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軍は民の忠実な犬たれ~Destiny考

2005年01月30日 13時47分34秒 | 世情雑感(サブカルチュア)
 機動戦士ガンダムSEED DESTINYは放送開始から15話を数えている。この作品の内容の賛否は色々分かれるところだが、リアルさを追求するとされるガンダムシリーズにおいてこれは明らかにおかしいだろうという点を今回から数回かけて分析してみたいと思う。今回の注目点は軍と政府の関係――つまり「政軍関係」、分かりやすく言えば文民統制という問題である。
 文民統制とは英訳ではシビリアン・コントロールと訳される。分かりやすく言えば軍の命令系統の頂点を民主的な手法で選出された代表者が就き、軍の行動を監督するというものだ。例えば、日本国自衛隊の最高司令官は内閣総理大臣であるし、米軍の最高司令官は合衆国大統領である。この関係をSEEDの世界に当てはめてみるならばザフトと地球連合軍は文民統制の下で行動していると言える。ザフトの最高指揮権は最高評議会議長のデュランダルが握っているし(積極的自衛権の行使を最終的に決定したのは彼である)、地球連合軍は地球各国の共同軍であるが大西洋連邦等といった国家レベルでの文民統制は行われている(ザフトへ宣戦布告を大西洋連邦大統領が行っている)と言えるだろう(誕生種別差別を行うブルーコスモスとの関係を指摘する向きもあろうが、これは文民統制とは別次元の問題である)。ならば、双方が民主主義国家であるならブルース・ラセット曰くの「パックス・デモクラティア」が成立するのではないかという極めて無難な指摘が出来るのだが、そうも行かないのはこれが現実ではなく虚構という「お話」でしかないからだろう。
 しかし、オーブの場合はそれがどうなっているのか不明確な部分がある。オーブの首長が民主的な手法によって選出されているとは思えないからである。そして、その結果がどうかはわからないがオーブ軍は軍が取るべき適切な責務を行っていない。例えば、護衛隊群によるミネルバへの攻撃命令の拒否、アークエンジェル攻撃への現場での恣意的解釈はその典型である。
 更にオーブと言う国家が極めて異質な国家であると言うのを認識せざるを得ないのは、テロリストへの対処である。ユニウスセブンを落下させたテロリストに対してザフト軍は殲滅を図った。これはテロリストに妥協せずという国際観念に極めて合致したものであるが、オーブはアークエンジェルとフリーダムガンダムが行ったカガリ・ユラ・アスハ首長誘拐というテロをみすみす許容している。護衛隊群司令の「オーブとこの世界を・・・」という誘拐許容の台詞は問題以外の何物でもない。テロと言う観点で地球連合軍特殊部隊によるザフト新型ガンダム強奪はテロ事件ではないのかと言う疑問があるかも知れないが、正規の作戦としてガンダム強奪作戦が遂行された場合はそれは国家による戦争行為であってテロではないと言う事になる(テロには色々な解釈があるが、非国家主体による行為と定義するのが妥当だろう)。
 ガンダムという作品は結局のところ「異端」を描く作品である。その「異端」達は一見するならば正義を実行しているかのように思われるが、そうではない。アークエンジェルはテロリスト集団であるし、オーブから命令無きままに出港したミネルバの行動は艦を私するものであり、文民統制下の軍隊では許されざる行為である。ガンダムシリーズは正義を追及するが故に、武力の私有と言う危険性の高い選択肢を提示してしまっていると言えるだろう。軍は民の忠実な犬で無ければならない。それが我々が過去の戦争から学んできた真実であり、それを黙殺する虚構が作られるところに我が国の平和への無頓着さが逆説的に現われていると言っても良いのかも知れない。