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私的コラム&雑記(&メモ)

今週の興味深かった記事(2019年 第17週)

2019-04-27 | 興味深かった話題

Tesla独自設計 自動運転プロセッサー

Tesla、独自設計の完全自動運転プロセッサを発表 2020年には“ロボタクシー”事業開始へ - ITmedia NEWS
Tesla's Kitchen-Sink Approach to AVs - EETimes
Tesla onthult eigen Full Self-Driving computer - Hardware.info (蘭語。Google翻訳)

 Teslaの自動運転プロセッサーはCortex-A72 12コア・Mali GPU(型番不明。600 GFLOPS)・Neural Network Processor(NNP)2基などを統合したSoCになっている。

 Teslaの自動運転コンピューターについて調べてみると、現行ではNVIDIA Drive PX2をベースとしたHW2.0・HW2.5を使用しており、今回発表されたプロセッサーはHW3.0として採用されるものらしい。ちなみにDrive PX2はNVIDIA Tegra X2ベースの自動運転用開発プラットフォームで、HW2.0ではTegra X2にGeforce GTX 1060相当のGPU、さらにHW2.5ではTegra X2が2基にGeforce GTX 1060相当のGPUとなっている。
 HW2.5ではTegra X2にArm 6コア(NVIDIA Denver2 2コア・Cortex-A57 4コア)に665 GFLOPSのGPUを統合・外付で> 4000 GFLOPS以上のGPUを搭載しているから、HW3.0はHW2.5に比べGPU性能に関しては向上しているわけではないが、NNPのおかげでTensor演算能力は向上しており72 TOPSを達成する。この数字はTensor演算に限定すればNVIDIAのXavier(32 TOPS)を上回るが、NVIDIA XavierはFP64・FP32も対応するから単純に比較はできない。

 調べていて気になったのであるが、記事中にあるような「Full Self-driving」や「Autopilot」という表現は自動運転のレベルというよりはTesla製自動運転ソフトウェアのブランド名と理解した方が良さそうだ。
 Wikipediaによるとこれまで「2014 Autopilot」「2016 Enhanced Autopilot」「2016 Full Self-Driving」「2019 Autopilot」「2016 Full Self-Driving」があるようで、バージョン毎に対応ハードウェアと対応している機能が違うらしい。問題は、この「Full Seli-Driving」はTeslaの2016と2019で違うだけでなく、EETimesによると一般的なLevel 4/Level 5に相当というわけではないらしく、非常に紛らわしい。

 記事ではマスク氏の発言として「このコンピュータが故障する可能性は、ドライバーが意識を失う可能性よりもかなり低い」とされているが、冗長化されているプロセッサーの動作はニュース記事を読む限りでは単純な冗長化(一方が故障すると、もう一方で代替する)のように見える。Arm Cortex-A76AEやNVIDIA Xavierで行われているようなLockstepが行われているのかよくわからない(もし行われているとすれば12コアのCortex-A72で行われていると思うが)。

 ところで、AMDでK7/K8/ZENの開発に携わった著名CPUアーキテクト Jim Keller氏が2017年2月~2018年4月の間、Teslaに在籍し自動運転ハードウェア部門副社長を務め、さらに同氏が在籍中の2017年9月にはTesla-AMDの提携のウワサも流れたが、上述の内容を見る限りではJim Keller氏・AMDの影響は皆無に思える。
 NNPは恐らくTesla独自設計だが、CPU・GPUは英Arm社のライセンスで、それ以外のロジックも概ねSynopsys・Mentor・Cadence・Cevaから入手でき、QualcommやSamsungのようなSoCメーカーは1年以内でチップに仕上げるからJim Keller氏の離脱後に開発に着手していたとしても不思議ではない。

2019-22のIntelのロードマップ

Roadmap toont dat Intel in 2021 nog desktop-cpu's op 14nm maakt - Twakers.net (蘭語、英語Google翻訳)
Intel CPU 2018-2021 Roadmap Leaks Out - WwcfTech

 外国で報じられたもの。リークしたIntelのロードマップ資料が話題となっている。

 まず、そもそもの話としてリーク資料が正しいと仮定したとしても、二種類あるスライドの関係を考慮する必要がある。
 このTweakersの資料はスライドの一方が「2018-2020」もう一方が「2018-2021」であることを考慮すれば後者は前者の更新版と見做すのが妥当と考えられる。と言うのも、前者は「Client CPU Roadmap」後者は「Client Mobile CPU Planning Roadmap」とあり、一見すると連続していないように見えるが、内容を確認すると前者はSプロセッサー・H/Gプロセッサー・Uプロセッサー・Yプロセッサー・Xeonプロセッサーが掲載されているのに対し、後者はH/Gプロセッサー・Uプロセッサー・Yプロセッサーに加え旧Atom系のモバイルSoCが載っている点のみが異なる。そして問題の部分は両資料で共通のH/Gプロセッサー・Uプロセッサー・Yプロセッサーだからである。

 この資料によると、Intelはようやく10nmプロセスを採用した製品を2019年後半から市場に投入する予定だったが、「2018-2020」の資料で掲載されていたIce Lakeが最新の「2018-2021」の資料では消滅し2021年のTiger Lakeまで登場しない見込みとなった。2019年に入ってからIntelは新しい10nmプロセス(便宜上、Cannonlakeで採用された10nmプロセスと区別して10nm+プロセスと呼ばれる)の開発好調ぶりをアピールしていたが、まったく好調でないことを示唆している。

 もっとも、上記の理解が正しいのかは分からない。AnandTechの4月25日の記事によるとIce Lakeの評価が始まったそうで、Ice Lakeがロードマップ上から消滅した「2018-2021」スライドとは矛盾が生じる。もっとも、Ice Lakeが掲載されている「2018-2020」スライドにおいても「Ice Lake (Limited)」とある通り出荷数量は限定的なようなので無視していい程度にしか展開されないということかもしれない(ちょうど10nmで製造されCore i3 8121Uでしか出荷されなかったCannonlakeのように)。

 この10nmプロセス採用プロセッサーの遅れは単に製造プロセスの遅れに留まらない。
 Intelの現行のプロセッサーはデスクトップ向けCoffee Lake Refresh・ラップトップ向けWhiskey Lake・省電力ラップトップ向けAmber Lakeだが、いずれもCPUコアは2015年に発表されたSkylakeのCPUコアを使いまわしている。これがIce LakeではSunny Coveに更新される予定で、AVX-512対応・BranchユニットとLoadユニットが増強されていた。Skylake以前はNehalen/Westmere→Sundy Bridge/Ivy Bridge→Haswell/Broadwell→Skylake/Kaby Lakeと2年毎にアーキテクチャが更新していたが、10nmの遅れで2015年から4年間も同じアーキテクチャーを引き摺ってしまっている。
 これが、ロードマップによると今後は現行プロセッサーがComet Lake・Rocket Lake/Tiger Lakeに置き換えられる。Rocket Lake/Tiger Lakeは不明だが、Comet Lakeは小改良を加えただけでSkylakeと同じアーキテクチャとされている。
 こうなると、次世代プロセッサー(Ice LakeだかRocket Lake/Tiger Lakeだか)の遅延は単なるプロセス世代の遅延に留まらず、命令セットやパフォーマンスのロードマップにも影響を与える。例えばAVX-512は消費者向けには2021年まで登場しないことになるし、恐らくAMDは2019年中に消費者向け製品に8~16コア搭載プロセッサーを投入するが、これに対抗できないことになる(IntelのH/Sプロセッサーのロードマップでは最大10コアである)。

PlayStation 5に搭載されるAMDプロセッサーはRyzen 3600Gではない

No, the PlayStation 5 Doesn't Use AMD's 'Ryzen 3600G' - ExtremeTech

 一部ではPlayStation 5に搭載されるAMDプロセッサーがRyzen 3600Gと報じられているようだ。
 ExtremeTechではいろいろと述べられているが、実態はそれほど単純ではない。というのも、現行のSony PlayStation 4 Pro・Microsoft Xbox One Xに搭載されているプロセッサーですらAMDのセミカスタムデザインサービスを利用した特注品で、同社のPC向けの既製品を使ってしまうと性能が足りないか、コストがゲーミングPC並に増加してしまう。

 PlayStation 5がRyzen 3600Gを採用しないことはほぼ自明であろう。理由は単純でPC用のAPUを単純には流用できないからである。
 例えばメモリーを例にとると現行のPS4/PS4 ProはGDDR5メモリー・次期PS5はGDDR6メモリーを採用すると言われるが、いずれもメモリーインターフェース幅は256-bitに達する。これはハイエンドGPU並でPCでは到底採用できない構成である。PS4が176 GB/s・PS4 Proが217 GB/sのバンド幅であるのに対し、現行のPC用Ryzen APUはDDR4 2933 x2chで僅か46.9 GB/sでしかなく次世代Ryzen APU 3000シリーズでも約50 GB/sでしかない。PS5の仕様は不明であるがGDDR6 256-bitで512 GB/s前後にはなるはずでPC用Ryzen APUとではゲーミング性能で大幅な違いがある。
 また、昨今のビデオゲームはGPU偏重なのでPS4 Proも低性能なCPU(Puma+ 8 core)に比してGPUが重厚な36CU構成で、これはRadeon RX480相当である。PC向けではAPUはハイエンド(Ryzen 7シリーズ)ではなくローエンドからミッドレンジ(Athlon G、Ryzen 3からRyzen 5シリーズ)で、ゲームコンソールほど巨大で高コストなGPUや、それを活かすメモリーを持って来ることはできず、実際Ryzen 3600Gでウワサされているのも20CUに過ぎない。こちらもPS5の仕様は不明であるが少なくとも40CU以上搭載するだろう(Xbox One Xが40CU搭載のため)。

Ryzen 5 3600Gなるプロセッサーは発表されていないが、現時点で想定可能な範囲で比較すると以下のようになる(Ryzen 5 3600Gの表が不完全のため、参考に現行Ryzen 5 2400Gのデータを合わせて載せている):

 PS4 APUPS4 Pro APUAMD Ryzen 5 3600G(参) AMD Ryzen 5 2400G
GPUGPU Core Sea Islands GCN2 18CU Polaris GCN4 36CU Navi 20CU Vega 11CU
Performance 1.84 TFLOPS 4.15 TFLOPS ?
(around 3 TFLOPS)
1.76 TFLOPS
MemorySpec GDDR5 256-bit 1366 MHz GDDR5 256-bit 1700 MHz DDR4 3200? 128-bit DDR4 2933 128-bit
Performance 176.0 GB/sec 217.6 GB/sec 51.2 GB/sec ? 46.9 GB/sec

 ちなみにExtremeTechはRyzen 3600Gを採用しない理由として$199という価格を挙げているが、これも的外れである。確かにゲームコンソールのCPUは$100前後のようでPlayStation 4では$100だったそうだが、まず (1) $199というのはMSRP(メーカー希望小売価格)で流通コストや化粧箱・付属品が含まれないB2B取引の価格ではない一方で (2) 上述の通りセミカスタム設計品かつ (3) 既製品に存在しないハイスペックなので、CPUメーカーの出しているMSRPはまったく参考にならない。

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