「メジャーの打法」~ブログ編

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ダルビッシュ(6)

2015年04月08日 | 投法

 考察を進めるには、投法概念(投げ方の多様性)の導入が不可避だろう。動作様式が異なる投げ方が複数存在し、それぞれの様式を共有する投手が複数存在するのである。

 三頭筋(肘伸展トルク)に関するJobe とFeltnerの食い違いもその中で解決されるはずだ。『投法はひとつ』という信念が理解を妨げてけてきたのだろうから。
 (Jobeも何故か名を連ねている)DiGiovine(1992)は数字を出しているが、平均値(89±40%)だから、Jobe(212%)と比べると迫力がない。挙句の果てはFeltner論文との整合性に腐心することになる。
 加速期の伸展速度2200度/秒をFeltnerから引用しているが、(投法ごちゃ混ぜの)石井では1500以下だ。Jobeでは、三頭筋の筋活動がフォロースルーまで続いているとあるのに、DiGiovineでは、Dobbins神経遮断を引き合いに出して、「加速期に入る頃に屈曲を妨げる」のを主な役目としている。それとも、収縮速度が上がると、筋活動があるのに、伸展に寄与しないなんてことがあるのかねぇ…??
 グーはグー、パーはパーで個々に考察すべきところを、平均を取ったらチョキになったからといって、チョキについて語られても困る、って自分でも何を言っているかわからなくなってきたが… 
 『投げる科学』でもFertner論文の記述で神経遮断に言及しているが、神経を遮断して投げることなど、Jobe型、あるいはアーム式を含めた日本のオーバーハンドの投法では不可能なんだよ(岩隈など、一部例外を除く)。しかもこの本では、「三頭筋の活動レベルが低い」という記述の参考文献にJobeを挙げたり(p.103)、ボールの初速増大に最も貢献するのは上腕三頭筋長頭という山本論文にはコメントしない(p.157)という不思議。

 要するに、ふたつ(あるいはそれ以上)の『投法』があるのであって、そんなのはあのイラストを見れば子供でもわかるし、ふたつが同じ原理で説明できるなどと考える方がおかしい。アメリカについて言えば、かつては恐らくは 'girlie pitch' などと揶揄し、Wタイプに修正してきただろうJobe型を認知しなければ、この論議はスタートしないということだ。例1例2

 昔から野球技術の日米比較があった。村上豊が打撃について論じたのをご存知の方も多いと思う。
 腰回転投法については、Feltnerや風井でかなり明確になってきた。ところが日本にはそのほかアーム式という鬼子がいるのだ。では、「アメリカにもアーム式がいるのではないか?」と思った人がおられるだろうか? 私が気づいたのもそう昔のことではない。10年経ったかどうか…。
 そうなると、「日本もアメリカも主体は腰回転投法で、前屈投法のアーム式という異端児を抱えている」ということになる。ダルビッシュは見た目に、ストラスバーグよりもマダックスに近い。実際私は、ダルビッシュ本人に、「マダックスに腕の振りが似ている」とツイートしたことがあった。
 古くから日本の投球技術論の中心的な話題であった日米比較も影を潜めることになるのか・・・と思いきや、そのアーム式が、肘への負担という点からすると、日米で天と地ほども違う(かもしれない)のだ。ダルビッシュは、負荷の掛け方は違うにせよ、マダックスよりもストラスバーグに近いということになる。
 何だか面白くなってきたーーと思うのは私だけではないだろう。やはり、体型など、動作様式の違いをもたらす人類学的あるいは文化的背景を考察の対象に含めなければ、本当のバイオメカニクス的理解は得られないのだ。腸腰筋が白人の3倍発達した黒人が白人と同じフォームで打ったり投げたりしたら、ヘンじゃないか。

 (この項おわり)



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