萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

皐月十四日、薔薇―glory

2021-05-14 22:05:16 | 創作短篇:日花物語
君にふる光を、
5月14日誕生花バラ薔薇


皐月十四日、薔薇―glory

薄紅色やわらかに翻る、ブラウスゆらす風が甘い。
あわい温かい紅色やさしい背中、ふりむかせたい。

でも、なんて呼ぼう?

「…困ったな、」

困る、けれど幸せだ。
こんなこと悩むだなんて考えられなかった、決まっていたから。
君を呼ぶ、そこに「名前」許されなかった。

「大介、どうしたの?」

ほら薄紅色ふりかえる、気づいてくれた。
君を呼べないまま、それでも映してくれる瞳に微笑んだ。

「あなたを何て呼んだらいいのかなと思って、」

笑いかけた真中、ダークブラウンの髪やわらかに光る。
もう白髪がなんて君は言った、その銀色ひとすじ微笑んだ。

「大介の好きに呼んでほしいわ、でも、お嬢様はもうやめてね?」

それだけは年齢ちょっと似合わないでしょう?
もう年経た恋人おどけて笑って、でも耳あわく薄紅そまる。
こんなとこ変わっていないんだな、再び逢えた色彩に笑いかけた。

「名前を呼びたいな、あと、奥さん?」

年を経て、積みあげた時間と想いの涯。
この今こそ許されるなら、君の光と言葉と。
薔薇:バラ、淡紅色の花言葉「光輝、愛の誓い」


※読切短編の続編になっています
第3話「皐月十三日、山査子―solitaire」
第2話「睦月十五日、菫ーmodesty」
第1話「睦月五日、三角草ーGuardian」
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