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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

WBSS シーズン2 展望 Chapter V-II/フィリピンの閃光が最後(?)の大一番 - バーネット VS ドネア 直前プレビュー -

2018年11月03日 | Preview

■11月4日/SSEハイドロ,グラスゴー,英スコットランド/WBA世界バンタム級タイトル,及びWBCダイヤモンド王座決定12回戦
WBAスーパー王者 ライアン・バーネット(英/アイルランド) VS 元5階級制覇王者/WBA6位 ノニト・ドネア(比)



今年4月、アイルランドに渡ってカール・フランプトンに大差の判定を失ったドネアが、オマール・ナルバエス戦以来およそ7年ぶりとなるバンタム級で、今をときめくバーネットに挑む。

スポーツブックの賭け率は、大方の予想に違わず大きく開いた。フランプトン戦の賭け率も大差だったが、今回はその比ではない。

□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
バーネット:-1200(約1.08倍)
ドネア:+700(8倍)

<2>5dimes
バーネット:-1000(1.1倍)
ドネア:+650(7.5倍)

<3>SportBet
バーネット:-948(約1.11倍)
ドネア:+702(8.02倍)

<4>ウィリアム・ヒル
バーネット:1/7(約1.14倍)
ドネア:9/2(5.5倍)
ドロー:25/1(26倍)

<5>Sky Sports
バーネット:1/12(約1.08倍)
ドネア:6/1(7倍)
ドロー:25/1(26倍)

リゴンドウとの大一番を落としたドネアは、従来から発言していた通りフェザー級に進出したが、「階級の壁」に真正面からぶつかる破目に陥った。当たるを幸いなぎ倒していたヴィック・ダルチニアン(アルメニア/豪)を衝撃的な5回KOに屠り、メガ・アップセットを引き起こして112ポンドのIBF王座に就いたドネアも、2001年のプロデビュー時は115ポンドのS・フライ級。

下積み時代に118ポンドのバンタム級も経験済みで、実兄グレンをKOしたダルチニアン挑戦のオファーを受け、思い切って階級ダウンに踏み切り見事成功した。難敵モルティ・ムザラネ(南ア)を含む3度の防衛戦をすべてKOで片付けると、115ポンドに戻してWBAの暫定王座を獲り、2度防衛した後バンタム級に進出。

アンセルモ・モレノ(パナマ)と五分に近い勝負を2度やり、来日経験もある元WBA王者ウラディーミル・シドレンコ(ウクライナ)との初陣を4回KOの圧勝で飾ると、我らが長谷川穂積(真正/引退)を左フック1発でストップに追い込み、WBOとWBCの2冠に輝いたフェルナンド・モンティエル(メキシコ)にラスベガスでアタック(2011年2月)。


文字通りの118ポンド最強を謳歌していたモンティエルを、僅か2ラウンドで木っ端微塵に打ち砕く。世界中のファンと関係者を慄然とさせるショッキングな結末は、未だに鮮明な記録として脳裏から離れることがない。

さらに4階級制覇を狙うサウスポーのスピード技巧派ナルバエスを、圧力だけで下がらせ続けると、122ポンドにアップして4つ目の玉座を獲得。シドレンコ,モンティエル戦の2試合で、ドネアはリング誌のP4Pランクにその名を連ねただけでなく、”ポスト・パッキャオ”の最右翼として認知された。

攻防にまとまったシドレンコをあっという間にズタズタにして、左フックをサンデーパンチにするモンティエルを悶絶させたドネアの左カウンターの爆発的な威力は、ずば抜けたスピードと精度を兼ね備えた”ミラクル・ショット”だった。

GBPがパッキャオに続いて引き抜き工作を仕掛けて、トップランクを率いるボブ・アラムから1試合あたりの最低保証70万ドルという、軽量級では考えられない破格の条件を勝ち取る。たった3試合で足早に走り去ったバンタム級時代こそ、”フィリピンの閃光”が最もその輝きを放った時期だと、多くのファンが今も確信するゆえん・・・。


ドネアのパワーは122ポンドでも十分に通用したが、126ポンドへの増量によって相対的なパワーダウンを余儀なくされる。それ以上に致命的だったのが、生命線とも言うべきスピード&アジリティ(手足+身体全体)の鈍化だった。

多くのトップボクサーがそうであるように、ドネアもまた計量後の大幅なリバウンドを武器にしていたが、対戦相手のサイズや個性に合わせて、戻す体重を大胆にコントロールするのがドネアの特徴で、5~6キロに抑えることもあれば、一気に9キロも戻して周囲を唖然とさせることも。

フェザー級のトップクラスになると、本番当日S・ライト~ウェルター級まで増やす選手はザラにいる。耐久性も大きく異なり、ドネアのパワーが目減りするのは当たり前で、そこにスピードダウンがプラスされれば、勝てなくなるのもまた当たり前。

だがしかし、転級を繰り返してウェイトを上げたベテランの階級ダウンは、若いボクサーに比してより一層困難を極めるというのが一般的な認識だ。代謝の活発な若い選手でも、体重を絞るだけで精一杯となり、減量による疲弊消耗の真っ只中で追い込みの時期を向かえて、スパーリングを中心とした実戦的なトレーニングを予定通りこなすことができない。





30代半ばに達した元王者が階級ダウンに挑み、大失敗に終わった典型例として記憶に新しいのが、やはり7年ぶりとなるウェルター級契約でマニー・パッキャオに惨敗し、ラスト・ファイトを勝利で飾ることができず、無念の引退へと追い込まれたオスカー・デラ・ホーヤ。

S・フェザー級(2008年3月)に続いてライト級(同年6月)の奪取に成功し、アジアのボクサーとして史上初となる3階級及び4階級制覇を成し遂げたパッキャオと、154ポンドのS・ウェルター級を主戦場にするデラ・ホーヤが拳を交える。

チーフトレーナーとマネージャーを兼務していたフレディ・ローチは、「ウェルター級契約でなら、マニーはオスカーに勝てる。」と豪語し、実際にその予言は現実のものとなった訳だが、甚だしい体格差に対する国際的な批判が渦巻く中、前日計量を2ポンドもアンダーする145ポンドでクリアしたデラ・ホーヤは、147ポンドの契約ウェイトぴったり(ウェルター級リミット上限)に合わせてリング・イン。

「前代未聞のミス・マッチ」「壊されないうちにギブアップすべき」とまで言われたパックマンは、圧倒的不利を予想される中142ポンドで秤に乗ると、当日の再計量は148ポンド1/2。なんとデラ・ホーヤよりも、1.5ポンド重かった。


引退試合と銘打ったパッキャオ戦に際して、デラ・ホーヤはメキシコの名匠ナチョ・ベリスタインをチーフに招聘し、恒例となったビッグ・ベアのキャンプでハードワークに取り組んだ。しかし、本番の3週間前に自らの意思で146ポンドまで体重を落として、ナチョとひと悶着起こしている。

「本当に体重が落ちるのか、不安にかられるオスカーの気持ちはよくわかるが、いくら何でも時期が早過ぎる。減量による疲労が抜けず、十分なトレーニングができない。」

ナチョの苦言に耳を貸さず、デラ・ホーヤはウェルター級リミット以下まで体を絞り、肝心の実戦スパーで満足に動くことができず、仮想パッキャオを努めるエドウィン・バレロとビクター・オルティスにしたたかに打ち込まれ、青タンを作ってしまう。

本番のリング上でも老いたゴールデン・ボーイは精彩を欠き、パッキャオのスピードにまったく付いて行くことができなかった。パックマンのパンチをこれでもかと浴びたデラ・ホーヤは無残に顔を腫らし、第8ラウンド終了後にコーナーを立ってパッキャオのコーナーへと歩み寄り、自ら白旗を上げて栄光のキャリアに幕を降ろす。


先月23日~26日にかけて、ドネアが出場を辞退するのではないかとの憶測が報じられた。バンタム級のリミットまで落とすことができず、リザーバーに指名されたポール・バトラー(アンダーカードでヨアン・ボワイヨと10回戦を予定)にお鉢が回るというもの。
※当該憶測記事
<1>Nonito Donaire rumoured to be OUT of Ryan Burnett WBSS fight
10月23日/IRISH BOXING.COM
http://www.irish-boxing.com/nonito-donaire-rumoured-to-be-out-of-ryan-burnett-fight/
<2>NOT OUT ? Nonito Donaire on course to face Ryan Burnett
10月26日/IRISH BOXING.COM
http://www.irish-boxing.com/nonito-donaire-in-town-glasgow/




幸いなことに、ドネアは予定通り公開練習に姿を現し、バンタム級リミットでの調整に問題は無いと笑顔を見せた。酷くやつれて消耗しているのではないかと心配したが、若干の減量疲れを感じさせはしたものの、想像していたよりもずっと元気で肌の色艶も悪くはなく、シャドウボクシングで軽快な動きを披露。

前日計量では疲労が抜けて、いつもの明るい表情が戻っていた。先に1発クリアで済ませたドネアは、後から秤に乗ったバーネット(こちらも1回目でパス)とのフェイス・オフを待つ間、セレモニーに華を添える美女たちの前に立ち、ラインダンスを模したパフォーマンスで会場の笑いを誘う。



目元を中心として、どうしてもやつれた感じは残ってしまうが、バンタムまで落としたドネアは同時に精悍でもあり、フェザー級で調整した時の”水ぶくれ感”はどこにもない。実際のコンディションは、リングに上がって動き出してみるまでわからないけれど、125ポンド1/2で仕上げたフランプトン戦から、半年のスパンで約8ポンドをさらに削り落とす困難を克服して、ここまで調子を整えてきたことに敬意を表したい。


ドネアと同様スピードと機動力を頼りに戦うバーネットは、今が盛りの26歳。公開練習ではアダム・ブース(チーフ・トレーナー)が構えるミットに、切れ味鋭いパンチを叩き込んで好調さをアピール。ウソ偽りなく、こちらは順調に仕上がっている。

バンタムまで絞ったからと言って、突然変異的にドネアが7年前の最盛期に戻ることは有り得ず、手足の速さ+身体全体の敏捷性は、王者のバーネットが上回ると見るのが妥当。問題はドネアのパワー。どこまで蘇るのかによって、バーネットの戦術も変化する。

ラウシー・ウォーレン(米)を攻略して、WBAスーパー王座に就いたザナト・ザキヤノフ(カザフスタン)との統一戦で、バーネットは敢えてクロスレンジでの白兵戦を選択。揉み合いでも押し負けることなく、危険な距離に留まったまま、タフなハードヒッターの強打をまともに貰わず、ディフェンスのアビリティの高さとフィジカルの強さをこれでもかと見せつけた。

フランプトン戦以上に厳しい結果が出ても不思議はない状況下で、ドネアがどんなボクシングを見せてくれるのか。フィリピノ・フラッシュの有終を、しっかり見届けたいと思う。


◎バーネット(26歳)/前日計量:117.8ポンド(53,43キロ)
WBAスーパー王者(V1),前IBF王者(V1/返上)
戦績:19戦全勝(9KO)
アマ通算:94勝4敗(2012年ロンドン五輪代表候補)
2010年世界ユース選手権(バクー/アゼルバイジャン)銀メダル
2010年ユース・オリンピック(シンガポール)金メダル
※階級:L・フライ級
身長:163センチ,リーチ:168センチ
トレーナー兼マネージャー:アダム・ブース
※D・ヘイ,G・グローブス,B・J・サンダース,C・ユーバンク・Jr.,J・ケリー,M・コンランらのコーナーを歴任
プロモーター:マッチルーム・スポーツ(英/イングランド)
攻防兼備の右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)

◎ドネア(35歳)/前日計量:117.7ポンド(53,38キロ)
5階級制覇王者/戦績:43戦38勝(24KO)5敗
IBFフライ級(V3),WBA S・フライ級暫定(V1),WBC・WBO統一バンタム級(V1),WBO J・フェザー(第1期:V3/第2期:V1),WBAフェザー級スーパー(V0)
アマ通算:68勝8敗(2000年シドニー五輪代表候補)
2000年全米選手権優勝
1999年インターナショナル・ジュニア・オリンピック(メキシコシティ)金メダル
1999年ナショナル・ゴールデン・グローブス ベスト8
※階級:L・フライ級
身長:171センチ,リーチ:173センチ
トレーナー:マイケル・バゼル
マネージャー:キャメロン・ダンキン
プロモーター:リチャード・シェーファー(リングスター・スポーツ)
右ボクサーファイター(スイッチ・ヒッター)



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■リング・オフィシャル;未発表


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■老匠ケニー・アダムスの霊験やいかに?

丁度1年前、ジェシー・マグダレーノ(米)との防衛戦に向けて、ドネアはイスマエル・サラスをチームに招き、新たな体制で組んだ。しかし、周知の通り期待された結果とはならず、この一戦のみでサラスとの関係は終了。

この後ドネアは新しいチーフを外から呼ばず、フィジカル&ストレングスのコーチとして合流し、長く信頼関係を築いてきたマイケル・バゼルを内部昇格させる。勿論ボクシングに関しても素人ではないが、ヘッドとしてこれといった実績があった訳ではない。



フランプトンに敗れたドネアは、WBSSのオファーに応じるとともに、ラスベガスの大ベテラン,ケニー・アダムスに参謀役を依頼。数多くの世界王者をサポートしただけでなく、米国ナショナル・チームのコーチも努めた名トレーナーは、既に80歳に近い筈。直接ミットを持って指導することはできないが、最晩年のエディ・ファッチと同じく、今でも多くの若いトレーナーや選手たちからアドバイスを求められる。

プロボクシングの酸いも甘いも知り尽くした老匠が、キャリアの第4コーナーを回ってバックストレートに差し掛かったドネアに、どのような策を授けたのか。上り調子で勢いに乗るアダム・ブースとの、「老若トレーナー対決」にも注目したい。




高齢を理由にアダムスはドネアの申し出を断り、一番弟子的な存在として信頼するブランドン・ウッズを推薦した。ただし、後方支援は惜しまない。健康が許す間は、練習にも顔を出す。

ドネアもこの提案を受け入れ、ウッズを新ヘッドに据えることで交渉はまとまったが、ウッズが個人的な事情(家庭内のトラブルらしい)で仕事を中断せざるを得なくなり、老骨にムチ打って(?)アダムスの出番となった。

※左から:ブランドン・ウッズ,シャリフ・ボゲール(ウガンダ出身のウェルター級),ケニー・アダムス


「ラスベガスは勿論、全米でもトップクラスのケニーが傍にいてくれる。一時はブランドンの復帰を待つしかないと諦めかけたが、思いもかけない幸運に恵まれた。チーム全員が喜んでいる。」

「神様からのギフト以外のなにものでもない。心から感謝している。これは本当に大きなボーナスなんだ。」

ドネアの物言いは時にオーバーになり過ぎることがあるけれど、ケニー・アダムスのアドバイスを熱心に聞いている。マイケル・バゼルもクビになった訳ではなく、変わらずチームに帯同。参加できないウッズに代わって、現場の指揮を執るようだ。


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■WBSSシーズン2 /バンタム級トーナメント結果と予定



□1st ステージ(準々決勝)
<1>10月7日/横浜アリーナ/WBA王座戦(選択戦)
◎王者 井上尚弥(日/大橋) KO1R 元スーパー王者/4位 ファン・C・パジャーノ(ドミニカ)

<2>10月14日/エカテリンブルグ・エクスポ,ロシア/WBO王座戦
王者 ゾラニ・テテ(南ア) 判定12R(3-0) WBO6位/五輪銀メダリスト ミーシャ・アローヤン(ロシア)

<3>10月20日/CFEアリーナ,米フロリダ州オーランド/IBF王座戦(指名戦)
王者 エマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ) 判定12R(2-1) IBF3位 ジェイソン・マロニー(豪)

<4>11月4日/SSEハイドロ,グラスゴー,英スコットランド/WBAスーパー王座戦
スーパー王者 ライアン・バーネット(英/アイルランド) VS 元5階級制覇王者/WBA位 ノニト・ドネア(比)

□2nd ステージ(セミファイナル)
<1>期日及び会場未定(来春予定)
WBA王者 井上尚弥(日/大橋) VS IBF王者 ロドリゲス(プエルトリコ)

<2>期日及び会場未定(来春予定)
「バーネット(WBAスーパー王者) VS ドネア戦の勝者」 VS WBO王者 テテ(南ア)