りを風が包み込み、四方八方から飛んできたつぶてを吹き飛ばす。そして、風の結界をまとったまま彼のすぐ前まで進み、術を解除するのと同時に彼の胸元に飛び込む。
 さすがの彼も、このパターンは予想していなかったらしく、とっさの反応が遅れてしまった。
 その隙を突き、手刀を彼の右肘の内側に当てる。そして、バランスを崩した彼に足払いをかけ手首をつかんで引き倒す。そして、倒れた彼をぴょこん と飛び越し、そのまま真っ直ぐに走り出した。
 走るカルの後を、地面を伝って衝撃波が追いかける。その出所は、彼である。
 カルの走る先には、さっき弾かれた杖が転がっていた。その杖を拾った後、カルは更に走り地面の上の何かを掴もうとして・・・・。
 衝撃波が、カルに迫る。
 そのままの勢いで、カルが何かに飛びついた。そして、持っていた杖を自分と衝撃波の間に突き立てる。
 ぱっしーんっ
 乾いた音を立てて、杖が砕ける。
 杖の残骸の向こうに、胸の前で両手を握り締めたカルが立っていた。
 両手の間から青い紐が揺れている。その手の中にあるのは、香珠だ。
 ごうっ と、音を立てて空気ごと、地面が揺れる。
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リーフ 45

2008-10-22 22:45:31 | 小説 リーフ
『封魔陣』
 ぎりぎりで術が間に合う。
 杖と剣、互いにぶつかり合ったところから、青い火花が散った。
 それにしても、何つー危ないことするんだろう、この子は。後ほんの少し、術の完成が遅かったら、今頃、杖ごと真っ二つよ。まったく、心臓に悪いったら。
 ため息をついたレムが二人に視線を移すと、杖と剣の打ち合いが続いていた。
 こうやってじっくり見ていると、その人の動きのパターンがよく分かる。カルは、杖の真ん中と端を持ち円を描くような流れで打ち下ろす、突き上げる動きが多く。一方彼は、鋭く叩きおろす、水平に薙ぐ、突く、というパターンが多い。
 う~ん、ふむふむ、なるほど。・・・・これは、いい勉強になるわ。思わず、観察に力が入ってしまうレムであった。
「こら、カル。もっと突っ込んでいきなさい」
 見ているだけで、何の手出しも出来ない事がこんあにももどかしいなんて。などと、のん気に見物している場合ではないんだった。
 はたと、気づくレムであった。
 とは言うものの、この皿から飛び降りようにも、周りに薄い(かどうかは分からないけど)透明な膜というか壁というか、とにかくそういうものが張り巡らされているので、身動きがとれない。
 確かに見晴らしは良いし、多少の攻撃が流れてきても壁が跳ね返してくれる。身を乗り出しすぎても(頭をぶつけたりはするけど)落ちたりする心配はない。それに、人の動きを上空からこうして見られるなんて、めったに体験できることじゃないわ。本当、最高の特等席よね。だ・け・ど、いつまでもこのままって訳にも・・・・。
 やっぱり、二人のバトルが終わらない限り、どうにもならないだろうか? そう言えば、相手の魔力に自分の魔力をぶつけて相殺させるっていう術があったのよね、確か。あぁ、あたしもあれ習っておけば良かった。
 レムが、上空で考え込んでいる間に・・・。
 彼の剣を視線を低くして避けたカル。次の瞬間、杖が彼の喉元を狙う。
 ざすっ
 お互いに弾き合い、間合いを取る二人。
 彼の息は、かすかに乱れている程度だが、カルの方はかなり乱れまくっていた。
 おいおいカル~、大丈夫?   って、声を掛けたくなるほど、息があがっている。
 なのになのに、何で笑ってるんだ?
 って、あ、そう言えば、カルってプッツン寸前とかどうしようもない精神状態になった時、いきなりハイになったりするんだった。
 レムが、以前のカルの状態を思い出す。
 前に稽古中に疲れてひっくり返った後、急に笑い出した時は、何が起こったかと思ったわよ。
“だって、泣く訳にもいかないし、もう、笑うしかない”なんて言って
 あの時は、一瞬、イっちゃったかと思って心配したんだから、ホント。
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リーフ 44

2008-10-21 09:36:54 | 小説 リーフ
 しばらくの間、二人はお互いに見詰め合って、・・・ではなく、見合っていたが、張り詰めた空気を断ち切るように、彼が動いた。
 上げた腕を振り下ろす。と、同時にカルの足元が弾けた。それを飛んでかわした後、彼に向けて突っ込んでいく。
 また、地面が弾ける。その瞬間、
『浮空輪』
 浮遊術を掛け、カルが地面を蹴った。
 ふわり と、彼を飛び越してその後ろに着地。間髪をいれず、振り向きざまに術を放つ。
『火烈陣』
 複数の火の玉が彼を取り巻く。しかし、彼はまったく慌てる様子もなく、足元の土砂を吹き上げさせると、カルに向けて火の玉をはじき返した。
『火熱壁』
 さらに、呪文と同時に手を振り、それをはじき返すカル。はじかれた火の玉は、あちこちに散らばり、勝手に自爆して消えた。
 そういえば、これってコウジュとかいう緑の石が元なのよね。それをほっぽっといていいのだろうか。
 土の皿の上でレムが首をひねっている間にも、二人の間で術が飛び交っていた。
『撃風弾』
 ぼう ぼん どごっ どがっ
 鈍い音が聞こえ、皿の上からレムが目を凝らすと、ちょうどカルが彼の作り上げた無数の土人形を打ち壊したところであった。さらにもう一発
『爆振弾』
 今度の狙いは、彼の足元。つま先の辺りで、土が弾ける。
 彼はそれを、後ろに下がってかわした。
「なるほど。少しは、勉強したようだね」
 彼の笑みが変わる。
 そう言えば、さっきから彼は一歩も動いていない。いや、動いていなかった、カルの術をかわすまでは。おまけに呪文を唱えている様子もない。一体、何者なんだ、彼は? カルとは、どういう関係があるんだろう?
 上空で二人の動きに目を離せなっているレム。
 彼が大きく深呼吸をする。そして、左の腰に当てた右手を引いたとき、一振りの剣が握られていた。
 剣を構える彼に、カルが呪文を唱えつつ突っ込んでいく。
 何、馬鹿の一つ覚えみたい事・・・・。と、焦ったレムだったが、今回は違った。
『撃風弾』
 彼に向けて、風の衝撃弾を放ったのである。
 一瞬、彼の注意がカルからそれる。その隙を狙って彼の脇を駆け抜けた。
 目的は、レムの下に落ちている杖。
 カルは転がるように杖を拾い、体をひねって彼が振り下ろした剣を受けた。



 こんにちは、風樹です。今回は、術を連発するカルですが、どんな術かは文字を見ていただければ、大体分かると思います(・・・・書き手も覚えが悪いので下手に横文字とか使うと、どんな術だったか分からなくなってしまうもので)。
 この際だから、カルがこの一年間習った術を出せるだけ出してみようと思いました。まだ、少し出てない術もありましすので、お楽しみに。
 出来ましたら、最終回までお付き合いいただけるとうれしいと思います。
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リーフ 43

2008-10-20 21:47:47 | 小説 リーフ
 だれ?
 レムは、その人物を見て足を止めた。
 カルの前にいるのは、一人の少年。多分、レムたちよりもすこし年上くらいだろう。その割りに、妙に大人びているようではあるが・・・。
「待ってたよ、カル」
 へ? カルの知り合い?
 レムは、ちら と、カルの顔に視線を送ったものの、何の反応もない。彼の方はといえば、困ったような顔で笑みを浮かべている。
「これ、覚えてない?」
 彼は、カルの手の前で握っていた手を広げた。そこにあるのは、青い紐の付いた緑色の丸い石。
 それを見たカルが、目を大きく見開く。
「香珠・こうじゅ?」
「そう」
 彼が、頷く。
 コウジュって・・・・でも、それって、確かカルが探してた・・・・。まさかあの紐の付いた緑色のちっこいのが、そうなの? それに、どうして、彼が持ってるの?
 レムが問う暇もなく、彼は手のひらを傾ける。と、緑色のそれは、一瞬彼の指に引っかかり、ぽとり と、草の中に落ちた。
 「まさか、こんなに待つ事になるとは、思わなかったよ。結構、長いものだね一年っていう時間は」
 言いながら、一歩二歩・・・・、カルを誘うように彼が後ずさる。そして、草の上に落ちた石を指差した。
「自分で、取り戻してごらん。それも出来ないようなら、君を香珠の玉主とは、認めない」
 ???? 何なの? コウジュって、ギョクシュって、言ってる意味が分からない。
 頭を混乱させながらレムが、カルに視線を走らせる。と、カルはレムに背を向けたまま、彼にというか地面に落ちた石に向かって、ゆっくりと歩き出していた。
 それを見た彼の表情が変わる。
 ゆらり と、彼の周りの空気が変化し、それを見たレムが叫んだ。
「カル、避けてっ」
 その声にカルが横に飛ぶ。その途端、カルのいた場所で、土砂が吹き上がった。
「うわっ?」
 駆け出そうとしたレムの周り、半径一メートルほどの地面がいきなり浮き上がったのだ。足元をすくわれ尻餅をついた状態で辺りを見回すと。
 こ、これは、何事?
 レムは、土で出来た円盤のようなものに乗せられ、二人を見下ろす上空に浮いていたのだ。
 イッタイアタシノミニナニガオコッタノダロウ?
 あまりの出来事にしばらく頭の中が白紙状態になっていたレムが、気を取り直すと、二人の間でなにやら会話が交わされていたらしく、彼がカルに花もほころぶような綺麗な笑みを向けた。
 イッタイカレハナニモノナンダ?
「では、香珠の香縷・カル殿。正式にお手合わせ願います」
 とても、お手柔らかに。なんて茶化せる雰囲気ではない。
 彼の台詞にカルの視線は、無言のままレムと彼そして、石の間を行って来て戻って・・・・。
 そして、意を決したように、胸の前で両手をあわせ、ぺこり と、頭を下げた。
 かれも、それに合わせるように、片手を顔の前に上げ、頭を下げる。
 それを境に二人の空気が変わった。
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リーフ 42

2008-10-19 20:52:15 | 小説 リーフ
「カル、カル。どうしたの?」
 二人で協会を出て宿に戻る途中、カルはまたもや道の真ん中で一転を見つめ ぼー、状態。
 こんな状態がずっと続くと、本気で危険かもしれない。と、レムが心配したところ
「ごめん、レムちゃん。先、戻ってて」
 持っていた杖と荷物を放り出し、唐突に駆け出していってしまった。
「ちょっと、カル。どこ行くのよ」
 カルが放り出した杖と荷物を抱えて、その後を追うレム。
 先行けといわれても、こんなまともじゃない状態の子を一人で生かせるわけにはいかないじゃない。あたしは、責任を持ってあの子が何をするか見届ける義務がある。単に好奇心旺盛なだけと言ってくれてもいいけど。
 カルを追いかけて十字路へ出ると、カルが何かを探すようにあっちこっちきょろきょろしているのを見つけた。
「カ・・・・」
 しかし、レムが声をかけるよりも早く、また、どこかへ駆け出して言ってしまった。
 一体、何なの。いきなり?
 レムは、首をかしげながらも、カルを追いかけた。
 カルは、立ち止まってはあたりを見回し、また駆け出す(それをレムが追いかける)。というのを幾度か繰り返し、気が付くと街の外にまで出てしまっていた。
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リーフ 41

2008-10-19 14:48:56 | 小説 リーフ
 待ってるの食堂の方にしておけばよかったかな。レムは、ぼんやりと考えながら、ホールでカルが戻るのを待っていた。と、
「よお、火の玉娘がこんなところでどうしたんだ?」
 協会に魔道士として名前を登録している奴らが、声をかけてきた。
「そう言えば、お前、弟子取ったんだって」
「あたしの弟子じゃなくって、マリーヌの弟子よ・・・・って、そんな事なっで知ってるの?」
「そういえば、俺見たぜ。黒髪の小ちゃい娘。この間、どこの村だっけ?乱闘騒ぎ起こしてたろう」
 そこで、レムが頷いた。どっかで見たことのある顔があると思ったら、こいつだったのか。
「ほお、良かったな。ちいちゃいお仲間が増えて」
「それにしても、この火の玉娘に喧嘩売るとは、よほどの命知らずか本当に何も知らん奴だよな」
「余計なお世話よ」
「で、火の玉娘の弟子って言うと、豆台風にでもなるのか」
 レムのまわりで、わはわは笑い声がこだまする。
「ええぇい、うるさいっ。とっとと、仕事に行けっ」
 ひとを火の玉娘だのちっこいだの、言いたい放題・・・・・、言われてるの知ってるけどさ、ふん。
 レム、ちょっとご機嫌斜め。
 カルが、荷物と杖を持って戻ってきたのは、うるさい奴らがホールを出て行ってすぐのことであった。
「あれ?」
 レムは、その姿を見て驚いた。
 厚手のブルーのズボン、淡いブルーのシャツ、丈の短い黒い上着、五芒星のペンダント。それは、初めて会った(ラウルに拾われた)時に着ていた格好だ。
「どうしたの、それ?」
 他にも、替えの服はあるはずなのに。
「う・・・ん。なんとなく、何か思い出しそうな気がして。もしかしたら、これ着たら何か思い出すかな・・・・なんて」
 少し首をかしげて、何か考えながら話すカル。
 そう言えば、レムにも心当たりがあった。
 街中でじーっと突っ立っていたり、ぼーっと一点を見ていたりと、妙な行動が目立つようになっていたのだ。
 もともと、じーっと突っ立ってるとか、ボーっと歩くとか(そのせいで、塀や柱にしょっちゅう激突している)は、いつものことだが、走ってきた馬車にすら気づかないほどではなかったのだ。以前は、それが・・・。
「なにか、思い出したの?」
 と、レムが聞いても、あいまいに首を振るばかり。だけど、急にどうしたんだろう?
 レムは、頭が少々混乱してしまっていた。
 そういえば、前にあのペンダントを欲しいと言った時、記憶が戻ったらあげてもいいって言ってたけど、もう、忘れちゃったかな。でも、どうしてあんなの持ってるんだろう? 記憶をなくす前、やっぱり何か魔術に関係する事やってたのかな? マリーヌは、カルの何に気が付いたんだろう。
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リーフ 40

2008-10-18 22:00:18 | 小説 リーフ
「緑の術士・リーフの名を与える」
 魔道士協会支部長のの厳かな声が聞こえる。
 その前に立つのは、カル。神妙な顔で支部長から、木の葉色の術衣と術位の刻み込まれたメダルを受け取った。
 これでカルは、晴れて正式に術士を名乗れるようになったのである。
 勿論、筆記・面接・実技試験は、いずれも一発で合格した。はじめは、読み書きすら出来なかったのだが・・・・。
 これも、レムたちが一年かけて教え込んだのだ。
 あたしが教えたんだから、受かって当然でしょう。とは、レムの弁だ。
「おめでとう。リーフ」
 緑色の術位を身に付け、メダルを下げるカルに向けてレムが声をかける。その途端、カルの顔が火を吹いたように真っ赤になった。
「お、おかげさまで」
 消え入りそうな顔でうつむくカル。
「レムちゃんも、いろいろお疲れ様でした」
 真っ赤な顔のまま、ぺこり と、カルが頭を下げる。
「どういたしまして。カルこそこの一年間、この間の夜も含めてお疲れ様だったわね」
 あの夜の事件後、レムは、カルを試験の準備という名目で協会に押し込み、協会やら聖堂やらを回って事件の処理をしていたのだ。
 本当は、後述のみで事件の説明をするつもりだったのだが、書類の提出までさせられる羽目になったのである。
 仕事として請けたので仕方ないとは思ったものの、レムはどうしても不満に思うところがあった。というのは、一番楽しみにしていたカルの実技試験を見ることが出来なかったからだ。それでも、やっと面接に立ち会う事には間に合った(無理やり間に合わせた)のだが。
 その、面接状況を見学したレムは驚いた。基礎的な精霊学の知識はもとより、その応用、例えば“山に雨が降った時、土砂崩れが起きる原因を精霊学の見方から述べよ”とか“世界が誕生する際の精霊の働きを述べよ”など上級者向けの問題まで出されたのだ。
 レムたちは、まだそこまで教えてはいない。焦るレムの心配をよそに、カルは、考え考えつっかえつっかえ何とか答えてしまったのだ。
 この分じゃ、見習いどころじゃなくて・・・。とレムが思ったところ、術士の称号が取れてしまったではないか。
 こうなったら・・・。カルの様子を見ていたレムは、決心した。
「落ち着いたら、マリーヌの館にお披露目に行こうね」
 カルをからかって遊ぶしかない。
「えーっ」
 レムの台詞に、大慌てのカル。それを見て、レムが喜んだ。
「でも、その前に、身の回りの物揃えなきゃね」
「なんで?」
 カルの疑問符にレムがこける。
「何でっ・・・・て、術士なら術士としての格好ってのがあるのよ。だからといって四六時中長衣着ているわけにもいかないし、そのままじゃとても術士には見えないしね」
 そういってレムは、カルの格好を頭の先からつま先まで見回したが、これで術衣を着ていなければ、正体不明のねーちゃんだ。なのに
「そうなの?」
 と、訳が分からず、首をかしげるカル。
 つまり、ドレスを着て畑仕事をする人などいないし、鎧を着て漁師などもいない。当然、エプロンつけて舞踏会へ行く人などいる訳がない。要するに、その人の立場や職種によって着る物も変わるというのに、カルは、それが分かっていないのだ。
「ふ~ん、そうなの?」
「そうなの。まぁ、あたしに任せなさい。きっちり一通り揃えてあげるから、ね」
「う、うん」
 本当に素直な子よね。これで、しばらく遊べるわ。と、ちょっと意地悪な考えに浸っているレム。しかし、そこで
「ねぇ、レムちゃんて魔導士だよね。やっぱり、術位もってるの?」
 いきなり、逆襲されてしまった。
 フェイントできたか。この子ってば、普段すっとぼけているようだけど、時々、思いもかけないこと言うのよね。しみじみレムが考え込んだ。
「シェンナよ。赤の魔導士・シェーン。まぁ、他の呼び方をする人もいるけど・・・・(と、いうより、別の呼び方の方が知られていたりして・・・)」
「ふぅん。それって、髪の色から?」
「違うっ」
 レムが、間髪いれずに力一杯否定する。
「栗色と言ってっ。赤と栗色とは似ているようだろうけど、全然違うのよ」
 言い切った後で、反省するレム。
 あぁ、こんなことでエキサイトしてしまうなんて、あたしってば、まだまだ未熟だわ。
「シェーンか、・・・・・。カッコイイな」
 はぁ と、ため息を吐くカル。
 おや?
「どうしたの、急に?」
「ん、まぁ、なんか、レムちゃんてさ、実績があるじゃない。魔導士としての基盤て言うか、なんていうかさ、そういうの。それに比べて、私なんて全然、・・・。それに、最近、なんか・・・・」
 何かを探すように、天井に顔を向けるカル。
「なんか?」
 レムが同じ台詞を繰り返してみる。
 なんか、今のカル。今までとまったく別人みたいよ。レムがそう思った瞬間
「・・・・え、っと。ちょっと、着替えてくる。どうも、着慣れないの着ていると落ち着かない。ちょっと待って」
 いつもの口調でそういうと、レムに背を向けて控え室へ向かうカル。
「うん。・・・・じゃ、一階のホールで待ってるから」
 カルの背に声をかけて、レムが階段を下りる。
 降りながら、思い浮かべようとした。さっきのカル、どんな顔していたんだっけ?



 おひさしぶりでございます。風樹です。
 ようやく、リーフの名前が出てきました。長かった。
 まさかここまでかかるとは、風樹自身も思ってもみませんでした。もともと、中篇のつもりでしたから、せいぜい20回位で終わるだろうな~。と思っていたところ、40回過ぎてもまだ終わらない。どうなっているのだろう?と首をひねっております。
 それでも、なんとか起承転結の結の入り口までこぎつけました。もし、呼んでくださっている方がいらしたら、どうか、最後までお付き合いください。
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リーフ 39

2008-10-16 21:54:02 | 小説 リーフ
     オネガイ   おねがい    ・・・・みずを
 「お願いします。水を   下さい」
 その中の一人が炎を背負ったまま、はっきりと姿を現した。
「あ・・・・・、はい」
 カルが抱えていた塩の袋をレムに押し付け、窓際に転がっていたコップと(奇跡的に割れていなかった)水の瓶を持ってくると、コップの汚れを自分の服でぬぐい、それに水を注いで、目の前にいる人物に渡した。
「ありがとう・・・・」
 そう言って、頭を下げるその人物に対し
「どういたしまして」
 と、返事をする。そして、どういう訳か、その人達との世間話(?)が始まってしまった。
 ちょっとちょっとカル、今の状態どうなっているか分かってんの? と、頭の中で突っ込みを入れつつ、それでも、一緒になって話を聞いてしまうレムであった。
 その内容はというと、・・・・。
 今から132年ほど前(こ、細かい。毎年、年数を更新しているのだろうか?)彼らの住んでいた村が焼け、多くの人が死んだ。その時から小魔に苦痛の感情を食われ続けているのだそうだ。
 カルが正体不明の人間とは思えないこの人達とのんきに話をしている間に、レムが部屋の中に不審火がないか調べ始めた。すると、
「マカハンニャハラミミッタシンキョウ」
 カルが、何事かを唱えだした。
 どうしたのか? と思ってレムが振り返ると、カルが両手を合わせ誰かさんたちは目を閉じそれに聞き入っていた。レムもつられて耳を澄ます。
「・・・~~・・~       ・・・」
 意味不明の言葉をあまり抑揚のない、それでも静かに唱えていくカルの声に誰かさんたちの表情とあたりの空気が穏やかになっていくのが分かる。
 そして、
「ガテーガテー パーラーガーテー パラーサンガーテー ボーディ スーヴァーハー   ・・・・」
 そして、最後に頭を下げ、静かに両手を外した。しばらくして
「ありがとうございます。これで、やっと、あの魔物から逃れる事が出来ます」
 誰かさんたちはそう言うと、このへやにたむろしていた気配たちと共に(入り口とは反対の)窓の外へと消えていった。
 彼らのいなくなった部屋に、レムが術で光球を灯す。
 これで分かった、あの小魔があれだけの事が出来た訳。これは・・・。レムが口を開くより早く
「ね、レムちゃん。あの人達ね」
「分かってる。焼け死んだ後、あの小魔に利用されていたんでしょ」
 そう言うと、カルはびっくり目でレムを見た。
「そんなに驚くことないわ。おかしいと思ったのよ。どう考えても、あの程度の小魔にこれほどの能力があるとは思えない。とすると、どこからか力を得ていた筈。その位、魔族の事を知っていれば答えなんてすぐ出るわよ」
 本当のことを言うと、レムは、事前に下調べをしていたのであった。昔に起きた原因不明の火事。そして、焼死してしまった人々。それ以来、月の満ち欠けによって起きる怪事件、怪現象。
「それにしても、カルって結構、肝っ玉据わってるのね。平気な顔で幽霊さんたちと話してるんだもの」
 レムもこれには、本気で驚いた。
「ん・・・、て事は、やっぱり、あれ、幽霊さんだったんだね。あんまり普通の人っぽくて、全然怖くなかったんで・・・・」
 肝っ玉据わってるって言ったの訂正。これは、単に鈍いだけだわ。
 ため息を吐いたレムは、そこら辺に落ちている毛布を拾い、自分のベッドに這い上がる。
「さて、騒ぎも収まったし、それそろ寝ようか。明日になったら、この事協会に報告しなくちゃならないし、カルの試験の準備もあるしね」
 すっかり忘れていたけど、カルの試験を控えているのであった。
 試験、この魔術試験と言うのは、筆記・面接・実施を合わせると五日間もかかってしまう大掛かりなものだ。これからは、試験のために体力を温存させておかなくては。
 部屋が散らかっているけど、片付けは明日。今日は、もう疲れた。
「ねぇ、レムちゃん。あの人達、ちゃんと成仏出来るといいね」
 カルの眠そうな声に“ジョウブツ”って何? と聞こうと思ったレムだが、それより瞼が重くなり、靴を脱ぐのも忘れそのまま眠りに落ちていった。
 どうかこのまま、カルの頭の中に今まで教えた内容が残っててくれますように。と願いながら。
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リーフ 38

2008-10-15 22:11:46 | 小説 リーフ
 これは・・・・。
「小魔、ね」
「しょうま?」
 その言葉を繰りかえるカルに、レムが頷いてみせる。
「魔族よ。それも、かなり小物のね。本能の赴くままに餌漁りするしか脳のない奴よ」
 それにしても、ああぁぁぁ・・・・、なんてこと。
 レムが、あまりのくやしさに、髪をかき回した。
 あたしが、魔術にかけては、天才的とまで言われたこのあたしが、たかが小魔程度に振り回されるなんて。こうなったら、散々遊んでくれたお礼、させてもらおうじゃないの。
「カル、良く見てなさい。さっき教えた術は、こうやって使うのよ」
 呪文を唱えると同時に、宙に差し出したレムの手に一本の青白く輝く槍が出現した。
 未だに白い煙を吐いて、悔しげな目で吠えまくる小魔。
 それは、悔しいだろう。餌にしか思っていない人間に思いも寄らない反撃を受けたのだから。
 その小魔に向かい、レムが魔力の槍を打ちかます。
 くらえっ 
『光撃槍』
 狙いたがわず、ど真ん中命中。
 槍の放つ光が消えた後に残るのは、僅かな塵。勿論、死体も残ったりしない。魔族とは、そういうものである。
 ふう と息を吐いたレムが、辺りに散らかった塩を見て簡単の息を吐く。
 塩って、本当に効くのね。だけど、塩かぶってしぼむなんて、ナメクジみたいな奴。
 レムが、ふと 入り口にカルが塩を置いた皿が残っているのに気が付いた。
 ・・・・って事は、あいつが入って来なかったのって、そのせい?
 だけど、さっき聞こえてた声は・・・・?
 
 熱い   苦しい   痛い         みず、お願い    水を

 まだいた。
 ううう    うわぁ   この人たちって
 ずしゃっ
 あ、まずい
 おどろいた弾みに、レムが塩の皿を蹴飛ばしてしまった。それを待っていたように陽炎のような人達が、二人を取り囲む。
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リーフ 37

2008-10-13 10:01:23 | 小説 リーフ
「おかげさまで、何とかね。で、あいつは?」
「あそこ」
 レムが指差した先で、やっぱり腕を突き出したまま、がさごそ動き回っている。 それにしても、布を引き裂きあれだけの力を使いながら、部屋の入ってこようとしない。 
 一体、どういうことなのか? と首をひねるレムの耳に
「れも、一体何らったの。いまのは?」
 という、若干ラリっているようなカルの声が届いた。
「そんな事、あたしに聞かれても・・・・」
 言いかけて気が付いた。テーブルから落ちた酒の瓶が割れていたのだ。
 部屋中に漂う、強い酒の匂い。 
 その匂いに酔いそうになりながら、レムがちらりと隣を見る。と、案の定、赤い顔でほわほわ状態になったカルがいた。
「あれ、レムちゃん。なんか、へんなの聞こえるよぉ」
 ほやほや状態のまま、入り口を指差すカル。その方向にレムが目をやると・・・・、いた。
 裂けた布の向こう。元は、人だったもの。
 カルが言った“へんなの”は、そこから聞こえてきていた。
 はじめは、か細い笛のような音に聞こえたが、それが段々はっきりするにつれて、言葉として聞こえるようになった。それは・・・。
 熱い。 痛い。 苦しい。 ・ ・ ・ ・ ・。 
 重なる声、押し寄せる言葉。そして、
     ぼ う   っっっ 
 いきなり、テーブルが火を吹いた。
 驚いたレムが、ベッドに尻餅を付く。と、今度はそのベッドが、火を吹き上げた。
 床から、壁から、部屋のいたるところから火が吹き上がる。
 きぃ ぇ へへへへ ・ ・ ・ ・
 かん高い、あざ笑うような人のものとは思えない気色悪い声。の、ようなもの。 何なの、何なの一体? 一瞬、思考が停止したレムだが、燃え盛る室内を見まわし、酒精・アルコールに火がついたら大変と消火呪文を唱えようとした時、
 ばさ っ
 白い粉が宙を舞った。と、僅かに火の勢いが弱まる。
 ばさ っ     ばさっ
 更に白い粉が撒き散らされる。
 それは、レムの頭の上にも降り注ぎ、なめてみるとしょっぱい。 ・・・塩、であった。
 カルが抱えている袋から、塩を四方八方に撒き散らしているのである。
 どういう効果があるのか、塩を撒き散らすごとに火の勢いが弱まっていく。それでも、一ヶ所だけ火が燃え続けているところがあった。
 入り口の裂けた布のところである。
 すかさずカルが、塩を一掴み叩きつける。
 ぐ わ ぅ ご げ ぇ ぉ ぉ ぉ
 やはり、何とも表現のし様のない(とにかく凄まじいとしかいいようのない)声を上げ、それが、僅かに萎(しぼ)んで白い煙を吹き上げる。
 その時、レムの頭の中で何かが弾けた。
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リーフ 36

2008-10-12 21:42:38 | 小説 リーフ
 ぱし   ん
 どの位たっただろう。何かを叩くような音にレムが我に変える。
 灯火の明かりだけで見える室内で、特別変わったところはない。が・・・・
「カル、こういう時に寝てないでよ」
 椅子に座ったまま、こっくろこっくりやっているカル。
 度胸があるのかないのか、あれだけ緊張していながら・・・・・。
 呆れ返るレムの耳に
 ばしん ぼふ
 また、音が聞こえた。今度は、先ほどより大きい。
「な  に、今の?」
 カルが目をこすりながら、きょときょとと辺りを見回す。と、
 ばん ばしん
 これは、かなり近い。と、いうより、すぐそばで何かを叩いているような・・・・。
 ばん ばたん どん
「レ、レムちゃん。そこ・・・」
 カルは、震える手でレムの服の袖をつかみ、もう片方の手で布をつるした入り口を指差す。
 さすがのカルも、しっかり目が覚めたようだ。
 それにしても、何なのこれは? レムが目を見張る。
 布が、跳ねている。
 ばん がたん ぼふ ぼん  ・・・・・
 などの音とともに、向こう側から何かで叩いているように、布が動いているのだ。まるで、入り口につるした布が邪魔だとでもいうように。
 しかし、それははっきり言ってありえない。
 今現在、入り口の戸は閉まっており、布と戸の間には隙間などほとんどないようなもので、それを布の向こうから部屋の内側に向かって、どうやって叩けるというのだ。
 しばらくすると、かなり厚手の筈の布に切れ目が出来、続いて切れ目が大きく裂ける。
 その裂け目から茶色い焼けただれたような細い腕が一本 にゅ と、突き出した。続いて、別の指が裂け目にかかり、裂けて出来た布の穴を
 べりばり   ずびびび・・・・
 裂き割る。
 それが、そこから入ってくると思った。そかし、それ は、何故かその場から動こうとはせず、かわりに

 グワオオオオオオゥ・・・・

 とでも形容すればよいのだろうか。とにかく何とも形容しがたい音(声?)と共に、部屋の中を熱を持ったとてつもない轟風が吹き荒れた。
 とっさに風の結界を張ったレムは無事だったが、辺りが静かになった時、部屋中が惨憺たる有様になっていた。
 壁の所々に焼け焦げたような跡が残り、テーブルは倒れ瓶や袋は床の上に放り出され、ベッドの上の敷布や毛布は向こうの壁まで吹き飛ばされ、床は皿やコップがひっくり返った状態でぐちゃぐちゃになっていた。
 そして、その皿やコップを置いた張本人、カルは、
 ま、まさか、
「カ、カル・・・・、どこ、大丈夫?」
 レムが恐る恐る部屋を見回すと
 ベッドの向こうに山になっている毛布や敷布の塊がモゾモゾと動いて、カルが顔を出した。
 とっさに、ベッドの向こう側に非難したのだが、轟風の勢いで毛布と一緒に壁際まで転がって行ってしまったとの事。
「びっくりしたわよ。気が付いたらカルいないんだもの。でも良かった、無事・・・とは、ちょっと言えないみたいだけど、取りあえず、元気?そうで」
 レムに引っ張り出されたカルの姿は、髪の一部が焼け焦げてちりちりになり、頬と手の一部が赤くなっていた。
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