新・秘密基地

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小説 あまいろ 第3話 その2

2011-12-29 23:00:58 | その他
あまいろ

Challenge 3 どうしてなの? その2

 その後、亜衣は宣言どおり、空いてる時間を見つけては足繁く麻巳のクラスへとやってきた。
 当然、麻巳はそんな亜衣を空気に見立てて、ひたすら無視し続けた。それでも亜衣は構わず、一方的に話してきたり、にっこりと笑ったまま見つめてきたりと、とにかく参ることを知らないようだった。

 そんなことが三日も続くと麻巳も流石に苛立ちを覚え始めた。無視し続けてもケロっとしている亜衣の顔を見ているとなぜか無性に腹が立つのだ。

 麻巳はその苛立ちをぶつけるように部活動に励んだ。その練習とも思えぬ鬼気迫るプレイは部員たちを驚嘆させ、顧問からも賞賛されるほどであった。
 その結果、麻巳は次の練習試合からスターティングメンバーとして起用されることになり、練習メニューもスターティングメンバーと同じものに変わった。
 麻巳は自分の描く青写真にまた一歩近付いたことで久々に気分を良くした。

 そして、その翌日──
 麻巳はいつもと同じように挨拶をしてきた亜衣に向かって、
「もう、いい加減にして!わたしはあなたと友達になるつもりなんてないし、必要とされたくもないから!二度とわたしに話しかけないで」
 珍しく興奮するように言い放ち、亜衣を突き放した。

 さすがの亜衣も堪えたのか、その日休み時間も、その翌日の朝も麻巳の前に姿を現すことはなかった。

 これですっきりした……そう思った。
だが、休み時間になると決まったように着ていた亜衣が来なくなると、なぜか心の中にポッカリと穴が空いたようなそんな気分になった。
 昼休みになったらひょっこりと現れるんではないかと、思わず教室の入り口の方へと視線を運んでしまう。

 すると、その時だった。麻巳の視線に気付いたように一人の生徒が麻巳の元へとやってきた。その生徒は全く面識のない別のクラスの生徒だった。
「あ、七瀬さんだよね?」
「はい」
「あ、わたし、亜衣と同じクラスで来生美代って言います。ちょっといいかな?」
麻巳の元にやってきたのは亜衣の親友である美代だった。

麻巳は美代の話を外で聞くことにした。
「彼女に頼まれたんですか?」
 麻巳は亜衣が美代に仲介を頼んだのだと思った。
「あ、違う違う。これはわたしが勝手にしてることだから。それにわたしは亜衣と友達になって欲しいって言いに来たわけじゃないしね」
「それじゃ、何をしに来たの?」
「うん、なんていうか。亜衣のことをよく知ってもらいたくて」
「別に知りたくありません。それにそんなことをしてあなたに何の得があるんですか?」
 麻巳には美代が行動する理由がまったくわからなかった。
「得ねえ。うーん、強いて言うなら亜衣のことをあなたが知って好きになってくれたらわたしも嬉しいってところかな」
「嬉しい?わたしがあの人を好きになったら?」
「うん。亜衣のこと好きになってくれたら本当に嬉しいよ」
「うそ……そんなこと信じられない。友達なんて形ばかり、良い時だけは寄ってきて都合が悪くなると散っていく。ただ利用するだけのうそっぱちの存在でしょ」
「それは違うよ。本当の友達は……亜衣は絶対そんなことしないよ」
 それまで、おっとりとしていた美代が、急に人が変わったように表情を変え、麻巳の言葉を否定する。
「同じよ。だって彼女ははっきりこう言ったの。わたしはあなたから色々吸収したいって。それって、わたしがこれまでに身につけた技術を盗みたいってだけでしょ?違うの?ねえ!?」
 麻巳も負けじと、厳しい口調で言い返した。
「違うよ。亜衣が言いたいのはそういうことじゃない。亜衣はあなたとお互いを刺激し合って一緒に技術を磨こうって言ってるのよ。決してあなたから技術だけを盗んで捨てるなんてことはしない」
「そんなの信じられない。勉強でも、運動でもいつも周りはわたしを良いように利用するだけだった。どうしてそんなにあなたはあの人を信用できるの!?」
「そっか。七瀬さんて、今まで色々苦労したんだね。でも、亜衣は違うのよ。だって亜衣は、みんなに見捨てられたわたしとただ一人向かい合ってくれたから」
「え?」
 思いもかけぬ言葉が美代の口から飛び出たことに麻巳は動揺した。
「わたしね、昔は亜衣やあなたみたいに運動得意でよく頼りにされてたんだ。でもね、小学五年の時にさ、体育の授業中、急に倒れて病院に運ばれたんだ。そうしたら心臓疾患て診断されてね」
「心臓疾患?あなた心臓が悪いの?」
 それが激しい運動をしてはならない病気であることを麻巳は当然知っていた。運動好きからすれば、これ以上ない悲劇であることも。
「それからわたしは体育の授業も昼休みも、ただ一人座って見てるだけになった。みんなはドッジボールしたり、鬼ごっこしたりして遊んでいるのになんでわたしだけって何度も思った。そんな時、亜衣だけがわたしに声をかけてくれた。一緒に遊ばない?って。わたし、凄く嬉しかった」
「なんで彼女はあなたに?」
「うん、わたしもそう思った。そうしたらね、“だって友達じゃん”って言ってくれた。そんなに特別よく遊んでいたわけでもなかったのに」
 美代は昔を思い出したのか、途中で声が涙交じりになったが、それを押し殺すようにさらに言葉を続けた。
「でも、わたしは申し訳なく思ってこう言ったんだ。わたしなんかと一緒にいても走り回れないし、楽しくないよって。そうしたら亜衣はね、じゃあ、わたしのコーチになってよって。美代ちゃんのやりたいと思うことわたしが全部やるから二人で一緒に頑張ろうって」
「二人で一緒に……」
「たしかにプロのスポーツ選手ってコーチと二人三脚で頑張ってるじゃない。それでその選手が優勝すると凄く嬉しそうに喜びを分かち合うでしょ。ああ、亜衣の言ってることってこういうことなんだって何となく納得しちゃった。それから亜衣はわたしの夢になったんだ。亜衣の可能性をどんどん引き出してみたいって」
「彼女があなたの夢?」
「そう、わたしの夢。でも、今は二人の夢かな?」
「あの人も背負っていたんだ」
 自分が児童養護施設の子供達の夢と希望を背負っているように、亜衣もまたこの心臓に病を持つ友人の思いを背負っている。麻巳はこの時、初めて亜衣に親近感のようなものを覚えた。

「わたしの話はこれだけ。お昼休みに邪魔して悪かったわ。それじゃ」
 そう言って立ち去る美代の表情は活き活きとしていた。亜衣のことを伝えることが出来て満足したのだろう。
「友達か。来生さんの言うことが本当なら、わたしはまた取り戻せるんだろうか?」
 今まで自分の考えを絶対と信じていた麻巳。そんな麻巳の心の中に迷いが生じ始めていた。

 その影響は放課後の部活動にも現れた。麻巳は美代の言葉に心が乱され、凡ミスを何度も犯したのだ。
「どうしたの?どこか調子でも悪いの?」
 主将の長谷川にそんな言葉をかけられるほどであった。
 
部活が終わり、二、三年生が先に引き上げていく。後片付けは麻巳たち一年生の仕事である。それはレギュラーに混じっている麻巳でも例外ではない。
その片付けも終わり、更衣室へと戻ると、なぜかそこには先に引き上げたはずの二年生が五人ほど固まって立ち話をしていた。
(なんで先輩たちまだ残ってるんだろう?)
 いつもなら部活を終えるとすぐに着替えを済ませて帰っている二年生がまだ残っている。麻巳はその異様さに不気味な物を感じていた。

 その麻巳の予感は的中した。麻巳の姿を見つけた二年生の一人が、
「ちょっと、七瀬。わたしらあんたに用があるんだけど」
 と、不機嫌そうに自分を名指ししてきたのだ。
「なんでしょうか?」
「とりあえず体育館に戻りな」
 麻巳は言われるがままに体育館へと戻った。
 すると、二年生たちは、今片付けたばかりのボールを籠ごと運び込み、さらにネットの取り付けも始めた。
「あの、なにを?」
 麻巳は上目遣いで問いかける。
「あんたさ、レギュラーに選ばれたくせに今日の練習のあれは何?わたしら舐めてんの?」
「いえ、そんなことは」
「ちょっと、調子に乗ってるんじゃないお前?。今からわたしらがあんたを特訓してやるんだから感謝しなよ」
 これが特訓を口実にしたイビリであることは、明らかだった。麻巳はレギュラーに選ばれたことで、二年生の怒りを買ってしまったのだ。
 今、麻巳に悪夢のような時が訪れようとしていた。


第3話はこれでおしまいです。

次回も麻巳が主人公でいきます。


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2 コメント

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Unknown (夜美羽)
2011-12-30 20:51:43
そんなことがあったんですね・・・
結構みんな重たいもの抱えてますねぇ。

ところで亜衣ちゃんと麻巳ちゃんと美代ちゃんの
仲のいい絡みはまだですか←おま


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Unknown (直家(コメ返))
2011-12-30 22:29:43
>夜美羽さん
美代はともかく麻巳の方は重たすぎるので
何度かやっぱ違う設定にしようかと悩んだのですが、
それをバネにしてけなげに生きる姿の方が
読んでくれる人を勇気付けられるかなと思って変えませんでした。

それはお楽しみに♪
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