ネットオヤジのぼやき録

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決戦迫る /熟練の絶対王者か,はたまたブルックリンの若獅子か? - ライト級3(4?)団体統一戦直前プレビュー -

2020年10月17日 | Preview

■10月17日/ザ・バブル(MGMグランド),ラスベガス/WBA・IBF・WBO世界ライト級王座統一12回戦
WBA・WBO王者 ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ) VS IBF王者 テオフィモ・ロペス(米)


武漢ウィルス騒動は容易に収束に至らず、56年ぶり2度目の東京開催となる筈だったオリンピックを流し、全世界が揺れに揺れた2020年も間もなく暮れる。

無観客による再開という苦渋の決断を選択せざるを得ないスポーツ界において、ボクシング興行も甚大な被害を受けたけれど、海外からの招聘がほぼ不可能という状況の下、日本国内では各階級の国内トップクラスがぶつかる好カードが組まれ出し、遅ればせながら、ネット配信への取り組みも本格化。

横浜光ジムの石井会長が手掛ける「A-SIGN.BOXING.COM.」では、youtubeの公式チャンネルで出場選手のショート・ドキュメントを配信し、投げ銭システムを利用した「ネット版激励賞」が注目を集め、11月3日にV3戦が決まった京口紘人も、ウィルス禍以降国内初となる世界戦に、なんと自身のyoutubeチャンネルを使った生配信で臨む。


8月以降米英でも再開の動きが本格化し、ヘビー級のアレクサンダー・ポベトキンとディリアン・ホワイトが、イングランドのブレントウッドにあるマッチルーム・スポーツの敷地内で対戦して話題になった他、先月から今月にかけてチャーロ兄弟,ブランドン・フィゲロア,ジョシュ・テーラー,ジョシュア・ブアッツィ,テレル・ガウシャ,エリクソン・ルビンらが相次いで登場。

PBC(Premier Boxing Champions)での復帰を選択したジョンリエル・カシメロに続き、同胞の俊英マーク・マグサヨが2016年9月以来となる3度目の渡米を果たし、フェザー級に転出したエマニュエル・ナバレッテも2階級制覇を達成。

不遇を囲っていたシーサケットは、4月の予定が白紙延期となっていたアムナットとの復帰戦に勝利を収めるなど、軽量級の有力選手たちにも動きが出てきた。


月末には井上尚弥のラスベガス初登場が控えている他、オレクサンドル・ウシクのヘビー級第2戦(アンソニー・ジョシュアへの挑戦権を懸けてデレク・チソラと英国で対戦予定)、レジス・プログレイス VS ファン・ヘラルデス、ジャーボンティ・デイヴィス VS レオ・サンタクルス(WBAライト,S・フェザーの変則王座戦?)、リー・セルビー VS ジョージ・カンボソス・Jr.戦等々が決定済み。

今月末は話題のカードが目白押しで忙しく、11月に入るとテレンス・クロフォード VS ケル・ブルック戦も待っているが、今秋最もファンと関係者の関心を惹く大一番と言えば、やはりロマチェンコとテオフィモの激突だろう。

WBA・WBC・WBOの3団体を統一したロマチェンコと、残るIBFのベルトを保持するテオフィモによる、135ポンドの完全なる4団体統一戦・・・となる筈が、訳のわからないWBCの措置(後述)によって、大事なピースの1つが欠けてしまったのが残念(珠にキズ)。


もっとも、例によって賭け率は練達の絶対王者を支持。恒例のリング誌による勝敗予想でも、総勢20名に及ぶ専門記者と識者,関係者の見解は、18-2と圧倒的にウクライナの2大会連続金メダリストに軍配を上げている。

◎FIGHT PICKS: VASILIY LOMACHENKO-TEOFIMO LOPEZ
10月13日/リング誌公式サイト
https://www.ringtv.com/611498-fight-picks-vasiliy-lomachenko-teofimo-lopez/

テオフィモの勝利と見立てた希少の2名は、英国の元3冠王デューク・マッケンジー(ロペスの後半~終盤のストップ勝ち/ロマチェンコ VS リナレス戦でも新世紀のゴールデン・ボーイを押してくれたアンダードッグ贔屓?)と、リング誌の元編集長にして著名なヒストリアンでもあり、Showtimeの解説者を長く務めたスディーブ・ファーフッド(ポイントは別にしてロペスの判定勝ち)。

ただしマッケンジーの論拠はイマイチ判然とせず、ファーフッドは「ロマチェンコの判定を採るのが賢明な選択」との前置きが入る。ファーフッドが示した根拠は、「ナチュラル・ウェイト+ハングリネス+若さと勢いを含む期待値(Pretty damn good と表現)」の3つ。


「ロペスもいいセン行ってるんだ。それは間違いない。でもどちらを取るかと言われたら、ロマチェンコの経験と総合力かな・・・」

現役のトップボクサーから引退した元王者、名の通ったトレーナーたちの多くもコメントを求められたり寄せたりしているが、概ねそんなところに落ち着く。


「(テオフィモの)1発が当ればどうなるかわからない。でも、結局はロマが3-0の判定を持って行くだろう。減量がキツいテオフィモの調子次第では、中盤~後半のストップも充分にあり得る。」

「序盤の2~3ラウンズ限定だが、若いテオフィモが優勢に展開を進める可能性はある。ただし、例えそうなったとしても4~5ラウンズ辺りでロマがペースを握り、テオフィモは中盤以降スローダウンして行く。」

「年齢的な衰えを指摘する声も一部にあるが、プロでもアマでもロマはまともに打たせ(れ)ていない。拳の手術を受けてブランクも作ったが、フィジカルに深刻な傷みはなく、俊敏な反応とスタミナに顕著な翳りも感じられない。」

「テオフィモは本当に大物と呼べる相手とやっていないし、何よりも若過ぎる。経験の差がモノを言う。」


□主要ブックメイカーのオッズ 10月1日(日本時間2日)
<1>Bovada
ロマチェンコ:-340(約1.29倍)
ロペス:+260(3.6倍)

<2>5dimes
ロマチェンコ:-330(約1.30倍)
ロペス:+270(3.7倍)

<3>シーザースパレス
ロマチェンコ:-335(約1.30倍)
ロペス:+275(3.75倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ロマチェンコ:2/7(約1.29倍)
ロペス:5/2(3.5倍)
ドロー:18/1(19倍)

<5>Sky Sports
ロマチェンコ:1/4(1.25倍)
ロペス:11/4(3.75倍)
ドロー:20/1(21倍)


□主要ブックメイカーのオッズ 10月15日(日本時間16日)
<1>Bovada
ロマチェンコ:-400(1.25倍)
ロペス:+300(4倍)

<2>5dimes
ロマチェンコ:-410(約1.24倍)
ロペス:+330(4.3倍)

<3>シーザースパレス
ロマチェンコ:-440(約1.23倍)
ロペス:+350(4.3倍)

<4>ウィリアム・ヒル
ロマチェンコ:1/4(1.25倍)
ロペス:3/1(4倍)
ドロー:20/1(21倍)

<5>Sky Sports
ロマチェンコ:1/4(1.25倍)
ロペス:3/1(4倍)
ドロー:20/1(21倍)


SNSを通じたインタビューや取材等で、挑発的な言動を繰り返してきたテオフィモに対して、ロマチェンコは余り良い印象を抱いていない。試合会場のザ・バブルがあるMDMグランドで行われたファイナル・プレッサーでも、テオフィモを見つめる視線はどこまでも厳しく、その表情には「生意気な小僧が・・・」と大書されていた。


◎映像:ファイナル・プレス・カンファレンス(トップランク公式チャンネル)
映像タイトル:Behind-the-Scenes with Loma and Lopez at the Final Press Conference | Real Time EP. 2



ファーフッドが指摘した通り、アマ時代からライト級を主戦場にしてきたテオフィモには、サイズとパワーのアドバンテージがある。身長とリーチの差はそれほどでもないが、当日軽量後のリバウンドを含めた体格差は侮れない。
※ロマチェンコ(身長:168センチ/リーチ:166)/ロペス(身長:173センチ/リーチ:174)

ルーク・キャンベル(身長175センチ/リーチ:180)の大きさ(リバウンド込み)に手を焼き、ヒットを許す場面もあったロマチェンコだけに、瞬間的な踏み込みとハンドスピードにも優れたテオフィモなら、リナレス(やはりフェザー級からの増量組み)が果たせなかった一撃必倒が可能なのではないか・・・そんな期待(妄想?)が脳裏をかすめるファンも、それなりにいると思う。

それでも結局ロマチェンコへと予想が傾く一番大きな要因は、アマ・プロのどちらでも1度しか負けていない絶対王者が、「けっしてギャンブルを冒さない」という一点に尽きる。

リゴンドウ戦でも顕著だったが、どれほど優位な展開を創り一方的にリードを広げても、万が一の逆転打を許す可能性を徹底的に潰して行く。相手が嫌になってギブアップすればそれでいいし、判定になっても一向に構わない。

自分より大きな相手と対峙するリスクをしっかり認識した上で、持ち前の敏捷性と機動力を最大限に活かし、膨大かつ正確な手数(軽打)を休みなく放ち続け、片時も足を止めることなく動き続ける。


手数と積極性に高い精度を併せ伴った省エネ安全策。ロマチェンコ独自(ならでは)の卓越したボクシングを崩すには、最盛期のマルケス兄弟が発揮した異常なまでの打たれ強さと、マニー・パッキャオの尋常ならざるスピード&多彩なアングルに、リッキー・ハットンの執拗な密着戦術&ボディアタックが必要・・・?。

常に先手で動かれ続け、上下を巧みに打ち分ける煩いジャブとショートが様々な角度と位置から飛び続け、少しでも手足と動きを止めれば一気に距離を詰められ、切れ味鋭くしなりと振り抜きの利いた強打が襲う。

ムキになって追えば追うほど、絶対王者にとっては思うツボ。術中にハマって疲弊を早めるだけ。だからと言って、距離を保って安全圏をキープしようにも、縦横無尽にリングを駆け回り、自在に出入りを繰り返す絶対王者から逃げ切るのは至難の業。


頭1つ抜けたスピードと反応,集中力を、12ラウンズフルに維持し続ける限りにおいて、ロマチェンコは小兵の不利を有利に変えて、おそらくは白星を重ね続ける。

一時ほのめかしていたウェルター級進出を封印(狙いはパッキャオの1本釣りだった?)し、ライト級統一後の階級ダウン(S・フェザー級への出戻り)に言及するようになったのは、増量の限界を悟ったからに他ならない。

140~147ポンドに上げて勝ち続けるだけのパワーと耐久性を自らに求めるのはまず無理だと、パッキャオの後を追うのは十中八九不可能だと、7年間のプロ生活を経てロマチェンコ自身が思い知った。


ロマチェンコとの対戦について聞かれた井上尚弥も、「自分のベスト・パフォーマンスを出せるならやりたいが、そうでなければやっても意味がない。」と答えているが、まったくの正論である。

バンタム級に上げて以降、漫画のような勝ち方を連発した井上だが、「S・バンタムはともかく、フェザーに上げるのは難しい。(パワー・アドバンテージを失って)多分埋もれるでしょう。」とも語っており、ロマチェンコも同じように考えているのではないか。

WOWOWエキサイトマッチのゲストに呼ばれて、マイキー・ガルシアがエロール・スペンスに何も出来ずに敗れる姿を見つめた井上は、「(マイキーほどのボクサーでも)ウェルター級では並みの選手になってしまう。適正な階級で戦うことの大切さを、あらためて痛感した」とも述べていた。


米寿を超えてもなお(今年の暮れに89歳を迎える)、興行師としてのヤマっ気が抜けないアラムは、「ロマとナオヤは可能だ。126ポンドでやれる。」とプレス向けに発言して煽っていたが、「126?。私のベストウェイトは130ポンドだ。」と、軽くいなしていたロマチェンコ。

「イノウエが私の階級(S・フェザー)に来るなら、前向きに考えてもいい。だが、私がイノウエの階級に降りることはない。その理由も必要性もない。」

老いらくのリゴンドウにさえ、130ポンド契約を譲らなかったロマチェンコが、今まさにキャリアのピークを築こうとしている井上に、パフォーマンスの良否に直結する契約ウェイトを譲歩する筈がない。


閑話休題。


個人的には、ファーフッドに肩入れしたいと考える。ロマチェンコの判定勝ち(後半~終盤にかけてのTKOも有り)と見るのが妥当であり、筋の通った勝敗予想になるけれど、テオフィモの若さと可能性、リナレスに不足していた1発と相応のスピードが共存するポテンシャルを買って、貧乏くじを引いて見るとしよう。

テオフィモに勝機があるとすれば、ロマチェンコの手数と運動量に幻惑され、疲労の蓄積とダメージで消耗が現在化する中盤以降ではなく、元気一杯で動くことのできる前半に、サンデーパンチの左フックか、リチャード・コミーを瞬殺した右ショートのカウンターを、ガツンと決めるしかない。

・・・と言うのも、テオフィモにも分があると語る在米識者たちの常套句だが、ここでも私は貧乏クジを引く。気の毒なデューク・マッケンジーとも呉越同舟という次第で、中盤から後半にかけてのストップも含めて、テオフィモのメガ・アップセットに1票。

「嗚呼、やっちまった・・・」


◎ロマチェンコ(32歳)/前日計量:135ポンド
WBA・WBO統一ライト級王者(WBA:V2/WBO:V1),WBCライト級(V0※),WBO J・ライト級(V3),元WBOフェザー級(V3)王者
※WBCライト級:
戦績:15戦14勝(10KO)1敗
(2013年10月デビュー)
アマ戦績:397戦396勝1敗(2敗,あるいは3敗など諸説有り)
2012年ロンドン五輪ライト級金メダル
2008年北京五輪フェザー級金メダル
2011年世界選手権(バクー)ライト級金メダル
2009年世界選手権(ミラノ)フェザー級金メダル
2007年世界選手権(シカゴ)フェザー級銀メダル
2008年欧州選手権(リヴァプール)フェザー級金メダル
身長:168センチ,リーチ:166センチ
左ボクサーファイター


◎ロペス(23歳)/前日計量:135ポンド
戦績:15戦全勝(12KO)
(2016年11月デビュー)
アマ通算:150勝20敗
2016年リオ五輪ライト級初戦敗退
※ホンジュラス(両親の母国)代表
2016年リオ五輪米大陸予選準優勝
2015年リオ五輪米国最終予選優勝
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2015年ユース全米選手権ベスト8
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2014年ユース全米選手権3位
※階級:ライト級
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター



◎映像:前日計量(トップランク公式チャンネル)
映像タイトル:Loma vs Lopez: Weigh-In



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■リング・オフィシャル

主審:ラッセル・モーラ(米/ネバダ州)

副審:
ティム・チーザム(米/ネバダ州)
ジュリー・レダーマン(米/ニューヨーク州)
スティーブ・ウェイスフィールド(米/ニュージャージー州)

立会人(スーパーバイザー):
WBA・IBF・WBO3団体とも未発表

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