快読日記

日々の読書記録

「妄想の森」岸田今日子

2012年07月18日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《7/16読了 文藝春秋 1997年刊 【日本のエッセイ】 きしだ・きょうこ(1930~2006)》

妄想の「森の中で見たこと聞いたことを、八年間、『一枚の繪』に書いた」(252p)エッセイをまとめた名著。

まず、日本語のきめの細かさ、なめらかさ。
みんなと同じ日本語を使ってるはずなのに、この肌触りの違いは何だろう。
浸透力の強い油みたい。
そして、現実(多くは思い出)から妄想への水深の深さ、そこに潜り込む力とスピードの見事さ。

友人の家の庭で孔雀夫妻とチャボ夫妻を見たら、すぐに脳内でその奥さん同士の会話が始まり、
失踪して半年後に死体で見つかったアフリカの画家に思いを馳せ、
かと思えば、絵に描かれた家の戸が開いて、そこに人が入っていくのを見たりする。
そして、友達がくれたクリスマスローズを持って行ってしまうカラスには怒り心頭です。

「カラスにとってクリスマスローズは、どんな価値があるのか。友だちが病気で見舞いに持って行くというなら、病院を教えてほしい。縁が紫の白いスミレならたくさんあるから、取り替えてもらえないか聞いてみたい。友だちだなんていっているけれど、好きな女の子ではないのだろうか。その子が『クリスマスローズを持ってきたら恋人になってあげる』ぐらい、いったのかもしれない。まったくカラスの女の子なんていい気なものだ」(31p)

どれも3ページ弱の短い話なんですが、冒頭のムッシュ・ブラン(白いギブスを巻いた自分の右手に付けた名前)の話だけで、この本が欲しくなりました(図書館で、しかも他館から取り寄せてもらった本なんですが)。

あ~、手元に置きたいなあ。
文庫で復刊してくれないかなあ。

/「妄想の森」岸田今日子
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