陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その136・突き抜ける

2010-05-20 09:00:25 | 日記
 センセーのデモンストレーションを見せていただいてから、だんだんとマキ割りのコツがつかめていった。恐怖によるためらいが軌道を狂わせ、衝撃を殺してしまう。躊躇なしに打ちつけることが肝要なのだ。迷いを払った一撃は、面白いように丸太を切り裂きはじめた。ごつくて強大な敵を一刀のもとに仕留めると、快感が背骨を突き抜ける。スッパスッパと、夢中になってオノを打ちこんだ。繊維がねっとりと入り組んだものなどは多少手をわずらわせたが、そんな陰険な相手ほど、討ち倒して勝利したときのカタルシスは大きい。オレは新たに没頭できる仕事を見つけた。
 大量にできたマキを積み上げながらふと見ると、代々木くんはそのむくつけき背を焚き口に丸め、一心に炎を育てていた。こちらからひょいひょいと投げわたすマキを、遠慮なしにひょいひょいと火にくべ、小さな瞳いっぱいにオレンジ色の幸福感をたたえている。いつの間にか彼は、いちばんおいしいポジションを持っていったのだ。あなどれないやつだ。こっちがせっせと手にマメをつくっている間に、オオアリクイはせっせと高火度をつくりつづけた。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園