tokyoonsen(件の映画と日々のこと)

主に映画鑑賞の記録を書いています。

『グランド・ジョー』…未来を託す

2023-03-28 15:36:52 | 映画-か行

 『グランド・ジョー』、デビッド・ゴードン・グリーン監督、2013年、117分、アメリカ。ニコラス・ケイジ、タイ・シェリダン。原題は、『Joe』。

 第70回ベネチア国際映画祭、マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人賞)受賞(タイ・シェリダン)。

 

 久しぶりのニコラス・ケイジ。

 とっても好きだけど、2003年の『アダプテーション』辺りから、私のニコラス離れが始まった。これはある意味仕方ない。ニコラスが多額の借金返済の為、B級映画にばんばん出始めたからだ。そうなると、まず日本では公開されない(=気軽に観に行けない)。レンタルビデオで追いかけることは出来たようだけど、私のTSUTAYA離れも始まっていた・・。(こちらの事情で、TSUTAYAさんが悪いのではありません。)

 しかし、全地球上のニコラスファンの願いは、とうとう天に通じた。

 何とニコラスは、借金返済完了!その後に撮影した『マッシブ・タレント』が絶好調とのこと。中々観に行けず体に震えがきそうだったところ、とある方にご紹介いただいたのが、こちらの作品。

 

 これも良かったなぁ。

 極めてシリアスな作品で、張り詰めた緊張感と諦観を演じる、ニコラス・ケイジが最高。

 仕事をもらいに来た少年との出会いから、自分の諦めた「未来」を少年に託そうとする。

 「未来」というのは何か具体的な事ではないけれど、自分を信じ、他者を信じ、そこに「未来」がある事を信じられることかなと思った。人生の中に手ぶらで放り出されつつある少年と、心の沼から出ようとして失敗し、沼の中で息をひそめて生き延びようとする、ニコラス演じるジョーとの交流が心に染みる。

 

 一つの出来事が、いつまでも人を救うことってあると思う。その記憶がある限り、その感覚がある限り、根を張る場所として機能する。

 そんな感覚を与え合う関係は最高だ。

 

 この映画自体は、アメリカの陰の部分を描いており、あまり心楽しくなるような映画ではない。それでも、こんなヒーローがいても良いと思うし、こんな男を、魅力たっぷりに演じられるのは、やっぱりニコラス・ケイジしかいないと、改めて思うのだ!

 


『さらばウィリービンガム』…二度は見られない。

2023-03-25 20:20:06 | 映画-さ行

 死刑廃止による新たな量刑制度が始まった。それは遺族がその量刑を決めるというもの。最初に適用された囚人は、少女をレイプして殺害したウィリー・ビンガム。

 

 

 このホラー的短編映画の主役は、被害者の遺族である父かもしれない。

 彼に共感するのか、責めるのか。それでいいと肩を抱くのか、もうやめてくれと願うのか。

 ここでは、重犯罪者の気持ちは正直言ってどうでも良い。

 結論は出ず、私はただ見守るだけ。憎しみをいつかは手放したいと思うなら、私なら死刑の方が良いとも思った。それでも当事者になってみないと分からない。私はもっと冷酷で残酷で、憎しみに燃えているかもしれない。

 考えさせられ、結論の出ないこと。ただやっぱり、これはない。どこか酷薄な安易さを感じるから。

 

 

 マシュー・リチャーズ監督、2015年、12分、オーストラリア。

 原題は、『The Disappearance of Willie Bingham』(ウィリー・ビンガムの消滅)。

 

 12分49秒の問題作(YouTube)↓

An inmate is selected to undergo a gruesome new punishment. | The Disappearance of Willie Bingham

(日本語字幕は端末での画面操作でどうぞ。)

 


『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』…はばたけ、戦う乙女

2023-03-25 18:36:01 | 映画-は行

 阪元裕吾監督・脚本、2023年、101分、日本。アクション監督、園村健介。

 伊澤彩織、高石あかり、水石亜飛夢(あとむ)、中井友望、丞威(岩永ジョーイ)、濱田龍臣。

 前作で高校を卒業した主人公二人による、「最強殺し屋稼業」と「ゆるゆる同居生活」。相変わらずな二人を引き続き描く、シリーズ2作目。

 

 「シリーズ」と言ってしまったけど、実際まだまだ続きそうな感じ。

 メイン・キャラクターも揃った(揃えた)感じがあるし、今作は、今後のシリーズ化に向けての橋渡し的作品か?

 

 監督は、フェイクドキュメンタリー『最強殺し屋伝説国岡』(2019年)の阪元裕吾さん。今作から登場の『少女は卒業しない』の中井友望さんは最初気づかなかった。今後メインキャラの一人として定着するのかな。

 前作『ベイビーわるきゅーれ』(2021年)の設定を引き継いでいるが、ストーリーは特に繋がっていないので、前作未見でも大丈夫。見ておいた方が、しょっぱなから共鳴、同調しやすいかもしれないけれど。

 

 

 さて主人公、「まひろ」と「ちさと」。この映画のヒットの核は、やっぱりこの二人なんだろう。

 この二人、実に良いコンビで、ストーリー上も、戦闘パフォーマンスから日常生活まで「阿吽の呼吸」の親友同士。小ネタで挟まれる二人の喧嘩は、殺し屋だけあってレベルが違う。

 一歩引いた観客目線で見ても、口下手でマイペースな努力家まひると、口が立ち向こう見ずな開拓者ちさとのやり取りは、コミカルで楽しく、二人でなくてはならない気持ちにさせてくれる。

 か弱そうな女の子が実は凄腕の殺し屋という、ありがちな設定ではあるが、スタントパフォーマー・伊澤彩織のリアルアクションはお腹にずしんと来るし、高石あかりのガン・アクション、七変化演技もパワーアップして心臓にずきゅん。(言い方が古い…)見所はやっぱり真剣シーンだ。

 

 実際はまひろ役の伊澤さんが6歳年上だそう。そうは感じさせず、うまくキャラクターの雰囲気にマッチして、個性となってるのも良いところ。

 

 

 今後作品のファンがもっともっと増えて、B級枠を一息に飛び越え、隅田川の橋を次々に爆破するサイコパス殺し屋集団(何ソレ)に立ち向かう二人。なんて大掛かりなアクション・シーンも是非見たい。

 よっしゃ、どかんと花火を上げてくれ!楽しみにしてる!

 

 

いかにもな二人の同居部屋↓ところどころに女子っぽくないトレーニンググッズも。

伊澤さんの肉弾戦はかっこよくてキレッキレ!↓前作よりさらにアクションが楽しい。

「殺し屋協会」に所属している二人↓武器は協会を通して買うのかな?どうでも良いか!

 

 

 


『シェーン』…父との会話

2023-03-25 00:43:15 | 映画-さ行

 去年の6月頃、『トップガン-マーヴェリック』に感銘を受けた私は、78歳と84歳の両親を「揺れる椅子」4DXスクリーンに招待した。

 前作『トップガン』も知らず、いぶかしげな表情の両親を、「絶対後悔しないから」と言ってシネコンへ連れて行った。その言い草は何だか詐欺師みたいだが、もちろん、自分としては親孝行のつもりなのだ。

 結果、彼らが楽しんだのか今一分からないけれど、自分はいたく満足した(笑)

 ちなみに母は映画が好き。ただしミニシアターに一人で出掛けはするが、シネコンには行かない。

 父の方は、映画館に行くことも映画を語ることもまれだった。そんな父が、「マーヴェリック」を観た後、この作品の話をし始めた。ただしモニョモニョと話し下手は相変わらずで。

 そんなことを最近思い出して、改めて西部劇『シェーン』を鑑賞してみた。

 

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 西部開拓時代のワイオミング州。別名、カウボーイ州。
 1889~93年のジョンソン群戦争を元に、ジャック・シェーファーによる原作を映画化。

 西部開拓も末期であり、滅び行く運命のガンマン。ヒーロー然としていながらも、私には少年のような憧れの眼差しを向ける事は困難で、銃を置き「強くたくましい男になれ」と言うシェーンの言葉にも、特別な感慨を感じることは出来なかった。

 流れ者シェーンは、物腰柔らかく礼儀正しい好人物であり、賢く、また闘いのプロである。もう一人のプロ、雇われガンマンが現れなければ、再び銃を取ることは無かっただろう。

 引退を夢見たガンマンが、夢をあきらめ去って行く姿は、ただもの哀しかった。

 

 

 父はヒロイズムの話をしたかったのかなと思った。

 人助けをして去って行く英雄の姿に、心をワクワクさせたこともあったかもしれない。英雄は、どこからともなくやって来て、どこへともなく去って行く。

 

 父は、何か感想をひねり出さないととでも思ったのだろう。「マーヴェリック」にワクワクしたのかどうかは分からない。

 けれど、普段あまり語られることのない父の記憶や感情の一端に触れられたことは、私には嬉しいことだった。

 そういう意味で、やっぱり自分は満足したのだと思った。

 

 

 『シェーン』、ジョージ・スティーブンス監督、1953年、118分、アメリカ。原題は、『Shane』。

 原作は、ジャック・シェーファーのデビュー作『Shane』(1949)。

 アラン・ラッド、ジーン・アーサー、バン・ヘフリン、ブランドン・デ・ワイルド。第26回アカデミー賞、撮影賞(カラー)受賞。

 

 

スターレット一家とシェーン↓主演アラン・ラッドは慎重168cmと比較的小柄だったそう。劇中では全く感じさせないですね。

壮大な山脈と乾燥した大平原に、人間がぽつぽつ。ワイオミング州、グランド・ティトン国立公園が撮影地↓

ワイオミング州はこちら↓

 

 


『ファーザー』…毎日目覚め、毎日眠る

2023-03-18 21:25:36 | 映画-は行

 ロンドン。認知症を患う81歳の父アンソニーと、父を助ける娘のアン。

 

 認知症患者の視点で構成されたストーリーは、そのまま心理サスペンスとなって観る者に迫ってくる。状況はもちろん、人の顔や名前もその場ごとに変化する。

 認知が先か、思考が先か。

 

 アンソニー・ホプキンスが、アカデミー賞主演男優賞を最年長の83歳で受賞した作品。娘役のオリビア・コールマンも、助演女優賞にノミネートされた。

 

 このある意味支離滅裂な世界に釘付けになってしまうのは、やはり俳優の演技の切実さに因るのだろう。

 私は整合性に欠けた世界に戸惑いながら、反応する登場人物の確かな感情を見ている。

 目の前の現実(と認知される世界)に、アンソニーは疑問を投げかける。わずかずつ、巧妙にずらされた世界に戸惑い、苛立ち、怒りながら、心の奥底に残るとある愛着も見えてくる。

 苛立ちは介護者のアンにも向けられ、またアンの妹ルーシーの不在が、繰り返し言及される。

 ラストシーンは目覚めであり、ほっとすると同時に酷でもある。我々は目覚めても、アンソニーは毎日目覚め、また眠るのだから。

 

 

 「父」である必要はないと思うが、自尊心を保ちながら、世界と繋がって行くにはどうしたら良いのだろうと、考えさせられた。

 認知のズレは「老い」だけの問題ではなく、もっと一般化出来る。人間は多くの場合、解釈を先にして世界を認知しているようだから。

 

 分からないけど、信頼出来る誰かさえ忘れてしまうのだとしたら、もうそこには「自分」もいないのかもしれないな。

 

 

 フロリアン・ゼレール監督、2020年、97分。英・仏合作。原題は、『The Father』。

 第93回アカデミー賞、主演男優賞(ホプキンス)、脚色賞(クリストファー・ハンプトン、フロリアン・ゼレール)受賞。

 劇作家であるゼレール監督の戯曲『Le Pere(父)』(モリエール賞最優秀脚本賞受賞)の映画化であり、監督デビュー作。「家族三部作」の第一弾目。第二弾、『The Son 息子』は現在公開中。こちらも観たい。

 

 

アンソニーが大切にしていて何度も聴き入る曲。心の深くに刻まれているようだ。↓

「耳に残るは君の歌声」(原題“Je crois entendre encore“オペラ「真珠採り」より:ビゼー)

The Father - Les pêcheurs de perles

サリー・ポッター監督に同名映画があり(原題は『The Man Who Cried』)、この曲が使われている。哀愁漂う旋律に、アンソニーは何を聞いていたのだろう。

 

 

家のインテリアも少しずつ変化して行く↓変わらないのは、出ることのない玄関のドア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『フェイブルマンズ』…スピルバーグの自伝的作品

2023-03-16 00:35:57 | 映画-は行

 笑いあり、涙あり。

 郷愁と、喜び、不安、喪失、再生。成長、夢、希望。

 

 映画らしい要素が沢山詰まって、スピルバーグ監督らしい作品だったと思う。

 

 スピルバーグ監督らしい作品って、何だろう。

 

 スピルバーグ作品で、一番好きなものは何ですか?(全て見た訳じゃないけど)私はやっぱり子供の頃見た、『インディー・ジョーンズ』シリーズかな。

 テレビでも繰り返し放映され、何回見ても面白くて、釘付けになった。

 あと『太陽の帝国』も忘れられない。クリスチャン・ベールのかすれた声が耳に残っている。

 『ジョーズ』をテレビで、友人ときゃあきゃあ言いながら見たような記憶もある。ん?あれは『13日の金曜日』だったかな。

 

 何故か、子供の頃の記憶ばかり出てくるなぁ。この映画が、少年の頃の話だったからかな。

 それはともかく、スピルバーグ少年にとって、家族と映画、これがほぼ全てだったんだなと思った。

 

 

 サミーに対して、父親の助手であり親友のベニーが「映画を撮るのをやめるなよ。お母さんを悲しませるな。」と言う場面があった。

 その字幕を読んだ時、少し鼻白んでしまった。

 「お母さんを悲しませるな。」

 大人は度々そう言う事で、自分の感情を子供に負わせる事がある。それは愛情だったり、罪悪感だったり、色々だが、自分の感情を肩代わりさせようとするのだ。もちろん、「お父さんを悲しませるな。」でもいいし、「親御さんを悲しませるな。」でもいい。

 ベニーが、サミーの母であるミッツィを幸せに出来ない自分の感情を、サミーに預けたような気がして、「そんな理不尽な」と突然鼻白む私だった。鼻白む場面じゃなかったとは思うけど(汗)

 

 それでもサミーが映画を選んだのは、誰かの期待に応える為でも、誰かを悲しませない為でもなく、ただ自分がそうしたかったから。そう描かれていた気がするので、良かったと思った。

 

 映像を撮ることの、光と影も描かれていた。

 楽しい記憶、美しい記憶。それらと同時に、見てはいけなかったもの、隠されていたものも写し出される。また、撮影側の意図的な撮り方、編集により、誇張された「作られた真実」を創り上げることも可能なのだと語っていた。それは無意識に誰かを傷つけることにもなりかねない。

 そして、自分や他人の人生を、「撮影の対象」として観察すること。それはサミーの特技なのか、身につけたものなのか分からないけど。

 

 

 スピルバーグ監督らしい作品とは、私にとっては、配慮された映画という印象だ。

 心揺さぶられるけれど、どこか安心して観ていられる。驚かされるけれど、人への信頼も思い出させてくれる。

 その基盤となったのは、どこにでもいそうな、とあるユダヤ人の家族。スピルバーグ監督は1947年生まれと言うことなので、1950年代から1970年代頃のお話だ。

 

 ラストシーンが粋でしたね。

 

 

 スティーブン・スピルバーグ監督・脚本、2022年、151分、アメリカ。原題は、『The Fabelmans』(フェイブルマン家の人々、の意)。トニー・クシュナー共同脚本。

 ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ガブリエル・ラベル、ジャド・ハーシュ。

 第80回ゴールデングローブ賞、最優秀作品賞、最優秀監督賞受賞。

 

 音楽は、ジョン・ウィリアムズ。御年91歳で、「引退の仕事を一緒に出来て良かった」みたいな事をスピルバーグ監督が言っていたけど、どうなんだろう。インタヴュー映像では、まだまだ現役で出来そうだったけど。

 

 

初めての映画鑑賞↓入館前にビビりまくる少年サミー。

ベニーおじさんは笑わせてくれる↓撮影し甲斐がありそうな家族!

ユニバーサル・スタジオ(らしき場所)を颯爽と歩いて行く。↓

 

 

 


『エゴイスト』…勲章だと思う

2023-03-11 02:08:35 | 映画-あ行

 不思議な映画だった。

 この映画を、どんな形で自分の中に残しておきたいのか、何だか良く分からなかった。

 

 所々で、おそらくストーリーと関係なく、ふっと頬が緩んでしまう場面がある。多幸感と言えば良いのだろうか。

 その反面、人間であることを、心を、冷徹に観察する目が付いてまわる。

 

 ファッション雑誌編集者でゲイの浩輔は、パーソナルトレーナーの龍太と出会う。惹かれ合い、幸せな時間を過ごす二人だが、龍太はとある秘密を抱えており、それが理由となって「あなたとはもう会えない」と別れを切り出す。

 

 前半はほぼ恋愛映画なのだが、しかし違和感がある。

 この作品はR15+指定が付いていて、おそらく性描写の為だろう。それもかなりしつこく(主観だけど)時間を割く。またその演出は(演技ではなく)、ロマンチックとはあまり言えず、むしろ淡々としていて即物的に感じた。幸せなストーリーとは相反するように。

 

 温かくて、大きな光が広がるような、そんな多幸感に癒やされながら、しかしロマンチックな恋愛に浸ることは許されない。

 

 そんな目線は後半、衝撃的に逆転する。(以下、ネタバレになるかもしれないので、お気を付けください。)

 

 非情であるかのごとく、自らの心を冷徹に観察し、そして赦した視線に、今度は心の底から救われる。

 浩輔や妙子(龍太の母)の自他に対するギリギリの立ち位置に、バランスをもたらすのがその視線だ。

 言い換えられるなら、それは優しさ、なんだろうか。愛、なんだろうか。

 

 優しさとか愛とかは、複雑すぎて私には難しい。けれど針の穴くらいでも、隙間があるなら、優しさとか愛とかで、その隙間から、誰かと繋がりたい。

 

 人と関わり多様性の中で生きて行く。そこで味わう孤独も多幸感も、もしかしたら一瞬の火花のようなものなのかもしれない。

 

 タイトルの「エゴイスト」は、むしろ勲章だ。

 原作者がどのような心境で自叙伝的小説にそのタイトルを付けたかは分からないが、それはもはや「身勝手」とは言い切れない。受け取った誰かがいるのだから。その誰かも、ギリギリの隙間を通したのだろう。

 

 

 松永大司監督、2023年、120分、日本。鈴木亮平、宮沢氷魚(ひお)、中村優子、ドリアン・ロロブリジータ、阿川佐和子、柄本明。

 原作は、エッセイストの高山真『エゴイスト』(2010、浅田マコト名義)。

 

 この映画は、ゲイ映画であって、ゲイ映画じゃなかった。

 

 

メインの役者さん、素晴らしい↓阿川さんの存在感。台本はあってないようなものだったそう。

最寄りのシネコンでは、裏返しで陳列されていたチラシ↓

何枚か直してみたら(笑)後日また裏返しになっていて、わざとだと知る。ごめん。

2022年に本名で再出版↓2020年に亡くなった著者。付けていた香水は、シャネルの`エゴイスト’だったそうだ。

 

 

 

 


『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』…88点とは

2023-03-09 20:51:59 | 映画-あ行

 全編、バカバカしさを押し通しながら、普遍的なテーマを押さえ、共感を呼ぶ。絵面も凝っているし、見応え十分。ストーリーに破綻もなく(そもそものシチュエーションが破綻に近いカオスだけど)、役者が揃い、緻密で、色んなモノが仕込まれている(っぽい)。何回も観れば、その度に何か発見がありそう。

 でももう観ないかなぁ。

 なぜなら、単純にあまり好みじゃなかった。何だか、少し前に観た、デイミアン・チャゼル監督の『バビロン』への思いと似ている。

 

 監督・脚本を手掛けた「ダニエルズ」は、ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートのコンビ。初長編作品は前作、『スイス・アーミー・マン』(2016、米)。同年のサンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞するなど話題となる。以降、それぞれ個人名義で長編作品、TV作品などを手掛け、長編第2作目が、こちら。通称『エブエブ』。

 

 『スイス・アーミー・マン』は、バカバカしさでは本作と肩を並べるけど、わりと好きだった。変な映画だけど、結構面白かった。設定自体が本当に素っ頓狂で、斬新だった。「ナニコレ」と思いつつ、引き込まれて、変な愛着が生まれ、最後には泣かされた。(心の中で)

 結構、楽しめた記憶がある。

 

 それはともかく、本作は、今年のアカデミー賞で10部門、11ノミネートされている。すごい。

 去年のゴールデングローブ賞では、最優秀主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門、ミシェル・ヨー)、最優秀助演男優賞(同部門、キー・ホイ・クァン)を受賞したことから、最多受賞の呼び声も高い。いつだっけ、アカデミー賞。3月12日(現地時間)。今、調べました。

 アカデミー賞に関して普段は割とどうでも良いのだけど、何故そんなに受けが良いのか、少し謎に思っていたら、岡田斗司夫氏の下のご意見が、腑に落ちた。

 

【エブエブ】この作品がアカデミー賞最多ノミネートした理由は●●だったから【岡田斗司夫/切り抜き】

 

 ビデオの内容は、前半は「88点の理由」。

 要するに、80点以上の私的映画リストに入っており、全然悪くない。どちらかと言うと良い。でも90点以上ではない。

 ・・・えー、同じ。(おこがましい)

 何故なら、「マルチバース」、「異界転生もの」は、日本人はアニメなどで見慣れているから、特に新鮮さもない。

 ・・・えーその通り。(おこがましいダブル)

 

 でも、本当にそう感じたのだ。マルチバース、パラレルワールド。ハリウッド映画だって結構使っているし、シチュエーションに目新しさがない分、バカバカしさが悪目立ちしてしまうのだ。いや、もう普通にさくっと移動したらいいじゃん、と投げやりな気分までせり上がってくる。テーマも共感は出来るが、特に新しくはない。

 ビデオ後半の内容は、タイトルの通り。要するに、本作は「ハリウッドにおける人種差別問題」への批判を内包している、その点が批評家達の心をつかんだのではないか。ということで、これは腑に落ちた。

 

 批評家は、そういうのを評価する責務があるのか知らんけど、私はあまり好みじゃなかった。

 「人種差別問題への批判」が嫌なのではなくて、どちらかと言えば、それならそれをストレートに語った映画が好きなのだ。語り口が好みじゃないと、何か90点以上は難しいわ。何を持ってして心を揺さぶられて良いのか、パスを受け止められなかった。

 

 例えば(唐突だけど)、クリント・イーストウッドが『クライ・マッチョ』で、簡素な小屋の中で、ただ奥さんとダンスをする。

 そういうシーンに、無限の何かを感じて、ぐっと来てしまう。投げられたかどうだか?なパスまで、自ら進んで受け取ってしまう。見えないボールが、ドストレートに胸を衝く。

 

 思えば、ダニエルズのお二人は36歳。デイミアン・チャゼル監督は38歳。

 まだ若いのだ。私の年齢は言えないけど(秘密めいた方がかっこいいと思ってる為・冗談です)、彼らより一回り位上である。年齢は関係ないとは言うけれど、年齢のせいで、目まぐるしさに乗っていけなかっただけなのか。体調が悪かっただけなのか。

 と言って、私は年齢差別をしているのか。それとも私が大人しい日本人だからか。人種差別か。ポリティカル・コレクトネスに引っ掛かりまくっているのか。カオスなのか。

 と、ダニエルズに言われちゃうのか。

 

 いや何だろう、そんなにファンタジーでなくちゃいけないのか?

 

 かと言って「無感動」「無共感」と思ってる訳でもないので、88点(笑)。『バビロン』と同じ。次回作も観よう。いや、エブエブももう一回観てみようかな。

 

 

 

 ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート、監督・脚本。2022年、139分、アメリカ。ミシェル・ヨー、ステファニー・スー、キー・ホイ・クァン。

 第80回ゴールデングローブ賞、最優秀主演女優賞(ヨー)、最優秀助演男優賞(クァン)、受賞。

 

主演のミシェル・ヨー↓色んな姿を見せてくれる。クァン氏と共に当たり役。

夫役のキー・ホイ・クァン↓『インディージョーンズ 魔宮の伝説』(1984)『グーニーズ』(1985)では子役。約30年振りに俳優復活。大好きだったな。

右(下)は前作。ポール・ダノ主演、ハリー・ポッターのダニエル・ラドクリフは死体役(!?)↓

  

 

 

 

 

 

 


『BLUE GIANT』…雑念よ、サヨウナラ。

2023-03-05 02:07:20 | 映画-は行

 立川譲監督、2023年、120分、日本。山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音。音楽、上原ひろみ。演奏、馬場智章(TS)、上原ひろみ(P)、石若駿(D)。

 原作は、石塚真一『BLUE GIANT』(小学館ビックコミック連載、第一部2013-2016)。

 

 立川監督は、『名探偵コナン/ゼロの執行人』(2018)、『名探偵コナン/黒鉄の魚影』(2023.4月公開予定)を手掛ける気鋭の監督。音楽は、ジャズピアノ界のトップを走る上原ひろみさん。

 基本的には2Dアニメだが、演奏シーンは、ミュージシャンの動きをモーションキャプチャーし、3DCGにした映像も採用。

 

“「映画」にこだわったのは原作者の石塚真一。実際のジャズのライブのように大音量で、熱く激しいプレイを体感してもらえる場所は映画館しかない、との考えに基づいたものだ。原作の各エピソードが魅力的なことから、当初は「TVシリーズのほうが向いているのではないか?」と考えていた立川監督も、その理由を聞いて納得したという。”

(公式サイト、プロダクション・ノートより)

 

 「ライブシーンの体感」を最重要に考えて製作されたという、この映画。よし、それならと、「サイオン(SAION)」なる、109シネマのプレミアムサウンドシアターで観て来ました。

 

 それでどうだったかと言うと。

 いや~感動した! 小泉元首相もびっくりくらいに(古)

 

 これはあくまで自分の場合なんだけど、ライブハウスで演奏を聴いている時、実はそんなに集中していないんじゃないかと思う。誰かのふとした動きが気になったり、壁の何かが目に入ったり、コーヒーの匂いを嗅いでみたり。はたまた途中で何かを飲んでみたり、食べてみたり、隣の人と話してみたり。自らの音楽的能力の未熟さが為せる技か、何だか分からないけど、どうも気が散ったり、雑念が多いのだ。

 けれど、この時は違った。

 

 映画館という環境、人物の背景を盛り上げるストーリー、演奏中のミッキー・ファンタジアばりの映像、そして映画館の音響・・。

 

 体はそんなに動かせないけど(少しは動かせる)、もう全脳細胞が食いつくように集中した。

 ぶっ込まれた、この気持ちよさ。

 

 これは体感するしかないので、あまり説明できることもないのだが、いやぁ凄かった。最初の一音、次の一音と、祈るように聴いた。四方八方からお膳立てされ、身を委ね、何なら新しいシナプスが完成したと思う(笑)

 

 バンド「JASS」のオリジナル曲を作曲したのは、上原ひろみさん。奏者のお三方は、人物に合わせて演じるように演奏したらしい。例えば、全くの初心者から成長する過程を表現しなければならなかったドラマーの石若さんは、普段とはスティックの持ち方を変えたりして、工夫したということだった。

 原作ファンの中には、原作に比べ大分シンプルにまとめられたストーリーに物足りなさを感じた人もいたようだ。けれど原作を知らない私は、ストーリーも十分に楽しかった。三人に感情移入して、それぞれのシーンで涙ぐんだんだから!

 

 

 原作はその後、第二部『BLUE GIANT SUPREME』(同誌2016-2020)、第三部『BLUE GIANT EXPLORER』(同誌2020-連載中)と、ヨーロッパ、アメリカに舞台を移して続いているそう。ということは・・、と勝手に期待。

 実写ではなく、MVでもなく、アニメ映画。ここまで熱く聴かせるとは、なかなか希有な作品じゃないかと思う。

 何だか情報が多くなったのは、一人でも観に行く人が増えたらいいなと思ったからだ。原作を知らない人でも、ジャズに興味がない人でも、きっと楽しめるから。

 

 

上原ひろみさん、公式YouTubeより↓熱い時間を思い出しながら聴けます。

FIRST NOTE

自己肯定感のやたらと高い宮本大↑それもまた気分を盛り上げる。

「ジャズは感情の音楽だ。」by宮本大↓なるほど!!

 

 

 


『少女は卒業しない』…柔らかなドライブ感

2023-03-03 17:34:08 | 映画-さ行

 中川駿監督/脚本、120分、2023年、日本。河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望。窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、藤原季節。

 原作は、朝井リョウ『少女は卒業しない』(2012)。第35回東京国際映画祭アジアの未来部門にてワールド・プレミア上映。

 

 『エゴイスト』、『Blue Giant』、そして本作。

 と、最近立て続けに、心を揺さぶられ、余韻の残る邦画を観てしまった。どれも記録(ならびに記憶)に残したいけど、まずはこちらから。卒業を控えた高校三年生の話である。

 

 原作は、卒業式当日の話。7つのエピソードを、時間軸に沿って直列に並べた短編小説集らしい。本作では、監督により改変されている。

 舞台は式の前日、当日の二日間。4つのエピソードが並列におかれ進んで行く。

 廃校が決まった高校での、最後の卒業式である。

 

 

 監督自身が仰るように、現役の高校生のみならず、かつて卒業生だったことがある者、既に卒業した人にも向けた映画のようだ。終わるものと終わらないものの対比が生きている。

 私自身は、高校の卒業式には出なかった。とは言え諸事情で生徒の半数くらいは出席していないんじゃないかな。だから、特別ではない。学校自体も、随分前に無くなってしまった。

 だからという訳でもないけれど、「卒業おめでとう」と言われた覚えはないし、そんな気分になった覚えもない。なし崩し的に過ぎて行った季節、という感じがある。そもそも卒業って、めでたいんだろうか。

 作中の登場人物達は、「卒業したくない」、「このままが続いたら、ずっと楽しいままなのに」とも言う。

 

 

 解決し切れない何かを残したまま、それでも(トコロテンのように)否応なく出て行く第一歩。

 しかし、その`解決し切れない何か’は、今でもどこかに生きているらしい。もう覚えてもいないけれど、この映画を観ると、「少女は卒業しない」に何故か納得するのである。勿論「少年は卒業しない」も、本作を観るかぎり、成立している。

 

 各エピソードの役者さん達がとても素晴らしくて、本当に引き込まれた。主人公も、エピソードの相手役もとても良かった。

 台詞の数はそう多くないと思うが、表情や仕草がこちらに語りかける。十代らしいと言えばそうなのかもしれない。

 

 

 ネタバレになるので多くは書かないけれど、今起きている出来事の中に、一点だけ、回想シーンが混じる。

 その回想が、生の止まることのない疾走感をさらに強めるのである。

 そして少しざらついた映像と、背景の満開の桜。彼らのあてどない心の動きの柔らかさが、春の気配を先取りする。

 そういう意味では、2月23日という公開日も申し分ないのだろう。

 

 準備は済んだ。君達は皆一人一人素晴らしく輝いている。各々異なりながら、各々にとてつもない価値がある。自分を信じて、自分の人生を懸命に、そして思い切り楽しんでほしい。

 卒業おめでとう。

 

 なんだか今さらになって、校長先生にでもなったつもりで、あの頃の自分に、改めてそんな風に語りかけてみたいと思った。今さらだけど、自分に自分でおめでとうと言うのも悪くはないよね。

 

 

 

みゆな - 夢でも【Lyric Video】映画「少女は卒業しない」主題歌

↑予告動画のようなクリップ。どこか懐かしいメロディと、肉体感覚と幻想風景が同居するような歌詞。

 

中川監督、初の商業長編映画だそうです。↓↑

原作本↓同作者の『桐島、部活やめるってよ』はデビュー作で映画化され(2012)、大ヒット。