快読日記

日々の読書記録

「あなたを選んでくれるもの」ミランダ・ジュライ

2015年10月18日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
《☆☆ 岸本佐知子/訳 10/17読了 新潮社 2015年刊 【フォトドキュメント アメリカ】 Miranda July(1974~)》

2作目の映画の脚本執筆に行き詰まったジュライが息抜きに愛読する無料小冊子「ペニーセイバー」。
そこに並ぶ、皮のジャケットを10ドルで、ドライヤーを5ドルで、といった「売ります」広告の主たちに興味を持ち、電話をかけ、自宅を訪れて取材を試みます。

「パソコンをもたない人々」(240p)である彼らは、日本でいえば「ザ・ノンフィクション」とか「目撃 ドキュン」に出てくるタイプの人に近いのかもしれない。
あるいは「NHKのど自慢」。
“毎日ググってる”側の人間・ジュライと相性がいいとは思えません。
実際彼女は、彼らの話の途中で何度もいたたまれない気分になっているようです。
(もちろんそれ以上に、“ナマの人間”に感動もしてるんだろうけど)
反対に、初対面の人が自宅に上がり込み、その半生や(ちょっと言いにくい)趣味やなんかを尋ねてくるんだから、
わたしが“広告主”だったらかなりいやだ。
互いに傷つけあうことになりそうで怖いです。
でも、人間同士がどんな形であれ接すれば、必ずどこかに傷が付くもの。
それがただの傷で終わるか、致命傷になるか、切ったり削ったりした結果、素敵な彫刻作品ができあがるか、は誰にもわからない。
で、この作品はというと、その「素敵な彫刻作品」になっちゃってるんですよね、そこがすごいと思いました。


だけどこの話、そもそも人が“こっち側”と“そっち側”に分かれているという大きな前提があっての話じゃんというのがぬぐえなくて、
すなおに感動!とは言いきれませんでした。

/「あなたを選んでくれるもの」ミランダ・ジュライ