<1>ライト級10回戦
フェリックス・ヴェルデホ(プエルトリコ) VS 元WBA S・フェザー級暫定王者 ブライアン・バスケス(コスタリカ)
痩躯のボクサーファイター、ヴェルデホは、ロンドン五輪代表からプロに転じたプエルトリコのスター候補生。
昨年3月、今回と同じMSGのリングに上がり、アントニオ・ロサダ・Jr.(28歳の中堅メキシカン)にショッキングな10回TKO負けで初黒星を喫した後、8ヶ月のスパンを開けて11月に再起。母国で無名のメキシカンを2回KOに下し、無事な姿を披露した。
もっとも、生贄として呼ばれたメキシカンには初めからやる気が感じられず、適当に右ストレートを振った打ち終わり、ガードがお留守になったところにショートの左フックをガツンと合わせたワンパンチ・フィニッシュ。おあつらえ向きのアンダードッグとあって、完全な復調をアピールするには至らず。
1つ1つの攻防の技術やパンチは、伝統的かつセオリーに沿ったものばかり。珍奇な手段には手を出さず、攻撃的かつ正攻法のボクサーファイトを貫く。
1発で効かせるパワーこそイマイチながら、ワンツー→左フック,左右のアッパー&左ストレート→右(フック、アッパー)を返す基本的なコンビネーションは質が高く、精度にも特段の不満は感じさせない。
真ん中が開いたらアッパー、サイドが崩れたらフックと、相手のガードが開いたところを着実にヒットして行く手際も見事なもので、余計な力みが出ない状況での連打はシャープで淀みがなく、流れるように放たれる。
デビュー前から「次代のスター」として注目を集め、同胞のファンが熱視線を送るのも無理はない。最大の懸念材料は、アマチュア臭さが抜けない線の細さ。丁寧なステップを怠らない注意深さは打たれ脆さへの懸念と映り、一転して強打を振るって果敢に攻め込む際に見せる思い切りも、「いつでも好きな時に倒せるんだ!」という強がり、虚勢に見えて仕方がない。
格下のアンダードッグには何の問題もなく奏功するスキルとシャープネスが、簡単に音を上げないベテランや中堅クラスに食い下がられると、一気にスケールダウンするのが球にキズ。強気一辺倒の連打は、見た目の迫力ほど威力とキレを感じさせない。自信を持っているに違いないスピードも、攻撃よりはディフェンスに生きている。
とりわけ怖いのは、打ち合いになるとすぐにヒートアップするメンタリティ。フィジカルとパンチング・パワーで遅れを取っているにもかかわらず、1歩退いてセットアップし直す冷静さを失いがち。
正面に留まったまま、勢いに任せた強振が一気に増える。恵まれたサイズとスピードのアドバンテージで、よもやの事態を回避してきたが、大柄でタフなメキシカンに追い立てられ、とうとう捕まってしまう。右(強め)の打ち終わりに大きな隙が出来るだけでは済まず、ガードへの意識も薄れてしまい、フットワークだけで捌こうとして墓穴を掘った。
S・フェザー級でWBAの暫定王座を2度獲得したバスケスを相手に、誰もが納得できるパフォーマンスを発揮できるのかどうか。25歳になったプロスペクトが、プロ転向6年目にして迎える試金石。
暫定の但し書き付きとは言え、コスタリカ初の世界王者(男子)となったバスケスが、全盛の内山高志(ワタナベ/引退)とのWBA内統一戦に挑み、8回TKOに退いたのは2012年の大晦日。女子の王者ハナ・ガブリエル(こちらがコスタリカが生んだ正真正銘の世界王者第1号)と結婚し、6年半前の初来日時も一緒だった。
翌2013年10月、内山に完敗して失った筈の暫定王座に返り咲き、2度の防衛に成功。しかし2014年12月のV3戦で、3ポンドの超過により失格。戦わずしてベルトを失ったバスケスは、アウェイのカンクンで地元の人気者セルヒオ・トンプソンを9回終了TKOに下すと、翌2015年5月、内山のスーパー王者昇格に伴う正規王座決定戦のチャンスを得る。
アル・ヘイモン肝いりのPBC(Premier Boxing Champions)の興行で、ドミニカの雄ハビエル・フォルトナに0-3の判定を献上した後、135ポンドのライト級に進出し、アンヘル・グラナドス(内山の初防衛戦に呼ばれてKO負けしたベネズエラ人)に2回TKO勝ち。2017年8月には、レイムンド・ベルトラン(米/メキシコ)とNABO(WBO直轄の北米タイトル)のベルトを争い、0-2の僅少差判定(10回戦)まで粘りファンを驚かせた。
昨年は連敗中の中堅メキシカンを2人破っただけで終わってしまったけれど、8月にトップランクと正式契約を結び、ヴェルデホとの対戦が実現。
左のガードを腰の辺りまで下げたまま、前後左右に細かく動きつつ、挑発半ばに変則気味のフェイントを入れ、嫌らしく駆け引きしながら、思い切り良く踏み込んで左フックを上下に放つボクシングは、内山戦当時から今に至るまで変わっていない。時折見せる左へのスイッチや、頭や肩・肘を駆使するバッティング+ローブローといった"プロの裏技"も健在。なにしろ、この選手は色々と芸が細かい。
攻防の技術とセンス,身体能力にも恵まれているが、惜しむらくは、1発のパワーに欠ける点に加えて、頭と肩を余り振らずに、真っ直ぐ上体を立てたまま出入りを繰り返す現代流。上背に恵まれない為、対戦相手を見上げる格好になり、いつも顎が上がり気味になる。
ディフェンスはステップ&ボディワークを主体に、危険な中間距離では相応に上半身と頭を動かし、相手の攻勢を器用にかわす。左(ガード)を下がりっ放しにする為、ワンツーやオーバーハンド気味の右が飛ぶとヒヤリとすることも多い。寸でのところで相手のパンチを見切る目の良さ、距離感に顕著な衰えは見られないが、増量と加齢による影響なのか、身体全体のスピードとキレは明らかに落ちた。
決定力とサイズの不足がもたらした当然の結果なのだろうが、どうしても駆け引きの時間が長くなりがちで、距離が詰まると揉み合いに逃げ込まざるを得ない。アマチュアライクなヴェルデホには、厄介な要素を持ち合わせ過ぎている感が無きにも非ず。
1対2~1対3と、賭け率も想像以上に競っている。どんなに将来を嘱望されるホープでも、必ず通らなければならないプロの通過儀礼。プエルトリコの希望の星も、不可避というわけにはいかない。
現時点でヴェルデホに強く感じるのは、「倒すボクシング」よりも「安全策」への高い順応と適性。荒く強引なパワーショットはこの際完全に捨てて、長いリーチを最大限に活かしたジャブ,ワンツーと、肩の力を抜いた高い精度のコンビネーション。自慢の足で距離のキープを忘れず、引き手の戻りに充分な注意を払い、ロングレンジからの波状攻撃を繰り返す。
アイドルとして憧れてきたティト・トリニダードや、ミゲル・コットに続くスーパースターを目指す以上、この先の階級アップは避けられない。増量の成否を握るのは、パワーアップよりもスピードの維持&強化。ウカウカしていると、同じリングに上がるテオフィモ・ロペスやフィリピンの新たな倒し屋ロメロ・デュノ、デラ・ホーヤが強力にプッシュするライアン・ガルシアら、135ポンドに次々と現れるニューカマーたちの後塵を拝しかねない。
強気で前に出るファイターではなく、落ち着いて戦況を俯瞰する冷静沈着なアウトボックスこそが、ヴェルデホの真骨頂。クビを免れたチーフ・トレーナーのリッキー・マルケスが、曲者バスケスに準備した対策やいかに・・・。
◎ヴェルデホ(25歳)/前日計量:135ポンド
元WBOラティーノ王者(V6)
戦績:25戦24勝(16KO)1敗
アマ通算:106勝17敗
ロンドン五輪ライト級代表(ベスト8敗退)
※ロマチェンコに9-14で惜敗
身長175cm/リーチ180cm
痩躯の右ボクサーファイター
◎バスケス(31歳)/前日計量:135.4ポンド
元WBA S・フェザー級暫定王者(通算V3/2度獲得)
戦績:40戦37勝(20KO)3敗
アマ通算:100戦超(詳細不明)
身長:165.3センチ/リーチ:169センチ
※内山高志戦(2012年12月)の予備検診データ
右ボクサーファイター(スイッチヒッター)
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<2>フェザー級10回戦
シャクール・スティーブンソン(米) VS クリストファー・ディアス(米)
昨年7月、伊藤雅雪(伴流)に特大のアップセットを許し、130ポンドのWBO王座を獲り逃したディアスを、再起2戦目で早くもスティーブンソンにぶつける。これがアメリカン・スタイルとは言え、容赦仮借のないマッチメイクに思わずため息をつく。
11月にサンファン(ルーツのプエルトリコ)で組まれた復帰戦は、階級を1つ下げたフェザー級での出直し。28歳のハンガリー人を問題にせず、得意の左フック1発で撃沈。開始ゴングから1分余りの即決KOだった。
「18歳でプロになった頃(2013年)は、122ポンドのS・バンタム級。すぐに126ポンドに上げて、2017年まではフェザー級を主戦場にしていた。パワーには自信があったけど、伊藤に力負けしてしまい、フィジカルの違いを痛感した。」
日本人離れした伊藤のインファイトに押し切られたナイス・ガイは、敗因を問われて率直に自らの思うところを開陳。
2017年には、デビュー以来コンビを組んできたリッキー・マルケスと別れて、ニュージャージー(スティーブンソンのホームでもある)に拠点を置くラウル・チノ・リヴァスをチーフに招き、伊藤戦に備えて万全のキャンプを張ったと余裕の表情を浮かべていたが、予期せぬ波乱に涙を呑む。
そして今年1月、アラムの薦めがあったのかどうか、なんとフレディ・ローチとの新体制を発表。西海岸への移動は負担も小さくないと思うが、「見ていてくれ。今度は僕がみんなを驚かせる番だ。」と高いモチベーションをアピール。
リオ五輪でバンタム級の銀メダルを持ち帰ったスティーブンソンは、天才肌のサウスポー。才気走った動きの端々に、エリートクラスの自負と溢れる自信が覗く。概ね1対7~1対8と大きく離れた賭率を聞かされても、「当然だろ・・・」と言いたげにニッコリ微笑む。
銀メダリストのスピード&シャープネスを、ディアスをローチがいかにして攻略するのか。普通に予想をするなら、シャクールが中差以上の3-0判定勝ちになるけれど、126まで絞ってもなお、再起戦で見せてくれたディアスの動きは悪くなかった。
シャクールに安全策を徹底されると流石に厳しくなるが、それでもスポーツブックのオッズよりは、接近した試合内容になるのでは・・・・。
◎スティーブンソン(21歳)/前日計量:125ポンド3/4
戦績:10戦全勝(6KO)
アマ戦績:詳細不明
2016年リオ五輪バンタム級バンタム級銀メダル
2015年ユース全米選手権(18歳以下対象)バンタム級優勝
2014年ユース世界選手権(ソフィア/ブルガリア)フライ級金メダル
2014年ジュニアオリンピック(ネバダ州リノ)フライ級優勝
2014年ユースオリンピック(南京/中国)フライ級金メダル
2013年ジュニア世界選手権(キエフ/ウクライナ)フライ級金メダル
2013年ジュニア全米選手権フライ級優勝
身長,リーチとも173センチ
左ボクサーファイター
◎ディアス(24歳)/前日計量:125ポンド1/2
戦績:25戦24勝(16KO)1敗
アマ通算:108勝29敗(85戦説有り)
身長:168センチ,リーチ:163センチ
右ボクサーファイター
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<3>ライト級12回戦
テオフィモ・ロペス(米) VS エディス・タトリ(フィンランド/コソボ)
ロマチェンコとの対戦が話題になり始めたスーパー・プロスペクトが、フィンランドで育ったアルバニア系の前ヨーロッパ王者を迎え撃つ。
旧ユーゴ(現在のコソボ)に生を受けたタトリは、4歳の時にフィンランドへ移住。ボクシングを始めたのは14歳からで、空手も習っていたという。アマの戦績や詳しい戦果は不明だが、バランスの取れたボクサーファイタースタイルで、しっかり足を使ってポイントメイクを第一に戦う。
一撃で相手をし止める破壊力はないが、アマで鍛え上げただけあり、攻防の基本はしっかりしている。長期戦前提のテクニカルなアウトボクシングをベースにしつつ、チャンスと見れば積極的に強打も出していくが、無理をせずにいつでも距離を取る準備は怠らない。
賭け率は最大で12~13倍と大きく乖離しているが、ディフェンス重視の現代ヨーロッパ・スタイルを、これまで通り容易に切り崩すことができるのかどうか。
「誰もが皆、私が簡単に倒されると思っているだろう。彼はアメリカで名前を知られたアマチュアで、幾つものタイトルを手にしただけではなく、オリンピックにも出ている。プロになってからも連戦連勝だ。」
「彼のような華々しい経歴はないが、私もライト級でヨーロッパのNo.1になった。プロとしては私の方が先輩で、キャリアも積んでいる。アンダードッグ扱いされるのは止むを得ないが、負ける為にわざわざアメリカまでやって来たわけじゃない。」
「競った内容で判定になれば、ホームの彼が有利になることも承知している。誰の目にも私の優位が明らかなラウンドを、より多く作らなければならない。その為の準備にも不足はない。ロマチェンコについて色々話しているようだが、まずは目の前の私に集中すべきだ。」
一度奪われた欧州(EBU)王座をリマッチで奪還(直後に返上)したタトリは、会見や公開計量で鋭い視線をロペスに向け、「勝つ為に何を為すべきか。充分にわかっているつもりだ。」と不適な笑みを浮かべた。
ステージに立って並ぶ両雄を比べると、データ(2センチ)以上の身長差に見える。ロペスの鋭い踏み込み+切れ味とパワーを併せ持つパンチに、スピーディかつ的確に反応するだけではなく、クリーンヒットを決める自信があると言いたげだが、在米専門記者とファンの関心は、残念なことにタトリの言葉に向けられてはいない。
両親の母国ホンジュラスの代表として、宿願のリオ五輪出場を果たしたロペスだが、ナショナル・チームの一員として大きな国際大会に派遣された実績はないらしく、代表権を得る為に戦った米大陸予選が、ほとんど唯一の戦果と言っていい。
ヨーロッパのトップクラスとの対戦経験も皆無に近い筈で、足が良く動くタトリを招聘したのは、来るべき(?)ロマチェンコ戦を睨んだマッチメイクには違いない。良い内容でタトリを一蹴した暁には、ロマチェンコに近い背格好の、可能な限り手足の速いサウスポーをどこからから調達して、本格的なテストマッチを組むつもりなのかもしれない。
然は然りながら、「タトリ?。いったい誰だ?。とてもじゃないが、ロマと比較できるようなタマじゃないだろう。」との厳しい声も・・・。
◎ロペス(21歳)/前日計量:135ポンド
戦績:12戦全勝(10KO)
アマ通算:150勝20敗
2016年リオ五輪ライト級初戦敗退
※ホンジュラス(両親の母国)代表
2016年リオ五輪米大陸予選準優勝
2015年リオ五輪米国最終予選優勝
2015年ナショナル・ゴールデン・グローブス優勝
2015年ユース全米選手権ベスト8
2014年ナショナル・ゴールデン・グローブス2回戦敗退
2014年ユース全米選手権3位
※階級:ライト級
身長:173センチ,リーチ:174センチ
右ボクサーファイター
◎タトリ(31歳)/前日計量:134ポンド3/4
元欧州(EBU)ライト級王者(V2)
戦績:31勝(10KO)2敗
アマ戦績:不明
身長:175センチ
右ボクサーファイター
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16連勝(13KO)中の期待の黒人S・ウェルター級,クリス・アダムズ(ドミニカ/24歳/2013年世界選手権代表)がNABF(北米)王座の決定戦に臨む他、ブルックリン出身のS・ミドル級プロスペクト,エドガー・ベルランガ(21歳/9連勝全KO/ルーツはプエルトリコ)が8回戦で10戦目のリングに上がる。
また、フロリダ出身のバンタム級ホープ,ローレンス・ニュートン(12連勝7KO/アマ通算:298勝35敗)、2011年の世界選手権で銅メダルを獲得し、ロンドン五輪に出場したインドのクリシャン・ビカス(27歳/プロ2戦目)、アイルランドのS・ライト級,ローレンス・フライヤーズ(9勝3KO1敗)がそれぞれ6回戦に出場予定。