「メジャーの打法」~ブログ編

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ペドロふたたび

2019年05月05日 | 投法

 ペドロについては、10年以上前に、No.103ペドロ・マルティネスで書いたが、引き合いに出した投手の投法はペドロのものとは異なっているようだ。最近出した拙著で広背筋についての明言を避けていたのも、我ながら情けない。まあ、「この投法の動作原理を考察し、Feltner型と対峙させることが『投法の分類学』の根底になければならないと考えます。21世紀の投球論議の出発点はこの辺りでしょう。」とした考えが今でも変わりないのがせめてもの救いだ。

  Feltner&Dapenaの論文も取り扱ったアメリカ式投法の最大の弱点が肘の外反ストレスにある――というのは大方の見方だろう。肩内旋動作が肘への負担となるのだ。その結果、内側側副靭帯を損傷し、トミージョン手術を受けることになる。例えば、ストラスバーグで、肩水平位内転が弱まるとともに肩内旋が起こっているのがよくわかる。

 それに関連する記述がFeltner1989にある。

最大外旋直後に肩内旋が始まる。この動きは主として肩内旋トルクによるものだが、上腕の水平位外転・内転角加速もこれを支援している。またこの内旋はおそらく肘伸展にも助けられている。肘から先の部分の上腕長軸周りの慣性モーメントが減少するから、角加速には都合がよいのである。

 右広背筋はこの肩内旋トルクに大きく寄与する(右投げ)。さらに、Gowanら1987の数字が示すように(コッキング期、静止時最大筋力の10%、加速期130%)、広背筋では伸張反射が起こっていて、これが悪さをしているようなのだ。そのメカニズムはというと・・・
 ステップにともなって左脚伸展トルクが生じ、続いて左広背筋が収縮すると、骨盤回転、さらに肩の左ティルト&ターンが起こる。この動作が右腕の振り出し(肩水平位内転)を引き出す。その振り出しが広背筋の伸張反射を招き、肩内旋をもたらす。これがオーソドックスなアメリカン投法における動作の流れだ。

 したがって、肘の故障を避けるには、右広背筋の伸張反射を排除するのが有効なのだが・・・ 
 その方法として、広背筋をコッキング期から参加させてやる――という手がある。これなら反射は起こらない。腕を振り下ろす感じの投げ方で、例えばG.マダックスが採用している。Jobe1984の被験者も同じタイプで、コッキング期に広背筋の著しい活動があり(168%)、Gowanとの違いを見せている。この投げ方なら肘の故障は避けられる――という説はアメリカにある。ダルビッシュ(5)あたりで書いた。

 もうひとつ、(少なくともリリースぎりぎりまで)広背筋を使わないという手もある。最近アメリカ人投手のあいだで流行りつつある投法だ(キンブレル)。右腕の動きを見れば、水平位内転に勢いがあり、内旋が起こるのは肘伸展の後であって、肘の負担が小さいのはわかりやすい(上記引用文参照)。 
 ステップ前に、僧帽筋中部と三角筋後部で、左右肩肘を後ろに引いておく。ステップとともに左股関節を軸に体が前傾すると、それによって急激に引き伸ばされた右大胸筋を収縮させて、腕を前方に振り出す。この動作を左大胸筋が支援するのは言うまでもない。大胸筋は胸肋部から使い、右広背筋がただちに引き伸ばされることを防ぐとともに、エネルギー生産の帳尻を合わせる(アメリカ式は鎖骨部のみ)。

 これがペドロの投法だ。それを見て、アメリカン投法の欠点を回避しているという認識に至ったコーチ達が自覚的に採用し、キンブレルやシャーザーを生み出した――というところだろう。
 ドミニカ共和国出身の投手の多くが採用していることから、かれらにとっては生来のものであり、ペドロに肘の負担云々の認識はないだろう・・・と思っていたが、最近ペドロのツイートを読んで、おやと思った。1) Balance 2) Soft landing 3) Consistent release point を3つのポイントとしているが、2)は左脚の強力な動作を伴うターン式とは相容れない。肘の故障はともかく、アメリカン投法との差異を十分理解していることが窺い知れるのだ。

 



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