ネットオヤジのぼやき録

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マイキー再始動 /140ポンドの欧州王者を相手に1年8ヶ月振りの実戦復帰 - M・ガルシア VS S・マルティン戦 プレビュー -

2021年10月16日 | Preview

■10月16日/チャックチャンシーパーク(旧グリズリーズ・スタジアム),カリフォルニア州フレズノ/ウェルター級10回戦
元4階級制覇王者 マイキー・ガルシア(米) VS WBA S・ライト級7位/欧州王者 サンドロ・マルティン(スペイン)

エロール・スペンスに喫した惨敗(2019年3月/AT&Tスタジアム,テキサス州アーリントン)は、ボクシングにおける「階級の壁」,「誰もがパッキャオにはなれない」との現実をあらためて浮き彫りにした。

140~135ポンドへの回帰が妥当な選択肢と思われたが、フィジカルの圧倒的な違いを前に何をすることも出来なかったことが、余程悔しかったのだろう。

11ヶ月のスパンを開けた復帰戦(昨年3月)は、ウェルター級契約でのジェシー・バルガス戦。WBCがダイヤモンド王座の決定戦を出血大サービスした。


前半戦はバルガスとの「距離の差」を克服できず、左から入るところにカウンターを合わされる場面が目立ち、「やはり147ポンドでやるのは厳しい・・・」と嫌な予感に襲われたが、第5ラウンドに鮮やかなワンツーを決めて起死回生のダウンを奪い形勢を逆転。

中盤以降慎重さを増したバルガスを追い切れず、膠着した展開に持ち込まれる。12ラウンズをフルに渡り合っての3-0判定勝ちは、不可能と思われたこの階級での生き残りに望みをつなぐ。

「スペンスとのリマッチ。すぐに無理ならパッキャオ。」

試合後のインタビューで次戦への希望を力強く語ったマイキーだが、武漢ウィルスの猛威が全米を覆い尽くす。


かつて傘下に収まっていたトップランクと、思うように進展しないマッチメイクと報酬を巡って揉めてしまい、2014年1月~2016年7月(26~28歳)まで、2年半の長きに渡って干された苦い経験に次ぐ長期ブランクが、三十代の半ばに差し掛かりつつあるマイキーに、どこまでマイナスに響くのか。

対戦相手としてスペインから呼ばれたマルティンは、2011年デビューの10年選手で、2019年7月に獲得した欧州(EBU)王座を2度防衛して今も在位中である。

2度の敗戦は、修行中の8回戦時代の初黒星(2013年12月/判定負け)と、WBSSに出場したアントニー・イギ(スウェーデン)に中~大差の0-3判定で敗れた欧州王座への初挑戦。


けっしてパンチが無い訳ではないが、一定の距離をキープし続けながら、前に出た右腕(サウスポー)を下げて相手を誘っては退き、ジャブや左の上下で退いては押す。

トリッキーなフェイントをまぶしてみたり、思い出したように唐突なラッシュを仕掛けたりもするが、無理をしないスタイルを貫くスペイン伝統のアウトボックスが基本。スピード&アジリティにも大きな不満や不足はない。

ボクシングはよくまとまっていて破綻が少ない分、怖さが無いのも事実。上述したイギ以外に名のある選手との対戦歴は無く、大きく乖離した直前のオッズは、両雄の実績の違いを如実に示している。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
マイキー:-2000(1.05倍)
マルティン:+900(10倍)

<2>5dimes
マイキー:-1500(約1.07倍)
マルティン:+700(8倍)

<3>ウィリアム・ヒル
マイキー:1/25(1.04倍)
マルティン:9/1(10倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
マイキー:1/33(約1.03倍)
マルティン:10/1(11倍)
ドロー:25/1(26倍)


手間隙かけず綺麗に倒し切りたいのはヤマヤマだろうが、マイキーにもライト級まで発揮した神通力はもはや望めず、中~大差のバラついた3-0判定勝ちと読むべきか。

対戦を熱望していた(?)パックマンは、ヨルデニス・ウガスにアップセットを献上して引退を表明。眼疾でブランク入りしたスペンスも、再戦に応じてくれる可能性は低い。

トップランクとの契約を更新したテレンス・クロフォードの敷居は高く、すぐにでも組んで貰えそうなのは、ショーン・ポーター,ダニー・ガルシアらの元王者組みか、WBAのレギュラー王座に昇格した長身の黒人チャンプ,ジャマール・ジェームズというところに落ち着く。


「マイキーの能力はこんなものじゃない。スペンスの時は147ポンドにアジャストし切れていなかった。パンデミックで試合が出来ない間もハードワークを続けて、状態はとてもいい。」

実の兄で長くチーフ・トレーナーを務めてきたロベルト・ガルシア(フレディ・ローチと並ぶ超売れっ子/元IBF J・ライト級王者)も、あくまで5階級制覇への野望をバックアップする。

現実を受け入れるなら、ひとまず140ポンドへの退却との結論に至る筈だが、年齢を考えると、”ウェルター級でもう一勝負”にならざるを得ない。

「アベレージのランカー」から抜け出すのは至難の業だと思うけれど、パワーとフィジカルの致命的な強度不足を補う為に、ステロイドの助けを借りるのだけはご勘弁・・・。


◎ガルシア(33歳)/前日計量:144ポンド
元WBOフェザー級(V2),同J・ライト級(V1),前IBF J・ウェルター級(V0),現WBCライト級(V1).IBFライト級(V0)王者
戦績:41戦40勝(30KO)1敗
アマ通算:58戦46勝(22RSC・KO)12敗
2005年ナショナル・ゴールデン・グローブス3位(ライト級)
※ディエゴ・マグダレーノに2-3で敗北
2006年全米選手権出場(ライト級)
※テレンス・クロフォードに7-18で敗北
身長:168センチ,リーチ:173センチ
右ボクサーファイター


◎マルティン(28歳)/前日計量:143.6ポンド
WBC8位/WBO13位/IBFランク外
欧州(EBU)S・ライト級王者(V2)
戦績:40戦38勝(13KO)2敗
アマ戦績:不明
身長:172センチ
左ボクサーファイター


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<>IBFインターコンチネンタル・ライト級王座決定10回戦
IBF J・ライト級9位 ブロック・ジャーヴィス(豪) VS アレハンドロ・フリアス(メキシコ)

19連勝(17KO)中のオーストラリアン,ジャーヴィスは、同国初にして唯一の3階級制覇を成し遂げたジェフ・フェネックが手づから育てた軽中量級プロスペクト。今年8月、マッチルームUSAとの複数年約が成立して、念願の初渡米が実現した。

長身痩躯+甘いアイドル・フェイスは、”豪州版ライアン・ガルシア”と呼んでも差支えがない。そして安全策にいそしむアウトボクシングではなく、激しく打ち合うインファイトを身上にする。

レコードブックに名のあるオポーネントはまだ並んでいないけれど、負けなしの快進撃でKO率も高く、人気が出ない筈がないという訳で、近未来の世界タイトル奪取のみならず、ウェルター級進出も視野に入れた複数階級制覇に大きな期待を寄せられている。


オージー・フットボールとともに、ナショナル・スポーツとして認識されるラグビーのスタープレイヤーを夢見ていた15歳の少年は、思ったように伸びてくれない身長と体重の不足に悩み、フィジカル強化の一環としてボクシング・ジムに通い出す。

想像以上の適性とセンスを発揮したジャーヴィスが、やがてボクシングで人生を切り拓くことを決意すると、祖母を介してフェネックと出会う。

荒れた生活を送っていたディーンエイジのフェネックをジムに連れて行き、ジョニー・ルイス(最初のトレーナー)に預けて更正の道筋をつけたのが、ジャーヴィスの叔父で警察官のパットだった。

さらに、有望なアマチュアとして成功への階段を駆け上がり始めたフェネックの衣食住すべての面倒をみたのが、ジャーヴィスの祖母である。


※写真左:フェネック,パット・ジャーヴィス,ブロック・ジャーヴィス
 写真右:ブロック,マイク・タイソン,フェネック(キャリア最終盤のタイソンをチーフトレーナーとして支えた経験を持つ)


「彼(ブロック)が本気でボクシングをやろうとしていると聞いた時、これはもはや運命だと思った。」

「(ジャーヴィスを教え導くに相応しい指導者が)私以外に誰が居ると言うんだ?」


2002年に名誉の殿堂入りを果たしたボクシング・ヒーローは、16歳の磨かれざる原石に大きな将来性を見い出すと同時に、指導とサポートを「天命」として受け入れる。

フェネックに弟子入りしたジャーヴィスは、シドニー近郊(マリックビル)にあるフェネックの自宅近くにアパートを借りて1人で住み、以来ボクシング漬けの毎日を送ってきた。

プロ・デビューは2015年12月。18歳になったジャーヴィスはタイへと渡り、首都バンコクで判定勝ち。ほぼS・フライ級の契約ウェイトで6回戦のスタートだから、デビューまでの2年間にそれ相応のアマ経験はある筈だが、現時点で公表はされていない。


翌2016年は、メキシコとタイで1試合づつをやり、母国で3試合の計5戦(4回戦×2/6回戦×4)。バンタム級に上げた2017年もタイで2試合をこなし、母国で4試合の計6戦。12月に常打ち小屋のメディテレニアン・ハウス(シドニー近郊のファイブ・ドックにある大型のレストラン)で初の10回戦に出場。無名のタイ人を初回KOに屠る。

2018年3月には、118ポンドのWBCシルバー王座を獲得。7月にまたタイでKO勝ちを収めると、8月に120ポンド超でチューンナップを1つやり、9月以降は休止。

2019年3月の再始動で、S・バンタム級のIBFユース王座に就くと、8月にはWBAのオセアニア,IBFのアジア・オセアニア王座を同時奪取。


オーストラリアのプロスペクトらしく、認定団体直轄の地域王座を次から次へと狩り獲って、上位ランクへの道程をショートカット・・・する筈が、次戦の交渉中にパンデミックへと突入。

1年4ヶ月に及ぶレイ・オフを返上したのが、昨年12月11日。ブランクの間にも身体は成長して、階級は126ポンドのフェザー級になり、メルボルン出身の中堅同胞に5回KO勝ち。IBFパン・パシフィックとWBOグローバルのベルトを同時に巻いた。

そして今年4月、キャンベラにある大きなエキジビション・パークで、130ポンドのIBFパン・パシフィック王座を獲得。矢継ぎ早の階級アップは、兄の影に隠れる格好の井上拓真を思わせるが、公称175センチのタッパと骨格の大きさを考えれば、止むを得ない状況と理解する他ない。


単なるトレーナー兼マネージャーと言うより、師匠,メンターと呼ぶべきフェネックは、自らの現役時代を髣髴とさせるジャーヴィスの好戦的なスタイルについて、「オールドスクールの衣鉢を継ぐ、伝統的なプロボクシングの系譜に直接連なるものだ。」と胸を張る。

だがしかし、リードジャブもそこそこに、いきなり右の強打や左フックで襲い掛かり、頭をくっつけた打ち合いに雪崩れ込む。被弾やカットのリスクは嫌でも増す。

本物のオールド・スクールは、現状のオージー・プロスペクトよりもずっとディフェンスに長けている。秀逸なボディワークと鋭い反応で、攻めながら守る高度な攻防の技術を身に付け、不用意な被弾を最小限に止める。

近未来の世界チャンピオンが抱える課題、とりわけ守りと攻撃の組み立て方に関する改善点は少なくないが、フェネックの自信はいささかも揺らぐ様子がない。


プロモートに携わるディーン・ロナーガン(D&L Events/ジェフ・ホーンを手掛けてパッキャオ戦を実現した)も、フェネック以上に手応えを感じているらしく、自らもコーナーに入って直接サポートに当たるご執心ぶり。



「チャンピオンになるのは間違いない。そこは一切心配はしていない。まずはS・フェザーかライトでチャンスを待つことになるが、S・ライトまでは問題ないと考えている。無論、ウェルターも狙わせたい。」


王国での初陣に斬られ役として呼ばれたのは、2歳年長の中堅メキシカン。ジャーヴィスと同じ2015年のデビューで、フェザー級でスタートした後、2018年以降はS・フェザー~S・ライトを行き来しながらキャリアを続けている。

打たれ強さとフィジカルのパワーはともかく、スピード(手足&身体全体)とキレは勝負にならない。ポテンシャルだけにフォーカスすれば、まともに優劣について比較する水準ではなく、遅くとも中盤までにストップして然るべき。

直前のオッズでも、アンダードッグのメキシカンは万馬券扱い。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ジャーヴィス:-1800(約1.06倍)
A・ロドリゲス:+940(10.4倍)

<2>5dimes
ジャーヴィス:-3200(約1.03倍)
A・ロドリゲス:+1600(17倍)

<3>ウィリアム・ヒル
ジャーヴィス:1/20(1.05倍)
A・ロドリゲス:8/1(9倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
ジャーヴィス:1/20(1.05倍)
A・ロドリゲス:8/1(9倍)
ドロー:25/1(26倍)


それぐらいジャーヴィスの方が速くてシャープではあるものの、突貫型の超攻撃的なスタイルは、アンダードッグを地で行く中堅メキシカンの大好物。

際立った特徴や秀でた素質は無くとも、基本的な攻防の技術に大きな不足はなく、少々の傷を負ったぐらいで音を上げない。しつこくしぶとく食い下がって、僅かなチャンスも見逃さずに攻め込んで行く。

ブンブン振り回しているうちに、頭が当たってジャーヴィスがカット。それでも打撃戦を仕掛け続けて、先に疲れたプロスペクトが勝手にスローダウン。このパターンにハマるのが一番怖い。


いくら言ってもせんないことと承知の上で、サイズ以上に恵まれた手足のスピード&パンチの回転力を、もう少しだけ賢く効率的に使う道もあるのではと、要らぬお節介を焼きたくなるのは、救い難いマニアの性。

今回はいよいよ135ポンドのライト級契約になるが、急ぎ足の増量に遅れを取らないフィジカルの強度にも限界はある。イケイケどんどんのファイタースタイルでダメージと疲労を蓄積して、トップシーンに躍り出た後、あっという間に消耗疲弊したマイケル・カシーディスの姿が、二重写しとなって脳裏に浮かぶ。

白星献上を生業にする並みのローカル・ランカーなら、まあ大怪我の心配は少なく済むけれど、リアルなワールドクラス相手に、このままの戦い方で通用するかどうかは・・・。


「ジムとアパートの往復だけ。親しい友人は1人もいない。」

少しだけ寂しそうに笑みを浮かべるジャーヴィス。ストイックにハードワークに自らを駆り立てる孤独な日々を癒してくれるのは、麗しくも優しい恋人の存在。モデル兼女優として芸能界で活躍を始めた、師匠フェネックの愛娘ケイラである。




2人の話になると、さしもの拳豪フェネックも父親の素顔に戻り、複雑な思いと表情を隠さない。

「まだ若いからね。どんな親でも心配はするだろ?。でも、彼らは愛し合っている。誰にも止めることはできない。」

こればかりは成り行きに任せるしかないと、その眼が何よりも雄弁に物語る。このまま結婚ということになれば、2歳年長の姉さん女房ということになるが、パッキャオやドネア,村田諒太のように、年上の細君を持つ王者は少なくない。


派手な女性関係とオフのハチャメチャなご乱行にもかかわらず、引退するまで圧倒的な強さを維持したカルロス・モンソンのような別格的例外はともかく、鉄人タイソンの凋落やエドウィン・バレロの末路を引き合いに出すまでもなく、私生活の安定と充実がボクサーにとっても極めて重要であることは、あらためて申し上げるまでもないだろう。

若くて強くてカッコいいボクサーは、洋の東西を問わず大層おモテになる。ちょっと目を離すとどこへ飛んで行くかわからない危なっかしさも、何故か世の女性たちを惹きつけて止まないようだ。

賢くて頼りになる細君の手綱捌きは、時として腕利きのトレーナーよりも大きな力を発揮する。父親と指導者の悩みを同時に抱えることになったフェネックにはご同情を申し上げる以外にないけれど、これもまた「天命」として引き受けるしかない。


◎ジャーヴィス(23歳)/前日計量:134.8ポンド
戦績:19戦全勝(17KO)
※アマキャリア:有無も含めて不明
身長:175センチ
右ファイター

◎フリアス(25歳)/前日計量:134ポンド
戦績:19戦13勝(6KO)4敗2分け
身長:173センチ
右ボクサーファイター


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<2>110ポンド契約10回戦
WBA L・フライ級2位 ジェシー・ロドリゲス(米) VS ホセ・A・ブルゴス(メキシコ)

108ポンドのWBAレギュラー王者エステバン・ベルムデス(メキシコ)に挑戦する手筈になっていたロドリゲスだが、本番5日前にタイトルマッチのキャンセルが決定。26歳の中堅メキシカンに、緊急召集がかかったという次第。

ベルムデスのドタキャンについて、マッチルームは理由を明らかにしていないが、スーパー王者京口紘人(ワタナベ)とのWBA内統一戦義務付けの問題があり、上手く解決できなかったものと思われる。

京口とベルムデス両陣営に対して、WBAは6月10日に対戦を指示。交渉期限を7月11日までとしていたが、WBO王者エルウィン・ソト(メキシコ)との2団体統一戦が具体化(8月28日ロサンゼルス開催)。ソト戦の成り行きを待つ京口の立場に理解を示し、ベルムデス戦の履行を一旦棚上げしていた。


しかし、WBOもソトに対して1位ジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)との指名戦を通告。ソト陣営がゴンサレスとの防衛戦履行に踏み切ったことから、8月28日までの交渉期限延長を京口とベルムデスに再通知。

3月に米国デビューを無事に済ませた京口は、癌で闘病中の父を見舞う為、気国直後に大阪へ帰郷。その後東京に戻り、札幌で走り込みの合宿を行うなど、ソトとベルムデスのどちらに転んでもいいように準備をスタートさせたが、ベルムデスにもロドリゲスとの対戦が持ち上がり、不透明な状況が続いてしまう。

まだ正式なリリースには至っていないが、京口の次戦はベルムデスとのWBA内統一戦でほぼ間違いないものと思われる(後述するロドリゲスのハンドラーの影響も大)。


”バム(BAM=Bambino)”の愛称で呼ばれるロドリゲスは、テキサス州サンアントニオの出身。現WBA S・フライ級レギュラー王者ジョシュア・フランコは4歳年長の兄で、サッカーでの成功を夢見ていたロドリゲス少年を、「ボクシングに引っ張り込んだ張本人」だと言う。

所属していたサッカー・チームを教えていたコーチの1人が、「本当に偶然なんだけど、ボクシングの経験者でもあった」そうで、すぐにロドリゲス少年の適性とセンスを見抜いたらしい。

ところが、アマチュアの競技生活は悪夢とも言うべき3連敗で始まる。そのまま辞めても不思議はない状況だったが、兄とコーチに励まされて練習を継続。小さなトーナメントで勝ち出すと、それからの出世は早かった。


左から:実父のジェシー・シニア,ジェシー・ジュニア,実兄のジョシュア・フランコ(WBA S・フライ級正規王者)


2015年にU17の全米選手権で優勝して世界選手権の代表に選ばれ、サンクトペテルブルクまで遠征。見事銀メダルを持ち帰る。

シニアには進まず、2017年3月にメキシコでプロ・デビュー。兄と同じくロベルト・ガルシアの指導を受け(兄フランコはマニー・ロブレスからの乗り換え)、何と帝拳が共同プロモートの権利を獲得。

現在の世界ランキングは、WBA2位・WBC8位・WBO4位。本田会長の動きに抜かりは無く、主要4団体のすべてを狙えるポジションを確保済み。


「(メキシコを含む)北米の最軽量ゾーンでは、マイケル・カルバハル,チキータ(ゴンサレス),リカルド・ロペス以来の才能と言っていい。」

「サウスポーだからと言う訳じゃないが、ロマチェンコのようなサイドへのスムーズなムーヴを難なくやってのける。なおかつ、クロスレンジで打ち合っても強い。ポテンシャルの高さは、ローマン・ゴンサレスを優に超える。」

ヘッド・トレーナーのガルシアが広げる大風呂敷は、今のところ2~3割引きで聞いておく必要はあるけれど、本田会長をその気にさせるだけのことはある。


左から:帝拳グループを率いる本田明彦会長,ジェシー・ロドリゲス,ロバート・ガルシア


格落ちのレギュラー王座とは言え、「兄弟同時世界王者誕生」を確実視されていただけに、さぞかし落胆しているのではと思いきや、「ミスター・ホンダを信頼している。108ポンドには日本人の素晴らしいチャンピオンが2人いるし、cobid-19が沈静化してくれれば、日本に行く機会もきっとあると思う」と意気軒昂。

「P4PのNo.1になったローマン・ゴンサレスでも到達できなかった、カルバハルとチキータ(100万ドル・ファイター)を超えたい。軽量級に対する(低い)評価を、何としても変えて見せる。」

大望を臆することなく口にするロドリゲス。その意気や良し。スポーツブックの賭け率は、スクランブル発進のメキシカンに甚だ気の毒な大差がついた。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
J・ロドリゲス:-2400(約1.04倍)
ブルゴス:+1000(11倍)

<2>5dimes
J・ロドリゲス:-3600(約1.03倍)
ブルゴス:+1800(19倍)

<3>ウィリアム・ヒル
J・ロドリゲス:1/33(約1.03倍)
ブルゴス:10/1(11倍)
ドロー:25/1(26倍)

<4>Sky Sports
J・ロドリゲス:1/33(約1.03倍)
ブルゴス:9/1(10倍)
ドロー:28/1(29倍)


WBAに強引な根回しをかけてベルムデス戦を強行しなかったのは、チャンピオンシップの乱脈運営に対して、とうとうABC(Association of Boxing Commissions)の正式な抗議を受けたWBAが、暫定とゴールド王座の廃止とともに、スーパーと正規が並立する階級は統一戦を順次実施すると公言したことが最大の原因に違いない。

その上で、ベルムデス戦の交渉期限をオーバーしていることで、スーパー王者の京口が不利益を被ることがないよう、本田会長が配慮したと考えるのは、当たらずとも遠からずといったところなのでは・・・。


◎J・ロドリゲス(21歳)/前日計量:109.2ポンド
戦績:13戦全勝(9KO)
アマ戦績:不明
2015年ジュニア世界選手権(サンクトペテルブルク/ロシア)銀メダル(U17/ピン級)
2015~2016年ジュニア全米選手権2連覇(U17/ピン級)
身長:163センチ,リーチ:170センチ
左ボクサーファイター

◎ブルゴス(26歳)/前日計量:110ポンド
戦績:23戦18勝(15KO)4敗1分け
身長:165センチ
右ボクサーファイター


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<3>S・ミドル級8回戦
ディエゴ・パチェコ(米) VS ルーカス・デ・アブレウ(ブラジル)

190センチ超のタッパを持つカリフォルニア期待のS・ミドル級ホープが、フロリダを拠点に活動するブラジル人ホープとの無敗対決に臨む。

ほぼジュニア限定とは言いつつ、いずれ劣らぬ豊富なアマ・キャリアの持ち主で、6~8回戦の修行を終えて、10回戦に進もうかという段階(アブレウは10回戦を1度経験しているが初回KO勝ち)。

将来を嘱望される有望新人同士との話題性はあるものの、ヘビー級でもおかしくないサイズに恵まれたパチェコが、スピードとキレで明らかに上回る。

順当なら中盤までにパチェコが倒し切ると見るのが妥当。ただし、パチェコもまだまだ荒削りで、フィジカルも含めたポテンシャルだけで戦いがち。ナマクラな印象が付いて回るアブレウだが、1発いいパンチが当たればどう転ぶかわからない。


アマ時代から指導を続けるトレーナーのルディ・ガルシアは、時に指摘されるディフェンスの甘さについて問われると、「心配ない。ディエゴは必要なことは何でも出来る。今はまだ、その程度の水準の相手としかやっていないということだ。戦うレベルが上がっても、問題なくアジャストする。」と自信満々。

同じ168ポンドで大成を期待されるエドガー・バーランガとの出世争いにも、一部マニアが熱い視線を送り始めている。

連続初回KOが途切れたのみならず、ローカル・ランクの上位クラスに手を焼き、ヒヤリとする場面を連発して株を落とし気味のバーランガに対して、まずまず危なげのない展開を作るパチェコを高く評価する声が多い。

ブラジル人ホープを圧倒して、そうしたファンの勢いをさらに増すことができるかどうか。


◎パチェコ(20歳)/前日計量:166.2ポンド
戦績:12戦全勝(9KO)
アマ通算:75戦超(詳細不明)
2018年ユース世界選手権(ブダペスト/ハンガリー)ベスト8
2018年パン・アメリカンユース選手権ベスト8
2017年ユース全米選手権ベスト8
※階級:ミドル級(U-19)
2017年ジュニア全米選手権3位(U-17/ミドル級)
2016年ジュニア全米選手権優勝(U-17/ミドル級)
2017年ナショナル・シルバー・グローブス優勝(14~15歳/ミドル級)
2016年ナショナル・シルバー・グローブス優勝(14~15歳/ウェルター級)
身長:193センチ,リーチ:201センチ
右ボクサーパンチャー

◎アブレウ(28歳)/前日計量:166.4ポンド
戦績:12戦全勝(11KO)
アマ通算:120戦95勝25敗
2013年パン・アメリカン選手権(サンティアゴ/チリ)銀メダル
2013年ワールド・コンバット・ゲームズ(サンクトペテルブルグ/ロシア)銅メダル
2014年国内選手権優勝
※階級:ミドル級
2010年ジュニア国内選手権優勝
2010年ジュニアサンパウロ選手権優勝
※階級:不明
身長:176センチ,リーチ:189センチ
左ボクサーファイター


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ブルックリン出身の俊英ニキータ・アバビィ(22歳/10戦全勝6KO/ミドル級)、地元フレズノ出身のS・フェザー級,マーク・カストロ(22歳/3戦全勝3KO)がぞれぞれ8回戦と6回戦に出場する他、東京五輪を目指していたサンフランシスコ出身のライト級ホープ,チャーリー・シーヒー(アマ150勝25敗)がデビュー戦のリングに上がる。

また、2018年にドイツで行われた国際大会で、リオ(L・ヘビー級)と東京(ヘビー級)の2大会を連覇したキューバのフリオ・セサール・ラクルスを、右のカウンター1発でストップした黒人パンチャー,カリル・コー(Khalil Coe/25歳/1勝1KO)が、今年5月のデビュー戦に続いて、2戦目のリング・イン。

ドイツで大いに名を上げたコーは、その年の大晦日のパーティに出席した際、拳銃の不法所持で起訴され、2019年3月に逮捕拘束。昨年年8月に自由の身となった。

出身地のニュージャージー州では、審理を待つ間に保釈が認められないとのことで、コーは刑務所に収監されて順番を待つ間に、34戦のキャリアでアマチュアキャリアを終える。