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バッティングは故意に非ず /中京の倒し屋に何ら恥ずべきところ無し - 拳四朗 VS 矢吹(第1戦)検証 Part 1 -

2022年03月28日 | Boxing Scene

■2021年9月22日/京都市体育館/WBC世界L・フライ級タイトルマッチ12回戦
WBC1位 矢吹正道(緑) TKO10R 王者 寺地拳四朗(B.M.B)



とにもかくにも、第1戦が2021年度の年間最高試合に選ばれたことは何よりだった。

故意かどうかを巡り、良くも悪くも話題となってしまった「バッティング騒動」が、選考を大きく左右するのではないかと懸念していた。

ファンの隠し撮り映像を編集した映像がyoutubeなどの動画配信サイトにアップされ、SNSを含めて「確信犯のロケット・ヘッドバット」説が1人歩き。


映像を含めた自分なりの検証記事をアップするべく、まだ慣れ切っていない動画編集に取り組み始めたものの、時間ばかりかかって遅々として進まずあえなく頓挫。

矢吹のご家族(特に子供たち)にあらぬ誹謗中傷が集中したり、おかしな苛めに遭うのではないかと、要らぬお節介は百も承知で余計な心配をしていた。

また、試合を中継した関テレの解説席に座り、オフィシャル・スコアに対する疑義を申し立てた長谷川穂積の見解にも色々と言いたいことはあった。


常にニュートラルなポジションを心がけ、キーポイントになる瞬間を的確に切り取り、短い言葉で過不足なく表現する長谷川の解説が私は好きで、今後もずっと続けて欲しいと願っている。

しかしこと第1戦に関する限り、拳四朗の良いところにばかり光を当てる傾向が顕著で、この人にしては珍しくバイアスのかかった話しぶりが残念でならなかった。

だからこそ、矢吹の堂々たる振る舞いと謙虚さを忘れない物言いに感心するのと同時に、以前から感じていた好感度がさらにアップ。頼もしくも逞しい新チャンピオンであり、かつ父親なのだと再認識させられる。


前置きはこのくらいにして、結論だ。これはもうはっきりしていて、拳四朗の右瞼を大きく深くカットした(とされる)バッティングは故意ではない。そう確信している。

理由を以下に箇条書きする。

<1>「飛び込みざまの左右フック」は紛れもない戦術
<2>主審福地のレフェリングは適切で瑕疵や問題は無い
<3>試合後に拳四朗自身が矢吹とのノーサイドに快く応じている


さらにドリルダウンしてみよう。

バッティングを誘発した矢吹の「飛び込みながらのパンチ」は、本人が述べている通り、事前に練られた戦術(作戦)であり、序盤からずっと繰り返していた。

「あれが成功しないと距離を潰せない。当たり前に前進を繰り返すだけでは、拳四朗を捕まえることができない。」

追い込みの実戦スパーで反復練習を徹底して、タイミングと感覚を身体に叩き込んだものに違いない。

スタートの2ラウンズは右から入るパターンが中心だったが、徐々に左中心へとシフト。フックだけでなく、ストレートやアッパーに変化させたり、飛び込むタイミングを少しずらす等々、工夫も随所に見せている。


拳四朗も前半はしっかり反応できていて、ステップバックやサイドへの切り替えしで上手く対処していた。

矢吹がペースを掌握していた第5ラウンドまでは勿論のこと、拳四朗が反転攻勢を仕掛けた第6ラウンドも含めて、大きな衝突事故を予見させるほど危険な場面は無かった。

本当に「故意」でぶつけに行くのであれば、もっと早い時間帯に始めて、はっきりそれと分かるように繰り返しているだろう。それこそ、かつての亀田兄弟のように。


そして、先にぶつけたのは矢吹ではなく拳四朗である。

第4ラウンドの終了間際、拳四朗が伸ばした左に、踏み込みながらクロスオーバーさせるように右を出した矢吹に対して、反射的に避けようと前方にダックした拳四朗の頭が当たり、直後に矢吹が頭突きをアピールしている。

衝突事故としてはごく日常的な小さな部類と言ってよく、パンチが交錯する際には珍しくない事でもあり、大半のレフェリーがそうするように、この試合を任された福地勇治も特段のチェックは行っていない。

「いや、当たりに行ったのは矢吹だ。」と主張する人がいるかもしれないし、そうした意見を否定はしない。ただし、矢吹のアピールに対して、拳四朗の方からグローブタッチで応えている。そこは押さえておくべきポイントだ。

■第4ラウンド(注意無し)





※誤解しないでいただきたいがパンチの交換ではない/拳四朗の方から求めたグローブタッチ(静止画像のわかりづらさ)


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主審福地が、矢吹に対してバッティングの注意(1回目)を行ったのは、拳四朗が反転攻勢に出た第6ラウンドである。

残り50秒付近、ロープ際まで下がらせられた矢吹が、迫って来る拳四朗を押し返すように右フックもろとも飛び込む。

一定の距離をキープしつつ、もっぱらジャブで対処していた前半戦の拳四朗なら、ステップバックで問題なくやり過ごせていただろうが、ここは拳四朗も前に出て手を出そうとしている。


前がかりになっていた為にかわす余裕がなく、左を返そうとする矢吹の突進を、真正面から受け止める格好になってしまった。

主審の福地がすかさず間に入り、矢吹に対してバッティングを注意。タイミングが良くアクションも分かり易い。注意を与える時間が長過ぎず、ベテラン・レフェリーらしいソツの無い仕事ぶり。

■第6ラウンド(1回目の注意)



※矢吹に頭を注意する主審福地


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2回目のチェックは続く第7ラウンド。ここもラウンドの終盤だが、パンチが交錯した瞬間の衝突。

やはり小さめのありがちなアクシデントで、必要以上に流れを妨げることを嫌う傾向が強い昨今の本場アメリカでは、当たり前に流すレフェリーも多い。

敢えて割って入った福地が矢吹に注意を与えたのは、単に前傾姿勢を取り続けているからだけではなく、序盤から「飛び込みざまのパンチ」を多用していたからであり、拳四朗の果敢な反撃によって、嫌でも両者の距離が近くなっていた事も影響している。

黙って流すことで大きなアクシデントに発展しかねないと、福地がそう判断したからだろう。

■第7ラウンド(2回目の注意)





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こうして迎えた3回目の衝突。第9ラウンド、2分を切ったところで発生した「大きなアクシデント(勝敗の行方を直接左右しかねない)」。

拳四朗が右の瞼を大きく深くカットして、大流血に追い込まれたこの場面が、試合後の「バッティング騒動」の火種になった。

「カットが無ければ、拳四朗があのまま押し切って逆転KOで勝っていた。」

「福地は何故ノーチェックで済ませて、矢吹を減点しなかったのか。」

「KO寸前まで追い詰められた矢吹が、卑劣な反則(頭突き)で戦況の打開を図った。」


確かに第6・第7ラウンドの2回に比べて、当たり方は激しく衝撃度も大きい。ぶつかった部分の映像のみを切り取って編集すれば、「故意」と見られても止むを得ないと思う。

ただし、ぶつかる直前の展開からしっかり見て行く必要がある。両者は短い時間ではあったが、頭をくっつけてインファイトをやっていた。

そして矢吹が1歩下がって距離を取り直したところへ、拳四朗がジャブを突く。頭を軽く小さく振って、拳四朗の的を外す動きをした矢吹がまた飛び込む。そこで頭がぶつかった。


この場面のポイントは、矢吹がさらにパンチを続けたことにある。頭が当たった後も矢吹はアッパー気味の左フックで拳四朗の顔を跳ね上げ、さらに右・左と連打を見舞う。

間を置かない連続的な展開として矢吹の攻撃が続いたことにプラス、拳四朗も良く踏み止まって脚を動かし、矢吹のパンチを一旦断ち切り態勢を維持していた。

頭をくっつけ合う前には拳四朗のいいパンチもヒットしており、一連の流れを止めて注意をする必要が無い、あるいは止めるべきではないと福地は判断したのではないか。


■第9ラウンド(3回目/ノーチェック)




これをミス・ジャッジ,矢吹に利する恣意的なジャッジと断ずるのは明らかにやり過ぎで、両雄が繰り広げた激闘の本質を見誤る恐れがある。

主審福地のレフェリングに問題点を敢えて指摘するなら、以下の2点だろう。

<1>拳四朗のカットと出血をヒッティングと判断したのは何故か?

<2>拳四朗の傷は大きく深く、出血も夥しかったのにどうしてドクターチェックを要請しなかったのか?


<1>について、福地はJBCの聴き取り調査で次のように述べた。

「バッティングによる出血には見えなかった。頭は確かに当たっていたが、その後の矢吹のパンチで切れたと認識していた。」

スローやストップ・モーションも交えて、録画した映像を見直してみた。頭が当たった瞬間、拳四朗は頭を下げていたが、瞬時に自らの左サイドへポジションを変え、拳四朗の真正面に立った矢吹が下からの左フックで顔面を跳ね上げ、強烈な右から左でさらに追撃。

ステップを切り替えてサイドへ回り込む拳四朗に、休むことなく長めの強い右も当てているが、下からの左を決めた時点では、拳四朗の右瞼からまだ血は流れていない。うっすらと赤くなっているのが確認できるだけだ。

■第9ラウンド(3回目衝突の後/ノーチェック)

※画像⑤をご覧いただくとはっきりわかるが、衝突直後に下を向いた拳四朗の右瞼からはまだ出血していない。
※画像⑥は、下からの左を貰って顔と上体を起こされたところ。ここで出血が確認できる(静止やスローでなら)。

拳四朗の右瞼はまだ大流血には至っておらず、福地はこの時矢吹の背後にいたから、頭ではなくこの左で切れたとそう見たのかもしれない。



また、画像(⑦~⑧)をご覧いただくと、矢吹は下から突き上げた左に続いて右を打ち、さらにもう一発左を打ち込んでいるのがおわかりいただけると思う。



画像⑤の1発目の左ではなく、2発目(返し:画像⑦)の右か、それにつづく3発目の左(画像⑧)でカットしたと、福地がそのように認識していた可能性も十分に考えられる。

さらに矢吹は連打を畳みかけて、拳四朗は自らの右方向に身体を回転させ、懸命にかわしながら逃げて行く。矢吹も後を追って、画面上の2人の立ち位置は左右逆になる。


※福地は衝突の瞬間をしっかり目視できている。がしかし、画像⑤~⑧で明らかなように、聴き取り調査で福地が述べた言葉にウソは無かったと私は考えている。


衝突から流血の確認まで、矢吹は必死に退避する拳四朗を追いながら、合計7発の強打を放った(着弾は5発)。

「福地は本当に(バッティングだと)気付かなかったのか?」

「自分のミス・ジャッジを誤魔化す為に、言い訳をしているだけじゃないのか?」


どんな検証記事や画像,映像を詠んだり見たりしても、そうした疑いの眼差しを向けたくなる気持ちはわからなくもないが、時間にすれば僅か5~6秒(1分49秒~1分44秒頃)の出来事である。

両雄のポジションが完全に入れ替わるまででも、7秒ほどでしかない。

頭が当たった後、5発の着弾の間に深く切れて流血したと福地には見えた。それはミス・ジャッジなどではなく不可抗力の範疇だったのだと、状況をしっかり振り返ると合点が行く。


そして、ここまで振り返ってみてあらためて気付くのは、福地のレフェリングは適切だった(第9ラウンドはもうひと手間考える必要があるけれど)という事実に加えて、拳四朗が一度もバッティングに対する明確な抗議を行っていないこと。

最初の衝突が起きた際、矢吹はすかさずアピールしていたのとは好対照である。また、抗議をしなかったのは、寺地会長を含む拳四朗のコーナーも同様だ。

「リングサイド(赤コーナー下)からは、しっかり見えていなかった。後で録画を見て故意だとわかった。」

寺地会長はそう述べているが、確かに映像を繰り返しチェックすると、「本当に気付いていなかったのかもしれないな・・・」と思わせる。だが、こちらの言い分にも疑問は残る(後述)。


第9ラウンドのカットに至るまで、主審福地は2度注意を与えていた。第9ラウンド終了後のインターバルで、拳四朗に対して「(カットしたのは)頭かパンチか?」との確認をチーフ格の加藤トレーナーが怠っていたとは考えづらく、拳四朗からも「頭で切れた」と訴えるのが常識なのだが・・・。

試合後に始まった会長の抗議が、異様かつ執拗に(?)見えてしまう直接的な原因がまさしくここにある。この点については、次章で考察したい。


◎Prtt 2 へ

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