何かにはがい締めにされる苦しさで目が覚めた。
のろのろと重いからだを引きずり洗面台に立ったら、それはもうひどい顔だった。
海岸沿いのシネコンはレディースデーだというのにすいている。
一人缶コーヒーで暖を取りながら席につく。
一人で来ているのは、どうやら私くらい。
『私の頭の中の消しゴム』
ヒロインが使う鉛筆の音が小気味いい。
そういえば。
七年も愛用したペン軸を、今さらだが捨ててしまったのが思い出された。
ばらばらと半分に折って燃えるゴミに出した。
そのまま捨てても良かったのだけど、そうして折ってしまわないと決心が揺らぐ気がして恐かったのだ。
十何万もしたギターだって、学生街の中古店で7000円にしかならなかった。
ぴかぴかに磨いていたのに、そんなのお構いなしに一週間の食費に消えた。
女だって、妻になり母になってたくさん捨ててきた。
『私の頭の中の消しゴム』
泣けなかったのは、内緒で映画館に来たという罪悪感?
あなたのお金で観ているというくやしさ?
今夜はチンジャオロース。
ピーマンをざくりと縦に割る。
若くみずみずしい実から跳ねた雫が、まぶたに散った。
まぶたの皮膚をつたってやがてくぼみに流れる。
――涙のように?
私は泣いてなんかない。
豚肉を切る肉バサミの、この切れ味の鈍さはなに。
狭い台所のこの、居心地の悪さはなに。
夫婦には適度な温度差がある。
でも近づこうと相手を想う、距離が見えないからただ想う。
・・・もっと夫婦は恋デキル?
~つづく

~
エピソードじゃないじゃないか(爆)
事務局様~お誘いコメントありがとうございました。コンセプトに合ってないのでどうしようかと思ったのですが・・・

不適切ならすぐ削除します。