前回はコロナ禍からの回復が鈍いと表現したが、実はそれに続く円安で景気は「はっきりとした後退局面」に入っている。消費者物価の上昇、経常利益の増大(前回解説)、地価上昇と見た目は景気が良いように見えるし、それに伴って税収も増えている。我々の生活は下降気味なのだが・・・
筆者は「景気の判断は労働経済指標で行う」よう主張している。その中でも正社員の新規求人数が最も鮮明に景気の状態を反映すると考えている。
後退する景気、鈍る求人
下図をご覧いただきたい。2022年秋ごろをピークに停滞局面が短期間続き、その後はっきりとした後退局面に入っている。
にもかかわらず、政府にも世間一般にもその認識がない。崖が目の前にあることは危険だが、崖の存在に気が付いていないときはもっと危険だ。今の日本はそういう状況にある。
ありあまる資金・後退する景気
次に見るのは一国の資金収支である。海外に投資された分はマイナスとなるが、ここでは国内の資金収支を見るためにプラスとして含ませた。国内の三部門(家計・企業・政府)がどのくらい資金を余らせたかという数字になる。
2023年度は22兆6676億円が余っていた計算となるが、実際には海外に24兆9914億円投資されている。
海外投資はグローバル化に伴う必然だからしょうがないという意見がある。一理ある。しかし企業は「グローバル化」とかいう理念のために海外投資をしているわけではない。国内より海外の方が儲かるから投資しているだけである。国内に有効な投資先がないということの裏返しに過ぎない。
政府:耐えきれない存在の軽さ
次にこの間のGDPの推移を見てみよう。GDPの増減の各項目の寄与額を示している。(下図)
コロナ禍後の世界的景気回復を反映して純輸出(輸出-輸入)はいったん回復したが、すぐに一次産品価格の上昇、円安により純輸出は急減しマイナスとなった。
次に内需項目だけを示す。家計消費はコロナ後回復するかに見えたが円安によって縮小してしまった。企業設備投資も先行き不透明感から低調である。
では政府は、政府消費も政府投資もどこに行ってしまったか分からないくらい存在感は希薄だ。
まさに景気後退局面に入っているのに「政府にも世間一般にもその認識がない。崖が目の前にあることは危険だが、崖の存在に気が付いていないときはもっと危険だ。今の日本はそういう状況にある。」のだ。
税収は増大し、2025年度のプライマリー・バランス達成は現実のものとなりそうである。
実質賃金は低下を続け、雇用にも黄信号が灯っているときに、家計も企業も資金を余らせているときに、政府までもが資金を余らせようとしている。
カネは使ってこそ富を生む。神棚に上げて朝晩拝んでいても一円も増えてくれない。こんな簡単なことすら分からなくなってしまったのが、今の日本である。
事態は実に深刻である
続くよ~