快読日記

日々の読書記録

「乙女の密告」赤染晶子

2021年05月07日 | 日本の小説
4月15日(木)

「乙女の密告」赤染晶子(新潮社 2010年)を読了。

「うつつ・うつら」を読んだときにも感じたことですが、
赤染晶子の笑いのセンスはすばらしい。

昔、M1で見た「変ホ長調」っていう女性コンビを思い出します。
独特のおっとりした雰囲気でかなりな毒を吐く2人にげらげら笑いながら、
ふと、「あ、なんかストレートに笑える!」と思ったんです。
つまり、今までは男からみた男の笑いを一回翻訳して「ああ、そういう意味ね」と解釈して初めて笑える、という作業を脳内でしていたんだと。

いわゆる“女芸人”と呼ばれる人たちの多くも、
“男文脈の笑い”や“男の価値観からくる笑い”からなかなか逃れられない。
(そこから脱出する“女芸人”たちにはもう“女性議員”みたいな枠は与えられず、男と同じ“普通の人生”が待ってるんだ、という話を橋本治は「幸いは降る星のごとく」でしています)

例えば、手話は一般的な日本語とは文法から違うし、別言語であると認めろ、という話がありますが、“女の笑い”もそんなかんじかな。

“女の笑い”の独自性は、
感性とか生理的なものよりも、
社会的な要因に基づくところが大きいと思います。
つねにサブ的で、男社会の中心から外れたところに視点がある。
そこから生まれる笑い。
だから、声高に“ジェンダーフリー!”とか叫ぶのはちょっと違うんです、そういう話ではない。

で、赤染晶子の何がすごいかに戻ると、
頑強な男中心社会に抵抗も迎合もせず、
彼らが見向きもしなかったスペースに毅然と(でも、パッと見たところおっとりと)立ち、
自分が芯から面白いと思ってることでとことん勝負しているところ、だと思います。
しかも、ちょっととぼけた涼しい顔で。