■主なアンダーカード
<1>7月28日/ステープルズ・センター,ロサンゼルス/ヘビー級10回戦
元WBA王者 ルイス・オルティス(キューバ) KO2R ラズヴァン・コジャヌ(ルーマニア)
ディオンティ・ワイルダーとの大一番(今年3月8日/ブルックリン,N.Y.)で、ようやく真価を発揮した40歳目前のオルティスが、5ヶ月ぶりのリングで即決KO勝ち。右のオーバーハンドで態勢を崩し、左ストレートを真っ直ぐ顔面に叩き込んでのワンパンチ・フィニッシュ。両拳で胸を叩く”キングコング・パフォーマンス”を盛大に披露し、勝ち鬨をあげた。
相手のルーマニア人は、大差の判定で敗れた昨年5月6日のジョセフ・パーカー戦(マカヌウ・シティ,豪州/WBO王座挑戦)以来、1年3ヶ月ぶりとなる復帰戦。2メートル級の巨人選手だが、戦績が示す通り1発の怖さが無く、動きもパンチもスローモー。
ブランクが響いて既に4団体ともランキングから外れてはいるが、90年代以前のヘビー級なら、そもそも世界ランカーにはなれなかった。14位の末席だったとは言え、この選手がWBOのランキングに名を連ね、チャンピオン・ベルトへの挑戦機会を得たということ自体が、目を覆うばかりのレベルダウンに喘ぐヘビー級の現(惨)状を如実に示している。
オルティスは確かに良いボクサーだが、年齢的には遠の昔にピークを過ぎている上、過去に2度のドーピング違反(2014年9月/ナンドロロン,2017年9月/マスキング効果の高い利尿剤)が発覚しており、禁止薬物の世話になり続ける39歳のオールドタイマーを、あの手この手で延命し続けなければならないほど、ヘビー級の人材難は深刻の度を増しているということなのだが・・・。
嘘偽りのない思いをアケスケに述べれば、ワイルダーもこの選手にストップ寸前まで追い込まれるようでは、偉大なジョー・ルイスにあやかった”ブロンズ・ボンバー”の異名が泣くというものだ。
◎オルティス(39歳)/前日計量:241ポンド
戦績:32戦29勝(25KO)1敗分け2NC
アマ通算:349勝19敗
2005年世界選手権(綿陽/中国)ベスト8
2005年ワールドカップ(モスクワ)銀メダル
2006年キューバ国内選手権優勝
※階級:ヘビー級
身長:193センチ,リーチ:213センチ
左ボクサーファイター
◎コジャヌ(31歳)/前日計量:269ポンド
戦績:20戦16勝(9KO)4敗
アマ通算:300戦超(詳細不明)
2009年フランコフォニー・ゲームズ(ベイルート/レバノン)金メダル
2009年EU選手権(オーデンセ/デンマーク)銅メダル
※階級:S・ヘビー級
身長:202センチ,リーチ:206センチ
右ボクサーファイター
●●●●●●●●●●●●●●●●●●
<2>WBAインターコンチネンタル・ウェルター級王座決定10回戦
マリオ・バリオス(米) TKO8R終了 ホセ・ハビエル・ローマン(米)
サンアントニオ(テキサス州)をホームに戦う、ヒスパニック系(メキシコ系アメリカ人)のホープが、同じ在米メキシコ系移民の中堅と対決。南カリフォルニアから呼ばれたアンダードッグは、昨年7月以来1年ぶりの実戦。年齢も三十路に突入しており、普通に考えれば腹を叩いて即決KOかと、少々年季の入ったファンなら誰もが容易に想像する。
ところがどっこい、この日の負け役は想像以上にしぶとかった。サイズ&パワーで優る若いプロスペクトが前に出てくるところを、細かいフェイントで駆け引きしながらタイミングをズラし、速さと角度に変化を付けたジャブで威嚇。テキサスの若鷹が得意にする長い右ストレートを待って、下から左フックを狙う。
前後左右に小さくステップを切り、若鷹の重い左ボディに気を付けながら、微妙な間合いをコントロールしつつ、若いマリオが前進を主潤するや否や、思い切り良く踏み込みワンツーを飛ばす。誤魔化し上手なベテランの味に勢いを殺がれ、自分の流れに持ち込み切れないマリオ。
「膠着するかな・・・。」と思い始めた第4ラウンド、一気に試合が動く。距離を詰めて圧力をかけ直すマリオを押し返す為、30歳のメヒカノもある程度力を入れた手数が必要になる。散発ながらも、危険な中間距離でパンチの交換が増す。そして残り時間が2分を切ったところで、ローマンの左フックを誘い、鼻先でかわしながら鋭く速いワンツー!。
返しの右をまともに顎に貰い、たたらを踏むローマン。よろめきながらロープ際まで後退すると、マリオがガードの上からワンツーを連射。そのままどれが当たったというのではなく、右のダメージでへたり込む。ローマンは瞬時に立ち上がり、致命傷を避ける目的で自ら座り込んだとの印象も。
当然マリオはし止めにかかろうとするが、ロープ際に追い込んでもパンチをまとめることができない。ローマンの眼は死んでおらず、弱りながらも反撃の牙を剥いている。まさかの1発に対する警戒なのだろうが、一気呵成に詰め切れないもどかしさ、物足りなさが残ったのも確か。
第5,第6ラウンドも圧力をかけ続けて、フィニッシュの機会を探るマリオ。左右のボディを混ぜた効果的なコンビネーションを再三ヒットし、充分に効いている筈なのに、カリフォルニア・ベースのメキシカンはギブアップしない。懸命に足を動かし、僅かな隙を見つけては単発の手数を打ち返す。
正攻法のボクサーファイタースタイルを採るマリオは、距離と攻防の間の取り方や、出るべきタイミングと下がって様子を見る時間の見極めが上手く、強弱と種類も含めたパンチの取捨選択にミスが少ない。すべてにおいてソツがなく、良くまとまっている。絵に描いたような”優等生”タイプであるが故に、8~9割方参っている相手のディフェンス・ラインを、力尽くで突破する強引さが欲しい。
などと思っていたら、第7ラウンドの開始ゴングと同時に、プレッシャーの強度をグンと引き上げた。パンチにも力がこもり、倒す意思がはっきりと見て取れる。インターバル中、コーナーで発破をかけられたに違いない。
「何時まで遊ばせておく気だ?。フィニッシュしろ!」
パワーを開放したマリオの強打は、サイズのアドバンテージと相まって迫力も十分。ほとんど防戦一方のローマンに、研ぎ澄まされたコンビネーションを容赦なく繰り出すマリオ。左フックのダブル,ワンツー,右ボディ・・・あらゆるパンチが、凶器の凄みを伴って放たれる。気持ちだけで動き続けているローマンを、何度目かの強烈なワンツーが襲う。すると思わずローマンが顔を背け、さらに背中を向きかけた。
酷く打たれたボクサーが反射的に相手に背を向けるのは、8~9割方ギブアップとみなしてよく、相当に危険な状況と表していい。セミ格の10回戦であること、明白過ぎる両者の実力差を考慮すれば、気の早いレフェリーなら止めていてもおかしくない。しかしここでもまた、マリオは手数をまとめ切れずラウンドを終えてしまう。
ローマンのコーナーは白旗を上げず、第8ラウンドの開始ゴングに応じさせる。首を傾げざるを得ない判断だが、これもまた致し方がない。コーナーに止める気がない以上、後はレフェリーの見る眼にかかっている。決定的な場面は、1分30秒を過ぎた頃に訪れた。
打ち下ろしの右から左ダブル(上下)、右ボディから左ボディへつなぎ、上に右ストレートを返すコンビネーションでローマンにロープを背負わせると、ガードの上から連打を見舞うマリオ。するとまた自ら座り込むローマン。そしてレフェリーが駆け寄るより早く、立ち上がって見せる。最初のダウンをリプレイするかのよう。
ここはもう止めるべきタイミングなのに、GUI生誕の地パロ・アルト(サンフランシスコ近郊)からやって来た主審には、その意思がほとんど感じられない。
エイト・カウントを聞いたローマンがマウスピースを吐き出し、実に分かり易い時間稼ぎに及んでも、場内のブーイングなど意に介さず、マリオにニュートラルコーナーでの待機を指示。こういう時の動作は、何故か遅く見えるがちではあるものの、同じカリフォルニアのローマンに肩入れ(?)しているとしたら、とんでもない勘違いである。
一刻も早く試合を止めて、絶望的なラウンドからローマンを救い出すことこそが、レフェリーとしてのあるべき姿であり、過度なダメージを残さずにセカンド・キャリアへと送り出す為の、最大の配慮である筈・・・。
マリオは結局このラウンドもし止め損ねたが、青息吐息の30歳がコーナーに戻ると同時にギブアップ。無意味な残り2ラウンズを重ねることなく終えたのは、何よりの幸いだった。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
上背とリーチにも恵まれ、マスクも悪くない。ファイトは勇敢で気風が良く、デビュー当初からファンの支持を得ている。なんだかスターの匂いがぷんぷん漂ってきそうだが、23歳のプロスペクトには2歳年長の姉がいて、まだプロ4戦ながら、トップスターの座を約束されたかのごとき騒がれ方。
ライト級でロンドン五輪の代表候補に上り詰めた後、2016年のリオ大会出場を目指して奮闘したものの、夢は叶わずプロの世界へ。「明日の王者を目指す姉弟ボクサー」として、地元の大きな期待を背負っているらしい。
「彼女(の試合)を一目見て貰えばわかる。チャンピオンになるべくして生まれてきた。マネージメントと男で失敗さえしなければ、確実に世界を獲る。そういう子だ。ケイティ・テーラーを倒す選手がいるとしたら、間違いなく彼女だ。ミカエラ・メイヤーもいいセン行ってるけど、ケイティには勝てないだろう。ポテンシャルも実力もセリーナが上だ。マリオ?。ああ、彼も素晴らしい。チャンピオンになる為には、もう少し経験を積む必要があるけどね。」
良く出来た姉を指導するコーチ、カルロス・”ファモソ”・エルナンデス(90年代に活躍した元IBF J・ライト級王者)は、将来を嘱望される姉と弟について度々聞かれており、上記のように答えることが多い。
”アステカ・クィーン(Aztec Queen)”の異名を取る姉セリーナについては、いずれ触れる機会もあるだろうからそちらに譲るとして、姉に比べるとやや微妙(?)な印象も・・・。
ウィスコンシンに住んでいたマリオの一家は、彼が5歳の時にテキサスに移り、以来サンアントニオに定住。セリーナとマリオをボクシングに導いたのは、大のボクシング・フリークだった母親のイザベルだという。父のマーティンも協力的で、姉弟をバックアップしてくれた。
姉と一緒にジムに通い始めた8歳のマリオは、ハルミーリョという名の老トレーナーに習ったが、練習を手伝ってくれていた父マーティンが後を引き継ぐ。姉弟はジュニアの地方トーナメントに出場すると、早速結果を出す。複数の大会で連続優勝した姉は、すぐにアマの関係者の知るところとなる。
やや出遅れたマリオも、ナショナルPAL(National Association of Police Athletic/Activities Leagues)のトーナメントで注目を集め、「初めてプロを意識した。ボクシングで成功できたらと、真剣に考え始めた。」とのこと。
プロデビューは2013年11月。18歳で初陣のリングに登ったマリオは、122ポンドのS・バンタム級だった。3戦目でフェザー級に上げ、2015年から130ポンドで戦ったが、2016年4月の15戦目からライト級にアップ。さらに昨年3月に140ポンドのテスト・マッチを行い、内容と結果に手応えを掴んだ陣営は、S・ライト級への定住を決めた。
少年から大人へと成長する過程で、プロとして実戦をこなしながら徐々に階級を上げる。そのこと自体は特別珍しくはない。フィジカル・トレーニング専門のコーチが付く現在は、かつてのように無理な減量を強いて同じ階級に留まらせたりせず、プロの身体が出来上って大きくなったら、当たり前のように階級を上げる選手が増えた。
マリオの場合、10代後半から二十歳にかけて、かなり身長が伸びたという(170センチ台前半→後半)。180センチ近いタッパがあれば、ウェルター~ミドル級で戦っても不思議はないし、事実陣営の最終的なターゲットは、最も稼げる147ポンドでの成功に違いない。
専属契約だったのかどうかは判然としないが、デビューから暫くは、メキシコ系のホープ発掘に熱心なゴールデン・ボーイ・プロモーションズの興行に参加することが多く、リチャード・シェーファーの造反騒動を受けて、アル・ヘイモンのマネージメント・グループへ正式に移籍。
ヘイモンとの契約はプロ入りする前に交わしていたとされ、現場の実務はヘイモンの息がかかったルイス・デ・カバス・Jr.(ディオンティ・ワイルダー,ロバート・ゲレロ,エリスランディ・ララらを担当)が任されてきた。
今は特定のプロモーターとの専属契約は結んでいないらしく、ボブ・アラムが声をかけているとの噂もチラホラ・・・(ヘイモンは警戒警報発令)。昨年夏、ヴァージル・ハンター(アンドレ・ウォードを発見・育成したトレーナー)のキャンプに合流。ウマがあったようで、今年の始めに正式契約を締結。
これまで倒した相手の中でもっとも知られた選手は、2016年7月に対戦したデヴィス・ボスキエロだろうか。2011年11月に来日して、粟生隆寛(帝拳)が保持していたWBC S・フェザー級王座に挑戦。粟生が苦手にする揉み合い上等の乱戦に巻き込み、1-2判定で惜敗したイタリア人である。
身長166センチのボスキエロとは体格差が有り過ぎて(前日計量はともに130ポンド)、「これで試合になるのか?」と余計な心配をしてしまったが、経験豊富なボスキエロは粟生戦がウソのようにディフェンシブなスタイルを採り、決定打を食わないことに腐心。12ラウンズを動き続けて、フルマークの判定負けを選択した。
PBC(Premier Boxing Champions)の興行では、若手有望株&中堅,及び元王者らのベテラン勢で固めるセミ格の中で、中軸として位置づけられるところまできているだけに、これからは対戦相手のレベルも一戦ごとに上がって行く。ヘイモンと陣営がハンターの手腕に寄せる期待は大だ。
バランスとまとまりを重視し、最優先するボクシング。アマが見切りを着けたタッチスタイルが幅を利かせ、ジャブ(軽打)&ペースポイントを崇め奉るスコアリングと、クリンチ&ホールドによるインファイト潰しに目をつむり続けるレフェリングの堕落は、フロイド・メイウェザーの不敗神話だけでなく、ハンターが手塩にかけて育て上げたアンドレ・ウォードも強力にバックアップした。
ハンターが志向するポイントメイク第一主義は、マリオが本来持っている良さや特徴とはまるで相反する。攻撃力を前面に押し出し活かす術なら、フレディ・ローチやロベルト・ガルシア,バディ・マクガート,ロニー・シールズ,エディ・ムスタファ・ムハマドといった人たちの方が、ハンターよりも向いている気がするけれども・・・。
140ポンドに上げて、顕著な身体負け,パワー負けをすることなく、まずは危なげのない試合運びで4戦を消化。地金を問われるのはこれからという訳で、次戦は相応に名のある選手が候補に挙がっているらしい。層の厚い中量級で、勇躍世界に打って出ようというプロスペクトが、いよいよ試練の時を迎えている。
◎バリオス(23歳)/前日計量:141ポンド1/2
戦績:22戦全勝(14KO)
アマ通算:不明
身長:179センチ,リーチ:178センチ
右ボクサーファイター
◎ローマン(30歳)/前日計量:142ポンド
戦績:28戦24勝(16KO)3敗1分け
身長:180センチ
右ボクサーファイター