陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その100・弛緩

2010-04-04 08:23:04 | 日記
 新学期にはいると、製造科のクラス内の雰囲気が変わっていた。仲のいい者同士で日本各地の焼き物の里を巡ったり、窯元を訪ね歩いたり、そうでない長旅をしたりした土産話が、日焼け顔の間を飛び交う。その笑顔はきらきらと充足の輝きをこぼした。だけどかつて瞳にみなぎらせていたはずの気力は、それと引き換えにほころびて見える。張りつめていたものがずいぶんゆるんできたな、という印象だった。
 ちょうどこの時期は、訓練でどの程度力を注げばいいかというさじ加減もわかり、かしこい立ち回り方を覚える。さらに、社会人時代には考えられなかったような長い夏休みをもらい、うっかりと遊ぶことを思い出させられるのだ。ハーフタイムで緊張を切ると、次のピリオドにはいるときにボルテージを上げるのが大変だ。息抜きは仕方がない。だがそのたわみ方はあまりに顕著で、オレは当惑するしかなかった。とにかく、クラスが唐突な筋肉弛緩と血流不足におちこんでいた。夏休みは、その大きな原因のひとつだった。
 一方、オレはというと、ますます追い立てられていた。もう半分終わっちゃった、という焦燥感に尻を噛まれて、手足をやみくもに動かさずにはいられない。そこで新学期早々、自分を張りつめっぱなしにするため「昼休み野球部」をリタイアし、フリーランスになった。野球部の集まり自体はテキトーなものなので、別に取り立てて引退を宣言するほどのことでもないのだが、とにかくその手のしがらみを断ちたかった。自由に行動できる身になりたかったのだ。義理は時間を拘束する。オレは常に陶芸のことを考えたかったし、その意味で昼休みの時間は貴重すぎた。メンバー不足にいつも泣いている野球部を離脱するのは心苦しかったが、あと半年間という限られた時間を考えると、一分一秒をもっと有用なものにしなければならない。そして、昼休みを使ってやるべきことを、オレは見つけたのだった。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園