廃鶏を出しに行く。トリも1年半程産むとくたびれる。卵は大きくなるし、変形も出やすい。しかも産卵率が落ちる。エサ代がもったいないので処理場に出すことになる。以前は、妻がさばいて売ることもあったが、鳥インフル騒動で気分が乗らないし、僅かなお金のために、冬場寒い思いもさせたくない。2時間かけて処理場に運んでも、1羽40円。ガソリン代にもならないのだが、もたもたしているとエサ代がかさむので仕方ない。
前日の夜捕まえて籠に入れておく。鳥目というが、暗闇でも鳥は目が効き逃げ回る。全てを捕まえるのは容易ではない。私はマラソンの修行があるので、捕まえるのは妻の仕事になっている。面目ない!
籠の中でも卵は産むし、フンもする。積み込むときは鼻が曲がるほど臭い。運ぶ途中、後ろについた車は気の毒だと思う。信号で止まる度後ろの車に気を使う。積んだままガソリンを入れたことがあるが、最初から最後まで「申し訳ない」の連発であった。農家はどっちを向いても頭を下げねばならない。
処理場は山の中にある。当初は女の人が一人で処分していた。トリを逆さにつるし喉を切る。血反吐を吐きつつトリはこと切れる。死んだトリを毛むしり機に放り込む。血反吐と糞尿、抜けた毛を始末する。地獄の黙示録。常人のなせる業ではない。われわれのようにトリを見慣れているものでも一瞬でも早くその場を逃げたかった。
彼女の年齢は不詳。いつもパーカーをかぶっているので性別も不確かであった。話しかけたら、かすかに返事をしたので、彼女が女性であることだけは分かった。どんな理由でこんな仕事をしているのかは分からなかったが、14~15年、ひたすらこの仕事を続けていた。
ある日、処理場の係が30代の青年に代わっていた。自分がこんな仕事をしていることを他人に知られたくないと思っているのか、いつも恥ずかしそうに下を向いていた。「こんな仕事は50万円ぐらいもらいたいですね」と話しかけると「50万円では足りません」と返した。半年も持たずに彼はやめた。
次の方は、威勢が良かった。「おれは、こんなところにいる人間じゃない」と言いたげであった。「みじめな仕事をしている貧乏人がー」と私たちを見ていたと思う。バリバリ仕事をするので長続きすると考えていたが1年持たなかった。名物であるらしい唐揚げは、こんな人々によって支えられている。
次は人のよさそうな二人に変わった。「こんな仕事は二人でなきゃできませんね」と話しかけた。彼らもそう考えていた。苦しい仕事も二人ならしのげる。今度は続くだろうと思う。
農業、特に畜産。一人では続かない。なかには、女一人で果敢に養鶏をしている人もいるが、私は、妻が里帰りして30分経たないうちに養鶏をやめようと思う。養鶏だけではない。生きることもやめようと思う。私の場合、幸運にもパートナーに恵まれた。死ぬ間際になって「いい人生だった。君と結婚できて良かった。ありがとう」と言っても遅いので、いま書き遺しておく。
photo 「由布岳 遠景」
前日の夜捕まえて籠に入れておく。鳥目というが、暗闇でも鳥は目が効き逃げ回る。全てを捕まえるのは容易ではない。私はマラソンの修行があるので、捕まえるのは妻の仕事になっている。面目ない!
籠の中でも卵は産むし、フンもする。積み込むときは鼻が曲がるほど臭い。運ぶ途中、後ろについた車は気の毒だと思う。信号で止まる度後ろの車に気を使う。積んだままガソリンを入れたことがあるが、最初から最後まで「申し訳ない」の連発であった。農家はどっちを向いても頭を下げねばならない。
処理場は山の中にある。当初は女の人が一人で処分していた。トリを逆さにつるし喉を切る。血反吐を吐きつつトリはこと切れる。死んだトリを毛むしり機に放り込む。血反吐と糞尿、抜けた毛を始末する。地獄の黙示録。常人のなせる業ではない。われわれのようにトリを見慣れているものでも一瞬でも早くその場を逃げたかった。
彼女の年齢は不詳。いつもパーカーをかぶっているので性別も不確かであった。話しかけたら、かすかに返事をしたので、彼女が女性であることだけは分かった。どんな理由でこんな仕事をしているのかは分からなかったが、14~15年、ひたすらこの仕事を続けていた。
ある日、処理場の係が30代の青年に代わっていた。自分がこんな仕事をしていることを他人に知られたくないと思っているのか、いつも恥ずかしそうに下を向いていた。「こんな仕事は50万円ぐらいもらいたいですね」と話しかけると「50万円では足りません」と返した。半年も持たずに彼はやめた。
次の方は、威勢が良かった。「おれは、こんなところにいる人間じゃない」と言いたげであった。「みじめな仕事をしている貧乏人がー」と私たちを見ていたと思う。バリバリ仕事をするので長続きすると考えていたが1年持たなかった。名物であるらしい唐揚げは、こんな人々によって支えられている。
次は人のよさそうな二人に変わった。「こんな仕事は二人でなきゃできませんね」と話しかけた。彼らもそう考えていた。苦しい仕事も二人ならしのげる。今度は続くだろうと思う。
農業、特に畜産。一人では続かない。なかには、女一人で果敢に養鶏をしている人もいるが、私は、妻が里帰りして30分経たないうちに養鶏をやめようと思う。養鶏だけではない。生きることもやめようと思う。私の場合、幸運にもパートナーに恵まれた。死ぬ間際になって「いい人生だった。君と結婚できて良かった。ありがとう」と言っても遅いので、いま書き遺しておく。
photo 「由布岳 遠景」