早朝2時半に目を覚ます。昨日に続いて「夜のお仕事」が待っている。パジャマのまま長靴を履き、静かにトラックを始動させ、里の田んぼへ向かう。こんな夜半に集落の中をディーデルエンジン音をさせて通り過ぎるのは幾分気が引けるが、道路の近くに家がある不運を諦めてもらうしかない。5~6分で目的地に着く。昨日やった対策の「効果」を確認しなければならなかった。
一昨日は母の敬老会をかねて「お食事会に出かけたので田の見回りをしていなかった。夜、家に帰ると2件電話があり、わが家の田に猪が進入したとのこと。押っ取り刀で出かけると、確かに電線が2ヶ所切られ、畳ほどの広さの稲が踏み倒されていた。電線をつなぎ、倒された支柱を打ち込んで帰ったが、翌朝また侵入された。今度は数カ所に穴が開き、私と妻が育ててきた稲は泥の付いた脚で踏みにじられていた。徒労感が漂う。
次の朝、息子に手伝って貰い、二晩続いて蹴り破られた箇所をビニールハウスに使っていた鉄筋を打ち込み補強した。鉄条網を買ってきて、スティーブ・マックイ~ンの「大脱走」のようにグルグルと巻いておいた。それを果敢に乗り越えようとする鼻先には12ボルトの電線が待っていた。今朝はその成果を確かめに来たのだ。
トラックの明かりを田の方へ向けた。うごめく者は見えない。念のため暗闇に向かって「こらぁ~」と叫んでみた。「なんだ~」と答える者はいない。息子と作った「要塞」は摩天楼のようにそびえ、妻が夕方買って付けた猪撃退用の明かりが2個ネオンのように暗闇で点滅していた。しかし、これくらいのこけおどしで身を引く連中ではない。あと十日守り切れれば収穫が待っているのだが・・・。
油断していたわけではなかった。彼らの恐ろしさは知りすぎるほど知っていた。草が伸びて電線に触ると漏電するのでこまめに切っていた。電線に蔓が絡みついている隣人の田より遙かに猪入りにくかったと思う。それがどうだ。連日の被害はうちの田だけである。
原因は不明だが、ケイフンだけで作る田はミミズなどの生き物が多いのか、土を食べる彼らには有機微生物の多い土が旨いのか?iいずれにせよ、有機農業は農薬をやらないだけではなく、それに伴う数限りない困難を引き受ける覚悟がいる。
帰宅して冷蔵庫を開け、350ミリの缶ビ~ルを半分だけ残して元に戻した。しばらくして思い直し、残りも片づけた。あと十日、十日である・・・。2009年9月23日
(後日談)悪い予想が当たって、それまでの私と彼らの戦いは単なる序章にすぎなかった。そのあと死力を尽くした十日戦争が開始された・・・。
photo 「オブジェ 柿の葉」