陶芸みち

陶芸のド素人が、その世界に足を踏み入れ、成長していく過程を描いた私小説です。

その103・孤立

2010-04-07 09:21:40 | 日記
 訓練場の機械や工具を自由に使用できるのは昼休みしかないため、時間いっぱいかけてそれらを貪欲に使いたおした。実はこの作業は、陶芸教室を開業したらどんな道具がどれだけ必要か?という考えからはじめたのだが、最終的には30年分はまかなえそうなほどもたまった。道具はどんどん進化し、増殖していく。つくるほどに、さらにつくりこみたくなる。うまくできればまたつくりたくなるし、もっといいものを、もっとちがうバリエーションをつくってやろうという欲もでてくる。着想を発展させ、発明に結びつける。これもまた創作なのだ。
 ただ、休み時間にまで訓練場でヤスリをかける姿は、野球部の連中からは「裏切り者」と後ろ指をさされるものだったかもしれない。だけど逆にこちらには、内心ひそかに、この熱がクラス内に伝染しないかな?という魂胆もあったのだ。目覚めてくんないかなー、という。このスガタを見習いたまえ、という。焦んなくていいのかキミたち、という。学校を出た後にほんとにその器量で大丈夫なのかよ、という、なんというか親心と申しましょうか。いやそれよりも、ダラダラ遊ぶよりも楽しいことがあるのに、と、今しかできないことなのに、と・・・。しかしそれこそが誠にいらぬお節介というべきもので、傲岸不遜、迷惑千万な考え方だった。
 ついに道具つくり部にひとは集まらなかった。活況を呈す卓球部やテニス部の歓声を窓の外に聞きつつ、変人はひとりきり、作業場の片すみで晩夏をすごした。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園