「メジャーの打法」~ブログ編

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続・投球のバイオメカニクス(4)

2011年07月07日 | 投法

 宮西論文。

 Feltner&Dapena1986以降、これまでの動作解析法による論文に、風井論文を裏付ける資料はあったのだろうか? Fleisig1995のリリース直後の内転、水平内転トルクにおける平均と標準偏差は風井を想起させるが、それを除けば記憶にない。ひとつには、宮西智久のような動作解析法の専門家が風井論文を裏付ける、したがってFeltner論文と矛盾するデータの公表を避けてきたからだ。

宮西の実験の被験者は筑波大野球部の選手だから、石井とだいたい似たようなものだろう。平均値において著しい違いがあるとは思えない。


 『野球の投球動作における体幹および投球腕の力学的エネルギー・フローに関する3次元解析』1997では、被験者N.H.を「典型例」として選び、力学的エネルギーの流れを論じている。このN.H.を『典型』とした理由は何か? 肩肘の関節トルクが算出されグラフになっている(左が肘で実線・プラスが伸展、右が肩で点線・プラスが水平内転)。加速期前半で肘トルクは伸展値を示すものの小さく、リリースでは屈曲値。肩は常に水平内転値。肘伸展、肩水平外転の石井とはまったく異なるのがおわかりだろう。したがって、宮西の平均値からも遠いはずだ。ではなぜ『典型』なのか? 答えはFeltnerに近いからだ。肩水平内転、肘伸展・屈曲トルク発揮はFeltner1986に酷似している(ただし、破線が示すように肩外転ではなく内転)。つまり、『典型』は他の被験者を代表するという意味ではなく、Feltner1986の被験者に近いという意味なのだ。肩肘の関節トルクについて、24名の被験者の平均値は載ってないていない。載せることはできないだろう。
 
 宮西はさらにそのN.H.について肘のトルクを考察している。

このような肘関節の大きな伸展角速度の原因は,従来,筋電図研究(7・14・16・32・35)などにより上腕三頭筋によるものと考えられてきたが,橈骨神経遮断分析(Dobbins,1970:文献24から引用),動作制限分析(31)や映像を用いた3次元動力学分析(9・35)などの研究によって,上腕三頭筋による主因説に疑問がもたれた.最近,写真を用いた隣接部分の相互作用分析(10・11)から,肘伸展角速度の増大は,肩関節の加速度や上腕の角速度(運動依存角加速度)による影響が大きいという報告がなされている.図4bに示したように,上腕から前腕へ流入するパワーのうち,肘関節の伸展筋群(上腕三頭筋)による発揮パワー(鎖線)は上述のように約1/4と推察された。したがって,肘伸展(前腕)角速度の増大は,肘関節伸展筋群によるよりも,主に体幹や肩関節筋群によって生み出されたエネルギーが,関節(図3c:関節カパワー)や筋・腱を介して上腕から前腕へ転移したことによってもたらされているものと推察される.
LA局面後半からリリース直後では,先行研究(9・35)と同様に肘関節の屈曲トルクが認められた(図5b中段).この屈曲トルクは,図5b(上段)からわかるように伸展角速度中に生じているので,結果的に関節トルクパワー(下段)は負となっている.この時期に上腕二頭筋の顕著な放電が観察されている(14・16・35)ことから,リリース前後では,肘屈曲筋群は伸張性収縮を行っていると言える.(以下略)
パワーのグラフは省略した。
LA局面=後期加速期
文献(9・10・11)はFeltner、(35)はFleisig一派


 N.H.の数値はこの現代バイオメカニクスの考えを裏付けたとするわけだが、そういう被験者を選んだのだから当然だろう。この論文が価値を持つためには、そのことが日本人選手一般についても正しいことを明らかにする必要がある。そのためにはN.H.が被験者代表にふさわしくなければならない。ところが、石井の数値がそれを否定したのだ。日本人を被験者に選べば、動作解析法に依ろうが、筋電図法に依ろうが、Feltnerの被験者とは異なる結果が出る。風井の被験者について、動作解析法を用いれば石井のようになる。N.H.の数値を根拠に風井論文の価値を否定することはできないのだ。

 文献(16)は風井だが、LA局面における「上腕二頭筋の顕著な放電」の記述はもちろん、ない。

  



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