簡単に言えば、軍用犬たちの運命を辿ることで二十世紀――それは戦争の世紀である――を俯瞰的に捉えた物語だ。特筆すべきは、それが二人称で語られていることである。かつて二人称で書かれた小説がどれくらい存在したのかは寡聞にして知らないが、この語り口が独特なものであることは間違いないだろう。しかも、二人称で呼ばれる相手――それは常にイヌである――は、次々と変わる。話者が常に抱いているのは、イヌたちに対する愛情と敬意、慈しみだ。それに比して、人間たちは添え物でしかない。
イヌたちは人間どもの争いに利用され、巻き込まれ、命を落としていく。だが、その中でも血脈は着々と受け継がれ、世界のあちこちで優秀さと有能ぶりを発揮する。その小気味良さ! 中でも「グッドナイト」の活躍には泣かされ、胸が熱くなった。えっと、特にP.278~282とP.296~298の辺りね。グッドナイト、立派すぎ!
登場人物(というより登場犬、と呼ぶべきか?)が多い上に、時系列が前後することもあるので、終盤では物語の全体像を把握するのが困難になってくる。こっちの読解力と記憶力が低いせいもあって、誰と誰が血縁関係だったのか、どこで話がつながっているのか、曖昧になったりもする。「分かりやすさ」という点においては、決して親切であるとは言えないだろう。だが、この小説の魅力は、硬質で豪快、そして時に軽妙さを覗かせる文体にある。後半では遊び心が過ぎると思われる箇所もあるが、すでに作者の術中にはまっている読み手は、苦笑しながらもその奔放さに酔いしれながら続きを読み進むことになるのだ。
こんなに面白いんなら、もっと早く読んどきゃよかった。イヌたちよ、許せ。うぉん。
『ベルカ、吠えないのか?』古川日出夫
http://www.bunshun.co.jp/book_db/html/3/23/91/4163239103.shtml
コメント一覧
トッパ
さっちゃん
最新の画像もっと見る
最近の「<本> 本の感想など」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
- 新作映画公開情報@名古屋(972)
- 映画に関する話題アレコレ(109)
- <映画> 映画の感想(246)
- <音楽> 好きな歌の紹介など(115)
- <本> 本の感想など(81)
- テレビ・ラジオに関する話題チラホラ(87)
- いわゆる身辺雑記、もしくは雑感(588)
- ライブレポもどき(67)
- 「されても構わない程度の勘違い」シリーズ(3)
- お宝自慢、またはお宝もどき紹介(20)
- 愛・地球博の思い出(10)
- 告知モノ(36)
- 「映画バカ一代」関連(7)
- とりとめのない思い出話(11)
- 「このカバーが正しい」シリーズ(10)
- 分類なし(16)
- 日本語について語らせて(名古屋弁ネタ含む)(7)
- ミーコのページ(44)
- 「甲斐トリビュートLIVE」関連(26)
- 日記(0)
- 旅行(0)
- グルメ(0)
バックナンバー
人気記事