『ナワリヌイ』、ダニエル・ロアー監督、2022年、アメリカ、98分。
サンダンス映画祭、観客賞/フェスティバル・フェイバリット賞。
6月17日に公開されたドキュメンタリー映画、『ナワリヌイ』を観てきた。
世情に詳しいわけでもない私でさえ知っている。あのナワリヌイ氏がどのように画面に登場するのか。
2020年の毒殺未遂事件から撮り始めたというこの作品は、画面中央に座り、真っ直ぐにこちらを見ているナワリヌイ氏へのインタヴューを断続的に挟みながら、事件の真相を暴くスリリングな展開、そして再びロシアへ帰国し国土を踏むことなく連行されるナワリヌイ氏の姿、帰国するナワリヌイ氏を待ち続けて叫び、涙し、怒り、そして連行されるロシアの民衆の姿で終わる。
それが、2021年1月。
ナワリヌイ氏は言う。「自由な国を作るには、人々を束ねるしかない。」
ナワリヌイ氏の家族も登場する。
妻と娘と息子。緑あふれるドイツの郊外の町では、温かさとユーモアに溢れた家族の会話が撮影される。
目の前の笑顔と今ここの幸せが、「自由」に担保されているということを、私達は何となく知っている。
ナワリヌイ氏の明晰な思考と感覚は、どれだけの自由を捉え感じ取り、意識の中に構築しているのか。それは彼が「故郷」と呼び、危険を承知で「帰る権利がある」と言う、ロシアの国土と(少なくとも)同じだけはあるだろう。
「何も怖くない」「恐れるな」
SNSを駆使し、プーチン政権の汚職を暴くという「スキャンダリズム」を武器にするナワリヌイ氏は、聖人ではないし、ヒーローでもない。
では何かと言うと、素朴な私達の、素朴な隣人である。
だから私はこの作品を、観て良かったと思った。
「作品」に付き物の誰かのフィルターがあるとしても。