ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

どうやって録る?

2006-12-04 06:00:56 | 録音
 ひょっとしたら、このブログを辛抱強く読んでいて、しかもバンドをやっているという人に、最も興味深いかもしれない話を書く。どういう手順で音源を作るか、だ。

 ドラムとベースは、練習スタジオで同時に録っている。ドラムの周りにはマイクスタンドの森――最低六本。ベースアンプは音の回り込みを防ぐために裏返して、スピーカーの正面にマイクを一本立てている。安いデジタルレコーダーで「せーの」で録る。
 ギターも鳴らしているがアンプにマイクは立てていない。小山も歌っているがマイクは無い。ドラムとベースが展開を間違えないように、いつもと同じ感じで演っているだけだ。ギターや歌まで一緒に録ろうとすると、一度に操作するべきツマミが多くなりすぎて、失敗する。
 ギターや歌、それにベースも、ドラムのマイクに幾らか回り込むけれど、ばらばらに聴くわけではないから問題ないと思っている。あとでよほど違う演奏を重ねる可能性があるなら、綺麗に別々に録ったほうがいいだろう。

 もとあれドラムとベースによる基本トラックが出来る。これをパソコンに移す。
 一切が人力なので、シビアに聴けばテンポは揺れている。うちはシーケンサ類を使わないから構わない。途中でテンポが速くなろうが遅くなろうが、聴いていて気持ちよければいいのだ。
〈サヨナキ鳥〉のドラムは、マイクのトラブルで、あちこちクリップノイズが入っていた。なんとか使えるトラックだけ使ったが、誤魔化しのためのリヴァーブが、後から聴くと聞き苦しかった。ゆえに後日、波形を見ながら丁寧にノイズを除いていって、リミックスした。この音源はそのうち頒布する。こちらの方がずっと生々しくて良い。ご期待ください。
 ベースも苦労した。今はパソコンで音楽を聴く人が多く、その小さなスピーカーでは太朗独特の中低音が上手く再生されない。やむなく別ファイルを作って、ギターアンプのシミュレーターで歪ませてオクターヴ上の倍音を強調し、ミックスした。

 ギター類は僕が自宅で重ねる。最初、わざと安物のギターでリズムを刻む。後で意外に面白い効果になる事もあるし、邪魔だったら消してしまえばいい。僕自身が緊張をほぐすためでもある。その反省を踏まえつつ、メインのギターを、ほとんどライヴ時と同じ調子で録る。最初から最後まで弾ききる。
 アンプシミュレーターを通して録ってしまう事もあるし、小さなアンプを通しマイクで拾う事もある。いずれにしてもアンプ(シミュレーター)側では極端な音にせず、ブースター類で「ちょっと耳障りかな」という音に持ち上げてやると、僕の場合は上手く行くようだ。
 煙草の箱を筐体にした、SMOKEY AMPという半ば冗談みたいな商品があるが、これで録ってみたこともある。なかなか良い音がするよ。

 歌に関しては、どこでどう録るのがベストか、未だ決めかねている。〈サヨナキ鳥〉では小山に部屋まで来てもらい、パソコンの前で歌ってもらった。コーラスも部屋で録ったのだが、これらは、ドラムとベースを録ったポータブルレコーダーが壊れてしまった、という事情による。スタジオやカラオケボックス、可能ならば屋外のほうが良かったかもしれない。

 何か足りないと感じた場合、他の楽器を工夫する。〈サヨナキ鳥〉ではフルアコースティックのギターと、モジュレーションを掛けたフェンダーのMustangを重ねた。
 ピアノやマリンバのような音が欲しい時は、ウクレレを弾く。ウクレレのトレモロはマリンバそっくりに録れるのだ。
 僕が弾くのは基本的にギター、ウクレレ、マンドリンといった撥絃(はつげん)楽器――絃をはじいて音を出す楽器で、すなわち持続音に弱い。どうにもそれが足りないと思ったらラップ・スチールギターを弾く。この楽器を解説していると長くなるので、のちに譲る。
 コントラバスのような擦絃(さつげん)楽器が手許にあったら、と思うことはしばしばあるが、あのでかいのを田舎から運んで来る気にはなれない。

 その後のミックスダウンは、小説原稿のゲラ刷りを大胆かつ繊細に手直ししているような、限りなく神経質な世界だ。結果オーライなので、ノウハウとして語るべき事は思いつかない。
 マスタリングは奥野に任せる事にしている。最後の最後は客観的にやってもらった方がいいと思うからだ。

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