■12月19日/アラモドーム,テキサス州サンアントニオ/WBA世界S・ミドル級王座統一,及びWBC S・ミドル級王座決定12回戦/スミスが保持するWBCダイヤモンド王座は懸けられない
WBAスーパー王者 カラム・スミス(英) VS WBA正規王者 カネロ・アルバレス(メキシコ)
いよいよカネロが、テキサスの要所アラモ・ドームに登場。かつてフリオ・セサール・チャベスが、WBCウェルター級王座を保持するパーネル・ウィテカーに挑戦を表明し、4階級制覇を狙って雌雄を決した因縁の会場であり、メヒコのスーパースターを自認する以上、いずれは立たなければならないリングの1つではあった。
かつてメキシコの領土だったテキサスは、カリフォルニアに次いでメキシコ系移(住)民の構成比が高く、メキシコのボクサーにとって、西海岸やアリゾナと並ぶ重要な地であり、遅きに失したと表した方が正しいのだろう。
本来なら、キャパ一杯に近い5~6万席を用意して、超満員に膨れ上がらせたいところだが、武漢ウィルス騒動のお陰でそうもいかない。
契約を巡って勃発したトラブルや、チャベスが成し得なかった4冠王の奪取に成功した前戦から開いた1年のブランク、ウェイト(L・ヘビー → S・ミドル)等々、懸念される要素は様々あるが、カネロ自身は終始泰然自若とした様子で、表情には余裕すら感じられる。
メキシコ産牛肉(クレンブテロール/ジルパテロール)を言い訳にした禁止薬物の使用は、けっして許されてはならないし、まともなペナルティを受けないままの現状は明らかに間違っている。
長期のサスペンドは免れず、公式戦への出場が認められること自体有り得ない。恥ずかしげもなく、P4Pランキングのトップに名前を大書するリング誌も狂っているし、カネロへの手放しの賞賛もおかしいと思う。
どこもかしこも狂ってはいるけれども、力のあるプロモーターとボクシング専門メディア、WBCを筆頭にした主要4団体だけでなく、ネバダを始めとする主要コミッションからも手厚いプロテクトを受ける存在に、カネロはもはやなってしまったということ。
一方完全アウェイとなるスーパー王者カラム・スミスは、ビートルズ誕生の地リヴァプールを代表するボクシング・ファミリーに生を受け、長兄ポール(38歳/S・ミドル級元英国王者/38勝22KO7敗),次男スティーブン(35歳/S・フェザー級元英国王者/28勝15KO4敗),三男リアム(32歳/S・ウェルター級元WBO王者/29勝15KO2敗1分け)とともにプロ入り。
4人揃って世界王者になる夢は叶わなかった(長兄ポールが引退)が、154ポンドのWBOタイトルを2度防衛したリアムに続いて、S・ミドル級のカラムがWBSS(World Boxing Super Series)の第1シーズンに参戦。
同じイングランドのトップ・スター,ジョージ・グローブスを7回KOに屠り、引退に追い込むと同時に、WBAスーパー王座とアリ・トロフィーを獲得した。
当時のIBF王者ジェームズ・デ・ゲイル(英)が参加を見送り(その後引退)、クラス最強と目されていたWBO王者ヒルベルト・ラミレスは、WBSSのアメリカ側プロモーター,リチャード・シェーファー(アル・ヘイモンのグループ)と反目するトップランクの持ち駒で、そもそもボブ・アラムが敵に塩を贈る筈がない。
そしてWBC王者バドゥ・ジャックも、L・ヘビー級への階級アップを表明してWBSSには見向きもせず、ジャックの後継王者となったWBC王者デヴィッド・ベナビデス(ラミレスに肩を並べる人気と実力の持ち主)は、トップランクへの鞍替えが報じられると同時に、保有権を主張するサンプソン・ルコヴィッツとの間で法廷闘争が勃発。WBSSへの参戦を云々する状況ではなくなった。
キャリアの停滞を避けるべく、ベナビデスはトップランクとの契約を諦め、手付金をそっくり返却してルコヴィッツとの元鞘を選択。アラムも珍しく矛を収めて、ベナビデスは長期のレイ・オフを免れる。
オレクサンドル・ウシクを筆頭に、主要4団体の王者がすべて顔を揃えたクルーザー級に比べて、S・ミドル級の面子は格落ちの感が否めず、ラミレス,ベナビデス不在の優勝だった為、カラムを168ポンド最強と呼ぶことに違和感を覚えるファンは多かった。
ベナビデスとの激突が期待されたラミレスがL・ヘビーに上がり、S・ミドルの主役になるべきベナビデスはドーピング違反で一度ベルトを失い、すぐに王座に復帰したものの、今年8月の防衛戦でウェイト・オーバーを冒し、2度目のベルト放棄。
ドーピング違反にもかかわらず、WBCのマウリシオ・スレイマン会長は休養王者に横滑りさせる温情裁定を発動。当たり前にはく奪処分で済ませればいいものを、メキシコにルーツを持つ人気者というだけで、恥も外聞もないスター救済に奔走する。いいトシをした大人がこのザマでは、若いベナビデス(24歳)が増長するのも仕方がない。
WBSSへの参加が決まったカラムに、迷うことなくダイヤモンド王座を認めた2代目スレイマン会長は、カネロ VS カラム戦が具体化するや否や、待ってましたとばかりに決定戦を承認したという次第。
そしてこれもまた当然のごとく、WBCはベナビデスをランク1位に据え置き、近未来のトップスター候補がS・ミドルに留まる場合に備えている。
カラムが大番狂わせを起こしたら、即座に指名戦の履行を迫るだろうし、相手と条件次第でまたL・ヘビーに行くであろうカネロが順当に勝利を収めたら、ミドル級と同じくフランチャイズ王者に認定し、ベナビデスに決定戦を用意すればいい。
嗚呼、まったくもって救いようがない・・・。
さてさて、閑話休題。
サイズだけならヘビー級で戦っていてもおかしくないカラムは、長身選手にありがちな腰高な不安定感が目立たず、バランスの取れた綺麗な構えから放つ打ち下ろす右ストレートを最大の武器にして、2012年のデビュー以来無傷の27連勝(19KO)を続けてきた。
基本にしているスタイルは、ジャブ,ワンツーからセットアップして、左フックの上下を含むコンビネーションにつなぐ、近代ボクシングのベーシックそのもので、クリンチワークにも過度に頼らず、中間距離での打ち合いにも一定程度は応じる。正攻法の最たるものと言っていい。
この大きさだから、飛び跳ねるように軽快なフットワークは使わないし、強打をブンブン振り回す訳でもなく、見た目の派手さとは無縁な為わかりづらいけれど、サイズのアドバンテージを活かしたプレッシャーはかなりのもので、あのジョージ・グローブスがひたすら後退を余儀なくされていたほど。
出世の階段を登り始めた頃は、線の細さがそのままフィジカルの脆弱さと映ってしまい、頼りなさを助長していたが、WBSSに参戦した2017年頃から上半身の厚みが増し、簡単に押し負けることがなくなった。
前日計量後のリバウンドはイマイチ判然としないが、WBSS以降は戻す幅が増えたとの印象を受ける。パンチング・パワーも相当な高水準で、サンデーパンチの右ストレートだけでなく、タフで勇敢なグローブスを1発でまいらせた左フックも滅法強い。
そしてハッサン・エンダムを瞬殺した右ショートストレートは、タイミングといいパンチの合わせ方といい、それはもう申し分のない見事なもので、リバウンドが少なかった修行時代は、素早いダブルジャブからショートの右を上下に打ち分け、鋭く踏み込んで連打するなど、小技と機動性にも優れた資質を発揮していた。
もともと圧力をかけるのは上手かったのだが、成長に伴い身体も大きくなり、リバウンドの効果もあって、さらに無理なくプレスできるようになったことで、リードジャブとワンツーだけでなく、チョップ気味の傾向を増したフックを混ぜなくても、つなぎのスピードが遅くなってしまい、コンビネーションも少し雑になったように見える。
例えばキャリア最晩年のカルロス・モンソンのように、サイズとパワーの優位性に胡坐をかく(?)ところまでは至っていないにしろ、戦い方が横着になってきた点は認めざるを得ない。
昨年11月の防衛戦(武漢ウィルスによるブランク前の最後=最新の試合)では、コンパクトなガードの維持と相手の出足に対する反応に始まって、打ち終わりの引き手の戻りや細かいステップバック、1発ではなく連打で崩して行く、修行時代のセオリー(原点)に回帰しようとする意識が伺えた。
挑戦者のジョン・ライダーが好戦的なサウスポーで、不用意にガードが開いたり、中途半端な距離で無駄に打ち合うと、下から突き上げる格好の左ストレートをまともに食って、窮地に立たされる恐れがる。
対サウスポーのリスクヘッジが必要と考えたからだとは思うが、丁寧なまとまりの良さを第一に求める対策と意識が、結果的にボクシングを小さくこじんまりとしてしまい、最大のストロング・ポイントにすべきプレッシャーまで弱めてしまっていた。
ここがボクシングの難しいところで、よかれと思って取り組んだ対策と改善が、逆効果を生んでしまうこともある。
ディフェンスはブロック&カバー主体で、スリッピングとローリングは余り使わない。ウィービングが少ない点も含めて、動きの形態は上半身が突っ立ち気味になる現代流。
大型であるが故に止むを得ない面もあるし、けっして硬くはないけれど、柔らかいとまでは言えない身体的な特徴を考慮した、ジョー・ギャラガー(チーフ・トレーナー/2018年度のリング誌トレーナー・オブ・ジ・イヤー)の選択だろう。
堅実に守るという利点は確かにあるが、その反面攻防分離に陥り易く、上下の手数とコンビネーションで崩されて一旦守勢に回ると、反撃に移るスピードが遅れがちになり、ロープやコーナーを背負った時にサイドへ素早く回るアジリティがないと、後がなくなって危ないことこの上ない。
自分より大きくパワーのある相手とやる時のカネロは、決まってファイトではなくボックスを選んできた。慎重に出はいりを繰り返しながら、いいパンチが決まっても攻め急がず、深追いを慎みけっして無理はしない。
4階級制覇を懸けたコヴァレフ戦でも、ガードを高く保持したディフェンス最優先を徹底した上で、絶えず駆け引きを仕掛けつつ、ひたすらロシアン・クラッシャーの消耗を待ち、最終盤11ラウンドに訪れたワンチャンスを逃さず倒し切ってみせた。
おそらく今回も、基本的な戦い方はコヴァレフ戦に準じたものとなる。ただし、もう少し自由度というか、オフェンスのボリュームは増えるだろう。秀逸なハンドスピードを最大限に活かし、カラムに右ストレート(ワンツー)を打たせておいて、打ち終わりの引き手が戻り切らないところへ、すかさず素早い左右を打ち込んで行く。
コヴァレフよりも守りに隙の多いカラムだけに、ボディ(左フックの脇腹+右ストレートをストマック,鳩尾へ)も、積極的に狙って行くのではないか。
スポーツブックのオッズは、やはりカネロ有利に傾いた。全体に離れ過ぎとは思うけれど、両者の実績の差を考えれば止むを得ない。個人的には、ウィリアム・ヒルの数字が妥当との印象。
□主要ブックメイカーのオッズ
<1>Bovada
カネロ:-800(1.125倍)
スミス:+500(6倍)
<2>5dimes
カネロ:-775(約1.13倍)
スミス:+575(6.75倍)
<3>シーザースパレス
カネロ:-750(約1.13倍)
スミス:+525(6.25倍)
<4>ウィリアム・ヒル
カネロ:1/5(1.2倍)
スミス:7/2(4.5倍)
ドロー:22/1(23倍)
<5>Sky Sports
カネロ:1/6(約1.17倍)
スミス:4/1(5倍)
ドロー:20/1(21倍)
いずれにしても、判定勝負を前提にして、丁寧かつ慎重に組み立ててくるカネロを崩すのは骨の折れる仕事になる。荒ぶる突進も入り際のカウンターもないカラムに、ベテラン・チーフのジョー・ギャラガーがどんな秘策を授けたのか。
ボディワーク(ヘッドムーヴ)を多用するに違いないカネロに、スピードで劣るカラムが肩越しの右ストレートをヒットするのは容易ではないが、カネロも運動量は多い方ではなく、後半~終盤にかけてのスタミナに関する不安は今もなお付いて回る。
当たり前に普段通りのボクシングをしてしまったら、カネロにペースを握られたまま、中差程度の判定を持って行かれる公算が大。ハイリスクな選択にはなるが、少々強引に前に出て攻め込み、打ち合いに誘い込んで左フックの相打ち狙いを試すのも、悪い考えではないと言う気も・・・。
◎スミス(30歳)/前日計量:168ポンド
現WBA S・ミドル級スーパー(V2),WBC S・ミドル級ダイヤモンド(V4)王者
戦績:27戦全勝(19KO)
アマ戦績:不明
2012年ロンドン五輪欧州最終予選銅メダル(L・ヘビー級)
2010年コモンウェルス・ゲームズ銀メダル(ウェルター級)
2011年ABA(全英)選手権優勝(ミドル級)
2008年ユースABA(全英)選手権優勝(ウェルター級)
2007年ジュニアABA(全英)選手権優勝(L・ウェルター級)
身長:191センチ,リーチ:198センチ
右ボクサーファイター
◎カネロ(30歳)/前日計量:168ポンド
現WBA S・ミドル級正規(V0),前WBO L・ヘビー級(V0),前WBCミドル級(第2期:V1),前IBFミドル級(V1),WBAミドル級スーパー(V1),元WBC S・ウェルター級(V6/WBA王座吸収V0),元WBCミドル級(第1期:V1),元WBO J・ミドル級(V0)王者
戦績:56戦53勝(36KO)1敗2分け
アマ通算:不明
※20戦,44勝2敗など諸説有り
2005年ジュニア国内選手権優勝
2004年ジュニア国内選手権準優勝
身長:175センチ,リーチ:179センチ
右ボクサーファイター
◎参考映像:前日計量と短いインタビュー
<1>THEY ARE SHREDDED! Canelo & Callum Smith Weigh-In Ahead Of World Title Clash
DAZNオフィシャル
https://www.youtube.com/watch?v=U6oqE7PK66A
<2>Canelo Reacts To Size Difference Between Himself & Callum Smith
DAZNオフィシャル
https://www.youtube.com/watch?v=4vFVUpeae0s
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■リング・オフィシャル:未発表
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■GGGとの2夜連続開催・・・DAZN,ハーン,カネロの真意やいかに?
「話が違う。」
世界中を驚かせた超大型契約(11試合・総額3億6500万ドル)の通り、巨額の報酬が転がり込むのかと思いきや、銀行口座に振り込まれた金額がやけに少ないと、ビジネス面では大人しい筈のカネロが噴火した。
怒りの矛先はDAZN本体というより、契約をとりまとめたゴールデン・ボーイ・プロモーションズに向けられ、堂々のフリー・エージェント宣言と相なった訳だが、大方の見立て通りDAZNからの離反・撤退はなく、GGGとの二晩連続競演に合意。
DAZNとデラ・ホーヤにしてみれば、「運命のラバーマッチ」の早期開催が前提であり、GGGとの決着戦に後ろ向きなカネロに対して、「いったいどういうつもりだ?。お前は何をやっている?」とクギを刺したいに違いない。
事実そういう場面があったのかもしれないが、カネロを少年時代から支え続けてきたレイノソ・ファミリーの第一の目的は、ゴールデン・ボーイからの決別にあったようだ。彼らの望みは達成された模様で、今回の興行を仕切る勧進元はエディ・ハーン。
共同プロモーターとしてデラ・ホーヤの名前はなく、何とカネロの名前が掲げられている。これについて聞かれたカネロは、「本意ではないけど、自分のプロモーションを設立することになるかもしれない。」と語り、エディ・レイノソ(チーフ・トレーナー兼マネージャー)も、「多くの有力なプロモーターと対等に渡り合う為には、カネロ自身がプロモーターとして独立するのも有効な手段になる。」と話す。
「エディ・ハーンのマッチルームUSA、トップランクのボブ・アラム、アル・ヘイモンらとは、既に話し合い為のテーブルが用意されている。」
冒頭で述べたように、偉大なるチャベスの後継者を自他共に認めるカネロにとって、アラモ・ドーム進出は避けて通れない通過儀礼に等しく、遅過ぎたと言ってもいい。
GGGをテキサスに合流させて、ダブルメインとしての開催も検討はされたと思うが、合同興行になれば「来春にもラバーマッチへ」の流れが出来上がりかねず、それはカネロとレイノソの望むところではないが、何としても前景気を煽っておきたいDAZNの意向も無視はできない。
とまあ、概ねそんなところなのではないか。