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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

紛う事なき国内115ポンド頂上対決 - 井岡一翔 VS 田中恒成 直前プレビュー -

2020年12月31日 | Preview

■12月31日/大田区総合体育館/WBO世界J・バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者 井岡一翔(Ambition) VS WBO1位 田中恒成(畑中)

国内初の4階級制覇王者に、国内最速奪取の3階級王者が挑む。本来ならばもっと盛り上がって然るべき日本人対決なのだが、いまいち感情移入できないのは何故だろう。八重樫東と対峙した国内初の2団体統一戦(2012年6月)と比べても、熱気の不足は明らかだ。

フィリピンの英雄フラッシュ・エロルデからJ・ライト級のベルトを奪った天才肌の沼田義明に、雑草(努力型の典型)と呼ばれた小林弘が真っ向勝負を仕掛けた史上初の邦人同士による世界戦実現(1967年12月/J・ライト級/当初は天覧試合になるともっぱらだった)から、実に53年もの歳月が流れた。

時と場所と相手を選ばなかった小林弘は、ノンタイトルでフェザー級王者西城正三とも雌雄を決した(1970年12月/132ポンド契約10回戦)が、沼田,西城との2試合は、ウソ偽りなく日本中を興奮のるつぼに巻き込んだ。


70年代前半には、フライ級の大場政夫と花形進(1972年3月)に続き、国内最重量級王者(当時)として大変な人気を博した輪島功一に、スパーリング・パートナーを長く務めた龍反町が挑戦する親友対決(1973年4月/J・ミドル級)も行われ、この2試合も全国規模の大きな注目を集めたものである。


※A・C分裂前の最後の王者,沼田義明(左)と挑戦者小林弘(右)


日本のボクシング人気がいよいよ底を打ち、今に続く長い低迷に迷い込んだ80年代にも、新設間もないJ・バンタム級で長期政権を築き、事実上のWBA・WBC2団体統一や、史上初の海外防衛(当時の日本人ボクサーには最も過酷なアウェイとも言うべき韓国)など、野心的なマッチメイクを強く望んだ渡辺二郎が登場。

WBA王者として6度の防衛に成功した後、WBC王座に鞍替えして4度の防衛を追加。具志堅用高に続く長期安定政権を築き、小熊正二(元WBCフライ級王者),勝間和雄(日本王者)の挑戦を退けている。

西城の後を託された全国区の大スター,具志堅の引退は、不人気マイナースポーツへの転落を象徴する出来事であり、傑出した実績を残した渡辺も、こと人気と話題性に関する限り、具志堅には遠く及ばなかったけれど、実力差が明白だった勝間戦はともかく、フライ級で名を成した小熊戦の注目度は、今とは比較にならない程高かった。


その後1992年9月に、J・バンタム級で全国区の人気を誇った鬼塚勝也に、無敵のカオサイを2度苦しめた関西の雄,松村謙一がアタックしたが、松村の知名度の低さも影響して、ボクシング・ファンを除く世間の関心はかなり低かったと思う。

しかし1994年12月、60年代後半~70年代前半当時の黄金期に行われた沼田 VS 小林,西城 VS 小林戦を彷彿とさせる、辰吉 VS 薬師寺戦が名古屋で行われる。両陣営の激しい舌戦は互いのファンを巻き込み、一触即発の緊張感が充満。

辰吉 VS 薬師寺戦の熱狂は、ジムの会長同士が本気で罵り合い、遂には関係修復が不可能になるなど、現在では考えられない異常事態にまで発展した沼田 VS 小林戦に匹敵する。


全国規模の話題性という点では、名勝負として今に語り継がれる畑山隆則と坂本博之のライト級タイトルマッチ(2000年10月)が、今のところは「最後のビッグマッチ(日本人対決における)」と表してよいのではないか。


※写真左:”精密機械”のあだ名とは裏腹な天才肌の閃き型,沼田義明(A・C分裂前の統一J・ライト級王者/小林に敗れた後日本人初のWBC単独認定王者として復活)/”和製メイウェザー”の呼称に最も相応しいであろう卓越したムーヴィング・センス&スキルの持ち主だが同時に破天荒なファイタースタイルも披露した
※写真中:時と場所と相手を選ばず戦い続けて連続6回の最多防衛記録(当時)を樹立した小林弘/沼田との史上初となる日本人対決,フェザー級王者西城との現役世界王者対決は小林がいたからこそ実現した
※写真右:戦前のピストン堀口と並ぶ戦後最大のスター,ファイティング原田からボクシング界の牽引役を託された人気王者,西城正三/鳴かず飛ばずの6回戦ボーイが単身渡米,徒手空拳の長期滞在でチャンスを掴み,史上初の海外奪取でフェザー級の第1号王者となり”シンデレラ・ボーイ”と呼ばれてマスコミの寵児となる



※90年代を代表する日本人対決:世界を獲ってもなお”中京のローカル・スター”に甘んじていた薬師寺保栄(左)と平成最大のカリスマにして”全国区の大スター”辰吉丈一郎


※2000年代以降激増する日本人対決のトップに君臨する名勝負/原田と西城と同じく人気の面で辰吉の後継者を期待された畑山隆則(左)と”国内最強のライト級”坂本博之(右)

この後日本人同士による世界戦は、2008年にJBCが公認した女子も含めて、ほとんど年中行事のごとく頻繁に行われるようになり、回復の兆しを見せない人気も相まって、世間一般の認知の低さを変えることができずにきた。

井岡に挑戦する為に階級を上げたと言っても過言ではない田中は、「3階級制覇したと言っても、ファンの人たち以外は僕を知らない。思ったほどスポットも当たらない。歯痒さを感じている。」と率直な思いを吐露し、「(井岡戦の勝利は)ゴールではなくスタート。」と抱負を述べる。

対する井岡は、「(自分にとって)何のメリットもない戦い。」と冷めた表情で語り、「格の違いを見せるだけ」だと切り捨てるなど、温度差の違いをことさらに強調。

井岡の本音,本心はともかくも、「モノが違う」と一方的に見下されたことについて、田中と陣営はあえて特段の反応をせず、冷静に受け流しているが、この辺りも盛り上がりを欠く一因になっているのかもしれない。


正直なところ、井岡が4階級を制覇したと言っても、ロマ・ゴンとの対戦を避け続け、勝って当然のローカル・ファイターを相手に防衛を続けたL・フライ級と、同じくスーパー王者ファン・F・エストラーダのおかげで手にしたフライ級の2階級は、獲得に値しないハリボテの王座である。

国内引退を選択してファミリーの下を自ら去り、退路を断って米本土での再起に賭けた井岡ではなく、田中に分がいいスポーツブックの賭け率は、両者に対する客観的な評価を反映したものなのか、それとも単純に田中が無敗を続けているからだけなのか。

海外のファンや記者は、日本のファン以上に数字にこだわる傾向が強く、そこのところは判然としない。ただ、結果として出てきた数字は、絶妙なまでに両者の現在地を表しているのではないかと、そんな思いに囚われる。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
井岡:+135(2.35倍)
田中:-165(約1.61倍)

<2>5dimes
井岡:+145(2.45倍)
田中:-165(約1.61倍)

<3>SportBet
井岡:+148(2.48倍)
田中:-162(約1.62倍)

<4>ウィリアム・ヒル
井岡:13/10(2.3倍)
田中:8/13(約1.62倍)
ドロー:16/1(17倍)

<5>Sky Sports
井岡:6/4(2.5倍)
田中:1/2(1.5倍)
ドロー:12/1(13倍)


思い返せば、112ポンドに上げた井岡は、想像していた以上に体格&パワーの差に苦しんだ。115ポンドへのさらなる増量に際して、フライ級の時ほど苦しまずに済んだのは、日々継続したフィジカル強化の賜物だろう。

「階級の壁」に真正面からぶつかった井岡に比して、田中は「階級の壁」を感じさせることなく、L・フライ級からフライ級への関所を通過した。田中の最大の持ち味は、井上尚弥も敵わないかもしれないスピードだと信じて疑わないが、木村翔とバチバチにしばき合い、田口良一も押し切った田中のフィジカルの強度とパワーは、明らかに井岡を凌ぐ。

苦労の末にようやく上の階級で通用する肉体を作り上げた三十路の4階級王者より、スピード&パワーで明白なアドバンテージを持つ、若くて無敗を維持する3階級王者に予想が傾くのは、むしろ常識的な判断と捉えるべきなのだろうか。そう考えれば、上述したオッズも順当な数字と言えなくもない。


井岡を押すファンも勿論いて、その多くは「ディフェンスと経験を含めた総合力」を大きな拠り所としているようだ。

ミニマム級時代の八重樫戦が最良のサンプルケースになるのだろうが、井岡の最大の長所であり武器だった危険を察知して機敏に反応するレーダーは、「リアルな実力者」との対戦が無かったL・フライ~フライ級の5年間で、無残に錆付き劣化した。

酷く打たれずに済んだのは、挑戦者たちがそれだけのレベルに過ぎなかったということ。不退転の決意で臨んだ米本土での再起に向けて、かつての恩師イスマエル・サラスの門を再び叩き、鍛錬の日々を送った井岡は、かなりの水準までレーダーの感度を回復させている。

だが、「リアルな実力者」との対戦が不可避となり、できれば回避したい筈の打ち合いを選択せざるを得ない場面が増え、それ相応に打たれるようになった。

最も輝いていたミニマム級、二線級との連戦が続いたL・フライ(V3/2KO)~フライ級(V5/3KO)時代のイメージのまま、現在の井岡を評価するのは大きな間違いだ。

減量の影響でそもそも本領を発揮できていなかった108ポンドに続き、慢性化した拳の負傷に腰痛(減量苦が原因と思われる)が加わり、不安定なコンディションに悩まされ続けた115ポンド時代の井上尚弥を、未曾有のパフォーマンスで全世界を驚愕させた118ポンドの姿をダブらせて評価するのと同じ過ちである。


しかしながら、ディフェンスに抱える危うさの話になれば、それはもう、田中の右に出る(?)王者はいないだろう。前後だけでなく左右を十二分に使って、うるさく出はいりを繰り返しつつ、相手の出方に合わせて押しては引くボクシングに徹することができたら、ひょっとしたら田中は115ポンドの頂点に立ってしまうかもしれない。

それぐらい田中のスピードには眼を見張るものがあり、本気で脚を使えば、井岡でなくても追い切れないと思う。それこそ井上尚弥に匹敵する上手さと強さ、群を抜く安定感を常時見せることも不可能ではない筈。

ところが・・・。1発貰うと、田中は退くことができない。一度び打撃戦に雪崩れ込んだら、相手が音を上げるまで打ち続けないと気が済まない。両眼に眼窩底骨折の重症を負ったパランポン戦(2017年9月/108ポンドのV2戦)は、生来の気の強さに油断が加わったものだと、田中自身が認めている。


今回の田中は、「その点は十分にわかっているつもり。同じテツは踏まない。」と言っているが、果たしてその言葉通りになるのかどうか。

仮に田中が今まで通り、強引な前進と打ち合いで正面突破に出たとしても、井岡が「格の違い」を見せつけて、面白いように右のカウンターと左ボディをヒットする場面は想像しづらいけれど、流麗自在なヒット&アウェイを繰り広げ、思いのままに井岡をコントロールする田中もまた、容易にイメージできない。

本音では誰よりも不利を実感しつつも、自らを鼓舞する意味も含めて、敢えて「田中など眼中に無し」と強がっている・・・そんな風に見えなくもない井岡ではあるものの、半ば本気で「我こそはNo.1」を豪語し、熱心なファンからそっぽを向かれていた108~112ポンド時代を思い出すと、こちらもまた「本当に大丈夫?」と、要らぬお節介を焼きたくなってしまう。


拙ブログの勝敗予想は、6-4で挑戦者田中。向こう見ずな打ち合いにのめり込む悪癖を、今度という今度は封印して欲しいとの切なる(勝手な)願いはさておき、フィジカルの強度を含む、スピード&パワーのアドバンテージを小さく軽く見ることは憚られる。

田中がまたしても捨て身のド突き合いに行かざるを得ない、そうした苦境に陥ることがあったとしても、その時は、井岡も綺麗なボクシングのままではいられない。一定程度の乱打戦が不可避となり、そうなればなったで田中が押し切る確率が増す。


世界チャンピオンとなりながらも、”中京のローカル・スター”から脱し切れず、抜群の人気を誇る辰吉の背中を追う立場に甘んじていた薬師寺保栄は、”平成最大のカリスマ”を破って全国区の認知を掴む事に成功した。

薬師寺と同じく、CBCの手厚いバックアップを受ける田中も、自ら認めている通り”中京ローカルの王者”と表しても間違いはなく、そうであるが故に「これはゴールではなくスタート」という事になのだが・・・。

今現在の井岡を、かつての辰吉になぞらえるのは、流石に無理があり過ぎるだろう。3階級,4階級制覇と言っても、世間一般に与えるインパクトは思いのほか小さい。

二線級のチャレンジャーを倒し続けて、「我こそは最強」と悦に入っている間に、覚醒した”リアル・モンスター”井上尚弥にあっさり追い抜かれ、後塵を易々と拝してしまう。


「チャンピオンは希少だからこそ価値がある。階級は8つで十分。認定団体は1つであるべきだし、ランキングも10位までが当たり前。」

硬骨のボクシング・ジャーナリスト,郡司信夫の箴言が、しみじみと胸に染みる今日この頃・・・。


◎井岡(31歳)/前日計量:115ポンド(52.1キロ)
現WBO J・バンタム級(V1),元WBAフライ級(V5),元WBA L・フライ級(V3).元WBA/WBC統一ミニマム級(V3)王者
戦績:27戦25勝(14KO)2敗
世界戦通算:19戦17勝(7KO)2敗
アマ通算:105戦95勝 (64RSC・KO) 10敗
興国高→東農大(中退)
2008年第78回,及び2007年第77回全日本選手権準優勝
2007年第62回(秋田),及び2008年第63回(大分)国体優勝
2005年第60回(岡山),及び2006年第61回(兵庫)国体優勝
2005年第59回,及び2006年第60回インターハイ優勝
2005年第16回,及び2006年第17回高校選抜優勝
※高校6冠/階級:L・フライ級
身長:164.8センチ
リーチ:169センチ
首周:33.5センチ
胸囲:90センチ
視力:左右とも1.5
ナックル:右24.2センチ/左24.5センチ
右ボクサーファイター


◎田中(25歳)/前日計量:115ポンド(52.1キロ)
前WBOフライ級(V3/返上),元WBO J・フライ級(V2/返上),元WBO M・フライ級(V1/返上)王者
戦績:15戦全勝(9KO)
世界戦通算:9戦全勝(4KO)
アマ通算:51戦46勝(18RSC・KO)5敗
中京高(岐阜県)出身
2013年アジアユース選手権(スービック・ベイ/比国)準優勝
2012年ユース世界選手権(イェレバン/アルメニア)ベスト8
2012年岐阜国体,インターハイ,高校選抜優勝(ジュニア)
2011年山口国体優勝(ジュニア)
※階級:L・フライ級
身長:164.6センチ
リーチ:167センチ
首周:35.2センチ
胸囲:84.5センチ
視力:左右とも1.0
ナックル:右25.0センチ/左24.5センチ
右ボクサーファイター

※シントロンとの指名戦では、左前腕だけだった井岡の彫り物が、左腕全体に拡がった。性根を据えてアメリカに拠点を移し、エストラーダ VS ロマ・ゴン戦の勝者との115ポンドのNo.1決定戦に臨む・・・という決意表明のつもりなのか。それとも、ただのファッションなのか。


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□オフィシャル

主審:染谷路朗(日/JBC)

副審:
福地勇治(日/JBC)
村瀬正一(日/JBC)
池原信遂(日/JBC)

立会人(スーパーバイザー):安河内剛(日/JBC事務局長)


※比嘉のプレビューをアップし忘れていた。もう結果は出ているが、せっかく書いたので・・・。
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■主なアンダーカード

<1>WBOアジア・パシフィック バンタム級タイトルマッチ12回戦
王者/IBF9位 ストロング小林佑樹(六島) VS WBA10位/元WBCフライ級王者 比嘉大吾(Ambition)

ベテランのモイセス・フェンテスを、初回僅か2分半余りで粉砕し、故郷沖縄に凱旋の錦を飾ってから2ヵ月後の2018年4月14日(横浜アリーナ)。

ニカラグァの挑戦者クリストファー・ロサレスとのV3戦に備えた前日計量で、まさかの900グラムオーバーで失格となり、本番のリングでも9回TKO負け。プロ初黒星を喫してベルトを手放し、併せて16連続KOの日本記録更新も頓挫。

重い処分(無期限の資格停止と1階級以上の階級アップ)を科せられた比嘉は、昨年10月にライセンスの回復を許されたものの、心から信頼を寄せる野木丈司トレーナーは、体重超過の責任を取る形で白井・具志堅ジムを退職。モチベーションも定まらないまま、今年2月にバンタム級での再起戦に出場。


格下のアンダードッグをボディアタックで6回TKOに退けはしたが、およそ2年ぶりの実戦に増量とチーフ不在が加わり、調整への懸念が囁かれる中、表情にも動きにもパンチにも冴えと精彩を欠く。

相手のフィリピン人選手は、これと言って見るべきもののない平均的な負け役(失礼)との印象だが、身体だけは大きい。フライ級でも小さな部類に入る比嘉とは、とにかくサイズの差が顕著だった。

最後は半ば嫌倒れに追い込み、とりあえずオール・ノックアウトの勝利はつながるも、フライ級時代の爆発力がまったく感じられず、先行きに大きな不安を残しただけでなく、試合後には引退宣言とも取れる発言で物議を醸す。

そして翌3月には、3年の満了時期を迎えていた白井・具志堅ジムとの契約更新を拒否。移籍先も決まらない状態でフリーの身となった。


このまま本当に引退するのではないかと、ファンが真剣にヤキモキし始めた矢先、野木トレーナーの下で練習を再開したと報じられ、Reason大貫ジム(現在:Dangan Aokiジム)からの独立を表明した井岡に続き、アンビション・ジム(Ambition GYM/旧オザキジム)への移籍が承認される。

実際に井岡が自前のジムを開設した訳ではなく、加山利治(元日本ウェルター級王者)のEBISU’K'S BOXジムに間借りをしてのスタートではあったが、野木トレーナーの支えを得た比嘉は、10月26日に後楽園ホールのリングに上がり、平成国際大で活躍した角海老の堤聖也(5勝4KO1分け/アマ通算:84勝40RSC・KO17敗)と対戦。

2人は高校時代に2度の対戦経験があり(堤の2勝)、堤が熊本の出身ということもあって、「友人対決」と煽られそれなりに話題にもなったが、互いに決定打を決め切れず、一進一退のまま10ラウンズを終了。


ジャッジの1人が比嘉を支持し、残りの2人が引き分けのスコアを付けて、何ともすっきりしないマジョリティ・ドロー。試合開始前には笑顔がこぼれるなど、別人のように生き生きとしていた比嘉だが、フィリピン人との再起戦で表面化した「パワー不足」がはっきりする。

「比嘉ほどのパンチャーでも、6ポンドの増量でここまで決定力を失うのか・・・」

マニー・パッキャオや井上尚弥の超人ぶりに見とれていると、階級アップの難しさをうっかり見失ってしまう。

もっとも、武漢ウィルス禍の影響を含む2年に及ぶブランクを経ての再起だけに、これまでの2試合で比嘉の現在地を断定的に語るのは早計だ。バンタム級にアジャストする為には、今少しの時間が必要なのかもしれない。


形の上では受けて立つ立場の小林は、2011年デビューのプロ9年生。八尾ジムに所属して、本名の小林佑樹でスタートしたが、六島ジムへの移籍に伴い、同ジムの伝統に倣って(?)改名した。

S・バンタム級でエントリーした西日本の新人王戦は、決勝で金沢ジムの新井勇一に判定負け(2012年6月/プロ初黒星)。大島正規(堺東)との2連戦に勝って一息つくが、大村起論(ハラダ)と小澤サトシ(真正)に連敗(2013年)して、これを機にジムを移る。

移籍後4戦して3勝(1KO)1敗(グリーンツダの丹羽賢史に8回判定負け)の星を残し、井岡ジムが主催する2015年の大晦日興行に参戦。OPBF王者だった山本隆寛(井岡/引退)に初挑戦するも、序盤に4度倒され2回TKO負け。

半年休んで復帰戦に勝利すると、韓国に遠征してIBFの地域王座にアタックするが、これも12回判定負け(2016年11月)。さらに翌2017年3月には、世界タイトル挑戦経験を持つレイ・ミグリノ(比)にぶつかり、初回30秒足らずでKO負け。


バンタムとの間を行き来しながらも、S・バンタムを主戦場にしていたが、ミグリノ戦を契機に118ポンドに定住。8月に組まれた再起戦では、一度敗れている小澤サトシ(真正)とのリマッチとなり、2回KOで快勝。

この後3連勝(1KO)を追加し、2018年12月、OPBF王者の栗原慶太(一力/年明けに井上拓真の挑戦を受ける)に挑み、0-3の判定で完敗。

昨年5月の復帰戦で、フィリピンのベン・マナンクィルを10回TKOに下し、WBOアジア・パシフィック王座を獲得。苦節9年目にして、遂に念願のベルトを巻く。12月には初防衛戦を消化し、これからという時に武漢ウィルスが襲来した。


ボクシングそのものは右の正攻法で、リングネームのように珍奇なことや、奇をてらう真似はしない。パワー,スピード,テクニックのいずれにも際立った特徴は無く、積み重ねたキャリアで身に付けた駆け引きとスキル、簡単に折れないハートを武器にしぶとく食い下がる。

心からの信頼を寄せる戦友,野木トレーナーと再び手を携え、別人のように表情も明るく精気に満ちた比嘉への期待は否が応でも高まるけれど、小林もまた、アマチュア出身で105ポンドの日本1位まで行った武市晃輔のサポートを受けて、気力体力ともに充実の様子。


※写真左:小林と武市晃輔.トレーナー
 写真右:比嘉と野木丈司トレーナー

小林のファンとご家族には申し訳ないけれど、比嘉がフライ級時代の突破力を発揮できれば、前半で決まってもおかしくない。小林には加齢と歴戦によるフィジカルの傷みが散見され、純粋に力量のみを比較した場合、両雄にはそれぐらいの差がある。

しかしながら、戦うのは118ポンドのバンタム級。比嘉の優位は揺るがないと思うけれど、小林を倒し切れるまでに、新しい階級にフィットできているのかどうかは・・・。


□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
小林:+350(4.5倍)
比嘉:-500(1.2倍)

<2>5dimes
小林:+365(4.65倍)
比嘉:-460(約1.22倍)

<3>SportBet
小林:+379(4.79倍)
比嘉:-446(約1.22倍)

<4>ウィリアム・ヒル
小林:7/2(4.5倍)
比嘉:1/6(約1.17倍)
ドロー:20/1(21倍)

<5>Sky Sports
小林:4/1(5倍)
比嘉:1/6(約1.17倍)
ドロー:20/1(21倍)


まず、この試合をブックメイカーが採り上げたことに驚く。WBCフライ級の王座を2度守り、デビューから15連続KOを続けた比嘉の認知と評価には、それなりのものがあるようだ。

”パワーハウス比嘉”の復活に期待をしつつ、まずは負けないことを第一に。叩き上げのベテランを侮ると、思わぬ落とし穴にはまって手痛い目に遭いかねない。


◎小林(29歳)/前日計量:117ポンド1/2(53.3キロ)
戦績:24戦16勝(9KO)8敗
正確な身体データ:不明
右ボクサーファイター


◎比嘉(25歳)/前日計量:118ポンド(53.5キロ)
元WBCフライ級王者(V2)
戦績:18戦16勝(16KO)1敗1分け
アマ通算:45戦36勝(8TKO)8敗
沖縄県立宮古工業高
身長:161センチ
リーチ:163センチ
※クリストファー・ロサレス戦の予備検診データ
好戦的な右ボクサーファイター