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ネットオヤジのぼやき録

ボクシングとクラシック音楽を中心に

リゴンドウが1年ぶりの登場 -ウォード VS コヴァレフ II アンダーカード直前プレビュー-

2017年06月17日 | Preview
<1>6月17日/マンダレイ・ベイ・ホテル&カジノ,ラスベガス/WBA世界S・バンタム級タイトルマッチ12回戦
WBAスーパー王者 ギジェルモ・リゴンドウ(キューバ) VS WBA暫定王者 モイセス・フローレス(メキシコ)



試合枯れが常態化した感もあるリゴンドウが、2010年以来保持するWBA王座のV10に臨む。まずは暫定からスタートすると、リコ・ラモス(下田昭文を逆転KOに屠って載冠)を強烈な左ストレートの一撃で倒して正規に昇格。世界最高水準と称される卓越したスキルと、突出したスピード&身体能力に恵まれ、並みのランカーではほとんど試合にすらならない。

ノニト・ドネアとの2団体統一戦における”スーパー安全策”は大いに物議を醸し、賛否両論入り乱れての議論が各国のマニアの間で戦わされたが、軽量級を席巻するドネア旋風に歯止めをかけ、WBOのベルトを吸収するとともに、WBAはスーパー王座を承認。

本来ならばドネア戦の勝利を持って、リゴンドウに対する評価はメイウェザー&パッキャオの域に達しても良さそうなものなのに、「いったい何なんだ、あの逃げ腰は!」と、試合を中継したHBOから痛烈なダメ出しを食らい、挙句トップランクは契約更新を見送り。

同じキューバ生まれの天才ユリオルキス・ガンボアは、条件闘争に明け暮れるようになり、文字通りケツをまくってボブ・アラムと決別したが、法廷闘争を仕掛けられて雪隠詰めにされかけた。リゴンドウもかねてより、「報酬が低過ぎる。」とアラムに不満を訴え続けていたが、ガンボアのように反抗する間もなく、あっさりクビを切られてしまった。

現在に続くリゴンドウの低迷は、まさしくドネア戦が契機になったと言っても過言ではない。自らが望む条件で試合をまとめ切れないマネージャーに業を煮やし、長年パートナーを務めてきたゲイリー・ハイドに解雇を通告。突然の来日(2014年の大晦日)も、そうした苦境の中で実現したという次第。


資金力と政治力を兼ね備えて、世界戦を頻繁に誘致できるプロモーターの数は限られる。実力に比して著しく集客力を欠き、HBOから切られたリゴンドウに暖かい手を差し伸べるプロモーションは容易に現れず、引退すら噂される事態に陥ったものの、昨年春、ようやくロック・ネイションとの話し合いがまとまった。

ところがどっこい、試合が決まらない状況に大きな進展はない。一定の技術と経験を有するボクサーがディフェンス中心に戦ったら、どれほど攻撃力のあるパンチャーやファイターといえども、そう簡単に切り崩せるものではなく、リゴンドウほどの選手に専守防衛を許そうものなら、大概のボクサーはお手上げだ。

ほとんど勝ち目がない上に、条件はけっして良くない。ハイリスク・ハイリターンだからこそ、中量級のトップ・ボクサーたちは負けを承知でメイウェザーやパッキャオと戦いたがる。ハイリスク・ローリターンに喜んで応じるボクサーが、いったいどこの世界にいるだろうか。有力選手を抱えるマネージャーやプロモーターなら、敬遠するのが当たり前。


「私がただ逃げ回っているだけの臆病者だって?。HBOとアラムは私を公然と侮辱したが、だったら、メイウェザーはどうなんだ?。私と彼のどこが違うと言うのか!。」

憤懣やるかたないリゴンドウの怒りと無念は、察して余りがある。だがしかし、「巧くて強い」というだけでは、プロの世界で最高峰の頂点を極める事はできない。熱狂的なファンの支持無くして、スーパースターの地位を得ることは不可能と知るべきだ。

同じ逃げ回るにしても、メイウェザーにはスターとしての華がある。同じクリンチ1つにしても、見る者を納得させるだけの見栄えが必要なのだ。リゴンドウには、その大原則を理解していないフシが伺える。

勿論メイウェザーにも批判はつきまとう。アンチ・メイウェザーは想像以上に多いと思われ、「負けるところ見たさ」にチケットを買い、PPVを申し込むファンも相当数に上るのではないか。今では私も、はっきりアンチの立場に立っている。

「試合を観戦する以上、アンチもファンの1人である事に変わりはない。純粋にビジネスとして考えれば、アンチも重要な収益源なのだ。」

どこからから、そんな声も聞こえてくるけれど、リゴンドウにはそのどちらも存在しないという事なのか。次元の違うボクシング・スキル&センスに加えて、リゴンドウには一撃必倒の左ストレートがある。

キューバが誇る異能に天は二物も三物も与えたのに、それでもなお守備的なスタイルに凝り固まるのは、天笠戦で露になった打たれ脆さ故だろう。最高級の技術とセンスを身に付けた天才の顎は、豆腐のように柔らかく崩れ易い。勝利の女神は、リゴンドウから頑丈な顎を取り上げることで、それなりのバランスを取ったと解釈すべきなのか。


「指名戦でさえ実現するのに四苦八苦する。誰も私と戦いたがらない。入札になれば、不当に安い報酬を強いられる。年に3回戦う準備ができているというのに・・・。」

リゴンドウの嘆きには同情を申し上げるが、自業自得と言わざるを得ない面もある。今回指名(WBA内統一)戦を受けた勇気あるメキシカンは、26戦して無敗の猛者。入札の期限ギリギリではあったが、交渉の妥結と報じられた。

2015年4月、オスカル・エスカンドン(コロンビア)を小差の2-1判定に下して暫定王座を獲得。ルイス・E・クソリート(亜/2015年9月:TKO12R),ポーラス・アンブンダ(ナミビア/2016年6月:12回3-0判定勝ち)を破って2度の防衛に成功。恵まれたサイズを活かし、体ごと押し込んでいくプレッシャー型と言っていい。

自慢の馬力でガンガン追い詰め、稀代の天才ボクサーに一泡吹かせたいところだが、リゴンドウがいつも通りに仕上げてきたら、攻略するのはほとんど不可能に近いと思う。ドネアでさえ、真正面からドンと行ったら分が悪い展開に持ち込まれる。

フローレスの頑丈なフィジカルは、リゴンドウでなくとも厄介で、まともに相手にしたら大変。しかし、ドネアほどのスピードは無い。この階級では攻守の切り替えも早いとは言えず、ガードの隙も目立つ。

左の大砲をチラつかせてフローレスの出足を鈍らせ、1歩2歩引いて誘い出しては空転させる。正確なジャブとショートの左をコツコツ当ててポイントを稼ぎ、じりじりと追い詰められる苦しさに焦りが加わり、窮鼠猫を噛もうと前に出た瞬間、狙い済ました左の大砲が火を噴く。


リゴンドウがここ一番に放つ左は、背筋が寒くなるほど恐ろしい。いざとなれば、とてつもない破壊力を開放する。そして誰もが羨む最高の宝を、持ち腐れにする事も厭わない。フローレスはひたすらガードを固めて、フィジカルの差を頼りに圧力をかけ続けるしかないのでは・・・。


◎リゴンドウ(36歳)/前日計量121.5ポンド
現WBAスーパー(V9),元WBO同級王者(V3)
戦績:17戦全勝(11KO)
アマ通算:463勝12敗(元マネージャーの申告)
2004年アテネ五輪,2000年シドニー五輪金メダル(五輪連覇)
2005年世界選手権(綿陽市/中国)金メダル
2001年世界選手権(ベルファスト/英アイルランド)金メダル
※階級はいずれもバンタム級
身長:161.5センチ,リーチ:173センチ

◎フローレス(30歳)/前日計量122ポンド
WBA暫定王者(V2)
戦績:26戦25勝(17KO)1NC
身長,リーチともに175センチ
右ファイター


□オフィシャル

主審:ヴィック・ドラクリッチ(米/ネバダ州)

副審:
アデレイド・バード(米/ネバダ州)
バート・クレメンツ(米/ネバダ州)
グレン・トゥロウブリッジ(米/ネバダ州)

立会人(スーパーバイザー):レンツォ・バグナリオル(ニカラグァ/WBAインターナショナル・コーディネーター)


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<2>USBAミドル級タイトルマッチ10回戦
王者 ルイス・アリアス(米) VS アリフ・マゴメドフ(ロシア)



ミルウォーキー出身のアリアスは、キューバに出自を持つミドル級プロスペクト。ボクシングを始めたのは7歳の時で、早くから才能と適性を発揮。ジュニア~ユースで活躍した後、五輪のメダル候補として注目を集めるも、2012年ロンドン大会への出場は叶わず同年11月プロデビュー。

2015年の秋にロック・ネイション・スポーツと契約し、本格的な売出しを開始。現在のトレーナーは、ジョン・デヴィッド・ジャクソン(元WBAミドル級,WBO J・ミドル級王者/アマ通算206勝9敗)。KO率はさほどでもないが、けっしてパンチがない訳ではない。上体を直立した現代流アップライト・スタイルから、鋭く速い良いジャブを突く。アマチュアライクな戦い方から抜け出すのに時間を要したが、プロの倒し方を身に付けつつある。

ロサンゼルスに拠点を持つロシア人マゴメドフも、大きな戦果こそ残せなかったようだが、トップクラスのアマチュアとして鳴らしたらしい。ご本人の弁によると、「最初に習ったのはキックボクシングで、ボクシングを始めたのは14歳から」だそう。すぐに夢中になり、「ボクシングは私の人生そのものとなった。」との事だ。

スピードを持ち味にしたまとまりのいいボクシングをするが、1発の怖さはない。体力に優るアリアスがプレッシャーをかけ続けて、そのまま力で押し切ってしまう確率が高いと見るが、粗く雑に振り回し過ぎると、ロシア人のシャープなカウンターを浴びる恐れも充分。

順当なら、中盤~後半にかけてアリアスのTKO勝ち。前半調子に乗ってオーバーペースになると、思わぬ波乱も有り得るか・・・。


◎アリアス(27歳)/前日計量160ポンド
戦績:18戦17勝(8KO)1NC
アマ通算:140勝25敗
2010年全米選手権優勝
2008年ジュニア全米選手権優勝
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)銅メダル
身長:180センチ
右ボクサーパンチャー

◎マゴメドフ(24歳)/前日計量159ポンド3/4
戦績:戦18勝(11KO)1敗
身長:178センチ,リーチ:175センチ
右ボクサーファイター


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<3>L・ヘビー級10回戦
ドミトリー・ビヴォル(キルギスタン) VS セドリック・アグニュー(米)



キルギスタンと言えば、90年代前半~半ばにかけて活躍した天才的なサウスポー,オルズベック・ナザロフ(元WBAライト級王者/協栄ジム所属)が思い出されるが、左右の違いはあれど、ビヴォルも完成度の高い万能型ボクサーファイターだ。

黒い髪と東洋系の面立ちのナザロフは、フライ級でセンセーションを巻き起こしたユーリ・アルバチャコフとともに、来日したペレストロイカ軍団を代表する存在感を示したが、ビヴォルの外見は東洋人そのものと言ってもいい。

パンチの威力は戦績以上。機動力もまずまずで、3年前にコヴァレフにアタックしたアグニュー相手に、コンテンダーの実力を見せ付けたいところ。キルギスの新星が、いよいよ地金を問われる。


◎ビヴォル(26歳)/前日計量174.5ポンド
戦績:10戦全勝(8KO)
アマ通算:268勝15敗
2012年U22欧州選手権L・ヘビー級優勝
2012年ロシア選手権L・ヘビー級金メダル
2011年ロシア選手権ミドル級銀メダル
2010年ロシア選手権ミドル級銅メダル
2008年ユース世界選手権(グァダラハラ/メキシコ)ミドル級銅メダル
身長:183センチ
右ボクサーファイター

◎アグニュー(30歳)/前日計量175ポンド
戦績:31戦29勝(15KO)2敗
アマ戦績:不明
2006年シカゴ・ゴールデン・グローブス優勝
2004年U19全米選手権優勝
2004年ナショナル・ゴールデン・グローブス準優勝
※階級はいずれもL・ヘビー級
身長:183センチ
左ボクサーファイター


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<4>フェザー級8回戦
トラメイン・ウィリアムズ(米) VS クリストファー・マーティン(米)



コネチカット出身のウィリアムズは、シルバーグローブスやナショナルPAL等で輝かしい戦果を残した小兵のサウスポー。主だったタイトルはジュニアの時代に獲得したものだが、9歳でジムに通い始めた当初から将来性を見込まれ、早い段階で関係者の注目を集めていたウィリアムズは、ボクサーとしての成功を目指す多くの貧しい黒人の若者がそうであるように、明日のメダルよりも今日の糧を選択。

トップランクと5年間の長期契約を結び、2012年4月,4回戦でプロの初陣を飾ると、およそ1年の間に8連勝(2KO)をマーク。KOこそ少ないが、6回戦が1試合のみで他はすべて4回戦であり、スピードを活かしたスキルフルなスタイルを志向するウィリアムズ故に、判定決着が増えるのは止むを得ない。

順調と思われたキャリアに暗雲が垂れ込めたのは、2013年8月のプロ9戦目。ヒスパニック系の無名選手をコントロールしていた第3ラウンド、予期せぬヘッド・クラッシュでノー・コンテスト。

怪我が癒えるのを待ち、2014年1月23日、ニューヨークの殿堂マディソン・スクウェア・ガーデンでの再起戦が決定。しかし本番2日前、公式計量の前日に突然ウィリアムズは逮捕拘束される。故郷ニューヘイブンで起きた強盗事件の捜査対象となり、家宅捜索が行われ、短銃と麻薬が発見された為だった。先に捕まった他の容疑者(全部で11名)が、ウィリアムズも仲間だったと証言したらしい。

必死に無実を訴えたが、裁判で有罪が確定。トップランクとの契約は解除され、2年半の懲役刑に処されたウィリアムズは、焦らず腐らず再起を信じ、塀の中で節制と鍛錬の日々を送ったという。自らトレーニング・メニューを組み、食事の量を加減。実践練習は当然不可能だが、太り過ぎないよう毎日体重をチェックし、フィジカルの錆付き防止に努めた。

絶望のどん底にいたウィリアムズを支えたのは、幼い頃から指導を受けたトレーナーのブライアン・クラーク。定期的に刑務所を訪れ、トレーニングに関するアドバイスを行うだけでなく、冤罪を主張し続け再審の開始と釈放に向けた活動を継続。こうした周囲の理解と努力もあり、クラークが身元引受人となり、彼のジムに住み込んで練習を続けることを条件に、刑期は1年に短縮。2015年4月に仮釈放される。



トップランクが再度獲得に動いているとも報じられたが、釈放の翌月、早くもホームのコネチカットでカムバック。万全の状態とは言えなかったが、ペンシルベニアの無名選手に5回TKO勝ち。興行を取り仕切ったのは、A・J・ガランテ(プライズ・プロモーションズ)という同州のローカル・プロモーターだった。

その後複数のプロモーションとの交渉を経て、ウィリアムズが最終的に選んだのは旧知のトップランクではなく、新興の興行会社ロック・ネイション・スポーツ。著名なラッパー,音楽プロデューサーとして名を馳せ、ビヨンセとの結婚が大きな話題となったJAY-Zが資金を出し、ゴールデン・ボーイ・プロモーションズでCOOを努めていたデヴィッド・イツコヴィッチをトップに据えて、2015年1月のMSG興行で船出したばかり。

今年3月25日、カンザス州マルベインで行われたニコ・ヘルナンデス(リオ五輪L・フライ級銅メダリスト)のデビュー戦に合流し、自身初の8回戦で判定勝ち。新体制でのリスタートを無事白星で飾った。


対峙するマーティンは、カリフォルニア・ベースの30歳。2006年にデビューした当時、ウィリアムズ以上に将来を嘱望されたホープの1人だったが、海千山千のメキシカン,ホセ・アンヘル・ベランサ(2度来日して大場浩平,三谷将之に判定負け)にまさかの1-2判定で敗北。

以降は拙戦・苦闘続きとなり低迷。2014年~16年にかけて、現WBC王者ゲイリー・ラッセル・Jr.,ミゲル・マリアガらに4連敗。無名選手に判定勝ちを収めて一息ついたが、昨年5月、再起の途上にあるジョニー・ゴンサレスのチューンナップに抜擢され、10回終了TKO負け。新たなプロスペクトやランカー,元王者たちに、安全確実に白星を献上する中堅どころとして、完全に落ち着いてしまったとの印象。

すっかりアンダードッグが板に付いたマーティンだが、意地を見せて番狂わせを引き起こす事ができるのか。駆け引きに時間を使うウィリアムズは、長期戦を前提とした組み立てにならざるを得ず、一旦膠着した展開になると容易に抜け出せない。ナメてかかると、痛い目に遭う恐れはある。

一気呵成の即決勝負を見てみたい気もするが・・・。


◎ウィリアムズ(24歳)/前日計量124.5ポンド
戦績:11戦10勝(3KO)1NC
アマ通算:97勝10敗
身長:163センチ,リーチ:173センチ
左ボクサーファイター

◎マーティン(30歳)/前日計量125.8ポンド
戦績:戦30勝(10KO)8敗3分けNC
身長:170センチ,リーチ:168センチ
右ボクサーファイター


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<5>ミドル級8回戦
ヴォーン・アレクサンダー(米) VS ファビアーノ・ペーニャ(メキシコ)



31歳でプロ10戦。ヴォーン・アレクサンダーは、2階級制覇を達成したデヴォンの実兄(2歳年長)で、兄弟揃ってアマチュア(主にジュニア)で活躍した後、2004年4月に18歳でプロ・デビュー。

当時のウェイトはウェルター級。弟とともにドン・キングの傘下に収まり、4回戦で5連勝(4KO)をマーク。順調なスタートを切った筈だったが、武装強盗の容疑で逮捕されてしまい、何と18年もの実刑判決を受ける。

「18歳の時、私は大きな過ちを犯した。罪を償う為に刑務所へと送られ、長い時間を過ごす事になったが、私の心は常にリング上にあった。必ずここに戻ってくると、自分自身に誓った。」

「試合はできないが、来るべき日に備えて心身を鍛える事は可能だ。体重が175ポンド(L・ヘビー級リミット)を超えないよう注意を払い、ドラッグの誘いも拒み、誠実に日々を送り続けた。どんな人間にも、必ずセカンド・チャンスは与えられる。そう信じて、自分なりにベストを尽くしてきた。」


その言葉通り、収監されて11年目となる昨年3月、待ちに待った釈放が認められる。ホームタウンのセントルイスに戻り、弟デヴォンとともに世界王者を目指したセント・チャールズ・ジムで、トレーナーのケヴィン・カニンガムとともに汗を流す。

10月22日にセットされた復帰第1戦は、3連敗中の無名選手が相手の4回戦。166ポンドのS・ミドル級で調整し、L・ヘビー級の格下選手を2回KOに屠った。12年ぶりとなる実戦を終えた後、キャシー・デュバ率いるメイン・イベンツと正式に契約。

1ヵ月後の11月26日、コネチカット州のインディアン・カジノで6回戦に臨み判定勝ち。今年4月に同じ会場で初の10回戦を経験(判定勝ち)すると、先月12日にもセントルイスで2回KO勝ち(4回戦)。今回は対戦相手のレベルを一段アップし、本格的なキャリアメイクに向けて弾みをつける。


本場アメリカで名を成す黒人(及びヒスパニック系)のトップ・ボクサーには、逮捕歴を持つ者が少なくない。ヴォーンが載冠を目論む160ポンドで10年以上も無敵を誇り、世界王座の最年長奪取記録を更新したバーナード・ホプキンスも、ティーンエイジの後半に複数の重犯罪に手を染め、アスリートとして最も貴重な時期を棒に振っている。

我らが石田順裕にメガ・アップセットを提供したジェームズ・カークランドも、トップ・グループ入りを目前にしながら、車のスピード違反で捕まった事をきっかけに銃の不法所持が見つかり、再び塀の中に放り込まれてしまう。石田に喫したショッキングな初回KO負けは、丸2年に及ぶブランクが明けた直後の再起第3戦だった。

そして今も記憶に新しい、アイアン・マイク・タイソンのレイプ事件。ドノバン・レーザー・ラドックとの2連戦で、久しぶりに”らしさ”を披露。復活への兆しが見えた1991年夏、強姦の罪で告発され投獄。3年半の服役(懲役6年の実刑判決)を経てカムバックし、WBCとWBAの王座に復帰を果たすも、イヴェンダー・ホリフィールドに2連敗。再戦での耳噛み事件により、事実上キャリアは終焉した。

莫大なPPVセールスを度々記録し、途方もないギャランティを稼ぎ出したタイソンだが、ボクサーとしてのトータルな評価は、モハメッド・アリやジョー・ルイスには遠く及ばない。貧困と犯罪の只中で、心ならずも少年期を送らなければならないマイノリティ故の宿命と表するのは、余りに短絡的に過ぎるとは思うけれど、彼らが描く成功と転落のコントラストは、銃とドラッグに彩られたアメリカ社会の光と影を、見事なまでに反映している。




「今はまだ、具体的な事は何も言えない。大きな話をする為には、誰もが認めざるを得ない確かな実績が必要だ。残された時間に限りはあるが、必ず目的を達成する。デヴォンと一緒に、きっと世界チャンピオンになって見せる。」

左のガードを腰の位置までダラリと下げ、高く保持した右の拳を左に倒し、交差させるような構えから左右の強打を叩き込む。昔懐かしいクロスアーム・ディフェンスの態勢は、1歩間違うとオールド・ファッションのそしりを免れない。上体を振らず直線的に繰り返す前後の出はいりが、現代の香りを醸し出す。

それを単純に、「スタイルの進化」と呼んで良いのかどうか。私はその点については否定的で、攻勢に出て前がかりになった場合、大きなリスク=ディフェンスの決壊=に直結するとの考えは変わらない。


「常に頭を振るんだ!(両方の)拳を片時も顎から離すな!」

カス・ダマトによって、深めの前傾とピーカブーを徹底的に叩き込まれたタイソンですら、ラウンドが長引くとセミ・クラウチングの維持が困難となって集中を欠き、上半身を立てたまま相手の正面に留まり、足が揃う悪癖を改善し切れなかった。

とても強打者とは言えない石田に3度倒され、カネロの右カウンターをまともに浴びて失神したカークランドも然り。”小型タイソン”と呼ばれ、大成を期待されたカークランドこそ、頭と肩を振らない現代流ファイターの典型。


対戦相手のレベルが少しづつ上がるこれからが、”不肖の兄”にとっての正念場となる。真に試される機会は、本人が述べている通りまだまだ先だが、そこに辿り着く前に退場を余儀なくされるケースも有り得るだろう。

長い付き合いのカニンガムが、どう修正を施して行くのか。アミル・カーンに完敗(2014年12月)した後、2015年10月の再起戦を大失敗したまま、実戦から遠ざかっている弟デヴォンの捲土重来も含めて、その手腕に注目が集まっている。



まずは問題なく突破したい相手ではあるが、ベテランのメキシカンを侮るのは危険。攻撃的に仕掛けて、さほど手間をかけずに終わらせたいところではあるものの、そこまで簡単に問屋が卸してくれるのかは疑問。タフなペーニャを持て余し、スッキリしない判定勝負も想定の範囲内。


◎アレクサンダー(31歳)/前日計量161ポンド
戦績:9戦全勝(6KO)
アマ通算:300戦超(詳細不明)
身長:179センチ

◎ペーニャ(29歳)/前日計量166ポンド
戦績:27戦19勝(15KO)7敗1分け
身長:176センチ,リーチ:183センチ
右ボクサーファイター


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<6>S・ミドル級6回戦
ジュニア・ヨウナン(米) VS ゾルタン・セラ(ハンガリー)



N.Y.ブルックリン出身のヨウナンは、”シュガー・ボーイ(Sugar Boy)”のニックネームを持つ、弱冠21歳の中重量級プロスペクト。実父シェリフは、ゴールデン・グローブス等のトーナメントで名前を知られた元ボクサーで、名門グリーソンズ・ジムで腕を磨いた実力派だった。

「初めてジムに連れて行ったのは、確か2歳の時だったと思う。リングは彼の遊び場だったんだよ。」

父によれば、本格的なアマの活動を始めた8歳当時から、シェリフ・ジュニアはずば抜けた身体能力とセンスを発揮していたそうで、10歳の少年を取材したN.Y.タイムズが、「天才少年現る!」と絶賛したという。プロとなった今も、父シェリフとの関係は円満。深く堅い絆で結ばれた親子鷹に、破綻の気配は感じられない。

ジュニア・オリンピックやシルバー・グローブスで傑出した実績を残し、シニアに進んだ後もナショナルPALのトーナメントで優勝するなど、リオ五輪の有力なメダル候補として全米アマ関係者の熱い期待を双肩に担っていたが、2013年11月4回戦でプロデビュー。

一目でわかるヨウナンの特徴は、ため息が出るほど素晴らしいスピード&アジリティにある。パワーも十分過ぎるほどに恵まれているが、手足の速さが尋常ではなく、素早くセンシブルな身のこなしは、N.Y.タイムズの取材記者を唸らせた天才少年の面目を躍如させるものと評すべきだろう。


「フロイド・メイウェザーとロイ・ジョーンズを掛け合わせた才能。」

最近の記事には、”The Young God”の文字さえ躍る。現時点では、勝って当然のアンダードッグを相手にしている為、ジュニアの良さばかりが目立つのは仕方がない。格好良く攻め込む場面が多く、打たれた際の耐久性や柔軟性等、ディフェンスのアビリティを証明する機会は、手強い相手が増える今後の課題になるけれど、類まれな素質の持ち主であることは議論の余地がない。

無名のハンガリー人がどこまで踏ん張れるか。ディフェンスに関しては未知数だけに、いい意味での開き直り、思い切りが求められる。ここ一番の度胸を決めて、先に強打を打ち込めれば面白い展開も期待できそうだが・・・。




◎ヨウナン(21歳)/前日計量170.5ポンド
戦績:11戦全勝(8KO)
アマ通算:90勝5敗
身長:183センチ
右ボクサーパンチャー

◎セラ(32歳)/前日計量170.5ポンド
戦績:42戦29勝(20KO)13敗
身長:177センチ,リーチ:155センチ
右ボクサーファイター


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キックボクシングから転身したエンリコ・ゴゴーヒア(国籍:ウクライナ,グルジア出身/カリフォルニア・ベースのウェルター級)が国際式5戦目を行う他、ミドル級のバクラム・ムルタザリエフ(ロシア/8戦全勝6KO)、ミゲル・コットがスカウトしたS・ライト級のホープ,ジョン・バウサ(プエルトリコ/6戦全勝3KO)らが登場予定。
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