萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk53 時計act.4 ―dead of night

2017-12-30 23:23:00 | dead of night 陽はまた昇る
希求を君に、
英二side story追伸@第5話 道刻


secret talk53 時計act.4 ―dead of night

静謐の底、狭いデスクが永遠になる。

蛍光灯かすかな音、左腕の時計、机上くぎらす光の弧。
デスクライト照らすページだけが世界に想える、そして終わらない。

「…、」

無言に繰るページまだ続く、尽きない知識を読みこむ時。
この一刻に左手首の時計が刻む、クライマーになれる未来を手繰る。

その果てに、君はいるだろうか?
それとも今のまま独り自分は立つ?

「…、俺なに考えてんだ?」

ため息つぶやいて嗤いたくなる、この自分が「なに」を?
可笑しくて自分で自分を嘲笑う、こんなこと考えるなんてらしくない。

―ただ目的だけでいいだろ俺、誰がいる…とか関係ない、

脳裡ひとり自嘲して、だけど嗤いきれない。
いつものよう「関係ない」と言い切れない、こんなこと何の得もないのに?

―男が男をって俺…どうしたいんだよ?

自分は男、君も男だ。
それなのに「いるだろうか」なんて考えている、こんなこと君が知れば何思うだろう?
たとえば昨夜の自分の夢が何だったか、たとえば今夕の言葉に拘っている理由について、君は?

“ふるさとが一番だろ?”

同期が何気なく言ったこと、そのあとに続いた言葉。
そのとき自分が想ったこと願ったこと、君に訊いてみたくて仕方ない、なんて?

―湯原のふるさとって…出身は神奈川だったよな、新宿駅からJRだし?

どこへ君は帰るのだろう?
そのこと詳しくは訊いたことがない、知りたくなる。
今すぐ訊きに行ったら君はどんな貌するのだろう、真夜中に近い今?

「…、」

呼吸そっと低めて、消して、隣へ意識を細める。
静かな夜に気配たどる、君は今まだ起きている?

かたん、

視界が立ちあがる、ジャージの膝うら椅子うごく。
あわい蛍光灯の光を出てドアノブ握って、そっと開いてオレンジ香った。

「え?」
「ぁ、」

声ふたつ重なって、君がいる。

※校正中
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