元妻は境界性パーソナリティ障害だったのだろうか

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(35)心理学-3 44名の少年犯を調査

2011年01月19日 | 心理学


この記事は『心理学-2 アタッチメント』の続きです。その中で、母子関係阻害説と、感情喪失型心理障害という聞きなれない言葉がでてきました。

母子関係阻害説(マターナル・デプレベイション maternal deprivation)は、母親が育児することこそ最善だという考えに基づいています。言い換えると『育児はお母さんが担うものだ』『育児の成否はお母さんの責任だ』ということです。

感情喪失型心理障害(アフェクションレス・サイコパシー affectionless psychopathy)というのはボウルビーが命名した病名で、他人を傷つけたり人の物を盗んでも良心の呵責を感じない、他人の痛みに共感できないといった心の発達障害です。冷酷な殺人犯などの心理分析で感情喪失型心理障害(アフェクションレス・サイコパシー)が引用されることがあります。

ガンのヒナ鳥は卵からかえったあと、最初に目にした動くものを脳に刻印し、生涯それを後追いします。ふ卵器でかえされたヒナに、動くものを一つも見せないまま臨界期を過ごさせた場合、活発に動き回ることがなく自閉症のように閉じこもるとローレンツは報告しています。ハローも、母ザルから離されて育った子ザルは精神に異常をきたすと報告しています。母子関係阻害説は、こうしたローレンツの実験やハローのアカゲザルの実験を元にしています。

以下、アタッチメント理論(愛着理論) Bowlby's Attachment Theoryからの引用です。修正を加えているので翻訳ではありません。


~44名の少年犯(44 Thieves Study)~

ボウルビーは窃盗を犯した少年44人についての調査をまとめ、発表をおこないました。子どもが社会性を身に付けるには、幼児期の母親との関わりが重要になりますが、5歳までの期間が特に重要であるとボウルビーは考えました。この時期に母子関係が築けなかった場合、少年期以降、心理面での不安定さや反社会的行動の生じるリスクが高くなります。



ボウルビーは自らの説を検証するため、ロンドンの子ども支援施設(child guidance clinic)※で矯正教育を受ける少年44人の調査をおこないました。

※子ども支援施設(child guidance clinic)
第一次世界大戦後、アメリカやイギリスで設立され100年近い歴史を持ち、虐待を受けた子ども、心理的問題を抱える子ども、行動に問題がみられる子ども、親がいない子どもたちを受け入れてきた施設。こうした子どもたちに心理的ケアをおこない、治療と同時に学校教育をおこなうところもあります。子どもだけではなく、親が子どもとうまく付き合えるよう親への支援もおこないます。早期介入、早期発見、早期治療は子どもの成長にとってとても重要です。残念ですが、こうした施設は日本にないようです。


44名の少年犯を調査 ボウルビー 1944年

調査目的

非行少年たちに、過去母親と長期間分離させられたことがないかを調べ、母子関係の阻害と少年期の非行、心理的問題との関連を明らかにする。


調査方法

ボウルビーは二つのグループを作り比較をしました。一つは、ロンドン市の子ども支援施設で矯正教育を受ける少年の中から、窃盗の犯罪歴を持つ44人の少年たち。もう一つは比較標本群として、犯罪歴はないが心理的な問題を抱え心理療法を受けている44人の少年たちです。

これらの親に面接をおこない、過去母親と子どもが離されたことがなかったか、その期間がどれくらいだったかを聞き取りました。


調査報告

ボウルビーは5歳をアタッチメントの臨界期と考え、5歳までに母子分離がなかったかを調べました。窃盗を犯したグループでは、5歳までに6か月以上母親と別れる体験をした少年が半数以上いました。それに対し、窃盗歴のないグループでは、母子の分離体験をしたのはわずか2名でした。

窃盗を犯した少年たちのうち32%は感情喪失型心理障害で、人に対する共感性が欠如していました。一方、窃盗歴のないグループに、感情喪失型心理障害は見られません。

4歳までの期間に、結核にかかり親元から離れ入院生活を送った子どもが60人おり、この子どもたちは学校での成績が低かったことも追記されています。


結論

感情喪失型心理障害を持つ少年犯は、人への関心を持たないため人間関係を築くことができない。少年たちに反社会的行動や心理的障害が起こるのは、母子関係の阻害が原因であるとボウルビーは結論付けます。


評価

ボウルビーの研究にいくつかの疑問が残されます。この調査の聞き取りは、ボウルビー自身が質問者となり、診察室で少年や親たちに聞き取りをおこないました。ボウルビーが調査を企画し、自分で面接をおこなっているので、調査過程においてボウルビーの先入観が入る恐れがあります。人の記憶には曖昧さがあるのですが、母親に母子分離の記憶を強く印象付けたり、記憶を誘導するということが起こりえます。ボウルビーには感情喪失型心理障害という新たな病名を作りたいという動機があったはずです。

もう一つは、母子関係阻害が感情喪失型心理障害をひき起こしたという因果関係への疑問です。この調査結果は母子関係の阻害と感情喪失型心理障害との相対関係を示してはいますが、母子関係の阻害は心理障害を作る一つの要因に過ぎないはずです。心理的問題を作る要因は、栄養評価、世帯の年収、教育など様々なものがありますが、ボウルビーはこうしたデータを集めていません。


~ボウルビーへの批判~

ボウルビーは、幼児は複数の大人とアタッチメントを育むことは可能ではあるが、母親との関係は特に重要なものがあると考えました。こうしたボウルビーのアタッチメント理論に対し、研究者たちの議論を呼びボウルビーとは異なる調査結果が発表されます。

・シャファーとエマーソン Rudolph Schaffer and Peggy Emerson (1964年)

幼児が養育者に対しアタッチメント行動を始めるのは生後8か月目で、この時期のアタッチメント対象者は一人だけです。しかし、その後幼児はアタッチメントの対象者を増やしてゆき、18か月目になるとアタッチメント対象者が5人以上いる幼児も見られます。18か月目でアタッチメント対象者が一人だけというのは全体の18%しかいなかったと発表しました。

・ラター Michael Rutter (1972年)

母親が自分を置いてどこかに行こうとすると、幼児はしがみついたり、泣いたりしますが、これをアタッチメント反応(indicators of attachment)といいます。アタッチメント反応が起こるというのは、幼児との間に心の絆(アタッチメント)が築かれている証拠です。

アタッチメント反応は、母親以外では、父親、兄弟、友だち、更におもちゃなどでも見られます。つまり幼児のアタッチメント対象者は、母親だけではなく多様であることが分かります。


ボウルビーは、母子関係の阻害はアタッチメントの全面欠如をもたらすと考えましたが、これについても批判を受けます。ラターは、臨界期に母子分離があったかどうかが原因なのではなく、むしろ形成されるアタッチメントの質的問題に着目するべきだと主張します。

1972年ラターは『母子関係阻害説の再検証』という本を出し、その中で『ボウルビーの母子関係阻害説は、理屈を単純化し過ぎています。母子関係阻害説では、母親との離別や育児不参加が、アタッチメントの発達を阻害するとボウルビーは述べていますが、それとは異なる研究結果が出ています。成長過程の一時期養育者と離別した体験と、母子関係そのものが始めから築けなかった環境というのは、異なった形で影響するので両者を区別して検討するべきです』と述べました。

1981年ラターは、アタッチメントの対象者を母親に限定しない幅広い心の絆(emotional bond)に着目します。更に阻害の状態(deprivation)をアタッチメントの中断と、アタッチメントの空白の二つに区別します。中断とは、一度アタッチメント(養育者との心の絆)が作られたものの、その絆が後で失われることを指し、空白とはアタッチメント(養育者との心の絆)が始めから作られなかった状態です。

ボウルビー → ラター
母子関係 → 多様な心の絆(emotional bond)

関係阻害 → 2つに分類する
 アタッチメントの中断(deprivation)
 アタッチメントの空白(privation)

ラターの研究によると、アタッチメントが空白である子どもの対人関係には、甘えたそぶりをみせる、体の密着を求める、注目を求める、過度な親密さが見られます。しかし後になると、約束を破る、人間関係を途中で壊す、罪悪感の欠如などが表れてきます。更に、反社会的行動、感情喪失型心理障害、コミュニケーション能力の遅れ、知的発達の遅れ、身体的成長の遅れが見られることを発表しました。

これらの原因は、幼児が身近にいる大人たちとの関わりを通し学ぶべき体験の欠如であって、母親との関係だけが原因ではありません。また、こどもの心理的問題は、適切な治療支援を受けることで克服が可能であるとラターは述べています。

ボウルビーが調査した多くの少年犯は、幼い時家から家へとたらい回しにされるような引越しを繰り返していました。こうしたことがアタッチメントの形成を阻害していたのでしょう。これはアタッチメントの空白です。アタッチメントの空白はアタッチメントの中断より子どもに強く悪影響を与えます。このラターの考えはハジスとティザード(Hodges and Tizard)に引き継がれ、1989年、アタッチメントの空白が子どもに与える長期的悪影響が報告されます。

こうした批判があるものの、母子関係阻害説はハローやローレンツの研究に立脚しています。ハローの研究では、母ザルから引き離され隔離飼育された子ザルは、成長後精神的異常やサル社会への不適応が観察されています。アタッチメントを築く経験が全くなかったサルは、攻撃的性格を持ちサル同士で関係を築くことができませんでした。

1935年ローレンツは、ハイイロガンのヒナ鳥が脳への刻印をおこなうのは生得的本能で、これにより親鳥への後追い行動(アタッチメント)が生じると発表しました。こうした理論を引き継ぐ形で、ボウルビーは母子関係阻害説を提唱しています。


母親は育児に専念するべきか

・母親以外の家族、祖父母、友人なども育児に関わることが多いというのが一般的で、母親がたった一人で育児をするという家庭は、世の中のごく一部ではないだろうか。(Weisner, & Gallimore 1977年)

・育児のすべてを母親一人がおこなうよりは、複数の大人が協力して育児にあたる方が子どもに十分な対応ができるだろうし、大人が協力して育児する体制は、子どもにとり良い環境となりえます。(Van Ijzendoorn, & Tavecchio 1987年)

・母親がストレスを抱えながら育児をするよりも、仕事をする明るい母親と関わりを持つことの方が、子どもに良い影響を与えるという調査結果があります。(Schaffer 1990年)


~ロサンゼルス子ども支援施設~

子ども支援施設を紹介した動画です。

Trauma-Informed: Los Angeles Child Guidance Clinic


前半部アニメの概要だけ訳しておきます。

アニメ 1
再婚した継父から暴力を受けていた男の子。男の子は学校での成績がすぐれず、友だちもできなかった。家を離れ数年の間この施設で暮らしながら治療を受ける。自分に自信を取り戻すことができた彼は大学卒業を果たし、社会人になっている。

アニメ 2
注意散漫で落ち着きがない女の子。保育園に通っていたが、馴染むことができなかった。この施設で、音楽療法やお絵かき療法などを受ける。6か月後には元の保育園に戻り、友だちもでき楽しく過ごしている。

心の病気では、早期発見、早期治療が重要だといわれていますが、特に子どもの場合、顕著な回復が期待できるようです。日本にも必要な施設です。


トラウマに着目した治療支援 Trauma Informed Care

ロサンゼルス子ども支援施設では、トラウマに着目した治療支援(Trauma Informed Care)をおこなっています。子どもの問題行動や心の問題は、内面が深く傷つけられたこと(トラウマ)が原因であるという見かたに立つものです。こうした施設に来る子どもの9割は、心に深い傷(トラウマ)を負っているという過去の調査結果に基づいています。トラウマに着目した治療支援は、アメリカにおける新しい治療の流れです。

トラウマ(心理学):心に負った深い傷、その傷つき体験
体に大きなけがを負ったり、大きな精神的苦痛を体験したことが原因で、心に問題を抱えたり行動に問題を抱えた状態。


イギリスの子ども支援施設 1940年代

母親と子どもが初めて施設を訪れる様子を映したものです。古い映像記録が貴重に思えたので、リンク先だけですが紹介させていただきます。
MONTAGE Family at Child Guidance Clinic


~聖書の教育観~

箴言(しんげん)は、旧約聖書の中にある、ソロモン王が書いたとされる教訓の書。ユダヤ人の教育観がうかがえます。


箴言22章1~6節 現代訳

名声は財産よりも望ましく、
尊敬されることは、お金よりもすばらしい。

金持ちも貧乏人も、主の御前には同じであり、
主が彼らをお造りになったのである。

思慮のある人は、危険を見ると、これを避け、
未熟な者は、進んで行って、苦しみに遭う。

謙遜と主を恐れることの結果は、
富と誉と命である。

悪人の道には、困難や誘惑がある。
魂を守る人は、それに近付かない。

子供をその成長過程で正しく教育しなさい。
そうすれば、年老いても、そこから離れない。




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