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意思による楽観のための読書日記

ヴェネツィア便り 北村薫 ***

表題短編が最後に来る、15編短編集。

「ヴェネツィア便り」読み始めると、ー往診ーとあって手紙の内容。夕方の成田空港からアリタリア航空で香港、デリー経由でローマのレオナルドダヴィンチ空港に朝7時に着いたとある。18時間もかけてなんでそんな遠回りをしたのかと思って読み進む。ミラノの教会で「最後の晩餐」を見ようとしたら、20世紀の新技術で修復中だったと、なんだ、昔の話かと気がつく。女性が一人でヴェネツィアを旅行して、誰かに手紙を書いているらしい。二日間ミラノを観光してヴェネツィアに移動、ヴェネツィア中央駅に着いたという。今は駅名は「サンタルチア駅」とかいう実もフタもないような名前のはずだが、昔はもっともらしい駅名だったということか。ヴァポレットという水上バスで、観光したという。水路を船で走るのが最も早い移動手段、というヴェネツィアらしい。30年後の「あなた」に宛てた手紙、30年後にはヴェネツィアは水面下に沈んでいるかもしれない、という恐れとともに。
ー返信ーは50歳代の私。こんな手紙のことは忘れていた。自分宛てに書いた手紙を本当に30年後読んで、その返事を書いている。それも旅行先のイタリアから。30年の間には結婚、出産、子育てがあり、今自由な時間があって一人でイタリア再訪の旅に来ているという。修復された「最後の晩餐」を見て、ヴェネツィアにも再訪、今度は「サンタルチア駅」に到着する。結婚した相手は、30年前の自分も知ってはいた相手、高校の同級生と結婚したのですね。50歳になった自分は20代には想像していなかったはず。いや、想像したとしたらおばあちゃん。しかし「定点は常に自分にある」、だから老境はいつも自分より先、ヴェネツィアだって沈んではいないし、50歳の自分だって。

短編は短い方から順に読んでいくことになる。その最初の方にある「白い本」心惹かれる先輩を美術展に誘うが、「それいつ?」とか言われて聞き流されてしまう。同じ話を仲の良い子がしたら、とたんに先輩は反応、行きがかり上、三人で一緒に行くことになる。なんだ、と思いながら、帰りにふと立ち寄った本屋で見つけたのが白い本。これは「私こそが読む本」と強く思う。小さな心の成長物語がたった2ページで語られる。

人生の何十年もの時間を戻り進みつ、空想の旅を楽しむ短編集。プログラム言語では、"If ~ then ~ else ~"と条件設定し、その後の動作を記述できるのだが、人生ではそうは行かないというお話し。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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