陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その141・秋

2010-05-26 08:50:00 | 日記
 魂の抜けた数日間をすごした。ろくろを回しても気分がのらない。目的が失われ、作業はうわの空。作品の向こう側に見えていた世界が霧散してしまっては、モチベーションも維持できない。次なる目標を定めなければ。しかしろくろのイワトビ先生は言う。
「乗り気でないときでも、きちんとしたものを挽かなあかんのが職人や」
 それはそうだろうが、今の自分は気持ちを支える骨格が抜けてしまって、まるでクラゲのようだ。懸命に緊張の糸をつなぎとめようとするが、窯づくり以上の新しい挑戦をさがすのはむずかしかった。
 そんなときに、待ちに待った電話。
「窯を開けるよ」
 火炎さんから声がかかったのは、窯の火を落としてから一週間後だった。オレは代々木くん操る改造レジェンドに乗っけてもらって、山に向かった。作品との対面は、学期末の通信簿をもらう気分だ。ついに半年間の成果が明らかになる。
 すっきりと晴れ渡っていた。乾いて澄んだ空気。山頂を通過するとき、視界いっぱいにあざやかな景色がひらけた。渓流のように引き締まった風と、深くて濃くてかるい空と、そして錦織りなす紅葉。毎日を全力で走りつづけ、土や回転やレンガを至近距離に見ているうちに、頭上で季節は移っていた。
(あつすぎる季節が終わっちまったぜ・・・)
 今さらのようにそのことに気づき、ガラにもなく感傷にふけりたくなった。しかし怪車・アリクイ号のけたたましい爆音と、カーオーディオから流れるX-japanの大絶叫(代々木くんも合唱中)がそれを許してくれなかった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園