■9月25日/トッテナム・ホットスパースタジアム,ロンドン/WBA・IBF・WBO3団体統一世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦
統一王者 アンソニー・ジョシュア(英) VS 元クルーザー級4団体統一王者/IBF1位 オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)
「ここでぶつけるか・・・」
英米2ヶ国で隆盛を誇るエディ・ハーンが、勝負に打って出た。
直近7日間の移動平均で、1日当たり33,000人近い新規感染者を記録している英国だが、5月に大規模イベントにおける感染の影響を調査し、7月19日に行動規制を大幅に緩和。内容的にはほとんど撤廃に等しく、ボクシング興行も息を吹き返しつつある。
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◎英国が今年5月に行った大規模イベントの感染調査
ウェンブリー・スタジアムに2万2千名の動員が認められたイングランドFAカップ(サッカー)×2試合、英国最大の音楽賞「ブリット・アワード」の表彰式、世界スヌーカー(ビリヤードの一種)選手権など、9回のイベントにおいて試験的に多くの観客を動員して、新規感染者の発生と症状の追跡を行った。
集まった観客はトータルで6万人。そのうち、確認された新規感染者は15名と報告されている。8月11~15日にかけてコーンウォールで開催された音楽とサーフィンの大規模イベントで、観客総数の約1割に当たる4,700名超に感染の可能性が指摘されたり、デルタ株による感染の再拡大への注意喚起もされているが、ワクチン接種の効果で重症化のリスクを抑制できているとの判断に変わりはない。
コーンウォールでの大規模なクラスター(可能性)が報告された8月24日には、オックスフォード大学がワクチン3種(ファイザー,モデルナ,アストラゼネカ)について、5月以降に接種を行った36万人分のデータを分析し、デルタ株に対する有効性を確認したと公表。
2回接種による予防効果は70~80%で、最も高い効果を示したモデルナ製ワクチンは、1回の接種でも高い有効性を得られる可能性があるとし、ファイザー,アストラゼネカの順で有効性が低下するとの判断を示している。
<1>18~64歳/接種1回目から約3週間後
モデルナ:75%,ファイザー:58%,アストラゼネカ:43%
<2>18~64歳/2回目接種から約2週間後
ファイザー:82%,アストラゼネカ:67%
<3>18~34歳
モデルナ:1回目で90%,ファイザー:2回目で90%
<4>65歳以上を含た場合/2回目接種から約2週間後
ファイザー:感染予防効果80%,発症予防効果84%,アストラゼネカ:感染予防効果67%,発症予防効果71%
<5>デルタ株への有効性について、2回目接種後3~5ヶ月を経過すると、ファイザーとアストラゼネカの有効性は同程度に低下すると予測される為、3回目の接種(いわゆるブースター・ショット)を行う。
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今回会場として使われるトッテナムのサッカー・スタジアムは、通常62,000名規模の収容が可能で、チケットの前売りは「60,000人を突破した」とのこと。「当日はおそらく7万人近くの大観衆が集まる。」と、ハーンの頬が思わず緩む。
厳しい行動規制の中で開催された昨年12月12日のクブラト・プレフ戦は、12,500名収容のウェンブリー・アリーナに、僅か1,000人の動員しか許可されなかった。
DAZNとのタッグで興行そのものは完全に途切れることなく打って来たが、ロックダウンによる収入減が大きな痛手になったのは間違いない。ウシクの年齢的な問題(2022年1月に35歳になる)も無視はできないけれど、ハーンが回収を急ぐ事情も良くわかる。
ヘビー級に上げたウシクは、パンデミックの影響もあって2試合しか消化していない。2019年10月の転級初戦で、ティム・ウィザスプーンを7回終了TKOに下した後、昨年10月のデレク・チソラ戦(ジャッジ2名が2ポイント差の3-0判定勝ち)まで、丸1年間休まざるを得なかった。
ジョシュアもまた、2019年12月にアンディ・ルイスへのリベンジを果たした後、丸々1年実戦から離れているが、上述したプレフとの防衛戦では、40歳のオールドタイマーを3度倒して9回TKO勝ち。
直前のオッズは意外なほど接近していて、A・Jのパワーとサイズのアドバンテージを持ってしても、ディフェンシブに守り勝つウシクを切り崩すのは簡単ではないという事だろう。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>BetMGM
ジョシュア:-225(約1.44倍)
ウシク:+200(3倍)
<2>5dimes
ジョシュア:-270(約1.37倍)
ウシク:+240(3.4倍)
<3>betway
ジョシュア:-250(約1.4倍)
ウシク:+200(3倍)
<4>ウィリアム・ヒル
ジョシュア:2/5(倍)
ウシク:9/4(倍)
ドロー:20/1(21倍)
<5>Sky Sports
ジョシュア:2/5(倍)
ウシク:9/4(倍)
ドロー:20/1(21倍)
「私がアマチュアとして活動していた期間は短く、(同じ2012年のロンドン五輪で金メダルを獲ったが)階級も違っていたので、彼(ウシク)について余り良く知らなかった。今回対戦することになり、あらためて彼について自分なりに調べ直した。」
「彼とパパ・チェンコ(ロマチェンコの父でトレーナーのアナトリー)をリスペクトする。彼らのボクシングへの愛と情熱は本物で、私も同じ思いを共有している。そしてまた、私はウクライナの人々にも親しみと愛情を感じている(ウラディーミル・クリチコとも対戦した)。」
「最高に美味しいクリームは、常に(豪華なケーキの)頂上に盛り付けられる。私とウシクは、今その頂点に立っている。彼らに幸運を・・・。」
「数多繰り広げられるファイトによって、歴史は創られてきた。アンソニーと私も、人々に語り継がれるであろう新たな歴史を創る。この試合が実現したことに、心からの謝意を表します。」
◎参考映像:最終会見
◎参考映像:アンダーカードも含めた最終会見のフル映像
パワー&サイズの不利を克服する為に、ウシクはこれまで以上に省エネ安全運転に徹するだろう。可能な限りジョシュアを空転させ、足でかわしながらジャブ&ショートのリターンで着実にポイントメイクする。
退いて構えるサウスポーのアウトボックスを、ジョシュアがどこまで本気で追いかけ潰しにかかるのか。
あるいはアンディ・ルイスとのリマッチのように、ロング・ジャブを突いて距離を保ち、スピード&精度に注力したワンツーで常に安全圏に身を置き、ウシクと同様勝負を回避するのか。
どちらが勝ち残るにしても、来月9日にラスベガスでディオンティ・ワイルダーとの決着(第3)戦を控える、タイソン・フューリー(WBC王者)との最終決戦は不可避。
ヘビー級の4団体統一戦をより美味しく、望み得る最高の旨味にまで高める為にも、ハーンとフランク・ウォーレン&ボブ・アラム(フューリーを共同プロモートする)が切実に願うのは、ジョシュアの勝利(ノックアウトによる快勝)に違いない。
判定 or KOのどちらになるにせよ、順当ならジョシュアとの見立てにならざるを得ないが・・・。
◎王者 ジョシュア(31歳)/前日計量:240ポンド
戦績:25戦24勝(22KO)1敗
アマ通算:40勝3敗
2012年ロンドン五輪S・ヘビー級金メダル
2011年世界選手権(バクー)S・ヘビー級銀メダル
身長:198センチ,リーチ:208センチ
右ボクサーファイター
◎挑戦者 ウシク(34歳)/前日計量:221.25ポンド
現在のランキング:IBF3位・WBA4位,WBC:ランク外
クルーザー級4団体統一王者
元WBO(V6),WBCクルーザー級(V2/前王者),WBAクルーザー級スーパー(V1/前王者),元IBFクルーザー級(V1)
戦績:18戦全勝(13KO)
アマ通算:335勝15敗
2012年ロンドン五輪金メダル
2008年北京五輪代表(2回戦敗退)
2011年世界選手権(バクー/アゼルバイジャン)金メダル
2009年世界選手権(ミラノ)銅メダル
2008年ワールドカップ(モスクワ)銀メダル
2008年欧州選手権(リヴァプール)優勝
2008年クリチコ兄弟杯(ウクライナ国内)優勝
※階級:ヘビー級
※2005年以降,ジュニア時代からウクライナ国内の大会で優勝多数(ミドル~L・ヘビー級)
身長:191センチ,リーチ:198センチ
左ボクサーファイター
◎参考映像:前日計量
◎参考映像:アンダーカード(放映対象)も含めた前日計量のフル映像
過去最重量の220ポンド超で仕上げたウシクに対して、ジョシュアはプレフ戦とほとんど同じ240ポンドジャストで計量を終えた。
ウシクのフットワークに対抗する意味で、アンディ・ルイスとの再戦時並み(237ポンド)まで絞るのではないかとも思ったが、パワー&体格差を有効に使って、あわゆくばKOを狙う心積もりだろうか。
セミ格で登場するローレンス・オコリエ(WBOクルーザー級王者)は、「中盤~後半にかけて、おそらく7~9ラウンド辺りでウシクをし止めると思う。」と答えている。
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■オフィシャル
主審:マイケル・アレクサンダー(英/イングランド)
副審:
ハワード・フォスター(英/イングランド)
ヴィクトル・フレチコ(ウクライナ)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)
立会人(スーパーバイザー):
WBA:カルロス・チャベス(チャンピオンシップ・コミッティ委員長:ベネズエラ)
IBF:カーロス・オーティズ・Jr.(チャンピオンシップ・コミッティ委員長:米/ニューヨーク州)
WBO:ジョン・ダガン(WBO副会長;米/イリノイ州)