ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

回転ではなく廻転と表記したい

2009-05-22 16:15:00 | ライヴ
 どこから語ろう。
 去る二〇〇九年七月十九日、四人組の平時のラヂオデパートとしての、久々のライヴ。そこからでいいか。
 大好評であった。本当に。時間を気にしてアンコールに応じなかったら、あとでスタッフから「トリなんだから、ああいう時は出てくださいよ」と云われた。そういう事は先に云っておくように。
 洋服を選ぶのが面倒臭く、姪の卒業式に着ていった背広に、外が眩しいので黒眼鏡、及びいつもの山高帽で出掛け、そのまま舞台に出たのである。いかにも時代錯誤な風情が渋谷のお洒落な若者達には異様だったらしく、「怖い人かと思いました」等と云われたが、反面、ショウマンシップとして機能していた感もある。その辺にある物を順番に着て出れば目立つのだから、これほど楽な話もない。

 新曲が一つ。軽快だが不思議な転調に満ちた〈そのかわり〉という曲。Ebで始まったと思ったらキイFのようになり、サビはキイAなんだろうか? 作った僕も解釈しきれていない。歌い終わりのE7が裏コードのBb7に転じて、Ebに繋がる。でも最後の最後はCで終わる。
 それから、七月二十五日、青い部屋での清志郎追悼ライヴへの参加が内定していることもあり、仕込んでみたばかりのRCサクセション〈よそ者〉も。ラヂデパで忌野氏への思い入れが強いのは僕と奥野だが、とりたてて心中を語る気はない。演っている音楽から察してくださればいい。

〈よそ者〉は小山に歌ってもらった。本来大編成の曲で、再現には無理がある。リズム体に場面場面の表情を工夫してもらい、ギターはダイナミクス重視の指弾き。再現には拘らず、必要な音だけを選んで弾く。
 原曲のサビには、メジャー7thから始まる美しいピアノが入っている。これがライヴ前日の僕の内で妙な化学変化を起こし、「あそこにハモンドオルガンが要る。ハモンド、ハモンド――」と家の中を探し回るという奇行に走らせた。オルガンは持っていないが、廻転スピーカーのシミュレイターが慥か――あった。KORGのG4。かつてラヂオデパートにキイボードが在籍した時代、僕が買って、貸与していた物。ディスプレイ小さめのノートパソコンくらいのサイズだが、見た目に反して笑ってしまうほど軽い。
 ギターを繋ぎ、二つのミニアンプにステレオで挿してみる。おお、ちゃんとオルガンみたいな音がする。当然と云えば当然の話で、我々が「ハモンドオルガンの音」を感じる要素の多くは、レスリースピーカーによるうねりと歪みなんである。
 ギターアンプと連携させる配線には知恵も金もかかるので、潔くG4はPA任せと決め、単純なスイッチボックスでギターアンプ用のラインと切り替える事とした。つまりG4を使っているあいだ、ギターアンプは鳴らない。当日のリハーサルでそれなりに上手く行ったので、本番でも敢行した。

 結果。映像記録で確認したところ、「普通のエフェクターで代替できたのでは」というのが正直な所感。また舞台でギターアンプが鳴っていない事態は、日頃その音がでかいぶん、メンバーを不安にさせるようだ。実験としては成功で、実用化には失敗といったところか。
 他方、お客に聞えている音はAC15と違和感が無かったのだから、G4のアンプ/スピーカー・シミュレイターとしての性能は大したもんだとも云える。ブースターを咬ませれば盛大に歪んでくれ、本当、本物のアンプと変わらない。なによりレスリーと同じくペダル操作によって、スピーカーの廻転速度を二段階に変化、停止もさせられるというのが素晴しい。即座に切り替わるのではなく、ちょっともどかしい感じに時間をかけて変化していくのだ。昔のレコードに入っている、あの感じ。
 じゃあ、廻転スピーカーの元祖シミュレイターであるコーラスマシンの、Rate(単位時間に対するうねりの比率。いわゆるレート)を外部ペダルで変化させられれば――と凄いアイデアを得たようなつもりでいたら、考えてみればそれはJimi Hendrixが使っていたUni-Vibe(ユニヴァイブ)じゃないか。
 まさか本物は入手できまいが、似たような奴がきっと今も――と探してみる。ピックやcry babyでお世話になってきたDunlopがレプリカを、また高級エフェクターで有名なFulltoneは、全体をワウ状のペダルに組み込んだ製品を出していた。ちぇっ、どっちも高いや。

 という訳でまたギター側の操作でばかり音を変化させる人力生活に戻りそうな気配なのはともかくとして来る二十五日(三日後!)には同じく渋谷屋根裏にてラッコ☆戦士(emilkoオーケストラ)の一員として演奏する旨が急遽決定。奥野も出ます。
 いま問い合わせたところ、イヴェントは十九時からで、我々の出演はおおよそ二十時半とのこと。
 どこまで本気なんだかよく分からない(実は全力で本気の)妖精ポップに、我々が如何に絡めばいいのかまったく思い付いていないうえコードが羅列された紙を一枚渡されただけなんですが、このメモがまた凄くてマイナーかメジャーかも書いてないのだ。きっと楽理的にはマイナーの処もばっさりとメジャーなんだろう。
 サイドメンが半端に器用だったりするときっと艷消しだろうから、頭を真っ白にして臨みます。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿