第9回では防振型スラブ軌道と、スラブ軌道に使用される締結装置について紹介します。
初期のスラブ軌道は武蔵野線や湖西線といった都心近郊部に大量敷設されましたが、防振構造ではありませんでした。このためスラブ軌道=うるさいという印象を持っている方も多いかと思います。
防振スラブ軌道が開発された経緯は1972年に暫定開業した山陽新幹線まで遡ります。
新大阪-岡山間で合計約16kmのA形スラブ軌道が敷設され、開業前に高速走行試験を実施しました。
その結果、有道床軌道と比べて騒音・振動が大きいことが判明し、対策を講じることになりました。
まず1974年から1975年にかけて、姫路駅構内、長坂寺高架橋、小坂西高架橋において軌道スラブとCAモルタルの間にスラブマット(防振ゴム)を挟んだ防振A型スラブ軌道が試験敷設され、普通スラブとの振動及び騒音の比較検証が行われました。
上の写真は当ブログで何度か登場している姫路駅構内の下り通過線の防振A形スラブ軌道。
座面式のA-51形(防振A型、初期)で、平板スラブ用の逸脱防止ガードが設置済みです。
さらに山陽新幹線の岡山~博多間ではスラブマットのばね定数を高くした防振B型も試験敷設されましたが、実用には不十分と判断されました。その後、東北新幹線ではスラブマットのバネ定数をA型よりも下げて敷設し、このタイプを改めて防振A型と呼称され汎用されるようになりました。
防振スラブ軌道にはA型からH型まで8種類があり、E型を除いた7種が平板軌道スラブになります。
A、B、Dはスラブマットのバネ定数による違いのため、外観から判別することは困難です。F型はスラブマットの代わりに弾性樹脂をてん充したもので、C型とH型は軌道スラブの質量を大きくすることで振動・騒音低減を図った設計になります。(C型は形状変更、H型はコンクリートの比重増加)
在来線向けA-155形スラブ軌道の違いを見てみましょう。
上:武蔵野線の普通スラブ+直結8形締結装置
軌道スラブの下と突起の間にCAモルタルのみてん充されている普通スラブ軌道です。
下:紀勢本線海南駅の防振スラブ+直結8形締結装置
高架化は1998年ですが、平板スラブと型枠施工のCAモルタルの組み合わせです。
下:鹿児島本線吉塚駅構内の防振スラブ。連続立体交差化により2004年に竣工しました。
パンドロール締結装置にロングチューブ施工の新しい形態です。
梅小路短絡線の廃線跡にできた梅小路ハイラインには防振型スラブ軌道を間近で観察できるスポットがあります。断面を観察すると黒いスラブマットが挿入されているのが良く分かります。
防振G型スラブ軌道は溝付きマットと中抜き構造が採用されています。日野土木実験所や小山試験線の試験を踏まえ、1984年に高架化した古河駅付近の区間において防振A型と改良版の防振G型が敷設され、比較検証が行われました。この区間は60kgレールが採用されています。
上の写真は古河~野木間にある防振G型とA型の境界部。施工延長からの推定ですが、左奥の突起が分割されている所から手前側が防振G型スラブ軌道になります。この防振G型スラブ軌道は国鉄標準規格JRSにも登録されていることから、平板防振スラブの完成形とも言えます。
外観が大きく変わったのは防振C型とE型で、これらはスラブマットの形状や特性変更とは異なるアプローチで設計されています。まずは小山試験線に敷設された防振C型から見てみます。
パッと見は弾性枕木直結軌道のように見えますが、突起コンクリート間は一枚の軌道スラブで形成されています。突起の高さが低いことからも分かるように、平板軌道スラブの上面に枕木状の突起をつけて中間質量を大きくしています。隙間にはバラストを撒くことで消音効果も期待できます。
防振E型は組立式の枠型スラブ軌道となっています。これは施工管理の容易な形状の部材をPC鋼棒で緊締して組み立てる方式で、設計安全率の向上や軌道スラブの更換作業効率向上を図っています。
スラブマットは東北新幹線向けの防振A型と同様のばね定数となります。また、長手方向部材と左右を繋ぐ間隔材の間には緩衝材が挿入されています。枠内には消音バラストを散布できる構造です。
一体型の防振枠型スラブ軌道は、1985年に開業した東北新幹線の上野-大宮間(日暮里駅付近)に試験敷設されました。掘割部で跨線橋が架かっているため、観察にはもってこいの場所です。
スラブマットは防振G型と同様の溝付で、枠内に消音バラストが散布されています。
直線、急勾配の明かり区間で軌道延長200m以上という条件に近いため選定されたようです。
最後にスラブ軌道用の締結装置についてご紹介
タイプレート締結式の軌道スラブには直結5形締結装置が使用されました。
直結5形は板バネ内側の端部でレールを抑える構造です。また、板バネやタイプレート、絶縁カラーなどは50T形レール用の規格品となっていますが、さすがに50Tレールとスラブ軌道の組み合わせは現代では見れないかと思います。
直結5形は山陽新幹線においてボルトの弛緩や板バネの脱落等の問題が生じたため、以後の新設区間では改良型の直結8形が主に使用されます。
直結8形の板バネは配線用の片サドルを逆さまにしたような形状が特長です。
一方で、座面式の軌道スラブには直結4形が使用されます。
直結4形は板バネが上下とも固定ボルトを跨いでいるような形状です。絶縁カラーの有無により明かり区間用とトンネル用の2種類があります。さらに、60kgレール用の板バネは明かり区間用とトンネル用で形状が分かれています。絶縁カラーやバネ受け台は50T形レール用が使用されます。
A-151形(座面式スラブ)+直結4形と、A-155形(平板スラブ)+直結8形の境界部
座面式と平板はタイプレートの有無もあるため軌道スラブの厚みが異なります。
直結7形は高さ調整余裕量が多く、土路盤上など将来的に路盤沈下の可能性がある箇所の敷設に使用されています。板バネはS字状をしており、タイプレートのショルダーにより上下30mm、更にタイプレート下に調節パッキンを挟むことで上下20mmの調整が可能です。
近年ではパンドロール社の締結装置が採用されている場所も増えてきました。
クリップ形は先端側でレールを抑えるEクリップ形と、先端が外側を向いているPRクリップ形、左右対称で性能・施工性を改良したファーストクリップ形の3種類があります。
上:パンドロール Eクリップ形
下:パンドロール PRクリップ形
下:パンドロール ファーストクリップ形
パンドロール Vanguard (ヴァンガード)
住友商事のHPによると、この締結装置はレール腹部をゴム製のくさびで挟み込み、レールを持ち上げて保持する極めて独創的な締結装置で、高い防振・防音効果があるそうです。
つづく
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