快読日記

日々の読書記録

「乗り遅れた女」夏樹静子

2009年05月02日 | 日本の小説
《4/26読了 新潮文庫 2003年刊 【日本の小説 短編集】 なつき・しずこ(1938~)》

良質の2時間ドラマが大好きです。
独りよがりなうっとうしい主義主張もなく、
気を抜いたら置いて行かれそうな複雑な伏線やトリックもない。
しかし、ミスリードひとつとっても品がよくて、「読者を引っ掛けてやる!」みたいなガツガツしたところがない、
話のスジもなんだか人道的で、着地点にも安心感がある。

夏樹静子の短編作品はまさにそれなんです。

口当たりも読後感もいい。
苦味や辛味もあるけど、その加減が絶妙で、「書きすぎない」ところが作者のうまさなんだなあと感心します。
むやみに「不快感」や「エグみ」を残そうとする作家にはない成熟した老練さが魅力です。
人間の暗部を描くのに、何でもかんでもムキ出しにすればいいかと思っているような作品にはうんざり。
…なときもあるわけです。

頭と心を休めたい時の、和菓子的1冊でした。

夏樹静子作品、巧妙に、じっくり煮込んだ長編心理劇もいいけど、
手際よくパパッと出された小料理みたいな短編もいいですね。