「メジャーの打法」~ブログ編

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続・投球のバイオメカニクス(16)

2011年08月27日 | 投法

Jobe (1984) その6

 前鋸筋について述べた部分がある。

 In two of the four subjects, the serratus anterior became active in the late cocking phase. In all subjects, the major activation occurred during acceleration as the scapula moved laterally and while rotating downward. Activation continued during follow-through in all subjects.

 それについてDuscussionには,

The serratus anterior, during late cocking, acceleration and follow-through, controlled the scapulothoracic joint during this period. It thus provided a stable glenoid against which the humerus could rotate.

とあるだけで、「コッキング後期に、使う投手もいれば使わない投手もいる」ということには触れずじまいなのだ。
 
 このことを理解するには、風井論文が助けになる。

三角筋鎖骨部の放電は滅少あるいは消失する傾向がみられた.連続型(A・K)はバックスイングのポーズ①一②で滅少する傾向はみられるものの持続した放電を示し,フォワードスィングのポーズ②一④まで強い放電を示した.一方,非連続型(N.K)の三角筋鎖骨部の放電はポーズ②付近で消失し,ポーズ③一④で顕著な放電を示した.また,この期に大胸筋鎖骨部にも同時放電がみられた.すなわち,連続型はバックスイングから引き続き上腕を挙上しながら上腕の水平位内転が行なわれているのに対し,非連続型ではポーズ③より遅れて上腕を挙上しながら上腕の水平位内転がなされていることがわかる.


 連続型が②→④にかけて三角筋鎖骨部(大胸筋鎖骨部)に放電があるのに対して、非連続型は、ポーズ②で一時消失し、③以降に放電がある。この一時停止が『非連続型』の由来なのだ。メカニズムはどうかというと・・・・・

 踏み出した脚の大腿直筋および体側の左屈筋群収縮により体幹が左に傾く。その動作が右背筋群の起始を引っ張り、収縮を引き起こす。さらにその収縮が肩さらには手首にまで及び、③を形成する。この間に胸側の三角筋鎖骨部、大胸筋の放電が消失するわけだ。③を過ぎて股関節屈曲筋が大腿直筋から腸腰筋に切り替わると、体幹が前方に倒しこまれ、今度は胸側の肩水平内転筋群が収縮する。
 それに対して連続型は、プレートを蹴って、開きつつ前進することにより②を形成する。そののち、ステップを経て④に至るまで、体幹横回転、肩水平内転が継続する。

  • 上腕の水平内転を行うときに収縮するのは前鋸筋も同じである
  • アーム式も、非連続型と同じメカニズムで、水平内転の一時停止が起こる

とすれば、コッキング後期における前鋸筋収縮の有る無しは、

Jobeの被験者のうち2人はアーム式、2人は連続型

と考えることで説明がつく。

 グラフはコッキング後期に前鋸筋の収縮があるから、連続型の投手のものだろう。三角筋、肩甲下筋についてのデータがあればはっきりするのだが、Jobeは測ってない。というより、違いを避けて、(コッキング後期の前鋸筋を除いて)筋放電が4人に共通する筋肉のみを取り上げたのだろう。その結果三頭筋がクローズアップされ、Feltner&Dapena1986との違いが際立つことになった。バイオメカニクス史上に燦然と輝くあの矛盾のなんと美しいことよ。
 



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