陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その106・ろくろ三昧

2010-04-11 00:47:48 | 日記
 ろくろを購入して以降、オレの生活は「ろっくん」を中心にまわるようになった。学校でも怒濤のろくろ訓練が再開したため、まさにろくろ漬けの毎日だ。
 授業では昼休みをはさんで計七時間、右回転でろくろを挽く。自分でデザインしたメシ碗をそろいでつくる、というのが新たに出された課題だ。重要な学資調達の場である「訓練展」で五個セットにして販売する製品なので、形と大きさがピタリと等しくなくてはならない。とはいえ、微妙なばらつきはどうしても生じる。そのため、おびただしい数をまず挽いて、その中から似たものを五個組みにそろえる、という順序になる。
 形や装飾方法は各自にまかされた。つまり、つくりたいものを自由につくれる。これはいわば「製品」でなく「作品」づくりだ。表現を存分に注ぎこめるとあって、クラスはひさびさに沸きたった。全員一律につくった切っ立ち湯呑みのときとはちがい、創造性も求められるのだ。個性と職人技の二兎追いというわけだ。
 そこでオレは、「成形がいちばんむずかしい形」を「クラスでいちばん大きく」挽き、さらに「いちばんめんどくさい装飾方法」で仕上げる、という身のほど知らずなテーマを自分に課した。とにかく目立つことが大好き・・・なのではない。前にいるランナーをごぼう抜きにするためには、困難な道をゆくしかないのだ。平坦な道をみんなと同じストライドで走っていたら、先行者に追いつけっこないではないか。こうして、でっぷりと腰の張った小どんぶりと呼びたくなるような巨大メシ碗に、しち面倒な象嵌(赤土作品にみぞ掘りして白土を埋めこみ、さらに削り出して、画を浮き立たせる技法)で加飾するという方法を選んだ。
 集中しはじめると、七時間のろくろ訓練はまたたく間にすぎた。授業は午後4時半に終わるので、4時近くになると後かたづけと掃除がはじまる。オレはいつも「いちばん最後まで挽きつづける男」だった。とにかく授業終了ギリギリまでろくろを回しているため、早々とモップ掛けを終えた周りから邪魔がられて、ブーイングをあびた。それはあたりまえな仕打ちだろう。協調性のない人間は、周囲に余計な仕事を強いるのだから。だが、このときばかりはさすがに「いちばん」好きなこのオレも、「いちばんドベ」を目指してねばっているわけではない。もちろん掃除をサボりたいからでもない。気づくと、どういうわけか最後にひとりきり残ってしまっているのだ。ろくろに向かうとき、オレは現世から隔絶された世界に連れていかれてしまうのだ。「オレンジ色の光に包まれて、その後はもうなにがなんだか・・・」というあれに近い。気を失ったような状態だと理解して、許してほしい(・・・無理か)。逆に、なんの合図もないのに、みんながなぜそれほど敏感に終了時間を察知できるのかが不思議だった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園