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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

L・ヘビーの次期主役D・ビヴォル,女子統一王者J・マカスキル,中量級のオリンピアンらが登場 - ウシク VS ウィザスプーン アンダーカード・プレビュー -

2019年10月13日 | Preview

<1>10月12日/ウィントラスト・アリーナ/イリノイ州シカゴ/WBA世界L・ヘビー級タイトルマッチ12回戦
王者 ドミトリー・ビヴォル(ロシア) VS WBA15位 レニン・カスティーリョ(ドミニカ)



ゴロフキンと同様、年齢的な限界が見え始めたセルゲイ・コヴァレフ(36歳/11月2日にカネロの挑戦を受ける)に代わり、175ポンドの新たな主役へと成長しつつあるビヴォル(ビボル)が、ドニミカ出身の元オリンピアンを相手に、8度目の防衛戦を迎える。

2016年5月、フェリックス・バレラ(ドミニカ)を中~大差の3-0判定に下し、プロ転向僅か7戦目でWBAの暫定王座を獲得。2017年4月までに2度の防衛に成功すると、正規王者ネイサン・クレヴァリー(英)との対戦支持(WBA内統一戦)が出されるも、王者陣営からの要請との格好で、バドゥ・ジャック(スウェーデン/米)との選択戦をWBAが許可。

メイウェザー一家の強力なバックアップを受け、2階級制覇を狙うジャックの為に、特別に用意されたと言っても過言ではないタイトルマッチ(メイウェザー VS マクレガー戦のアンダー)だったが、首尾よく5回KO勝ちを収めて2冠達成。


そしてWBAは、形式上どうしてもジャックに対してビヴォルとの指名戦を指示せざるを得ず、リスクの高いビヴォル戦を嫌ったジャックがベルトを返上し、2017年11月のV3戦で順当に白星を上げたビヴォルは、無事正規に昇格。

さらにビヴォルは、正規王者として安定的に防衛戦を消化。元王者のジャン・パスカル(カナダ),サリヴァン・バレラ(キューバ)を含む4人の挑戦者を退ける。

政権前~中期のゴロフキン同様、挑戦者の多くは二線級ながらも連続防衛は7度を数え、節目となる10度目の防衛戦でKO負けし、幸いにも一命を取り止め日常生活に復帰はできたら良かったものの、リング禍の悲劇に見舞われた前WBC王者アドニス・スティーブンソン(カナダ/V9)に次ぐ安定政権を樹立。


14戦全勝全KOのIBF王者アルトゥール・ベテルビエフ(34歳/ロンドン五輪ヘビー級代表)、いよいよカネロを迎撃するWBO王者コヴァレフ(いずれもロシア)、スティーブンソンから正規王座を吸収した現WBC王者オレクサンドル・ゴズディク(グウォジク:32歳/ウクライナ/16戦全勝13KO)に加えた、旧ソ連勢四つ巴の中で、頭1つ抜け出るのはなかなかに大変。

実績では3団体統一に成功し、最も長く保持したWBO王座(第一次)を8度防衛した後、アンドレ・ウォード(米)との2連戦を実現、2度の陥落から復帰したコヴァレフ(34勝29KO3敗1分け/WBO王座:通算V10)がダントツで、連続KO勝ちの勢いではベテルビエフ、アマ時代の戦果ではゴズディク(ロンドン五輪銅メダル)に譲るが、年齢のアドバンテージはやはり大きい。
※来週末フィラデルフィアでベテルビエフとゴズディクが雌雄を決する予定




モルドバ(旧ソ連領)人の父と朝鮮系移民の母との間に、キルギスタンで生まれたビヴォルは、11歳の時に一家とともにロシアのサンクト・ペテルブルクに移住(2000年~2001年頃)。ボクシングはキルギスに居た5歳当時(6歳説有り)からスタートしており、既にジュニアで頭角を現していた。

最初に通ったジムはボクシングだけでなく空手も教えており、「子供の頃はジャッキー・チェンの大ファンで、映画を見ては彼の真似ばかりしていた(笑)」と語る通り、空手とボクシングの両方を習っていたが、「ボクシングは五輪の正式競技で、国際規模の大きなマーケットを持つプロがある。その分競争も激しく厳しいけれど、続けるならボクシングだと思った。」とのこと。

ロシアに移った後も良好な戦績を残し、2008年のユース世界選手権にも派遣されて見事銅メダルを獲得したが、シニアに進んでからはイゴール・メコンチェフ(34歳/ロンドン五輪L・ヘビー級金メダル/プロ:13勝8KO1分け)の後塵を拝し続け、正代表の座に後1歩及ばず。


ロンドン五輪代表の座をメコンチェフに奪われた後もアマに残り、AIBAとプロ契約を結んでWSB(World Series of Boxing)に参戦。しかし、若く有能なマネージャー,ヴァディム・コルニリョフに口説かれ、アレクセイ・スタシュコフというプロモーターと契約して既存のプロに進んだのが2014年。

24歳になっていたビヴォルは、「プロで大きな成功を手にする為には、リオの後では遅過ぎると思った。」と言う。アマ時代(2010年以降)から師弟関係にあったゲンナジー・マシアノフ(古武術の大家を思わせる東洋系の味わい深い顔立ち)とともに、同年11月に4回戦でプロ・デビュー。



スカウトの段階から渡米への構想を練っていたマネージャーのコルニリョフは、カリフォルニアのローカル・プロモーター,ロイ・エンゲルブレヒトと渡りを付け、プロ4戦目(8回戦)で早々と米国デビューを済ませ、5戦目で10回戦に上がると、7戦目でWBAの暫定王座を奪取。

2017年4月の初防衛戦(メリーランド州オクソンヒル)以降、活動の足場を王国アメリカに置き、家族のいるサンクト・ペテルブルク(結婚して子供もいる)と、キャンプ地のあるカリフォルニアを行き来しながら防衛を続けてきた。


コルニリョフのマネージメントは実に慎重で、アル・ヘイモンのグループ,キャシー・デュバ率いるメイン・イベンツ,飛ぶ鳥を落とす勢いのエディ・ハーン(マッチルーム・スポーツ)らの興行で戦い、一旦はコヴァレフ(175ポンドの顔,番人)を保有するメイン・イベンツの傘下に収まった(2017年11月:マッチルームのモンテカルロ興行に参戦した直後)が、今年1月マッチルームUSAとの共同プロモート契約を発表。



メイン・イベンツはトップランクと同じくHBOと蜜月の関係にあったが、HBOのボクシング中継撤退をきっかけにDAZNを選択(アラムとキャシー・デュバはESPNと組んだ)。

カネロ戦のオファーを受けたコヴァレフ(メイン・イベンツとの関係を継続/)も、エレイデル・アルバレス(コロンビア)との再戦,注目度の大きかったアンソニー・ヤーデ(英)戦の2試合をESPNで戦ったが、カネロ戦の具体化に歩調を合わせて、DAZNと2試合の契約を結んでいる(カネロ戦の契約に再戦条項を含む可能性有り)。

PPVファイターの仲間入りを果たし、ビッグ・マネー・ファイトの実現を夢見ていたビヴォルとコルニリョフも、「時代の趨勢はネット配信」との結論に達した模様。視線の先に、メイウェザーから「ラスベガスの帝王」の座を継承したカネロを捉えているのは、あらためて申し上げるまでもない。




挑戦者のヒルベルト・レニン・カスティーリョは、2008年北京五輪の代表(ドミニカ)で、2009年の世界選手権にも出場したエリート・アマ。一度はロンドンのメダルを目指すも、2010年8月に母国でプロ・デビュー(4回戦)。12連勝(6KO)をマークして順調に歩みを進めていたが、トラヴィス・ピーターソン(N.Y.ブルックリン出身/アマ95勝7敗)とのホープ対決(2015年8月/8回戦:13戦目)で0-1のマジョリティ・ドローを記録。

無名選手を3タテ(連続KO)して持ち直すも、ゴールデン・グローブスや全米選手権で活躍したトップ・アマ出身組みのジョセフ・ウィリアムズ(31歳/13戦全勝8KO)に0-2判定負け(2017年2月/8回戦)。

2018年4月にはフロリダのローカル・トップ,アーロン・ミッチェルを9回TKOに下して、NABO(WBO直轄の北米)王座を獲得したが、4ヵ月後に組まれたマーカス・ブラウンとの10回戦で大差の0-3判定負け。
※ブラウンは今年1月、バドゥ・ジャックを破りWBAの暫定王者となったが、8月の初防衛戦でジャン・パスカルにまさかの8回負傷判定負けで王座転落。


キャリアを左右する重要な試合(ブラウン戦)を落としたカスティーリョは、昨年12月にコロンビアの無名選手をKOして実戦復帰。今年3月にもチューンナップを行い、やはりコロンビアから呼んだアンダードッグを問題なくKO。
※いずれもWBOのローカル王座戦(ラティーノ)

復調の途上と評して良いのかどうか迷うところではあるけれど、15位のWBAランクはいささか気の毒な面も。楽に構えたガードを開いて誘い、右のカウンターを狙うのが得意な反面、相手を見過ぎる傾向が強く、典型的なスロースターターという余り有り難くない評価も。

打ち合いを辞さない勇気が無い訳ではなく、この階級で頂点を伺うだけあってパンチも相応にあるが、「パワーセーブ+精度重視」の基本は揺るがず、アマで出来上がった駆け引き重視のテクニカルなスタイルを堅持するが故に、ローカルランクのトップレベル以上を相手にすると、勝ち味はどうしても遅くなりがち。


頭をほとんど振らない現代流は仕方ないが、バランスの取れたスタイリッシュな構えから、切れ味鋭いジャブとショートを飛ばす。見栄えはけっして悪くはないのに、ブラウン戦では終始一貫リスク回避の姿勢が目立ち、第8ラウンドにフラッシュ気味のダウンを奪いながら、強過ぎる警戒心が仇となり、自ら追撃の手を緩めてチャンスをフイにした。

ブラウンの圧力に押されて下がる場面も多く、メンタル・タフネスに欠けるウィークネスをあらためて露呈した格好。シャープネスと重さを兼ね備えた強打で、積極果敢に前に出るビヴォルとはまさに好対照。互いにアマキャリアの豊富な右の正統派とは言え、持ち味は180度異なる。


プレッシャーに弱く怖さの無いカスティーリョは、好戦的でパワフルなビヴォルには打ってつけの生贄・・・という訳で、直前のオッズは情け容赦の無い大差が付いた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
ビヴォル:-10000(1.01倍)
カスティーリョ:+1600(17倍)

<2>5dimes
ビヴォル:-5000(1.02倍)
カスティーリョ:+2500(26倍)

<3>SportBet
ビヴォル:-4625(約1.02倍)
カスティーリョ:+2875(29.75倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ビヴォル:1/33(約1.03倍)
カスティーリョ:10/1(11倍)
ドロー:33/1(34倍)

<5>Sky Sports
ビヴォル:1/33(約1.03倍)
カスティーリョ:12/1(13倍)
ドロー:33/1(34倍)


昨年3月のサリヴァン・バレラ戦(最終12回TKO勝ち)以降、8月のアイザック・チレンバ(マラウィ)戦,11月のジャン・パスカル戦に続き、今年3月のジョー・スミス・Jr.戦も判定勝ちに終わり、試合内容とポイントの面で問題は無いものの、セールス・ポイントの豪快なノックアウトを取り戻すべく選ばれたのが、アマチュア・ライクな線の細さ,ひ弱さから脱却し切れていないドミニカンという次第。

東アジアの血を引く出自のみならず、どちらかと言えば狭い攻防の引き出し(敢えて必要な事だけに絞っているとの見方もできなくはないが)、ボクシングの幅と奥行きに物足りなさと課題を抱え、実力差の明白な格下を挑戦者に選んで休み無く防衛戦をこなすキャリアメイクの点でも、ゴロフキン(白ロシア系の父と韓国系の母を持つ)との共通点が少なくないビヴォルだが、崩しのバリエーションとフィニッシュ・ブローの精度&威力に関する限り、ミドル級の3団体を統一したGGGに1歩遅れを取る。

ワンツー主体の正面突破の繰り返しに陥り易く、リズム&テンポと強弱の変化に乏しい上にボディも少なめなビヴォルの攻撃は、再セットアップにやや時間を要する点も含めて、一度パターンを読まれるとラウンドが長引いてしまいがち。


折角の出足の鋭さを活かし切れないもどかしさは、他の誰よりもビヴォル自身が痛感しており、「倒したいのはヤマヤマなんだが、どのチャレンジャーも僕のパンチを怖がって、まともに勝負してくれなくなった。」と、数あるインタビューの中には思わず泣きが入るひとコマも。

距離の見極めが上手く、引いて構える堅守のカスティーリョに休む間を与え過ぎると、決定機を捕まえ切れずに判定まで粘られる恐れは充分。負ける心配までは必要ないにしても、詰めるべき時に詰め切る連打と、切り替えの素早い波状攻撃を現実に仕掛けられるのかどうか。

年3回のタイトルマッチを2年続けたことで、防衛疲れを感じさせたことも事実。前戦から半年以上開いた時間的な余裕で、心身をリフレッシュ出来ていることを願う。


◎ビヴォル(28歳)/前日計量:174ポンド1/4
戦績:16戦全勝(11KO)
世界戦通算:8戦全勝(4KO)
アマ通算:268勝15敗
2013年ワールド・コンバット・ゲームズ(ペテルスブルグ/ロシア)金メダル(L・ヘビー級)
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)銅メダル(ミドル級)
2007年カデット世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル(L・ヘビー級)
2006年カデット世界選手権(イスタンブール/トルコ)金メダル(ミドル級))
ロシア国内選手権
2014年,2012年優勝(L・ヘビー級)
2011年準優勝,2010年3位(ミドル級)
身長:183センチ,リーチ:センチ
右ボクサーファイター

◎カスティーリョ(31歳)/前日計量:175ポンド
戦績:23戦20勝(15KO)2敗1分け
アマ戦績:不明
2008年北京五輪代表(緒戦=R16敗退/ウェルター級)
2009年世界選手権(ミラノ)ベスト8(L・ヘビー級)
2009年パン・アメリカン選手権(メキシコシティ)銅メダル(L・ヘビー級)
2006年ジュニアパン・アメリカン選手権(ブエノスアイレス/亜)金メダル(ウェルター級)
2007年ALBAゲームズ(カラカス/ベネズエラ)銅メダル(階級:不明)
※ALBA=米州ボリバル同盟(キューバ,ドミニカ,ベネズエラ,ニカラグァ,ボリビア等中南米7ヶ国による国際同盟組織)
身長:188センチ,リーチ:193センチ
右ボクサーファイター

81キロ上限のL・ヘビーを主戦場にしていたカスティーリョが、なんと69キロ上限のウェルター級でオリンピックの檜舞台を踏んでいる。出場権を得る為に敢えて過酷な減量を選んだようだが、詳しい事情はよくわからない。




※参考映像:アンダーカードの前日計量
Usyk vs. Witherspoon FULL UNDERCARD WEIGH IN | Matchroom Boxing USA
https://www.youtube.com/watch?v=zs3cfYdmmjg


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<2>WBA・WBC2団体統一女子世界S・ライト級タイトルマッチ12回戦
統一王者 ジェシカ・マカスキル(米) VS エリカ・A・ファリアス(亜)



2人は昨年10月に対戦しており、WBCの単独王者だったエリカがジェシカの挑戦を受け、小~中差の0-3判定で敗れ王座転落。米国デビューのエリカは、アウェイのシカゴにベルトを置いて、失意の帰国を余儀なくされる。

念願の王座に就いたジェシカは、今年5月、エリカと同胞のWBA王者アナイ・エステル・サンチェス(亜)との2団体統一戦に臨み、割れた3-0判定勝ち(大差×2,小差×1)。統一王者としての初防衛戦(WBC王座:2度目)で、雪辱に燃える前王者エリカとのリマッチが組まれた。


セントルイスで生まれたジェシカは、両親の離婚が原因で辛い幼少期を過ごしたという。住む家もないジェシカは、兄と一緒に地元の教会が提供する避難所で暮らしたらしい。兄妹の窮状を知った祖母(父方 or 母方は不明)によって救い出され、無事に成長。

成績は優秀だったようで、投資銀行に職を見つけてシカゴへ移住(2012年)。純粋にフィットネスを目的に始めたボクシングに適性を発揮し、アマチュアとして競技生活をスタート。シカゴとセントルイスのゴールデン・グローブスで優勝(L・ウェルター級)するなど、伝統ある地方大会で活躍する。

プロになるつもりはなかったとのことだが、2014年と15年にもゴールデン・グローブス(ナショナル or 地方大会:不明)を制したことがきっかけとなり、2015年8月ライト級でプロ・デビュー(2回TKO勝ち)。

アル・ヘイモン一派の主要プロモーターの1人、レオン・マルグレス(ウォリアーズ・ボクシング・プロモーションズ)の傘下に入り、初陣となる2戦目で初黒星を喫したものの、4連勝(2KO)をマークして復調。

2017年12月、WBA王座を獲得したケイティ・テーラー(アイルランド)の初防衛戦に抜擢され渡英。大差の0-3判定に退くも、この試合が縁でエディ・ハーンから声がかかり、マッチルームUSAに乗り換え。階級を140ポンドに上げ、移籍第1戦で地元でのエリカへの挑戦が実現した。




2度目の訪米となるエリカは、WBCライト級王座を連続11回防衛した実力者。デルフィーヌ・ペルスーンに敗れて無冠になると、階級を1つ上げて同じWBCのS・ライト級王者となる。

このベルトも4度び守ったが、途中ウェルター級に上げて、”女子版P4Pキング”ことセシリア・ブレークフスに挑み、大差の0-3判定で返り討ち。身長で10センチ近い差があり、計量時のウェイトも、ほぼウェルター級リミット(147ポンド)に近いセシリアに対して、エリカは143ポンドを僅かに超えた程度。

サイズのディス・アドバンテージを痛感させられ、140ポンドに戻って防衛ロードを継続したところで、伏兵のジェシカに足下をすくわれた。


当然エリカもアマチュア出身だが、こちらは2006年の世界選手権に派遣されて、見事銀メダルに輝いている。

女子が正式競技としてIOCに認められる以前の大会で、北京大会への参加が実現せずプロ入り。プロでの実績はもとより、アマの戦果においても、ジェシカはエリカに及ばない。

しかしながら、アマの実績がそのままモノを言ってくれないのがプロ。1年前の第1戦では、スタートから強打を交換する激しい展開となり、互いに1歩も退かない意地のぶつかり合いが続く中、徐々に「前に出て果敢にヒットを狙うジェシカ VS 引き込んで打ち終わりを狙うエリカ」という流れが出来上がる。

本来なら、”女タイソン”の異名を取るエリカが先手で仕掛けて行く筈なのに、後手を踏んでペースを引き寄せ切れない。


それでも前半戦の優劣は、どちらかと言えば精度にやや優るエリカかと思われたが、スタミナで上回るジェシカが押し込む場面が増え、エリカはクリンチワークでしのがざるを得なくなって行く。

ジェシカにはエリカの反撃をステップとボディワークで捌く余裕も生まれ、密着した状態でのボディ、左右のアッパーから右ストレートを返すワンツーの連射も奏功。エリカも懸命に打ち返すが、パワーセーブしたショートの単発しか当たらなくなる。

相打ちも少なくなかったけれど、中盤以降はジェシカの優勢が明らかとなり、心配された後半~終盤にかけての顕著なガス欠も無く、 98-92,97-93,96-94のスコアでジェシカがベルトを手中にした。


98-92はちょっと離れ過ぎで妥当性を欠くが、96-94はエリカに寄り気味。現代の振り分け採点では、97-93のスコアが最も試合内容を反映したものになるだろうか。確かに拮抗したラウンドも多く、終了ゴングと同時にバンザイポーズで勝利をアピールしたエリカの気持ちと自信も、まったくわからないではない。

本心から判定に納得はしていない筈だが、無念を押し殺したエリカは、笑顔と拍手でジェシカを祝福。暖かいハグでノーサイドを分かち合う潔い終幕は、世界タイトルマッチに相応しいラスト・シーンだった。

ともに1984年生まれの35歳。しかしながら、実年齢に比したフィジカルの若さはジェシカに軍配が上がる。プロ9戦のジェシカに対して、29戦を消化したエリカの勤続疲労を考慮する必要はあるが、スタミナと瞬発力のレベルアップを遠来のアルヘンティーナに求めるのは、流石に気の毒という気が・・・。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
ジェシカ:-2000(1.05倍)
エリカ:+900(10倍)

<2>5dimes
ジェシカ:-1850(約1.05倍)
エリカ:+1175(12.75倍)

<3>SportBet
ジェシカ:-1749(約1.06倍)
エリカ:+1276(13.76倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ジェシカ:1/10(1.1倍)
エリカ:11/2(6.5倍)
ドロー:25/1(26倍)

<5>Sky Sports
ジェシカ:1/16(約1.06倍)
エリカ:8/1(9倍)
ドロー:25/1(26倍)




◎マカスキル(35歳)/前日計量:138ポンド3/4
戦績:9戦7勝(3KO)2敗
アマ通算:23勝3敗(17勝1敗説有り)
2015年ゴールデン・グローブス優勝
2014年ゴールデン・グローブス優勝
2010年シカゴ・ゴールデン・グローブス優勝
2010年セントルイス・ゴールデン・グローブス優勝
階級:L・ウェルター級(140ポンド/63.5キロ上限設定)
身長:168センチ
右ボクサーファイター

◎ファリアス(35歳)/前日計量:138ポンド1/4
元WBCライト級(V11),元WBC S・ライト級(V4)王者
戦績:29戦26勝(10KO)3敗
アマ戦績:不明
2006年世界選手権(ニューデリー/インド)銀メダル
2006年パン・アメリカン・ゲームズ金メダル
※階級:L・ウェルター級
身長:162センチ
右ボクサーファイター


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<3>北米(USBA)S・ミドル級タイトルマッチ10回戦
王者 チャールズ・コンウェル(米) VS パトリック・デイ(米)



リオ五輪ミドル級代表からプロに転じ、10連勝(7KO)のプロスペクト,コンウェルが、6月8日に行われた前戦で獲得したばかりの、USBA王座(IBF直轄の北米タイトル)の初防衛戦。

挑戦者に選ばれたのは、やはり6月28日の前戦で、N.Y.ベースのドミニカ人,カルロス・アダメス(アダムス/アマ240勝22敗)とのホープ対決に敗れ、3敗目を喫したパトリック・デイ。村田諒太のスパーリング・パートナーとして来日し、王座奪還に貢献してくれた痩躯のボクサーファイター(本来はボクサータイプ)である。

初黒星を喫したのは、メリーランド出身の元トップ・アマ,アランテズ・フォックス(アマ170勝30敗)だったが、痛烈な初回KO負けとなった2敗目の相手は、なんと無名のプエルトリカン。アマの戦果はプロでの成功を約束してはくれないが、デイのように優れた資質の持ち主でも、最激戦区の中量級では容易に勝ち上がることができない。


「オリンピックの結果(初戦敗退)は、無念と言うしかない。メダルを持ち帰りたかったが、物事はとんとん拍子に運ばない場合もある。」

ボクシングを始めたのは10歳の時で、手解きをしてくれたのは勿論実父チャック。生まれ育ったクリーヴランド(オハイオ州)に今も活動の拠点を置くコンウェルは、18歳で出場した五輪から帰国後、程なくしてプロ入りを表明。
※ミドル級で13連勝(10KO)中のイサイア・スティーンは異母兄弟





やり手のスポーツ・マネージャー,デヴィッド・マクウォーターと契約を結び、地元N.Y.の有力プロモーター,ルー・ディベラの下で、2017年4月に4回戦で初陣を飾ると、順調に白星を重ねてローカル王座に辿り着いた。

”プロスペクト対決”と言えば聞こえはいいが、地域王座レベルを突破できず、トップ・アマ対決を2つ落としてキャリアメイクに苦しむデイを、生贄としてオリンピアンに差し出す冷酷非情なマッチメイク。


アマでは165ポンド(75キロ)のミドル級で戦っていたコンウェルだが、「ずっと体格差の不利を常に感じていた」ことから、「デビューまでにウェルター級まで絞りたい」と抱負を述べていたが、147ポンドまで落とすのは負担が大き過ぎたようで、154ポンドのS・ウェルターでのスタートを選択。

「アーロン・プライアーとマイク・タイソン(の圧倒的な爆発力)に、アンドレ・ウォード(の狡猾な駆け引き&スキル)を融合したスタイル。」

目指すべきボクサーとしての理想像を問われ、大胆不敵にもそう言い放ったコンウェル。現状との乖離は小さなものではないけれど、アマチュア・ライクな線の細さから脱却し切れないデイには、厳しい展開が待っていると表さなければならならいだろう。


◎コンウェル(21歳)/前日計量:153ポンド3/4
戦績:10戦全勝(7KO)
アマ戦績:134勝15敗
2016年リオ五輪ミドル級代表(初戦=R32敗退)
2016年リオ五輪米国最終予選優勝
2014年ユース(U-19)世界選手権(ソフィア/ブルガリア)ミドル級初戦(R-32)敗退
2014年ユース(U-19)パン・アメリカン・ゲームズ(キトー/エクアドル)ミドル級金メダル
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝(ミドル級)
2015年ユース(U-19)全米選手権優勝(ミドル級)
2014年ユース(U-19)全米選手権優勝(ミドル級)
2013年ジュニア(U-17)全米選手権優勝(ウェルター級)
身長:175センチ,リーチ:170センチ

◎デイ(27歳)/前日計量:153ポンド3/4
戦績:21戦17勝(6KO)3敗1分け
アマ通算:75勝5敗
2012年ロンドン五輪代表候補
2012年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2012年全米選手権優勝
2012年ナショナルPAL優勝
身長:175センチ,リーチ:188センチ
右ボクサーファイター


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□デイがリング禍の犠牲に・・・

またしても、痛ましい悲劇が起きた。最終10ラウンド、コンウェルの左フックを浴びて昏倒したデイは、そのまま病院に救急搬送され、開頭手術を受けて一命を取り止めたものの、昏睡状態が続いている。






第9ラウンド終了間際、疲労が明白なデイにコンウェルの右ストレートが炸裂。ロープ際で腰から崩れてダウンしたデイは、すぐに立ち上がってエイト・カウントを聞く。この時点では、表情と視線もしっかりしていて、主審の求めに応じて前方に歩みを進める足元にも揺らぐ様子は無い。

しかし最終回、消耗とダメージでフラフラになったデイは、クリンチで必死に時間を稼ぐのが精一杯。そして鋭く重いジャブを放ち、下がり続けるデイを追うコンウェルが、またしても強烈な右を肩越しにヒット。

たたらを踏みながらサイドへ回り込もうとするところへ、追撃の右がヒット。返す刀の左フックで顎を撃ち抜かれたデイは、背中からキャンバスに叩きつけられる。この時後頭部を激しく打ち、完全に意識を失った。

主審は直ちにストップを宣告し、リングドクターが呼ばれて応急措置を試みるも、すぐにストレッチャーがリングに運び込まれる。


世界戦で重大事故に見舞われたアドニス・スティーブンソンは、奇跡的に意識を回復して死の淵から蘇ったけれど、マキシム・ダダシェフのように天に召される最悪の事態を防ぎ切れないのも現実だ。

健常者としての生活を取り戻すことができたフリーダ・ウォールバーグや赤井英和のケースは、奇跡の中の奇跡と呼ぶ他にない。仰向けに倒れたまま、ピクリとも動かないデイの姿を見て、恐怖の予感に襲われ不安に慄くコンウェルの様子を、中継のカメラが映し出していた。

今はただ、デイの回復を祈ることしかできない。


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ダニエル・ローマンとの統一戦に敗れたT・J・ドヘニーが、124ポンド契約の8回戦で再起を予定。



エディ・ハーンが大きな期待を寄せるアンソニー・スミス・Jr.(アマ188勝13敗)は、19連勝(17KO)中のS・ミドル級,ペンシルベニアから呼ばれた36歳の中堅を相手に、2度目の10回戦に臨む。

地元シカゴからは、S・フェザー級のジョシュア・ヘルナンデス(9勝7KO2敗)、3連勝(1KO)をマークしているライト級の元トップ・アマ,オーサ・ジョーンズ三世、女子ウェルター級のジェンナ・ジョリン・トンプソン(1勝2敗1分け)が登場。

アゼルバイジャンからカナダに移住し、プロに転じたアルトゥール(モロヴディン)・ビヤルスラノフ(リオ五輪L・ウェルター級代表)が、プロ5戦目(6回戦/4連勝全KO勝ち)に出場予定。