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京口のクレバネスに期待 /無理なKO狙いは×,慎重かつ大胆に足を使うべし - 京口紘人 VS エステバン・ベルムデス 直前ショート・プレビュー -

2022年06月10日 | Preview

■6月10日/アレナ・コリセオ,メキシコシティ/WBA世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦(WBA内統一戦)
スーパー王者 京口紘人(ワタナベ) VS 正規王者 エステバン・ベルムデス(メキシコ)


※ファイナル・プレス・カンファレンス

決まりかけては流れていた京口の指名(WBA内統一)戦が、いよいよ敵地メキシコで本番を迎えようとしている。

開催地がグァダラハラ(ハリスコ州の州都/人口164万人の大都市)に変更された件は、先月18日~19日にかけて報じられていたが、6月7日現在,Boxrecでは未だにメキシコ・シティのまま。

※Boxrec Event Schdule
https://boxrec.com/en/event/853989

Friday 10, June 2022
Arena Coliseo, Mexico City, Distrito Federal, Mexico
commission:Comision de Box Guadalajara
promoter:Eddie Hearn (Matchroom Boxing)
media:DAZN

※試合当日の未明(日本時間10日午前2時)、念の為に何度目かの再確認をしたところ、以下の通り訂正されていた。編集のタイミングがいつなのか、正確にはわからないけれど、お国柄の違いはあるにせよ、試合直前まで放置はいただけない。

Friday 10, June 2022
Domo Alcalde, Guadalajara, Jalisco, Mexico
commission:Comision de Box Guadalajara
promoter:Eddie Hearn (Matchroom Boxing)
matchmaker:Kevin Rooney Jr
media:DAZN


3千名超(通常の設営:1,500名弱)がリミットのドーモ・アルカルデ(Domo Alcalde)という多目的屋内競技場で行われるとのことだが、当初予定されていたアレナ・コリセオは、プロレス(ルチャ・リブレ)の試合会場としても有名で、最大約9千名の収容を誇る。

ウェブ上に掲載されている写真を見ると、十二分に立派な施設であることはわかるが、スケール・ダウンによる残念な印象は否めない。

標高2千メートルを超えるメキシコシティでの12ラウンズに備えて、低酸素トレーニングに取り組んでいた京口は、標高1,500~1,600メートルで気温が高いグァダラハラに変わったことで、3週間前の現地入りを1週間遅らせたとのこと。


京口マッチルームの契約(共同プロモート)が公表されたのは、一昨年の暮れ(12月20日過ぎ)。

同時に、カネロ・アルバレスをトレーナー兼マネージャーとして長く支えて、いよいよプロモーターとしても1本立ちの時期を迎えたエディ・レイノソ(カネロ・プロモーションズ)に、海外におけるマネージメントを託すことも明らかにされた。

GGGとのリマッチで発覚したドーピング違反の一件以来、チーム・カネロを見つめる在米マニア,ファン,関係者らの視線が一段と厳しくなっている中、「本当に大丈夫なのか?」と不安が鎌首をもたげる。


「活動の拠点をメキシコに移す訳ではなく、あくまで米本土進出に向けた体制強化の一環。問題ないだろう・・・」と楽観視したくなる反面、彼の地で長期のトレーニング・キャンプを張るような事態になれば、「どうなるかわからない。どうなってもおかしくない」との懸念を払拭するのは難しい。

スマートな頭脳と鋭い洞察力を併せ持つ京口と、ワタナベジムのハンドリングを信じる以外、こればかりはどうしようもないことだが、要らぬお節介と取り越し苦労こそがファンの哀しい性なのだと、せんない繰言への寛容をお願いしたい。


そして急遽変更が決まったグァダラハラは、レイノソが教える練習拠点であり、かつカネロの生まれ故郷でもある。

エディ・ハーン率いるマッチルームUSAが興行を主催し、DAZNが配信を行う。幾ら何でも「剥き出しの地元判定まで心配することはない」との風評も聞こえてくるが、どこまで日本人のお人好しが通用するのかは疑問。

京口とベルムデスが保持するベルトはWBAであり、メキシコシティに本部を置くWBCではないが、WBAの本部はパナマシティにあり、「中南米偏重(優先)」の原則が大きく変わる訳ではない。


公称170センチのベルムデスは、レコードをご覧ただくとわかる通り、フライ級を主戦場にして来た選手で、S・フライ級契約も2試合ほど経験済み。

戦績が示す通りパンチが無い訳ではなく、攻防の基本的な技術にも不足はない。ただし、フライ~S・フライ級で世界を望むのは厳し過ぎる。ある程度のところまでは行けるだろうが、ベルト奪取は非現実的。

そこで、恵まれたタッパを最大限に活かす為に階級を下げる。112~115ポンドではアベレージよりちょっと上ぐらいのパンチング・パワーが、ウェイトを1つ絞ることで相対的にアップ。

150センチ台半ば~160センチ台前半の選手が多いL・フライでなら、フィジカルのアドバンテージが大きな意味を持つ。


メキシコではこうした先例が実際にあって、フライ~S・フライで修行時代を送り、世界チャンピオンになる為にL・フライに落として一度は夢を実現するも、減量の限界ですぐにベルトを手放し、S・フライまで上げて名城信男,久高寛之に煮え湯を呑ませたウーゴ・カサレスは代表的な成功例。

カサレスの軌跡をそのままなぞったヒルベルト・ケブ・バアスは、本当に嫌な言葉だが、いわゆる”穴王者”の典型例と表して間違いない。

また、フライ級に上げたロマ・ゴンのテストマッチに抜擢され、7回TKOに退いた後で一念発起。105ポンドのミニマム級まで一気に絞り、WBOのベルト奪取に成功すると、IBF王者となった高山勝成をホームのモンテレイまで呼び出し、首尾良く統一王者となったフランシスコ・ロドリゲス・Jr.も同じケース。


当然ウェイト・コントロールは大変な筈で、コミッションがまともに機能しているとは言い難いメキシコでは、2000年代に入って以降、タイトルの懸かった試合も含めて、計量に関わる不正が横行していた時期がある。

計測を行う際、周囲をスタッフで囲って見づらくした上で、片足を上げて(つま先を少し浮かせた状態)秤に乗り、真後ろに陣取ったスタッフの1人がトランクスを引っ張ってバランスを取る。

リミットのクリアを確認したら、直ちに秤を降りてウヤムヤにする計量の誤魔化しは、あらかじめ体重計に細工をする”タイ秤”に肩を並べる”メキシコのお家芸”だけに、本当に大丈夫なのかと気を揉んでいたが、流石にきちんと運営されていた。

余計な取り越し苦労に終って、まずは何より。


◎参考映像:前日(公開)計量
 EN VIVO: Hiroto Kyoguchi vs Esteban Bermudez (pesaje)


フライ級でも大型に分類されるベルムデスは、「タフネス&しつこさ」が売りの好戦的な右ボクサー・ファイター。

スピードは無いが、少し遅れて下から飛んで来るメキシカン・スタイルのフックとアッパーを回転させて圧力をかけ続け、左ジャブ(ストレート,フック)に被せるオーバーハンド・ライトを効かせて勝負を決める。

辰吉丈一郎とウェイン・マッカラーに深刻なダメージを与えて、在米マニアたちから”デストロイヤー(壊し屋)”と呼ばれたビクトル・ラバナレスを彷彿とさせるが、幸いなことにラバナレスほどの重さとキレは無い。


ディフェンスにも隙が多く、多少の被弾は覚悟の上で前に出続ける。ちょっとスローモーなテンポに合わせ過ぎて、いつの間にか打ち合いに巻き込まれて抜け出せなくなり、一進一退のラウンドを重ねる悪循環に陥って消耗して行く。

昨年5月、メキシコシティでベルムデスの挑戦を受け、大番狂わせを許して初黒星を献上。レギュラー王座を追われたカルロス・カニサレス(ベネズエラ)も、蟻地獄にハマって疲れてしまい、集中が落ちたところに右を浴びて轟沈した。

カニサレスも計量後のリバウンドを遠慮なく利用する選手の1人で、安定政権を築きつつあった田口良一と引き分けた初挑戦(2016年大晦日)の時も、167.5センチの田口に対して、158センチの小兵とは思えないパンチを振るっていた。


鍛え込まれた上半身は、田口と戦った頃よりも厚みを増しており、いいタイミングでカニサレスのパンチもベルムデスを捉える。

田口戦のように真正面からの打ち合いを避けて、足を使いながらベルムデスを空転させていたら、中差以上の判定をモノにしていたと確信するが、「どうやったって負ける筈がない」という自信が裏目に出た格好。


京口が気を付けなければいけないのは、カニサレスの「遅さ」に合わせ過ぎないこと。遅れ気味に飛んで来るフックとアッパーを、ブロック&カバーで受けるのが一番まずい。

ラバナレスやベルムデスのようなメキシカン・ファイターは、着弾することでリズムと勢いを増す。面倒でも、前半は「足で外す」のがベター。

前半の6ラウンズは、とにかく足を使ってベルムデスを空転させ続ける。どんなに空振りを繰り返しても、ベルムデスは容易に前進を止めることはないから、中盤に入っても警戒を怠らず、正面に立つ時間を限りなくゼロに近くして、ベルムデスの打ち終わりをシャープなショート・ジャブ&ワンツー、上下に散らす左を正確に当て続けたい。


判定勝負を念頭にけっして攻め急がず、丁寧にラウンドをまとめて行きさえすれば、セーフティ・リードを保ったまま、後半~終盤にかけて倒すチャンスが自ずと見えて来る。

ただ、それでも深追いは禁物。カニサレス戦のアップセットは、けっしてまぐれ当たりのラッキーパンチではない。

渡米第1戦が消化不良の結末だったから、京口は綺麗に倒して勝ちたいだろうが、下手な色気は百害あって一利なし。


スポーツブックの賭け率は、思っていたより接近している。カニサレスから挙げた大金星がフロックではなく、京口が油断すれば、2戦続けてのアップセットも十二分に有り得るとの見立てなのだろう。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>5dimes
京口:-450(約1.22倍)
ベルムデス:+360(4.6倍)

<2>betway
京口:-500(1.2倍)
ベルムデス:+333(4.33倍)

<3>ウィリアム・ヒル
京口:1/6(約1.67倍)
ベルムデス:7/2(4.5倍)
ドロー:20/1(21倍)

<4>Sky Sports
京口:1/8(1.125倍)
ベルムデス:7/2(4.5倍)
ドロー:12/1(13倍)


心配な点は、攻め急ぎから攻防のキメを粗くすること。ラバナレスに対する辰吉,マッカラーのテツ(自滅)を踏むのが一番怖いパターン。

大阪時代に辰吉の指導を直接受けた京口には、眼疾の後も自らのスタイルにこだわり続けて、いたずらにダメージを深めて行った師匠の姿を良き反面教師にして欲しい。

聡明な京口なら、それが可能な筈である。


◎京口(25歳)/前日計量:107.8ポンド
WBA L・フライ級スーパー(V3),元IBF M・フライ級王者(V2)
戦績:15戦全勝(9KO)
アマ通算:66戦52勝(8RSC・KO)14敗
大阪府立伯太高校→大商大(ボクシング部主将)
2014年国体優勝
2014年台北カップ準優勝
※階級:L・フライ級
身長,リーチとも162センチ
※久田哲也戦の予備検診データ
右ボクサーファイター


◎ベルムデス(26歳)/前日計量:107.8ポンド
WBA L・フライ級正規王者(V0)
戦績:14勝(10KO)3敗2分け
身長:170センチ
右ファイター


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■リング・オフィシャル:未発表