tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『エレニの帰郷』

2014-07-29 23:18:13 | 映画-あ行
 劇中劇、母エレニ「役」の俳優さんが、ある瞬間から本物の母になったり、物語が突然現在から過去へ飛んだりする。

 SF的と言えばSF的。
 サイエンス・フィクションではないかもしれないけど、人の心の動きはそういうものかもしれないなと思った。思いは飛ぶと。私たちは昔を思い出している時に、どこかの次元で、もう一度それを演じているのかもしれない。
 SFだって人が考えていることなのだから、同じようなものかもしれない。

 この作品を遺作にして亡くなってしまったテオ・アンゲロプロス監督だけど、素晴らしい遺作だと思う。
 巨匠らしい、堂々たる優雅さ、そして自由さ、と言うんだろうか。俳優さんも素晴らしい。


 原題は、『Trilogia II: I skoni tou hronou』。ギリシャ語が分からないけれど、英語訳だと『The Dust of Time』らしい。

 エレニを思い続けるヤコブが、おどけて言う。「時の埃は降り積もる、大きなものにも、小さなものにも」
 監督がいなくなった今も、時の埃は降っている。テオ・アンゲロプロスの歴史感覚は、大きなものから小さなものまで内包して、ゆったりと切なく流れて行き、物語とは関係なく泣きそうになった。母、母、母。劇なのか、本物なのか。大いなる他人への慕情もしかり。

 字幕は池澤夏樹さん。
 

 テオ・アンゲロプロス監督、2008年、ギリシャ・ドイツ・カナダ・ロシア合作。


    エレニの帰郷 [DVD]

最新の画像もっと見る

コメントを投稿