366日ショートショートの旅

毎日の記念日ショートショート集です。

転送してくれ、スコッティ

2012年04月18日 | 366日ショートショート

4月18日『発明の日』のショートショート



「ご無沙汰しました。矢菱鰹犇博士、先生の助手だった猫田です」

「おお、君は、矢菱虎犇の孫である私、矢菱鰹犇の助手を一年務めた後、単身渡米していたが、私の画期的な開発を聞きつけ緊急帰国、とるものとりあえず昨年11月に私の研究所に駆けつけた猫田君じゃないか。3カ月ぶりの登場だね」
「実際の会話ではありえない、人物と経緯の説明紹介、ありがとうございます。早速ですが、またとんでもない画期的な開発をなさったという話を聞きつけまして・・・」
「耳の早い男だな。では、秘密の地下実験室に来たまえ」

案内されて地下実験室に入ると、博士が扉を閉める音が暗く広い室内に響いた。
博士が蛍光電灯のスイッチを入れる。
研究所の地下に建設された地下実験室は、格納庫のように広かった。
室内には、直径4mほどの円形ステージが二つ並んでいた。ステージはガラス張りになっている。
「物質転送装置スコッティだよ、猫田君」
「こ、これが物質転送装置?」
「スタートレック宇宙大作戦で、エンタープライズ号から惑星に降り立つときに使っていたものを現実に作ってしまったのじゃ」
「あの、転送装置を!スタートレック制作当時、惑星への着陸、離陸シーンを撮影するには技術的に難しいので、簡単に移動するアイディアとして作られた、あの装置を!」
「まあね。この装置、理屈は簡単なのだよ。こちらの送信用Aポッドの中の物体に転送ビームを照射して、量子レベルに分解する。これを位相変換コイルによってエネルギーに近い形で放射送信するのだ。受信用Bポッドでは、このビームを受け取り、位相変換コイルで量子に変換して再構築するのだ」
「いや~博士、あなたは天才だ。僕にはチンプンカンプンですよ」
「では、猫田君、君は実験してみたくないかね?物質転送実験を」
「エエッ、僕の服にハエがとまっていて、転送された僕がハエ男になってしまうじゃないですか」
「それは『SF恐怖の蠅人間』じゃないか。君自身にポッドに入れとは言わん。さぁ、これとこれをポッドに入れるんだ」
猫田助手は、差し出された矢菱博士の手から二つのコップを受け取った。
ひとつのコップにはコーヒーが入っていた。もう一つのコップには牛乳が。
猫田助手は、送信用ポッドの中に入ると、二つのコップを置いた。矢菱博士はにっこりと頷く。
「こ、これを転送できるんですか?」
「まあ、見ていたまえ。転送してくれ、スコッティ」
博士が転送装置の操作盤のスイッチを入れた。
強烈な電子音の波が猫田助手の耳を襲う。
二つのポッドが青白く光り始める。電子音と共に光は強さを刻々と増す。
激しい真っ白な閃光が猫田助手の目を射た。
猫田助手が再び目を開けると、送信用ポッドは空になり、受信用ポッドに、ひとまわり大きいコップが置かれていた。中身は・・・コーヒー牛乳だ。
「見たまえ、実験は大成功だ」
満面の笑みで握手を求める博士。猫田助手は握手をしながら、狐につままれたような顔だ。
「こ・・・これが物質転送装置ですか?」
「そのとおり。まだコーヒー牛乳しか成功していない。だが近いうちには、焼酎とお湯を転送して湯割りを作ることもできるようになる」
「そ、そのために、この装置を?」
「猫田君、見くびっちゃあいかんよ。わたし矢菱鰹犇、もっとすごいことを目論んでおる。君があまりの驚きに卒倒してはいかんので小出しにしたのじゃ」
矢菱博士はニヤリと笑った。
「ゆくゆくは、チョコレートとクッキーを転送してチョコクッキーを作ることも可能になるじゃろう。レーズンとパンを転送して、ぶどうパンを作ることさえも!!どうじゃ?」
「いや・・・どうじゃって・・・生物を転送したりは・・・」
「おっと、話を先回りしては困るな。当然、考えておる。ついに君に究極のこの装置の活用法を言わねばならんな、フフフフフ」
「おっ、博士、待ってました」
「将来的には、ライオンとヒョウを転送してレオポンという動物を作るつもりだ。そればかりじゃない。ロバとウマからラバを。イノシシとブタからイノブタを!」
「・・・」
「これは人道的な問題があるので内緒だが、人間の転送も考えておる・・・」
「やっぱり!」
「もちろん、人間の転送こそ、究極の目的じゃ。別々の人種を転送してハーフを作ることも可能じゃ。男女を転送してニューハーフを作ることさえも!」
「博士、博士にとって物質転送装置って・・・」
「何か問題でも?」